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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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新しい家族

孤児院の施設は、屋根に小さな十字架が取りつけられた大きな平屋の建物。


その隣に、寮に近い集団生活用の建物がくっついて建てられている。


リリアが元々抱いていたイメージ通り、寂れてどこか汚らしい感じがする印象。


「おひさ~」


玄関の引き戸の扉を、楽しげに挨拶しながら開ける。


「あらー、ノールちゃん。来たの?」


こちらも楽しげな声で、ノールの挨拶に答える人物がいた。


年令は50代くらいのふくよかな体格の女性。


とても明るい女性の印象があった。


「遊びに来ちゃった」


ノールは楽しそうに話す。


手ぶらだったはずのノールだが、いつの間にか沢山のなにかが入った紙袋を持っていた。


「これ、おみやげ」


「わあっ、すごい。本当にいつもありがとうねえ」


ノールから手渡された紙袋を、大事そうに女性は受け取った。


「お礼なんか良いの。ボクの方が言わなきゃいけないんだから」


ちらっと、ノールは玄関近くの部屋を見る。


「皆はいるの?」


「いるわよ、皆ノールちゃんに会いたがっていたの。じゃあ、私は支度をするからね」


女性は紙袋を手に、廊下を通ってどこかに向かう。


「あの方は?」


「孤児院の院長さん。ボクの、もう一人の母親とも言えるね」


「そ、そうでしたの」


「なに余計なことを聞いたみたいな反応してんの。今では本当の母親も聖帝の能力で生き返ったから」


「……ノールさん、なにを渡したのですか?」


「服だよ、皆にはできるだけ新しい服を着させてあげたいの」


「優しいのですね」


「んふふ」


嬉しそうに、ノールは笑った。


それからノールは玄関近くの部屋の扉を開く。


室内は、若干広めの大きさ。


数才から十数才程度の子供たち15人が遊んだり、勉強したりをして思い思いに時を過ごしている。


「元気にしていたかい?」


楽しそうにノールは挨拶する。


「こんにちは、ノールさん!」


子供たちもノールに元気よく挨拶をした。


「じゃあ皆、お風呂に入ろっか」


「………?」


挨拶もそこそこにお風呂へ入ることを提案するノールに、リリアは疑問を感じた。


子供たちは一切疑問を抱くことなく、ノールとともにお風呂場へと向かっていく。


「私も向かうべきなのでしょうか?」


とりあえず、リリアも一緒についていく。


脱衣所に入ると先程の女性が脱衣所のかごの一つ一つに、ノールから受け取った服を入れていた。


男の子でも女の子でも一切が関係なく、子供たちは皆が普通に服を脱いでいく。


「リリアも服脱ぎなよ」


「………?」


もうすでにノールは裸になっていた。


華奢なように見えても、しっかりと出るところは出ているモデル体型の身体つき。


「入らないの?」


「いえ……入りますわ」


仕方なくリリアが折れ、服を脱いでいき、皆と一緒にお風呂場へ入る。


大きめの浴槽には、水が入っていなかった。


「あの……」


「ああ、ちょっと待ってて」


右手の手のひらをノールは掲げる。


そこから水が湧き出て、一瞬に近いうちに床から天井までが水で覆われた。


「待ってください」


驚き、リリアは声をかけた。


魔力体は肺呼吸を行わないため、なにも問題ないが人はそうではない。


この状態は不味いと思い立ち、リリアは声をかけたが、気づくことがあった。


普通に話せる、と。


それについては子供たちも最初から知っていたようで、楽しそうに広々とした水の中を泳ぎ回っている。


スクリュー状の水流が発生していたりと、一部一種のアトラクションみたいな箇所もあった。


呼吸をせずとも、というよりもノールが発現させた魔力の水では呼吸ができるらしい。


「皆、身体はしっかり洗うんだよ」


ノールが孤児院を訪れた理由は、子供たちを清潔なお風呂に入れてあげたかったから。


孤児院は水道設備がなく、普段は井戸で汲んだ水で身体を流す程度しかできない環境だった。


ノールは自らの水人能力を駆使し、より清潔に生活できる環境に変えようとしていた。


ノールが調整した魔力の水であるため、溺れもせず、話せる上に、水で建物や紙類が浸食・劣化をしない。


来訪が喜ばれるのもなおさらだった。


「………」


それはそうと、リリアは身体が、特に肌が痛い。


周囲一帯が水で覆われた時から痛みと違和感があった。


「リリア?」


不満そうな表情をしていたリリアにノールは近づく。


ふと、ノールはなにかを思い出す。


「ああ、そうだった。リリアは炎人だったね。ボクの水人能力で出した水が痛いのも分かる。ゴメンね、失念していた」


ノールはリリアの肩に手を置く。


「魔力をまとって身体を守るように。継続的にダメージを受け続けているようなら、もうお風呂からは出た方がいい」


「えっ、ええ」


促され、リリアはお風呂を出ていく。


リリアは先に着替えなどを済ませたが、ノールはまだ少しの間、子供たちとお風呂にいた。


その後、孤児院長の女性や新品の服を着た子供たちにノールとリリアは何度もお礼を言われながら二人は孤児院を後にする。


「いっぱいお礼を言われちゃったね、良いことはするもんだ」


「はあ……」


「やっぱり、身体の調子が悪い?」


「そのようですね……」


「それなら……」


そっと、ノールがリリアの手を握る。


びくんと波打つように、リリアの身体に強力な魔力が流れ込むのを感じた。


身体から感じていた痛みは、もうすでに感じなくなっていた。


「これで次からは大丈夫だと思うよ」


「そうなのですか、ありがとうございます」


リリアは握られた手を見ていた。


流れ込んだ魔力量はそれ程でもないが、その先にある異常な魔力量。


莫大なとか、潤沢なとかそういう例え以前の問題で、もはや異次元レベル。


まさにここが源泉であり、魔力の発生源。


「リリア?」


「いえ、なんでもありませんわ」


「そう? ならいいの。帰りがてら、市場に寄り道して行こう」


時間的に夕暮れに差しかかってきた。


夕食の準備をするため、一度市場へ立ち寄ってから、二人は帰宅する。


色々と市場で買っていたが、ノールがリリアに買った物を持たせることはなかった。


「ただいま~」


家に帰ると、家の中には誰もいない。


「ミールもエールも出かけているみたい。二人が帰ってくる前に美味しいご飯を作ろっか」


「?」


「ほら、リリアも作るんだよ」


「え、ええ」


「なんなの? 文句あるの?」


「私、料理を作ったことがありませんの」


「そりゃまあそうか……君の“年令”じゃあね。ボクもその年令の時は作っていなかったし」


ノールは特にそれを問題としなかった。


リリアに料理の手本を教えながら、ともに料理を作っていく。


まるでやる気のなかったリリアだが、楽しそうに料理を作り、丁寧に教えてくれるノールのおかげで料理をするのが楽しくなっていた。


全ての料理を作り終え、テーブルに運ぶと、リリアはあることに気づく。


窓の外はまだ夕暮れ。


時間がそれ程経過していない。


「どうしたの?」


「意外と早く料理が作れたのですね」


「そうみたい」


ノールは笑顔で答える。


「そろそろミールたち、帰ってくるかも。テーブルに行儀よく座っていようね」


「そうしますわ」


そう答えたリリアは、今日ずっと心に引っかかりを感じていた。


なにか子供扱いされているような気がして。


ともかく二人はテーブルの椅子に座る。


「リリア」


ベッドの方をノールは指差す。


「ベッドを三台つくっつけてあるから、少し狭いけど四人までなら寝られそうだと思うの」


「私は……」


ちらっと、ノールが定位置にしているソファーベッドを見る。


「ノールさんが構わないのなら、夜はあちらで寝ますが」


「………」


静かにノールはリリアを見ている。


表情にも特に変化がなく、リリアにはノールがなにを考えているのか分からない。


「リリア、こっちのベッドでなら四人で寝られそうなの」


少しだけ頬笑みかけ、先程と同じことをノールは話す。


「……そうしますわ」


なにか嫌な予感を感じ取り、リリアは素直に応じる。


「ところで、リリアは眠られるの?」


「いえ、ベッドに横になりはしますが魔力の回復や増強に意識を集中しています。それが寝ている状態なのだと私はずっと思っておりましたが、セシルという女性と一緒に生活をともにし、眠るとは違う行為なのだと気づけました」


「そうなると、リリアは完全に純粋な魔力体なんだ。ボクはね、こう見えて純粋な魔力体ではない。人と人との間に生まれた特殊な魔力体。だから、ボクも人と同様に眠れる技術があります。貴方とは違うんです」


「はあ……」


少しの間しかノールとは接していないが、リリアはノールを意外と変な人なのかもしれないと思い始めていた。


以前、スクイードがノールを自分の世界を持っている人と称していたように、本当にそうなんだろうと。


「ただいま」


二人が話していると、ミールとエールが帰ってきた。


「おかえり、ご飯できているよ」


満面の笑みでノールは二人を出迎える。


「どこに行っていたの?」


「城の図書館」


「ああ、クロノの家ね」


「うん」


三人とも城の図書館をクロノの家呼ばわりしている。


「やっ」


そのクロノが、いつの間にか家の中にいた。


スロートの帝ではあるが、別に貴族らしい格好をしていない。


「あれ、またあの能力を使ってきたの?」


クロノのスキル・ポテンシャルである他人に悟られない能力についてを、ノールは話している。


この能力だけは、魔力邂逅となった今でも把握できないでいた。


「百万、今月の土地代のノールがまだ支払われていない……んっ? なんか、おかしいな?」


「おかしいのはお前の頭だよ」


「急にどうした? でもな、分かるんだ。お前にはそういうところがあるってのは。オレとお前だ。許してやるし、なにも謝る必要はないぞ。それとは別としても、もう良い大人なんだからさ今度からは注意しろよ、なっ?」


クロノは手のひらを差し出し、ノールを見ている。


「凄く失礼で極めて心外だよ。こんな表に出したらとっても恥ずかしい大人にはなっちゃ駄目だよ。ミール、エール、分かったかい? 勿論、リリアもだよ」


イライラしながらも、ノールはベッド脇の棚に近づく。


そこから百万の束一つを取り出し、それをクロノが差し出す手のひらに握らせる。


「はい、今月分」


「おう、ありがとさん」


そう言いながら、受け取った百万をわざわざ一枚一枚確認し始める。


「ボクたちは今から夕食の時間なの」


「あっ、それは済まん。気が効かなくて悪かった」


すんなりと、クロノは家から出ていく。


「さあ、ようやくクロノは帰ったね。ご飯を食べよう」


ノールは空間転移を発動。


空間転移により、二つの椅子が出現して、四つの椅子がテーブルを囲う形になった。


「なんなのですか、あの男は?」


「あの人が、このスロートの帝クロノ。ボクの友達だから悪く思わないでね」


「そうでしたか……」


ならどうして挨拶がてら罵り合っていたのかと、リリアは思う。

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