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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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デミス戦 1

翌日の早朝に再び修練場へリリアたち五人は集まった。


修練場には他の兵士の姿がない。


デミスと戦うため、完全に貸し切りの場となっている。


「皆さん、本日は死力を尽くし、必ずやデミスを討ち取りましょう」


リリアは準備運動をしながら語っている。


今日なら勝てるという強い気持ちがあった。


「ああ、そのために来たんだからな」


返答するスクイードも前日と異なり、調子が良い様子。


ヴァイロン、エヴァレットの二人も前日のような不調が見られない。


「昨日のような反応がありませんね。なにかあったのですか?」


「実は、この世界にかかっている効力を一時的に打ち消せる道具があるんだ。ヴァイロンが昨日スマホで発注してくれたんだよ」


スクイードがヴァイロンに合図を送る。


「リリア、これだよ」


ヴァイロンは着ていた迷彩服の裾をめくり、手首につけたシルバーアクセサリーのバングルを見せる。


やたらとゴシックよりの造りがなされており、センスが光る品。


バングルには一日とも記載されていた。


「あのバングルをつけていると、R一族のスキル・ポテンシャル権利を一時的に打ち消せる。ただし、一日限りだ」


スクイードはヴァイロンのバングルを指差しつつ語る。


自らのバングルを見せなかったのは、甲冑を着込んでいて面倒だから。


「広範囲に影響を及ぼす能力に対し、随分都合よく対応できるものがあるのですね」


普通なら考えつく内容をリリアは率直に語る。


「こんなものを作り出した時点で、普通ならR・クァール辺りが直々に潰しに来るはずだ。でも、例外が一つだけあった。バングルを製作したのは同じくスキル・ポテンシャル権利を扱える上位組織のR・エールさんなんだ。R・ノールさんの妹だから手が出せなかったんだろう」


「それは、どういうことですか? 同じ能力の持ち主だとすれば、自ら進んで弱点となる品物を作るなど意味が分かりません。私ならばそのような悪手を取ったりはしません」


「なんか、ミラーマッチ対策と商品ページには書いてあったよ。広域総世界戦を二度と起こさせないように対策しているんじゃないかな?」


「ミラーマッチ? 商品ページ?」


「リリアも聞いたことがあると思うけど、総世界中で最も有名な企業の桜沢グループが展開しているネット通販事業のサイト“極楽屋通販”で販売されている商品なんだ」


「いえ、初めて聞きました」


リリアはネットに興味がなさ過ぎて全く知らなかった。


極楽屋通販のサイトに繋げる方法は二つある。


一つは、魔力を電波の代わりとさせたパソコン・スマホなどが必要。


こちらは能力者専用の道具だけが手に入るネット通販サイトとなっている。


もう一つの、ネット回線を用いた電波でアクセスする方法なら一般的なネット通販サイトとして利用ができる。


「それはともかく、それさえあれば実力が出せるのですね?」


「ああ」


スクイードは頷く。


「それじゃあ、ヴァイロン、エヴァレット。手筈通りに頼む」


「了解」


ヴァイロン、エヴァレットは空間転移を発動し、修練場からどこかへ移動する。


「二人はどこへ?」


「すぐに戻ってくるよ」


「そうですか?」


昨日からもそうだが、リリアは三人がなにをしたいのか分からない。


「さてと……」


スクイードは修練場の中央辺りに歩いていく。


「じゃあ、リリアはそこで封印を解いてくれ」


スクイードは修練場の自らの位置と、ヴァイロンたちの空間転移の座標位置の丁度、間辺りを指差す。


「まだ、ヴァイロンさんたちが戻ってきていませんよ?」


「それは構わない」


「そうですか、分かりましたわ」


素直にリリアは指定された位置に行き、魔力を高める。


心の中で封印が解けることを願った。


ふと、気づくとリリアの傍に何者かが立っている。


銀色の長髪で、精悍な顔つきをした男性が目を閉じて立っていた。


あの時と同じく、デミスは神職の者特有の神聖な空気、オーラをまとう古の聖堂騎士としての出で立ち。


「リリアさん……ですか?」


デミスは一言だけ語り、ゆっくりと目を開く。


「ああ、やはり。リリアさんでしたか」


どこか安心したのか、デミスは笑顔を見せる。


負のオーラが一欠けらもない。


リリアと会えて、心底嬉しそうにしていた。


「デミス、今日貴方は完膚なきまで打ち倒されます」


一度、デミスに切断された左腕でデミスの顔を指差し、挑発した。


「良かった、腕は治せたようですね。レベルも能力も前回戦った時よりも向上している。腕を切断されてからどれ程の時が経過しましたか?」


「あの日から約半年ですわ。私が強くなれたのは血の滲む努力を惜しまなかった結果です」


「たった半年でレベルが三万程にも? それは凄い、想像を超える上がり方だ。流石、オレが見込んだだけはある」


すっと、デミスはスクイードを指差す。


「あの者がリリアの師とする者か?」


「いえ、スクイードさんは貴方を倒す協力者です」


紹介しようと思い、リリアはスクイードを見る。


そもそも敵に紹介もへったくれもないが、リリアは変にそういうところを重んじている。


視線を送って初めて気づくことがあった。


まるで、スクイードは動かなかった。


デミスに臆しているとでも言わんばかりに。


「……スクイードさん?」


リリアの呼びかけにスクイードは、びくっと身体を反応させる。


「あ、ああ……」


とても歯切れの悪い返答をしたスクイードはデミスから視線を一切逸らせない。


「………」


デミスは両手のひらを上の方へ向け、肩をすくめると、リリアの方を見た。


あれで戦えるのか?と言葉なく聞いている。


「なにをしているのですか、スクイードさん。私は命を懸けて戦うつもりなのです。それなのに私よりも強い貴方が早々に諦めるとは何事ですか?」


「落ち着け、リリア。君が命を懸けるにはまだ早い。まだ命の期限はあるのだろう? 切羽詰まってもいないのなら、なにも焦ることではない」


なぜか、デミスはリリアをフォローする言葉を語る。


「貴方は黙っていてください!」


デミスにリリアは怒鳴る。


素で怒っているせいで頭に入っていないが、デミスは重大な発言をしていた。


「デミスさん」


スクイードは石畳の床に、きちっと姿勢正しく座り、頭を下げる。


「申しわけありません。こんな格好をしていますが、本当は戦う気などないのです。せめて今回だけは許してくださりませんか?」


明らかな降伏宣言だった。


「なっ……」


デミスの隣で話を聞いていたリリアはスクイードの醜態を目にし、もうブチ切れ寸前。


「はははっ……」


隣で見ていたデミスは苦笑いを浮かべ、スクイードに近寄ろうとした。


その瞬間だった。


デミスの背後から空間転移により、ヴァイロン、エヴァレットが突然現れる。


二人とも大きなハンマーアックスを両手持ちで所持していた。


二人は現れると同時にハンマーアックスを全力でデミスの頭部と、心臓付近を各々が狙いすまして叩きつけた。


渾身の一撃を叩きのめされたデミスは前方に弾き飛ばされ体勢を崩す。


デミスの正面には、すでに立ち上がった状態のスクイードがいた。


強い覇気をまとう、どこか恐怖を覚える風貌をしたダークナイトとして。


スクイードは空間転移により出現させた大剣を大きく掲げていた。


それを体勢を崩し、突き飛ばされていたデミスを頭部から股先にかけて一気に両断するため振り下ろした。


だが、大剣はデミスに当たった瞬間に激しい音を立てて圧し折れてしまう。


その間に問題なくデミスは石畳の床へ倒れた。


「なんだ、馬鹿に硬いじゃないか!」


あまりの硬さから、やる気が出てきたスクイードは倒れているデミスの頭部を全力で蹴り飛ばす。


ここで、スクイードはある事実に気づく。


奇襲をかけられ、対処もままならなかったにもかかわらず、デミスの身体には傷一つない。


この奇襲攻撃は強者相手に幾度も仕かけていた卑劣で悪質極まりないが非常に効果的な策。


ここまでノーダメージでは事前に看破されていたとしか思えない。


「ヴァイロン、エヴァレット!」


二人にスクイードは叫ぶ。


その声に呼応し、二人はデミスの片足ずつを掴み、振り上げる。


デミスの脹脛(ふくらはぎ)辺りを掴み上げる形で振り上げたので、デミスは二人の肩に膝裏を乗せられる状態になり宙吊りとなった。


スクイードも二人の一連の流れの間に、新しい大剣を空間転移により出現させた。


「行くぞ!」


大声を上げ、己の背面まで大剣を振り上げると一気にデミスに向かって振り下ろす。


ヴァイロン、エヴァレットの二人もデミスを一気に振り上げた。


この攻撃方法も幾度か行っているようでなんの淀みもなく、大剣とデミスの胴体が抜群のタイミングでぶつかり合う。


この瞬間、スクイードは勝ったと思った。


大剣がいともたやすく圧し折れるまでは。


大剣が圧し折れたことに驚き、スクイードがその場から離れたため、デミスは顔から床に叩きつけられた。


「隊長……」


驚きを隠せないヴァイロンが声を漏らす。


「あの、ちょっといいかな?」


下の方から声がした。


紛れもなくデミスが声をかけていた。


「体勢がな、ちょっとキツイ」


ちらっと、ヴァイロン、エヴァレットは互いに目配せをする。


少し間を置き、デミスの足から手を離して、その場から距離を取った。


「悪いな」


デミスは何事もなかったように立ち上がり、身体についた埃を払う。


全くダメージがないのか、身体が痛そうな素振りを見せない。


「あの時と……一緒だ」


恐るべきデミスの姿。


それを目の当たりにしたスクイードの脳内に、とある過去の光景が浮かぶ。


九割のギルドの者たちが、わずかに一分。


歩合制傭兵部隊リバースという組織の、たった一人に壊滅させられたあの日の光景が。


この目の前に立っている男は。


まさに、あの日のR・ノールのようだと。

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