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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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戦う相手

翌日、リリアはいつも通りの五時に目を開く。


「ん? 起きたの?」


自らを抱き枕扱いしながら寝ているセシルもすぐに起きた。


「ええ」


「今日は、コロシアムでジスの試合を見に行くんでしょ?」


「いえ?」


「えっ、どうして? 敵情視察くらいはしましょうよ。いつでも相手の試合が見れるんだから」


「必要がありません」


「……そう?」


セシルは納得がいかない。


なんの対策も立てないのがリリアらしくないと感じていた。


「さて」


リリアは身体を起こし、ベッドから立ち上がり、着替えや朝の支度を始める。


セシルもリリアに続いて、一緒に着替えや朝の支度を終える。


セシルが支度を終える頃、リリアは一人、精神統一をしていた。


いつもの直立した状態で背筋を伸ばし、両手を胸の前に合わせ、目を閉じた状態で。


「リリア、私はまたコロシアムへ行ってみるわ」


「………」


「聞いているの?」


リリアの正面に立ち、リリアの鼻を摘まむ。


これで、リリアの精神統一が崩れるのを知っていた。


「分かりましたわ」


鼻から手を退かし、リリアは一言だけ答える。


「お昼頃には帰るからね」


まだ、朝の五時半だというのにセシルはコロシアムへ行こうとしている。


とはいえ、ジス・レイアウッドの試合時間は、十一時。


試合を目当てに出かけるのはあまりにも早過ぎるが、そんなことよりもやりたいことはいくらでもあった。


セシルは昨日立ち寄れなかったカフェなどの飲食店、宝飾店、リラクゼーション関連の施設などを巡りたい。


R・ノールコロシアムの商業施設はとにかく馬鹿でかく、コロシアム外にも地平線まで続く広大な都市がそこにある。


参加者ではなく客として行くのならば非常に魅力的な複合的施設のある大都市なのだ。


そのため、セシルもしなくてはならないことがこれ以上ないくらいにてんこ盛り。


そして、セシルがR・ノールコロシアムの商業施設を堪能してから数時間が経過した。


「あれ?」


ウィンドウショッピングをしている最中に、セシルはなにかを思い出す。


ふと、近くにあった時計を見ると時刻は三時を指している。


「?」


なぜ、三時を指しているのかセシルには意味不明。


意味不明と思いながらも、セシルは十二時にしっかりとランチを食べるなど、時間の認識はしていた。


要は、ジス・レイアウッドの試合など興味も欠片もなく記憶の片隅にも一切なかっただけ。


「しまった……」


はっとして、セシルは落ち込む。


ひとまず、様々なショップの買い物袋を手に、セシルはコロシアムの試合会場へと向かう。


とりあえず、リプレイ映像とかが見られたりしないかを確認しに行った。


コロシアムの試合会場はコロシアムのロビーや、商業施設よりも人でごった返している。


このコロシアムが複数の階層に分かれているのはそのため。


参加者も観戦者もあまりにも多過ぎるため、試合場を複数に分けなくてはならなかった。


「えーと……」


セシルは途方に暮れる。


普段のセシルならこの時点で探すのはとっくに諦めているが、リリアのために仕方なく探す。


「仕方ないわねえ」


あまり近づきたくなかったが、受付に向かっていった。


「あら? 貴方は……」


受付には昨日と同じく水人の女性がいた。


「ハイ、ちょっと聞きたいことがあるの。ジスの試合内容を確認する方法ってある?」


「………」


なにも語らず、とある方向を水人の女性は指差す。


「ああ、あっちね。分かったわ」


性格上なにかしら文句を言いそうだが、セシルは指を差された方向に向かって歩いていく。


正直な話、水人の女性がなにを考えているのか分からなさ過ぎて傍にいたくなかった。


水人の女性が指差した方向。


そこには、能力者専用の施設があった。


施設の入口にはゲートが備えつけられており、そこで魔力の有無を確認される。


なぜならば、能力者の能力向上を根差した施設であるため、魔力がなくては入場できないのだ。


特段なにも問題なく、セシルはゲートを通り過ぎる。


室内には複数の小さな部屋へと続く扉が無数にあった。


いわゆる、ネットカフェの造り。


その一つ一つのブースで、今まで行われた過去の試合映像をいつでも確認できる。


勿論、このコロシアムの栄えある第一回戦R・ノール対春川杏里の戦いも映像で見られる。


だが、セシルはそんなものに興味がない。


「よいしょっと」


セシルは鍵がかかっていないブースの扉を開く。


ブース内もネットカフェに近い造り。


机と椅子と棚、そしてパソコンがあった。


セシルは荷物を棚に置き、椅子に腰かけると映像を見るため、パソコンの電源を入れる。


パソコンの画面がつくと、最初から試合映像が確認できるページになっていた。


「へえ、どれどれ」


丁寧に人差し指二本で検索窓にジス・レイアウッドの名前を打ち込む。


すると、ジスのプロフィール、本人の画像、戦った試合内容が複数出てきた。


ジスは魔界に暮らす魔族であり魔界将軍の一人で、邪神ルミナスの右腕的立場の男性。


長髪の黒髪オールバックで眼光鋭い目つきをした生粋の武人。


数年前からR・ノールコロシアムに参加している歴戦の強者だった。


勝率も高く、ランキング順位もとてつもなく高い。


それもそのはずで、ジスのレベルは17万程。


数百万人が参加者として登録している中、ジスはランキング100位の猛者だということが分かった。


「ええ……」


あまりにも桁が違う。


どう考えてもリリアとは釣り合わない。


リリアと同じ魔力体たちとの戦歴もあり、それも勝率が相当高かった。


止めなくてはと思いつつ、セシルは今日行われた試合のリプレイを確認する。


ジスの対戦相手はエルフ族の男性。


闘技場の舞台で二人が数メートルの距離差で相対しているところから映像が映る。


やけに闘技場内は騒々しい。


そのほとんどの声がジスへの声援なのが、ジスの名を呼ぶ声で分かった。


開始の合図で即座にジスはエルフ族の男性へ突っ込む。


それを最初から把握していたのか、エルフ族の男性はジスを標的に炎人魔法の爆発破を放つ。


ジスは大きな爆発に巻き込まれたが全く意にも介さず、そのまま突っ込み、エルフ族の男性の顔面へストレートを打ち込んだ。


思いっ切り大の字に倒れ込んだ男性へ馬乗りになり、マウントポジションを取ると速攻で顔面へ拳を振り落とす。


そこから先はまさに地獄。


最初は防御の体勢を取っていた男性も次第に腕が身体の脇にだらんとした状態へとなり、顔が大きく膨れ上がり血にまみれた。


それでもジスは止めない。


明らかに魔族の醜悪な性質が前面に出た恐ろしい戦い方をする男。


それが、ジスという男だった。


観客たちは悲鳴も上げず、止めろと言う者もおらず、ただただ声援を送っている。


目が肥えた者たちばかりで少しでも長く良い試合を良い惨劇を良い地獄を見たいのだ。


だからこそ、その三つを同時に見せてくれるジスは人気が高い。


「うっわあ……」


リプレイを見終わったセシルは絶句していた。


リリア対ジスも同じくこうなるだろうと思わずにはいられない。


「……ん?」


ふと、セシルはなにか気配を感じた。


自分のいるブースの外から。


嫌な予感を感じ、セシルはブースから外へと出てみる。

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