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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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エントリー

再度、リリア・セシルはR・ノールコロシアムのロビーへと姿を現した。


先程と同様に空間転移で現れたが周囲を行き交う者たちは二人の出現に驚きもせず、ちらっと見る程度。


つまり、ここでは誰もが能力者であるか、魔力を有していなくとも空間転移を認識している者たちばかりだということ。


「ここは凄いわね、沢山の人がいるのに誰一人驚きもしない。流石は魔力邂逅R・ノールの支配地域とでも言うべきかしら?」


セシルは独り言を語り、リリアの手を引く。


「ねえ、あっちにコロシアムの案内図があるから見ましょう」


セシルが指差す先に、壁に配置された案内図があった。


「ええ」


頷き、リリアはセシルとともにそちらへ向かう。


案内図はとにかく大きかった。


地下にも地上にも十数階層のフロアがあり、とても案内図だけでは理解ができない。


「なんていうか、コロシアムの受付と飲食店の情報だけでいいよね。あと、リラクゼーション関連と服屋」


目で追うのが面倒になり、セシルは案内図を指差しながら探している。


「コロシアムの受付、そしてコロシアムの試合会場。その二つだけで構いません」


「そんな悲しくなること言わないで」


飲食店エリア辺りを指差していたセシルは全然探す気のなかった受付の位置を、案内図を指差しながら探す。


「ああ、あったよ、リリア」


「どこですか?」


「今思ったけど、リリアって全然探していない……」


「どこですか?」


なぜか、少しだけ怒りが籠っている。


「もしかして、こういう案内図とか地図を見るのが苦手だったりするの?」


「いいえ、違います」


「ふふっ、こっちよ」


なんとなく、リリアの性格が分かった気がしたセシルは少し楽しそうにリリアの手を引き、受付まで歩む。


受付は意外とコンパクトでチケット売り場のような形をしていた。


「いらっしゃいませ」


受付にいた女性が抑揚のない声で接客する。


笑顔を見せる素振りなど一欠けらもない。


青い瞳、青い髪、独特なデザインの種族衣装。


それだけで、この女性が水人の魔力体だと分かる。


「コロシアムへ参加したいのですが」


「こちらへ」


言葉少なめに参加者記入用の紙をカウンター越しに差し出される。


「………」


静かにリリアは自らの事柄を記入していく。


「これで、よろしいでしょうか?」


記入用の紙をリリアは差し出した。


「ええ、ありがとう。ようこそ、R・ノールコロシアムへ。武術家の、魔導家の皆様が貴方をお待ちしておりますよ」


ここで初めて水人の女性は笑顔を見せた。


それから、リリアのデータをパソコンに入力していく。


「それと、その紙」


「これでしょうか?」


杏里に手渡されていたジス・レイアウッドの紙をリリアは見せる。


「その魔族と戦いたいのでしょう? エントリーしていく?」


「この人は魔族なのですか。では、エントリーします」


「ジスも明日にエントリーしている。でも、その日は駄目。もう他の者がその日を指定している。だから、ジスとの戦いは明日以降になりそう」


「明日以降? それは一体いつになるのか分からないのですか?」


「人の場合は誰しもがその日その日の気分と、お金に飢えと渇きを感じたからこそ戦うのでしょうね。飢えと渇き、一体どういう感情なのかしら? なにか、そう……それを考えるとなんだか幸せな気持ちになるの」


「………?」


今一つ、リリアには今の一言がピンと来ない。


「飢えや渇きはとても辛いと聞きましたよ。場合によっては死んでしまうとも。辛いと認識するのが幸せと言えるのでしょうか?」


「その認識を有しているのは幸せ。私にはない、貴方にもない」


「そうかも……しれない。私も飢えや渇きを認識をした記憶がありません。ですが、私もそういった認識をしたいとはどうも思えません」


「そう。スムーズにその価値観が湧き出てくるのは、きっと貴方が人の世界で生きる魔力体だからなのでしょうね。ともかく、ジスはお金に飢えと渇きを感じた時にエントリーしてくる。それは明日以降に必ず。貴方の連れの人……なのかは分からないけど、人なら飲食店はあっち」


適当な感じで、飲食店などがあるエリア区を指差す。


「好きにそちらで過ごすといいわ」


「ええ、ありがとうございます」


話し終えたリリアがセシルの方を見る。


「まずは、あちらへ行きましょう」


「リリア、ちょっとこっちへ」


「?」


セシルに手を引かれ、リリアは受付から離れる。


「なんなの、さっきの会話は。あの女もリリアも、あのカフェの男も変。それにあの女は私が人ではないのも、参加する気が更々ないのも見抜いていた。あのカフェの男も私でも認識できない時があった。あの二人はヤバいわ、相当の能力者よ」


まだ色々と言いたげな様子だが、その前にこの場を離れたいセシルはせかせかと歩く。


「そうなのでしょうか? しかし、これだけは言えます。これまで通り、私は一変たりとも変ではありませんし、今後も変ではないでしょう」


セシルが進んでいく先には、飲食店のエリア区があった。


今日はこれ以上特にすることもなく、セシルのペースでセシルが見て回りたい店を巡っていく。


色々と見て回っていたが、どれだけ見て回っても終わりが来ない規模のR・ノールコロシアムの大きさ。


そして、どこもかしこも人だらけで度を超えた商業施設なのだとリリア、セシルは体感した。


流石のセシルも夕暮れには切り上げ、魔導剣士修練場の自室を空間転移で指定し、二人はR・ノールコロシアムを離れた。

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