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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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魔力体らしさ

「二人とも人の世で育っていない純粋な魔力体を見たのは初めてなんだね」


「ええ」


リリアは頷く。


自らのように人の世で暮らさずにいた魔力体の生き方というものが、リリアは気になっていた。


「彼らは人の世で暮らす、そういうボクらにとっては当然過ぎることが分からなかったの。ご飯を食べない、寝ない、一人だけで暮らしていけるとかでね……」


「ええ……」


再び、リリアは頷く。


自らも同じく魔力体であるリリアは、なんとなく今の内容が分かる。


「もしかして、ファン?」


カウンターから店主がリリアたちに呼びかける。


「そうだよ」


杏里が綺麗な笑みで頬笑みかけた。


「やっぱり?」


親指を軽く上げ、それからまたトーストを焼き出す。


自分の話をしているのに、なんとなく気づいていたらしい。


「彼は今、人としての生き方を学んでいるの。家を持ち、仕事をして、食事をし、人ともコミュニケーションを取る。今の今まで無関係だったことをね」


「そんなのどうでもいいわ。ひとまず、ここでの飲食がロハなら私はなにも問題ない」


無料で飲食できると知り、セシルは即座にコーヒーを飲み出す。


「セシルさんは面白い人だね。遅れちゃったけど、ボクも自己紹介をするね。ボクの名前は春川杏里。桜沢一族の一人だから、桜沢杏里とも呼ばれているよ。そして、君たちが訪れてくれたR・ノールコロシアムの総支配人をしています」


「建物の名前にある通りに、ノールさんが総支配人ではないのですか?」


「そうなんだよね、普通なら。でも、R一族の長をやり、クロノスの七強をやってほとんど全ギルドの長を兼任しているのにR・ノールコロシアムの総支配人までやらないといけないのかって、ノールと物凄い夫婦喧嘩をすることになっちゃって。ノールが始めたのに、総支配人はこのボクになっちゃったの」


「夫婦?」


リリア、セシルは同時にそう思う。


ノール、杏里が今では結婚して夫婦なのが全くと言っていい程に周知されていない。


そもそも杏里が女性と思われている現時点では、認識されることはない。


「次は、リリアさんの話を聞かせてもらっていいかい? いつ、ノール流を習得したの?」


「ノール流はノールさんに一ヶ月間ご指導を頂き、ついには極めるに至りました」


「今、ノールはどこにいるのか分かる?」


「どこに……?」


リリアの表情が曇る。


どちらかというと自分よりも杏里の方がノールと接点があるとしか思えない。


「質問の仕方を間違えちゃったみたいだね。リリアさんはどこでノール流を習ったの?」


「スロートという国ですわ。大きな黒塗りの屋敷の前にあるログハウス風の家にノールさんが住んでいて……」


話しているうちに、リリアはどう考えてもこの内容がおかしいことに気づく。


なぜ、ノール程の者が自らと生活をともにし、ずっと家族のように暮らせていたのかを。


また、ノールはその肩書にあるような仕事をしていなかった。


「とある世界から黒塗りの屋敷をスロートに移して以来もう数十年経つけど、その家の前に一度もログハウス風の家なんて建てたことはないよ。だって、その黒塗りの屋敷がボクとノールと、リバースの皆が過ごせる言わば共同体なんだから他に建てる必要はないんだ」


「しかし、私にはノール流という技術があります。私は嘘を吐いていません」


「はい、どうぞ。トーストです」


そのタイミングで店主が持っていたトレイからトーストが乗った皿を三人の前に置いていく。


「バター? マーガリン?」


なにか生き生きした感じの発音で店主はそう聞いた。


「バターで」


キリッとした感じで、杏里が答える。


「だよね、オレもそう考えていた」


店主は表情に頬笑みを浮かべる。


それから、トーストの上にバター一欠けらを置き、三本のバターナイフを皿に添えて、カウンターに戻っていく。


「純粋な魔力体とは皆ああいう風なのですか?」


「勿論そうだよ。自分自身で衣食住ができるから、一人一国主義だと言われているね。だからこそ、他の状況を汲み取る必要性はないんだ。でも、それに合わせればいつまでも良い人だよ、彼らは」


トーストに半分のバターを塗り終えた杏里はそれを手に持ちながら席から立ち上がる。


「リリアさん、貴方の話が本当なら“あの説”が正しいのだと思えてきました。ノールが魔力邂逅だから、つまりはそういうことだとしたら……」


「魔力邂逅?」


ふと、リリアはノールが魔力邂逅を説明していた時のことを思い出す。


魔力邂逅とは魔力同士が出会う場所であり、発生する場所。


それ即ち……


「リリアさん、仕事の途中だからボクはもう行くよ。ああ、それと」


何者かが記載された紙をテーブルの上に置く。


「まずは、この人と戦ってみるといいよ。受付でこの人を指定すれば戦えるから」


空間転移を発動して杏里は消えた。


「あの人って随分と勝手ねえ」


杏里が半分残したバターを自分のトーストに乗せ、1.5個分のバターを塗りながらセシルは文句を言っている。


「でさ、この人と戦うの? リリアは?」


「どうしますかね」


ぼんやりと、その紙を見る。


そこに映るのは、ジス・レイアウッドという男性。


黒髪オールバックの長髪で目つきが鋭く、身体には細くしなやかな筋肉がつき、印刷された紙からでも強者の風格が漂う。


「そういえば、こんな男が印刷された紙をどうしてあいつは持っていたのかしら? 意味分からんわあ」


なんとなく、そう口にしながらセシルはトーストを食べ切る。


食べた後は有無を言わさず、リリアの前に置いてあるトーストを取り、バターを塗ってから食べる。


「………」


リリアはセシルが若干怒っている時、このような身勝手な振る舞いをするのを知っている。


今の配慮に欠けた行動をリリアはスルーした。


「ひとまず、私はこの方と戦いたいです。早速、受付にいきましょう」


「まだ戦う相手のこともよく分からないなら闇雲に戦うのを避け、事前に相手の情報を知るべきよ」


「必要がありません。杏里さんがこの程度の相手なら勝てると思ったからこそ、この人物を指定したのです。私は相手の情報を手に入れずとも、今この私にある実力のみで必ず打ち勝ちます。でなければ、私がデミスに勝つなど夢のまた夢でしょう」


「お姉ちゃんたち」


いつの間にか、カフェの店主がテーブル席の隣に立っていた。


リリア、セシルは店主を見上げる。


「そろそろ、時間」


「えっ?」


意味が分からず、セシルは店主の顔を見ている。


「ええ」


リリアは何事もなく、椅子から立ち上がる。


「セシルさん、店を出ますよ」


「………?」


セシルはリリアに合わせて一緒にカフェを出ていく。


カフェの外は商店街の一角なのに閑散とした様子。


ほんの数キロ先には、R・ノールコロシアムと思われる馬鹿でかい建造物が見えているというのに。


この都市の中心部からごくわずかの距離しか離れていない。


「この辺は人がいないね。まるで田舎道か、深夜帯みたい」


「そうですわね。なぜでしょうか、ここは落ち着く場所です」


「まあそりゃあね。あのコロシアム内は人が多過ぎだし」


「そういう意味ではありませんが」


「ねえ、またコロシアムへ行ってみない? 元々は、あいつの話なんて聞く予定なんかなかったし」


「ええ、早速行きましょうか」


再び、リリアはR・ノールコロシアムを指定して空間転移を発動した。

登場人物紹介


ジス・レイアウッド(年令320才、身長187cm、魔族の男性。魔界の邪神ルミナスの右腕の立ち位置。魔界のあるエリアの魔界将軍。黒髪オールバックの長髪で目つきが鋭く、身体には細くしなやかな筋肉がついている。生粋の武人。レベルは17万)

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