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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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コロシアム

ハンター養成所に入会してから、一週間の期間が経過した。


わずかな期間であるが、空間転移を全員が習得。


そのため、アーティはメンバーを図書館に集めた。


「今回集まってもらったのは勿論、全員が空間転移を習得したからだ。高い金を払ったけど、これ以上滞在する意味がない。早速空間転移を使い、新たな世界へ向かおう」


他の者たちへ、アーティが提案する。


「これからどこへ? できれば金に関わるところがいいけど」


テリーが尋ねる。


「行き先はコロシアム。今は金欠状態だからなあ、金稼ぎしないと。それじゃあ、空間転移を発動するぞ」


アーティが空間転移を詠唱しようとする。


「待ってくれ!」


そこにヴェイグとジャスティンの二人がやってきた。


ヴェイグは少年のように目を輝かせているが、ジャスティンは嫌そうな表情。


「お前ら、他の世界に行くんだろ? だったら、オレたちも一緒に連れて行ってくれ!」


「別に構わないけど、お前らハンターになりたいんだろ?」


アーティが念のために聞く。


「ハンターになるよりも、お前らと能力を高め合った方が強くなれそうだしな」


ヴェイグとジャスティンもアーティたちに同行することになった。


アーティが空間転移を詠唱し、コロシアムのある世界を指定した。


コロシアムのある世界と指定しただけなので、移動先となる世界がどういう世界なのか詠唱したアーティを含め全員が分からない。


ただ、巨大な円形状をした石造りの建物の前に現われた。


周囲には参加者であろう体躯の良い者たちや、物見遊山で集まった観客たちの姿が見受けられる。


意外と活気に満ちたコロシアムであった。


「これが、コロシアムか」


アーティは活気に満ちたこの場の空気にやる気が湧いていた。


「出るからには勝とうじゃないか。楽しくやろうぜ」


アーティの呼びかけで、コロシアム内へと入る。


コロシアムは石や岩を四角形などの形に切り取り積み重ねられた石造りの建造物。


コロシアム内は外の状況と同じく、多くの人でごった返している。


アーティたちはその合間をぬい、入口正面の受付へと歩いていく。


「試合に参加したい」


先陣を切り、アーティが受付係員に声をかける。


「では、こちらの用紙に御自身の御名前、御種族、レベルを御記入下さい」


受付の女性係員は愛想良くアーティに用紙を渡す。


「勿論、賞金は出るんだろ?」


すらすらっと用紙に自身のプロフィールをデタラメに書き込む。


「勿論御座います。今回の形式はトーナメント方式で御座いまして、優勝者には賞金1000万です」


「1000万だって!?」


久しぶりの大金の響きに、わなわなと震える。


無一文に近い悲しい金欠状態が一挙に解消される破格さにアーティは熱く燃えた。


「ところで、これはどういう風に戦うのかな?」


落ち着きが消え、上擦った声でやけにアーティはニヤニヤしている。


「今回は参加者72名限定で試合がまず行なわれます。参加者はA~Hの8ブロックで9名ずつに分けられ、最後まで残ったブロック勝利者が次の本戦のトーナメント戦へ参加が可能です。そして、本戦トーナメント優勝者に1000万が授与されます」


「成る程。本戦では仲間同士で戦いそうだね。まっ、それはそれで面白そうだ」


この後、全員が用紙に自身の名前、種族、レベルを書き込んだ。


「受付で自分の参加するブロックは聞いたな? それじゃあ、解散」


アーティの号令で参加するブロックの選手控室へそれぞれが移動を始めた。


「杏里くんはさ、どのブロックなの?」


気になったノールは、杏里に聞く。


「ボクはBだよ。ノールちゃんは?」


「残念だな、ボクはHブロック。君を倒すまでに時間がかかっちゃうね」


「えっ?」


満面の笑みを浮かべるノールを杏里は見てしまった。


「ボクが勝つまで残っていてよ」


「う、うん」


少し苦笑いしながら杏里は逃げるように控室へ入っていく。


なにか気に障ることをしてしまったのかと杏里は思っていたが、単純にノールは魔力体としての種族優位性をこの機会に示そうとしているだけ。


別にこのような内容を話す相手は杏里でなくとも良かった。


その頃、初戦のAブロックで戦いが始まろうとしていた。


参加者の中には、アーティの姿もあった。


彼らの戦う戦闘エリアは一平方メートルの白い石板が縦横に二十五枚ずつ並べられた造り。


その周囲から数メートル程離した位置に階段状の観客席が設置されている。


「では、試合を開始してください!」


参加者が戦闘エリアに集結した時、アナウンスが流れた。


「うおおおお!」


開始の合図と同時にアーティが絶叫を上げる。


「我こそは竜神族の勇士アーティ! 命懸けの一心不乱の勝負を望む者なり! これを単なる児戯だと思い上がるな!」


瞬時に竜人化し、アーティは名乗りを上げた。


他の参加者は呆然とした様子でアーティを見ている。


所謂とんでもなくヤバい奴が、わずか第一回戦目で出現した。


戦いは完全にアーティの独壇場で、十数秒程で決着がつく。


他の参加者は殴り飛ばされ、蹴り飛ばされながらも散り散りに戦闘エリアから逃げ出し、簡単に勝利を収めた。


「随分と他愛ない、殺す気も失せる程だ。竜人化する方法を忘れないために変化をしてみたが、どうやら相手を間違えたな」


圧倒的な強さで他の参加者を蹴散らしたアーティはそう語る。


あっという間に一回戦が終了し、他の参加者たちに明らかな動揺が走った。


それから直ちにBブロックの戦いが始まる。


会場アナウンスにより、Bブロックの参加者が戦闘エリアへと集結した。


Bブロックではリュウ、杏里、ジーニアスとその他六名。


ここでは仲間内での戦いが早くも起こっていた。


ちなみに彼らは、すぐさま戦えるよう待機所にいたため、一回戦を見ていない。


「杏里、ジーニアス。試合でも手加減なしだからな」


リュウが戦闘エリアで二人に話す。


杏里もジーニアスも端からそのつもり。


どれくらいの力量になれたかを測りたいし、互いに手加減していては命に関わるのも理解している。


「それでは、開始してください!」


戦闘開始のアナウンスが流れる。


それを合図に戦いが開始され、参加者九名は各々が狙いを定めた者と戦い始める。


戦いの最中、リュウ、杏里、ジーニアスともに仲間を狙わなかった。


淡々と他の参加者を潰した後、それでもまだ残っていたなら戦おうと各々の考えが一致する。


そして、この三人以外に立っている者はいなくなった。


「考えは同じだったな」


杏里に剣を向け、リュウは次の相手を決めた様子。


杏里も同様にリュウに注意を向ける。


対して、ジーニアスは二人から距離を取る。


杏里とリュウ、二人が潰し合った後に戦おうとしているのではない。


杏里やリュウの近接戦タイプとは異なり、フィールドで魔法を扱って戦う遠距離タイプのジーニアスらしい戦い方である。


「ジーニアスを最後にするのは厄介だな」


杏里を倒そうとしていたリュウだったが、ジーニアスに向かって走り出す。


「な、なんで!」


距離を取り切れず、リュウに腹部を殴られジーニアスは気を失った。


「悪いな、魔法使いには過去にトラウマがあるんだ」


再び、リュウは杏里に向き合う。


トンファーを構え、迎撃態勢に移った杏里はリュウを待ち構えた。


先程のジーニアス同様に一気にリュウは駆け出し、杏里へと迫る。


杏里がトンファーを振ろうとした瞬間、リュウはスライディングをし、杏里の背後へと回った。


待ち構えていた杏里だったが、リュウの予想外の動きに対応できない。


「くらえ!」


強烈なボディーブローを杏里の背後から放つ。


威力は杏里の肋骨を砕く程の想像を絶するもの。


衝撃で杏里は吐血をしたが倒れず踏み止まっていた。


「女性を殴った気がする……」


女性のように華奢な身体に拳をめり込ませた状態のまま、リュウは妙な罪悪感を感じた。


その隙に振り返った杏里がリュウの顎にトンファーをクリーンヒットさせる。


絶妙な角度で顎に命中し、軽い脳震盪を起こしたリュウは倒れ込む。


「骨が折れたみたいだから、つい本気になっちゃった」


杏里は倒れているリュウを見る。


手加減しないと語った上でも、リュウは手にした剣を扱わなかった。


それどころか、片腕を扱わないハンデも自分から進んで行っている。


武闘派の杏里はどうしても勝ちを譲られた気がして、あまり面白くない様子。


ひとまず、杏里の勝利でBブロックが終了する。


アーティ、杏里の勝利は他の参加者たちに多大な影響を与えた。


どちらかといえば、アーティの勝利のみが。


あんなヤバい奴を一体どうやって倒せばよいのか到底分からず、他の参加者は戦意を喪失。


戦いを辞退する参加者たちが続出していた。


このコロシアムの参加者たちはスロートの一般兵たちと遜色ない強さであり、なおかつアーティたちのような能力者がいないようだった。


参加者が続々と辞退した結果、早々に本戦トーナメントのメンバー表が決まる。


第一回戦Aブロック勝者のアーティ対Bブロック勝者の杏里。


第二回戦Cブロック勝者のテリー対Dブロック勝者のジャスティン。


第三回戦Eブロック勝者のライル対Fブロック勝者のルウ。


第四回戦Gブロック勝者の綾香対Hブロック勝者のノールと対戦表に掲示されていた。


「戦う相手が決まったね」


対戦表を見に来たノールは同じブロックに参加していたミールに尋ねる。


二人は手を繋いで楽しそうに対戦表を見に来ていた。


「姉さん、無茶しないでね」


「ミールは本選に参加しなくてよかったの? 戦えば、お姉さんに勝てたかもしれないのに」


「いいの、僕は姉さんを傷付けたくない」


「ミール……」


なんて可愛らしく心優しい弟なのだろうかと、ノールはいたく感動した。

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