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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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R・ノールコロシアム

空間転移の発動により、リリア・セシルの周囲が変わっていく。


景色は切り替わり、二人は人々でごった返す大きな建物内にいた。


二人が現れた場所は、R・ノールコロシアム入り口のロビーだった。


一般的なコロシアムの様相とは異なり、大規模なショッピングモールのロビーのような見た目をしている。


周囲は多くの人々で溢れ返り、ここがとてつもなく人気のある場所なのだと一目で二人は理解できた。


ロビーの天井には吹き抜け部分があり、それが一体何階層まであるのかが見て取れない。


周囲の壁には大きな複数のモニターがコロシアム内の戦いの情報、別区画の商業地区の紹介、初めて訪れた者用の説明や広告等が映像で流れている。


ただ、そういったものは二人の目にはわずかに映っただけだった。


「おかえり……」


リリア、セシルが空間転移により、現れた場所から目と鼻の先程度の距離。


その程度に離れた位置に、二人の人物の姿があった。


一人は、純白のハイネックドレスをまとい、ブルーグレー色の綺麗なロングの髪をした美しい女性。


可愛らしい丸形の眼鏡をつけ、色自体は異なるがリリアと同じく白のオペラグローブを手につけている。


その女性が驚いた表情でリリアを見ていた。


もう一人は、所謂ゴスロリの服装。


黒やモノトーンを基調とする着衣にフリルやレースなどを用い、可愛らしさを表現しているものに十字架や棺のような装飾がアクセントとしてあしらわれていた。


肌も陶器のように白く、瞳もカラーコンタクトで黒く染まり、唇やアイラインにもダーク系のものを使った姿はまるで人形のような少女だった。


「………」


ゴスロリの服装をした少女は、リリアとセシルを確認した後で、隣の純白のドレスをまとう女性を一瞥する。


その後、一切なにも語らずに空間転移が発動され、ゴスロリの服装の少女は消えた。


「……君たちは?」


純白のドレスをまとった女性が二人に対して不思議そうに尋ねる。


おかえり、と語られた言葉。


だがそれは、リリア、セシルのために語られた言葉ではなかった。


「えっ……」


リリア、セシルともに反応が出遅れた。


理由は、その女性の胸にあった。


一言で例えるなら絶壁。


同じ女性として、なにか物悲しくならざるを得ない辛さを覚える角度だった。


そんな中、リリアはあることを思い出す。


この人物には見覚えがあった。


「貴方は、春川杏里さんですか?」


「ええ、そうですよ」


にこっと、優しそうな頬笑みを表情に浮かべる。


無意識にリリアは可憐さを感じた。


それでもリリアはこの人物が男性なのを知っているため、どこか違和感がある。


ふと、リリアは周囲が気になりだした。


周囲を道行く多くの人々が足を止め、人だかりが二重にも三重にもできていた。


周囲の者たちの注目の的は紛れもなく春川杏里。


杏里に呼びかけたり、サインをねだったり、写真を撮ったり、手を振ったりと完全に有名人扱いをしている。


リリア、セシルにはほとんど無関心。


どちらかというと、常識も弁えず視界へと身勝手にも映り込むゴミとして見られている。


いい加減さっさと杏里の手を煩わせるのは止めて次は自分を杏里と話させろ、とでも言いたげな雰囲気が周囲の者たちにはあった。


「ここは、ちょっと人が多いね。別の場所で、ボクと少しお話してもらってもいいかな?」


リリアに話しながら杏里は周囲の何人かと軽く握手をしていた。


しっかりとファンサービスを忘れない辺りが杏里らしさ。


「ええ、構わないですわ」


「それなら」


急にリリア、セシルの周囲の風景が変わる。


発動の瞬間さえも見せず、杏里は空間転移を発動して見せた。


場所は変わり、先程とは異なる静かな場所。


個人経営でやっているようなカフェの前に三人はいた。


ここは商店街のとある一角のようだが、通りを歩く人々の姿もまばらで、カフェ店内にも人の姿は少ない。


「さあ、どうぞ」


「ええ」


率先して杏里がカフェの扉を開き、二人を先に店内へ招く。


「お好きな席へどうぞ」


カウンター脇のキッチンで料理を作りながら、カフェの店主がリリア、セシルへ呼びかける。


「では……」


リリア、セシルは窓側の四人用の席へ二人並んで座った。


そこへ向かい合うように杏里も腰かける。


「このカフェ、ボクは気に入っているんだ。なんだか落ち着くって感じで」


「あの、ところでお話とは?」


「ボクの都合で色々と勝手をしてしまってゴメンね。ボクが聞きたかったのは、君自身のこと。そして、ノール流のこと。まだ若い君が、一体どうやってノール流を極めたのかそれが聞きたかったの」


出会ってわずかな時間だが、杏里にはリリアがノール流を極めたと分かるらしい。


「まずは自己紹介からさせてもらっても構わないでしょうか? 私の名は、リリア。エアルドフ王国の王位継承権第二位の姫です」


「リリアさんは王族の人だったんだ。ドレスを着ているのは普段着にしているから?」


「ええ、その通りです」


「私は、セシルよ。よろしく」


自分自身についてを知られたくないセシルは非常に簡素な自己紹介をした。


「セシルさんですね。貴方は随分と未知数な能力を有しているね。ボクは貴方の能力も気になっているの」


「私はその……自分自身を知られるのなんて真っ平御免だわ。第一、私はコロシアムへは参加しないし」


「えっ? そうなのですか?」


セシルの発言にリリアが驚いている。


「ここで驚かれても……私は、リリアがR・ノールコロシアムへ行こうとしなければ、こんなところ一生来なかったと思うわ。それにリリアは知っているようだけど、私はこの人のことなにも知らないし」


ちらっと、一瞬だけセシルは杏里を指差す。


「セシルさんは杏里さんを知らないのですか? この方が上位組織歩合制傭兵部隊リバースの副統領をなさっているのですよ」


「へえ、どんな豪傑がまとめているのかと思いきや人は見かけによらないのねえ」


セシルの目線は杏里の胸に行っている。


他の者たちと同様にセシルも杏里が男性だとは見抜けない。


「ん? このドレスが気になる?」


「えっ、まあそういうところなのかしら?」


なにか不味い気がしたセシルは目線をカウンター側に移す。


「ココア、コーヒー、ミルクです、どうぞ」


「はっ?」


セシルが目線を移した時。


店主がコーヒーカップに入れた飲みもの三つを銀のトレイに乗せ、リリアたちのテーブル席に持ってきていた。


それには、リリアも驚きを示す。


二人ともこの席まで店主が近づいていたのを気づけなかった。


それは常に店主が気配を消しているからだった。


「私たち、まだなにも頼んでいないよ」


セシルがそう語ったが、店主はお構いなしに三人の前にそれぞれティーカップを置いていく。


杏里がココア、セシルがコーヒー、リリアがミルクで分けられている。


「………」


さも当たり前のようにリリアはミルクを無言で飲み出す。


「ちょっと、リリア。それ、頼んでいないから」


「次は、トースト持ってきますね」


「だから私たちはなにも頼んでいないって……」


注文してもいないのに勝手に持って来られ、セシルは怒り出す。


「セシルさん、落ち着いて。これは彼のルーティンなの。彼自身が好きで勝手にやっていることだから、代金を要求したりはしないの」


「はっ? なにそれ?」


「彼の眼の色や、髪の色を見てみなよ」


杏里に促され、セシルはカウンターに戻ってトーストを焼いている店主を見つめる。


リリアと同じく緋色に近い瞳の色。


男性のため短髪だが、リリアのようにグラデーションがかった赤い髪。


そして、強い魔力を感じさせる時点で店主が魔力体の炎人なのは明らか。

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