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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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ブレークタイム 2

空間転移で移動した町は、観光主体に特化した町。


観光品をメインに取り扱う店舗や飲食店など様々な店があり、小さいながらもカジノもあった。


適当にその町をぶらぶらしていると時刻が経過し、夕暮れに差しかかってきた。


「もう少しで夕暮れの時間帯になりますね」


二人は結局町の海沿いにまで歩いてきていた。


夕暮れの夕日を砂浜から眺めている。


それが次第に海へと沈んでいく様を静かに見つめていた。


「そうねえ、そろそろコテージに戻る?」


「そうしましょうか」


今度はリリアが空間転移を発動。


ほぼ一瞬のうちに、二人は水上コテージ内に戻ってきた。


このリゾートの多様な食文化や生活模様にふれられ、あとはもうゆっくりするか寝るくらいなもの。


「よいしょっと……」


リリアは水上コテージ内の椅子に腰かける。


今日という日を過ごし。


なんとなく、リリアはセシルの真意を汲み取れた気がした。


罰ゲームなどと話してはいたが、本当は自らの焦りや緊張を取り除きたかったのだろうと。


最近の自分は、本当に自分自身のことばかり考えていた。


これでは駄目だと感じていたが、一人では何事も全ては変えられない。


そういったことをセシルが変えてくれたとリリアは感じている。


「あっ、リリア、あれ見て!」


セシルがコテージの窓から空を指差す。


満天の星が無数に輝いていた。


「綺麗ですわね、あの星空をいつまでも見ているのもいいかもしれません」


「それじゃあ、リリア。暗くなったからもう寝ましょ」


天蓋つきのダブルベッドをセシルは指差す。


「?」


リリアは壁にかかった時計へと目をやる。


まだ時刻は六時頃。


「寝るにはまだ早いですわ」


「もういいじゃないの、少しくらい早くたって」


リリアが安穏と時を過ごしていた一方。


セシルは今日ずっと不純に満ちた思いしかなかった。


今日、必ずリリアを自らのものとする。


そういった気持ちが強くあった。


リリアをベッドへ連れ込もうと、セシルはリリアの手を強く引いた。


特に足に力も入れていないのに、リリアは全くびくともしない。


セシルは大樹の太い枝を引っ張ったような気がした。


「リ、リリア。やっぱり、寝るのはお風呂に入ってからにしましょうか」


「なにか……変な感じがしますね?」


この時初めてリリアは違和感を覚えた。


とりあえず、二人はお風呂に入る。


リリアに不信感を抱かれたこともあり、セシルは普段通りに対応する。


そうしたこともあり、湯上り後は特に問題なくリリアはベッドで横になった。


「リリア……」


同じくベッドへセシルも横になる。


「実は貴方にもまだ教えていなかったことが一つだけあるの」


普段通り、リリアを抱き枕にして抱きつく格好になったセシル。


その際の感触に、リリアは違和感があった。


「セシルさん、胸が……」


豊満な胸が、いつの間にか細身の男性のような筋張った胸板になっている。


別人かと思わずにはいられず、リリアはセシルの顔を見た。


今までとなにも変わりないセシルのままだった。


「私、シェイプシフターだから姿形を自在に変えられるの。身体のどの部分も全て。以前、私の姉のエリーが私をセシルではなく、リオンと呼んだのを覚えている? リオンは私が男性の姿をしている時の名前。最初期の私は男性の姿をしていたの」


「………?」


話の内容は分かるが、意味が分からない。


「……では、私は今リオンという男性に抱かれているのですか?」


「セシルはリオンであり、リオンはセシルなの。女の子にもなれるし、男の子にもなれるし、そのどちらでさえもなくできるの」


「………?」


話の内容は分からないが、意味も分からない。


なんだその禅問答みたいなのは?と、ストレートに投げかけたいが……


セシルのことだから率直に聞けば、地味に泣かれそうな気がして発言を避けた。


「リリアは私のこと、好き?」


「好きですわ」


とても軽い感じで答える。


リリアの好きという言葉は、恋愛感情なのではない。


「好き同士なら、子供が作れると思わない?」


「子供が……?」


直後、リリアの雰囲気がどことなく変わる。


面倒臭さが勝っていたが、セシルの目をじっと見つめ、思考や心理を読もうとする。


「私は本気。今日ずっとそのつもりだったの」


「………」


リリアはセシルの背に手を回す。


「リリア……」


その気になってくれたと思ったセシル。


だが、嫌なものが目に入ってしまう。


リリアがセシルの背に回していない方の手に、リリアは自らの魔力の略全てを込めていた。


魔力が込められた状態の手で殴られれば、致命傷は避けられない。


「えっ……えっ?」


本当に怖くなったセシルは自らの手にも魔力を込め、リリアの手を握る。


なんとか殴られないようにと、セシルも必死だった。


手を握られた瞬間、リリアは恥ずかしそうにセシルから目を逸らす。


セシルの背に回していた方の手で顔を覆い、顔を隠した。


「どうしたの?」


一連の流れの意味がセシルには分からない。


とりあえず、殴りかかってこないとだけは認識している。


「ん? セシルさん?」


リリアはなにかに気づき、怪訝な顔をした。


「貴方の考えが私には分かりかねますわ」


セシルの手をぞんざいに振り払い、リリアはベッドから立ち上がる。


もうリリアの手には魔力が籠っていない。


「私は海を眺めています」


さっさと、リリアはコテージを出ていく。


「リ、リリア……」


焦って、セシルもリリアのあとを追ったが水上コテージの出入り口で立ち止まる。


リリアは島の中腹辺りに置いているビーチチェアに座っていた。


周囲は闇夜で真っ暗でも、リリアのいる付近はリリアがライトを発動したおかげで明るく照らされている。


すぐにでも行ける距離だが、セシルはリリアがどうして怒ったのか分からない。


このまま、なにも分からない状態で行けば喧嘩になる可能性が高い。


それをセシルは嫌った。


今はどうしてもリリアのもとへは行けなかった。





翌日の朝、セシルは水上コテージ内のベッドで一人目を覚ます。


昨日はいくら考えても、リリアが怒った理由も、なにをしたかったのかも分からない。


「私の感性……なにか、ズレているのかしら?」


自らの感性を、セシルは他の女性と相違ないと思っている。


セシルの発想には、リリアが人ではなく魔力体だという認識が欠如していた。


リリアの行動の理由はほとんどそれが原因なのに。


「でもまあ、私がいつも通りなら許してくれるでしょう」


朝の支度を終えると、セシルは水上コテージを出る。


今でもリリアは海を見ていた。


ビーチチェアに座り、ぼーっとしている。


「リリア、おはよう」


「………」


セシルを無視する反応をした。


「………」


少しだけ、セシルは寂しさを感じた。


だが、少し間を置き、リリアは頬笑みを見せる。


「おはようございます、セシルさん」


リリアの反応は以前とわずかながら変わっていた。


「昨日は、その……ゴメンね」


「私こそ。なにか誤解をしていたようです」


「リリア、昨日のことだけど」


「口外しないようにお願いします」


「うん」


それから特に話すこともなく、リリアは海を見つめる。


ようやく、種族差に原因があるのだとセシルは考え始めた。


魔力体とはなんなのか?


セシルは非常に気になり始めていた。

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