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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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免許皆伝

連日、リリアはノールとともにノール流会得の訓練を行っていた。


それも早一ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。


ノールは恐ろしく強い。


そのせいもあって、スパルタ気味な方法で訓練を行う傾向があった。


しかし、厳しく突き放したりはせず、精神論を宣うこともしない。


目で見て盗めなども言わず、さっさと覚えろなどとも言わない。


なぜならば自らが培ったその技術こそが、魔力体技術の粋であると一片の迷いもなく信じているから。


自らが教えるものなのだから、たとえどんなに取るに足らない小さな技術に過ぎぬものであったとしても手練れになるには時間がかかると自負している。


何度も教え、何度も行わせるがゆえにノール流離脱者は多い。


「はい、リリア。ボクの正面に立って」


いつものように、ログハウス風の家と黒塗りの屋敷の中央辺りにノールは立っていた。


「ええ」


ノールの前にリリアは立つ。


以前と変わり、リリアには大きな変化があった。


わずか一ヶ月でレベルも倍の十万程に上昇し、様々な魔力体としての能力を体得していた。


それ以上に変化があったのは、リリアの気構えである。


姫として、普通にあったはずの感性は身をひそめ、顔つきも変わっている。


一体、なにを潜り抜けてきたのか。


心境どころか、価値観や考えまでもが根底から変わっていた。


「まずは……」


水人能力を駆使し、ノールは両手に水竜刀を出現させる。


徒手空拳で戦うのが基本のノール。


水竜刀を使うのは、手加減している証拠。


「………」


水竜刀の出現を確認し、リリアは構えの体勢に入る。


と、同時に一気に間合いを詰めた。


剣を持っている相手に平気で特攻をかけるリリア。


「はい、じゃあ斬るね」


普通にノールは剣を構え、向かってきたリリアを躊躇いもなく斬る。


平気で斬るのは、リリアの魔力体としての段階が上がったとノール本人が見ているから。


リリアの斬られた箇所や切断面は、魔力体化とともに一瞬で治る。


治った傍から、ノールへの追撃を構わず続けた。


もう苦痛や死の恐怖だとか、そんなものでは動じない。


「てやっ!」


リリアは自らが斬られている間隙を突き、渾身の力でノールの顔を殴りつけた。


「はいはい」


リリアの拳はノールを透過し、一切攻撃が当たらない。


このような実戦へと移って以来、一度たりともリリアの攻撃は当たっていない。


そもそもレベル差があまりにもあり過ぎて、ノールはなにも行動を起こすことなく勝手に躱せていた。


「斬られ過ぎている感じがするけど、間合いを詰めるのは上手くなってきたね。普通の能力者なら虚をつけて初撃で打ち倒せるはず。攻撃もコンビネーションが上手くいっていると思う……」


この瞬間に置いても、ノールには敵意がない。


今起きている状況で感じた思いを語っている。


と、その時。


ノールの顔にリリアの右からのフックが当たった。


「えっ?」


全く予測していない出来事だったらしく、ノールは水竜刀を落としてしまう程に驚いている。


その瞬間、リリアは絶好の機会と思う。


防御に回していたわずかな魔力も、魔力体化の再生に回していた全ての魔力も供給を止め、両腕に有らん限りの魔力を込めて攻撃する。


問題は最初のそれきり一度たりとも攻撃が当たらなかったこと。


「ねえ、今のなに?」


少しの間、動きが止まっていたノールが猛攻をかけていたリリアの両肩を掴み、動きを止めさせる。


「………」


ぴくりとも身体が動かなくなり、リリアは声も出せない。


まるで大きな手に包み込まれたように身動きが取れなかった。


「今のは、どうやったの? ボクは今の攻撃が一体どのようにして起こったのかをどうしても知りたいんだ」


全身にノールの魔力が駆け巡るのをリリアは感じた。


聞き出す前に無理やりにでも、この原因を知ろうとしていた。


「あれ?」


ノールはなにかに気づき、さらにリリアに近づく。


リリアの目を、じっと見つめていた。


リリアの両目の瞳が綺麗な青色になっていた。


炎人のリリアの瞳の色は、赤色であるはずなのに。


「そ、そういうことなのか。ボクはそういう風には“できなかった”」


なにかが分かったノールはリリアから離れた。


「………」


静かに、ノールは腕を組む。


「ノールさん、一体なにが……」


「分かったんだ。魔力体の身でありながら、魔力邂逅のボクにさえも勝る点がリリアにはある。おめでとう、リリア。もうボクから教えられることはない」


「えっ?」


ノールに手も足も出ない上に、ようやく一度攻撃が当たったリリアには意味が分からない。


「本当によくここまで強くなったね、リリア。貴方はノール流を会得したと言える」


「ふざけないでください! 私がなにもできなかったからと諦めるの……ですか」


見捨てられると思ったリリアは怒声を上げたが、ノールのある姿を見て止めた。


静かにノールは涙を流していた。


腕を組んで泣く姿を見せまいと堪えていたが、やはり駄目だった。


まだレベルが十万程度でありながら、リリアは魔力邂逅の自らに並び立つ能力を有した。


そのリリアに、ノールは(いた)く感動している。


そして、ノールは地面に座り、姿勢を正す。


「リリアが、ノール流を会得できて本当に良かった。これでリリアは12人目の免許皆伝者となった。これからは貴方自身もその力を後世に残せるよう、教えを広めていってほしい」


「しかし、私は……免許皆伝などと言われましても、ようやく一度攻撃が当たっただけです。私はまだなにも為せてはおりません」


ノールが座っているので、動揺しつつもリリアも同じく地面に座る。


「リリア、貴方はボクが何者であるのかを忘れていないかい? ボクは魔力邂逅。そもそもボクと同等レベルの高度な魔力体の魔力ではないと、このボクには攻撃が当たらない。なのに、リリアはこのボクに攻撃を当てられた。これは魔力流動、操作、解析、奪取などの全てが能力の神髄を極めた証明だと言えるよ」


そのように、ノールは口にする。


あの一瞬のうちに、リリアは魔力邂逅のノールから魔力邂逅としての高度な魔力を奪取し、解析して自らの魔力流動へと乗せ、操作した上でノールに初めて攻撃を当てられたのだ。


対強者との戦いに置いて、魔力体だった頃のノールにはそれを行えなかった。


「この私が……」


憑き物が落ちたようにリリアの顔のこわばりが取れ、動揺していた気持ちも一気に和らいだ。


「この私が能力を極めたのですか……?」


思えば、リリアは今までに一度たりとも自分の力でなにかを成し遂げたことがなかった。


強き者に褒められ、認められ、リリアは大きな充実感に包まれていた。


嬉しさが込み上げ、リリアもノールと同じく涙を流した。


「リリア」


立ち上がり、ノールはリリアに手を差し伸べる。


「今日はささやかながら、お祝いをさせてほしいの。さあ、家に戻ろう」


「ええ、ありがとうございます。ノールさん」


泣きながら、リリアはノールの手を取り、立ち上がる。


「最初はどうなるかと思った。本来であればどの魔力体でも扱える能力をリリアはほとんどなにも知らなかったから。なぜ、魔力体として生きていれば扱えるはずの力を、魔力流動や種族衣装の扱い方などを知らなかったのか。リリアの出生になにか隠された事実があるのかもしれない」


「それは……」


記憶を失ったと言いかけ、止めた。


きっと、ノールはなにかを知っている。


あえて、リリアは聞かなかった。


聞く勇気がなかった。


家に戻ると、すでに食材等が用意してあった。


用意されていたものからして、これはケーキなどの甘いものが作れそう。


「準備していたよ、姉さん、リリア」


食材の用意をしていたミール、エールが笑顔で待っていた。


「ありがとう、ミール、エール。それじゃあ、今から四人で料理を作ろうね」


四人で楽しく料理を作り、その日はささやかながらリリアの祝いの会が開かれた。

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