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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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ブレークタイム 1

翌日の朝。


小型のクルーザーが、とある孤島の木製でできた桟橋に停泊する。


水平線の向こうまで快晴で晴れ渡り、眺めが良い。


風もほとんど吹いておらず、温度や湿度も適度なもので、ずっと外で過ごしていたいと思える環境。


「さあ、着いたわ」


クルーザーから、リリア・セシルが降りてくる。


セシルは大きめのつばがついた白い帽子を被り、白いワンピースを着ている。


清楚な格好だが、もとが娼婦のせいか妖艶さが勝っている。


リリアは紫色だが色合いの異なるTシャツ、スカートを着ていた。


ドレスの着用をセシルに止められたため。


「さっきも聞いたけどさ」


クルーザー内から、サングラスをかけた男性が呼びかける。


「本当に帰りは迎えに来なくていいんだな?」


「構わないわ。私たちは傭兵だから自力で帰れる」


「本当に大丈夫なんだな? とりあえず、コテージ内に外部とコンタクト取る装置があるから、もしもの時はそれ使えよ?」


男性はクルーザーを運転し、孤島を離れていった。


「こういう島なんですね」


クルーザーを見送った後、リリアは孤島内や周囲を見渡す。


とても綺麗な光景が広がっていた。


エメラルドグリーン色の美しい海と白い砂浜、透き通ったラグーン。


小さな珊瑚礁の島々などもあり、海にはカラフルな熱帯魚が泳ぐ神秘的な光景が広がっている。


「そうなの、あと今日私たちが泊まる場所はあそこ」


孤島にはもう一つ桟橋がかかっている。


そこに若干大きめの水上コテージがあった。


「あそこですか」


「それはそうと……」


セシルは履いていた白いサンダルを脱ぐ。


「砂浜、歩きましょうよ」


「よく考えておきますわ」


「そうそう、そうなのよ」


リリアの前にしゃがみ、無理やり履いていたサンダルを脱がす。


「………」


素足で砂の上など歩きたくもないリリアは若干ムッとした。


すたすたと白い砂浜を歩いて、二人は水上コテージへと向かう。


その中間に、白く大きなビーチパラソルと、二つのビーチチェア、小さめの丸テーブルが置かれている。


「支度を終えたら、ここで休みましょう」


「支度?」


「水着を着るのよ」


そして、二人は桟橋の先にある水上コテージへ入った。


コテージ内は広々としたシックな雰囲気の内装。


天蓋つきのベッドがある寝室やオーシャンビューが望めるリビングなどが確認できた。


「思ったよりも狭いですわね……これが、リゾートと呼ばれるものですか」


リリアにとっての広さの基準はエアルドフ王国の姫の寝室。


つまりは城内の自室の広さ。


この基準を改めない限り、リリアが広いと思える部屋はほとんど見つからない。


「すっごく広いね、リリア」


開放感のあるリゾート特有の内装が施された室内にセシルはご満悦。


オーシャンビューはどうでもいいらしいが、天蓋つきのベッドは気に入ったらしい。


「そういえば、なにかおかしいですね。ベッドが一つしかありませんが?」


「だって、ここカップ……」


「今、なんと?」


「少し大きいベッドでしょ? これはダブルベッドだから二人用なのよ」


なにかを言いかけてから、セシルは言い換える。


「せっかくのリゾートでも、一人用のベッドを二つ用意できないのですね」


「そうね」


上手く誤魔化せたセシルは気持ちがとても高揚としている。


特にリリアはセシルにその真意を尋ねることはなかった。


「ああ、それと……」


セシルは空間転移を発動した。


天蓋つきのベッドに、二つの水着が出現する。


「リリアのは、こっち」


フリルつきのバンドゥタイプのビキニを手渡した。


「下着ですか?」


「これは水着よ」


「水着?」


リリアは水着を着たことがない。


当然ながら水中を泳ぐ行為自体したことがなかった。


セシルは胸の谷間が強調されるクロスホルタービキニを自らの身体に合うか、ワンピースの上から確認していた。


「なぜ、これを着るのですか?」


「なぜ……って、だったら裸がいいの?」


「嫌です」


リリアは即答する。


そういう意味で語ったのではなく、リリアは海で水着を着るという行動の理由が単純に分からない。


「服に砂がつくよりは良いでしょう?」


「なら、まあ……」


海で泳ぐためだとは、セシルは言わなかった。


リリアと同じく、セシルも泳げない。


二人は島の中腹辺りに置いてあるビーチチェアまで向かった。


「ふんふん」


セシルは鼻歌を歌いながら、空間転移を発動。


グラスに入ったトロピカルな色の飲み物二つと、サンオイル、望遠鏡が丸テーブルに出現した。


「さてと……」


そんなものには目もくれず、リリアはビーチチェアに腰かけ、横になる。


「あら?」


海を眺めていたリリアはなにかを見つける。


「見てください、セシルさん。大きな魚が跳ねましたよ」


方向が分かりやすいように指を差して伝えた。


「えっ? どれ?」


目で見た後、即座に丸テーブルに乗せてある望遠鏡を手に取る。


「あれはイルカよ、魚じゃないわ。というか、どこまで見えているのよ?」


セシルは若干引いている。


望遠鏡でようやく見える距離のものを一瞬裸眼で見ただけで把握する。


単純計算で視力が二桁程度はあった。


それから二人はのんびりとした時を過ごす。


日光浴をしながら海を眺め、一向に海へと入り泳ごうとはしない。


時折、セシルがリリアにサンオイルを塗ってあげる。


確認も取らず水着の中まで手を入れてくることに、リリアはイライラしていた。


「リリアって全然日焼けしないのねえ」


リリアの肌に変化がないのが、セシルにとっては不満。


「日焼けですか? 私は生まれてこの方、日焼けなどしたことがありません。私程の淑女ともなれば、日焼けなどありえないのです」


「んなはずないじゃないの、人は全て日焼けするのよ……もしかして、魔力体だからなのかしら?」


「でしたら、セシルさんはなぜ日焼けしないのですか?」


「私はシェイプシフターなのよ? 自らの意思で肌の色を自在に変化できるのだから、他の影響によって変化が起きるだなんてありえない」


とりあえず、意味がないと分かったセシルはリリアにサンオイルを塗るのを止める。


「………」


だったら一体なんのために外で日向ぼっこしていたんだと、リリアは思う。


「そのまあ……海を眺める、これがとても有意義な時の過ごし方だと気づけたのは良かったかもしれません」


「海ねえ、私はリリアが隣にいればもうそれでいいかな」


「このようにですね」


リリアは手をひらひらと波を表すように動かす。


「至るところでですね、波が生み出す動きが現れては消え、私は今でも海の動きを見出せません。波とは、どれ程の動きがあるのでしょう?」


「リリア?」


「これ程に見ていても機微を掴めないとは、あとどのくらいの時を要するのでしょうか」


「なんの話をしているの?」


「セシルさん、デミスと戦う直前まではこの砂浜にいましょう」


そこで、セシルはリリアの頬を叩く。


「はあ?」


「私の基準で言えば、今のリリアは変よ。私はこの砂浜に長くはいたくないし、そもそもこの砂浜は私たちだけの物でもないの。レンタルしただけだから」


「心外ですね、私のどこが変なのですか?」


「今の話の内容全部」


腑に落ちないが、リリアは反論するのを止めた。


感性の違いを一々指摘しあっても確実に平行線を辿るのみで不毛もいいところ。


他のことをするため、二人は一旦水着から先程着ていた服に着替え、孤島から数十キロ離れた距離にある温暖な気候の町へと空間転移を発動した。

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