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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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デミス戦 2

「それはそうと」


スクイードが次の手について考えを巡らせていると、デミスが接近を始めた。


折れた大剣を放り投げ、即座に構えの体勢へ移行したスクイード。


だが、まるで敵意も悪意も戦意さえも感じさせないデミスに対処が遅れ、自らの目前まで接近を許してしまう。


「この連携を考えたのは、お前か?」


「そうだ」


答える必要もないのに、スクイードは普通に返答している。


まず飛んでくるのは言葉ではなく武力であると思っていたからである。


「なかなかやるじゃないか、オレの時代にはなかった戦い方だ」


スクイードの肩を気さくに軽く二回叩く。


「ナイスファイト」


デミスは笑顔で語る。


それからスクイードに興味をなくしたというわけでもなく。


デミスは自然と視線をリリアに移して、リリアへ向かって歩き出す。


あれ程に卑怯な手段で攻撃を仕かけたのにもかかわらず、この行動。


フレンドリーに対応され、優しく褒められたうえに、笑顔でそれらを全て許された。


それ即ち、敵とは決してなり得ず、眼中にさえないということ。


「待て」


軽くあしらわれたと感じたスクイードは怒りを隠せない。


酷く自尊心を傷つけられ、内心穏やかなどではいられない。


自らがこうするのは、戦いとはこういうものだと思っているからこそ。


自らがこうなのだから、相手も等しく同じ行動をするべきであり、そうしなければならないのだ。


「なにかな?」


デミスは立ち止まり、至って自然に対応する。


デミスの背後には、リリアの姿があった。


修練場中央から少し離れた位置に、腕を組みながら仁王立ちし、デミスを待ち構えている。


デミスどころかスクイードにさえレベル差が相当あるのに、リリアはデミスを全く臆していない。


「今のが全力だと思われては困る」


そういうと、スクイードは甲冑のヘルムを取る。


その行動をデミスは妨害もせず静かに見ていた。


全身の甲冑を脱ぎ終えたスクイードは、いつものビジネスカジュアルの格好になった。


「これを知っているかな?」


中指と人差し指を揃えた形で、スクイードは手を掲げる。


二本の指の間には、なにか光るものがあった。


それは十数センチ程の大きさをした一本の針。


この針を扱った戦い方が、スクイードの本命。


ダークナイトの甲冑を脱いだのは、ガントレットでは針が掴めないため。


「針か」


デミスは顎に手をあて、語り出す。


「となると、致死量の毒でも塗ってあるのだろう? その手の暗器は、オレの時代でも幾度となく見ている。先程の目を見張るような攻撃とは異なり、暗器などでは正直なところ面白味に欠けるな」


「だったら、この攻撃が避けられるのか?」


手首のスナップだけで、スクイードはデミスの足元へ向かって針を投げた。


軽く背後へ下がり、デミスは針を避ける。


「よし」


スクイードは声を上げる。


未だにデミスはスクイードへの敵対心がない。


だからこそ、デミスにはこの一度限りで上手く行くだろうとの考えがあった。


デミスが背後へ下がった場所。


そこには事前にセットしておいた空間転移の地点があった。


針が避けられ、床へ突き刺さる前に空間転移を発動。


針を転移させ、デミスの足裏から足の甲を射貫く形で、初めてダメージを与えられた。


「へえ」


足を貫いた血塗られた針。


ダメージを目にし、デミスは感心を示す。


「これでも物理攻撃ではダメージを与えられないようにしていたつもりなんだけどな」


特に足から針を抜くこともなく、スクイードに視線を送る。


そこでスクイードは初めてデミスから戦意を感じた。


「少し興味が湧いた、自己紹介をしよう」


手のひらを向け、握手でもするような素振りを見せる。


だが、途中で止まり腕を組んだ。


「オレは魔導人であり、パラディンのデミスだ。オレに攻撃を与えられるのは、このオレよりも高レベルの者か、魔力体、魔力邂逅のみだ」


パラディン、魔導人と聞き覚えのないワードが、スクイードは気になった。


猛毒が塗られた針が足を貫いた時点で、すでにデミスには致命傷を与えている。


会話を始めたのも、なんらかの方法で治癒のために時間稼ぎをしていると考えるのが妥当。


そう考えたスクイードでも魔力邂逅という言葉は聞き捨てならない。


唯一、現世界に一体だけ実体化している、あのR・ノールが魔力邂逅なのを知っていた。


「さっさと倒すべきだな」


再び、揃えた人差し指と中指の間に針を空間転移により出現させる。


出現させると同時に、デミスの顔目がけて投擲した。


足に攻撃を受けていたデミスは避けることなく、腕で針をガードする。


次の攻撃も普通に腕へ突き刺さった。


「またか」


意外そうな声でデミスは語り、腕に刺さった針を眺めている。


いつの間にか自分の腕に空間転移の地点がつけられているのが見て取れた。


デミスがそうしている間に、スクイードは身動きが取れなくなったと断定して突撃をかけた。


空間転移によって出現させた針を連続で投げ続け、胴体や手足にもさらに突き刺さる。


「ああ、そうか」


なにかに合点がいったデミスは綺麗な笑みを浮かべた。


それと同時に針を投げる体勢のまま、スクイードの動きが止まる。


スクイードは全身が総毛立つのを感じていた。


デミスが腕を掴んでいたから。


「毒が……効かないのか?」


毒が効かないのもそうだが、距離があったはずの相手の接近が一切見て取れなかった。


「毒はある時を境に効かなくなった。オレが魔導人となった時にな」


無駄だというように、少しだけ強い勢いで腕を離す。


「お前がなにをしたのか、分かったよ。空間転移の神髄を、魔力邂逅の誰かしらがお前に伝えたのだな? 空間転移を人が扱えるようになっただけでも、人は見違える程に成長したというのにその先までをも伝える者が現れるとは」


デミスは楽しそうに話している。


デミスの語る内容は概ね合っていた。


スクイード程度のレベルでは、デミスにダメージなど決して与えられない。


にもかかわらず、ダメージが通った理由とは。


過去に空間転移の神髄を魔力邂逅のR・ノールに指南されたからこそ。


「もしもの時を鑑み、対魔力体の戦い方を伝授したのか? その判断はオレでも理解できないが、戦力差があり過ぎる魔力邂逅自身が自ら歩み寄り、できる限りの対等を望んだのであろうな。それはともかく……」


突然、デミスの反応が一変する。


先程までの優しそうな印象はなくなり、強い怒りが窺える。


逆に今まであった戦意は一瞬で消え去った。


「貴様、なにをしている! 誰が味方かも分からんのか!」


怒声を上げ、スクイードの顔面目がけ直突きを放つ。


凄まじい速度で放たれた拳を顔に受け、スクイードは卒倒する。


完全にダメージコントロールがなされ、相当強く殴ったように見えてもスクイードの顔にダメージらしきものはない。


わずかな時間だけ意識を失う程度の威力。


スクイードにとっては不意討ちとなり、なおかつ防御も間に合わないだろうと考えられた上での計算された攻撃だった。


端から格が違った。


「隊長!」


卒倒し、意識を失ったスクイードにヴァイロン、エヴァレットが駆け寄る。


「即座に落ち延びるも良し。あとは、そなたら次第」


それだけ言うと、デミスはリリアの方へ再び視線を戻す。


圧倒的な戦力差を見せつけてしまったデミスが心配しているのは、ただ一つ。


リリアの心が萎縮し、御印としての立場を放棄してしまうこと。


「どうやら、次は私の番ですわね」


手のひらに拳をぶつけ、音を鳴らすと、リリアに強い覇気が宿る。


「来い、デミス! 私が相手だ!」


威勢の良いかけ声を上げ、デミスに向かって構えた。


「………」


声も出なかった。


いや、色々とデミスは言いたいことがあった。


デミスにとって、リリアは本当に初めての経験だらけの相手。


通常ならば、この状況で取るべき反応は保身のはずである。


圧倒的な戦力差をまざまざと見せつけられてもなお、弱気にもならず。


逆に覇気が増し、それどころか負ける気もなく威勢が良い。


太古から強者を自負してきた者として、このような相手と戦えるのは嬉しくてたまらなかった。


「本当に良い女だな、リリア」


笑顔を見せ、デミスは無意識のうちにそう口にする。


だが、この威勢の良さがリリアにとって完全に仇となった。

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