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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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協力者

地下闘技場で無事に勝利を収め、依頼を達成したリリア・セシル。


魔導剣士修練場宿舎の最上階にあるギルドのエレベーターフロアへ空間転移により戻ってくる。


「やっと帰ってこれた。私にはやっぱり、ああいう田舎よりも栄えている場所の方が性に合うわ」


セシルは帰ってきて早々に愚痴を語っている。


「では、スクイードさんに賞品を持っていきましょう」


リリアはセシルの話を聞いていない。


とりあえず、二人はスクイードの自室まで向かう。


「スクイード、やったわ。この私が優勝した」


扉へのノックも早々にセシルは部屋の扉を開き、自慢げに語り出す。


「帰ってきたか」


机の椅子から立ち上がり、リリア・セシルのもとへスクイードは歩いていく。


「これが優勝賞品よ」


優勝賞品の大きめな宝石が入った小箱をスクイードの顔に押しつける。


上下関係を全く意識しないセシルだからこそ為せる業。


「ああ、見ていたよ。最後に戦ったのは、あのヴェイグさんだったな。本当によく勝ったものだ」


「見ていた? もしかして、スクイードも戦いを見ていたの?」


「そうだ。ああいう総世界中に配信するライブ映像は、魔力で中継さえすれば誰でもパソコンで見られる。勿論そういった大会が行われていることを知っていなければ繋がりようがないが」


「へえ、魔力でねえ。そんな方法で機械を動かせるのねえ。そんなことより、これ」


セシルはスクイードの顔に宝石が入った小箱をずっと押しつけている。


「セシル、なんというか君は不思議な女だな」


ゆっくりと、宝石が入った小箱を受け取る。


「これは、オレの方から依頼者に渡しておこう。それと依頼金代わりにこれを」


スクイードは一枚の紙を手渡す。


「えっ、なになに?」


セシルが受け取った紙を見てみると、それは一枚の小切手だった。


なんと金額は破格の十億。


「これ、本当に?」


「あの試合でセシルの倍率は百倍以上だったからな、オレも儲けさせてもらった。なにも問題なく受け取ってくれ」


「やったわね、リリア。明日から遊び放題よ!」


見たことがない程にセシルは、はしゃぎまくっていた。


そんなセシルとは対極的に、リリアは無反応。


「スクイードさん、少しお話が」


「なんだ、もう一声か?」


「いいえ、お金の話ではありません。このスイーパーを離脱したいのです」


「ああ、かけもちがしたいのか? どんなギルドでどんな仕事がしたいんだ?」


「かけもち?」


「今のギルドは過去の体制と異なり、上位組織が適当に依頼書を配っていくだけになったから依頼を自由に選びようがない。ある意味、皆がより良くなっていくために起きた弊害と言ってもいい。それでもなんとか自分のしたい仕事を選ぶため、ギルド間のかけもちがOKとなり、傭兵の行き来も自由になったんだ」


「そうですか」


「……もしかして、そういう話じゃなくて本当にギルドを離脱したいの?」


「ええ」


リリアは素直に頷く。


「この環境で私は、今以上に強くはなり得ないでしょう。私は新たな場で今以上の強さを目指します」


「それはそうだろうな……悪かった」


リリアが素直に話してくれたからこそ、スクイードも親身になっている。


これが過去の傭兵ギルドでの出来事なら、極めて真っ当な粛清対象となる。


リリアの行いは足抜け行為であり、様々なことを知ってしまった者を野に離すなどありえない。


こういったところも、ノールが変えてくれた。


既存の体制を平然と全て変えてのけ、しかもそれらを誰も誤魔化さずに維持させられ続ける辺り、本当にノールのヤバい奴感が出ていた。


「順序立て、リリアが強くなっていくよう仕事を与えていたんだ。もっと難易度の高いものや強者に立ち向かう仕事なら、きっと今以上にリリアも強くなり得ていただろう。それでもまず先に聞きたいことがある。どうして、そこまで急いで強くなりたい?」


「話せば長くなりますが……私には、どうしても倒さなくてはならぬ者がおります」


「なんだ、そういうことか。いいだろう、オレもそいつを倒す協力をするよ」


「なぜ、ですか?」


「そいつさえいなければ、スイーパーを離脱する必要はないだろう?」


「そうですかね」


もしも倒せたなら、それはそれでスイーパーを離脱することになるとリリアは思う。


「どうして、私のために?」


「スイーパーで仕事を熟してきて分かったと思うが、残念なことにスイーパーは嫌われている。せっかく加入できた優秀な人材を手放したくないのが答えだ」


「もし戦ってくれるのなら、事前に話しておかねばなりませんね。スクイードさんはパラディンのデミスという者をご存じですか?」


「パラディンのデミス?」


一度スクイードは斜め上の方を見ながら考える。


「そいつが倒すべき相手なのか? オレの知っている限り、デミスなんて名前は手配書でも見たことがない。一体どういう奴なんだ?」


「デミスは私を含めたエアルドフ王家の者たちを根絶やしにしようと企む男です」


「エアルドフ王家って、リリアが?」


「ええ、私はエアルドフ王国の姫です」


「単純にドレスを好んで着ているだけじゃないの?」


「私程の淑女ともなれば、着衣にもこだわらなくてはなりません」


「ふうん」


スクイードの反応が薄い。


リリアの話を信用していない。


「とりあえず、他の面子にも声をかけておくよ。早ければ今週中に片がつくようにセッティングしていくから、リリアとセシルはその日まで待機で」


「ええ、分かりました」


話がまとまったため、リリア・セシルは自室へ戻っていく。


部屋に戻ってから、セシルは疑問に思っていたことを尋ねる。


「リリア、デミスって誰なの?」


「デミスとは途轍もない強さの持ち主です。今の私では到底敵わないでしょう」


「私やスクイードだったら?」


「それは分かりません。以前の私でも今の私でもデミスの力量など測れはしないでしょうから」


「向こうは全く本気じゃなかったのね」


それから、セシルはリリアの左腕をふれる。


「もしかして、リリアが一時期左腕を喪失していた原因って、デミスのせいなの?」


「その通りです」


次第に腹が立ってきたのか、一度切断された左腕に力を込め、握り拳を作る。


「本当は私一人で彼の者を打倒したかったのですが、考えを改めましょう。利よりも目先の脅威を取り除くべきだと。お二人の力があれば、とても心強いです。セシルさん、よろしくお願いします」


「なに言ってんのよ、私と貴方じゃないの。そんなこと言われなくても助けるに決まっているでしょ? 私たち友達じゃないの、いつでも頼りなさいよ」


「そうですよね」


自然と笑みがこぼれる。


本当にセシルたちの協力が心強かった。


「でさ、これなんだけど」


「えっ?」


先程、スクイードから依頼金の代わりとして受け取った小切手をリリアに見せる。


金額は破格の十億。


それ程の額でも、リリアの内には響かない。


「これ、どうする?」


最初は普通に見せていたが、ゆっくりと自然な流れの手つきでセシルは自らの胸元へ小切手を抱き締める。


両手で強く押さえつけ、リリアへ渡す気は毛頭ない様子。


「セシルさん……」


できるだけ見せないでほしい姿を平気で見せつける。


セシルのこういうところがリリアは嫌い。


「その、セシルさんがお金を管理しておいてください」


「ええ、任せて。私にかかれば楽勝だから」


「楽勝?」


「それでね、リリア。少しの間、待機となったじゃない?」


「待機となりましたが、私としましては鍛錬に勤しみたい……」


「罰ゲーム、忘れていないよね?」


急にセシルは無表情で、そう口にする。


先程まで楽しげに話していたのに。


「………」


なにか、リリアは嫌な予感がした。


「まずは私の言うことを聞かないとね?」


「ええ……分かりましたわ」


「なら、予約をして来ないと……」


「予約とは?」


問いかけには返答がなかった。


聞いた頃には、もうすでにセシルが急いで部屋を出て行ってしまったから。


それから数時間が経過した頃。


セシルは手提げ袋サイズの紙袋を片手に部屋へ戻ってきた。


「リリア」


セシルはリリアに呼びかける。


部屋の中央辺りに、リリアは立っていた。


いつもの両手を胸の前で組む、精神統一の姿勢で。


「セシルさん、帰ってきたのですね」


「それはともかく、これを見てよ」


セシルはソファーに座り、紙袋から複数枚の用紙を取り出す。


一番上の時点でリリアにも気づけたが、それは旅行会社のパンフレットだった。


水平線の向こうまで続く綺麗な海、とある孤島の白い砂浜、豪華な水上コテージ。


この世界にある温暖な気候のリゾート地の写真が写っている。


「ここでね、二人きりで過ごすの」


とても楽しそうにセシルは語る。


「ここで? そうなのですね……」


良いとも、悪いともリリアは言わない。


リリアは今まで海を見たことがなかった。


よく分からない場所ではどうとも言えない。


「明日の朝にチェックインだから」


「そうなのですか」


再び、リリアは精神統一の姿勢に戻る。


セシルも明日の予定の準備をし出して、リリアの反応の薄さにあまり関心を示さない。


失敗しないようにと抜かりなく。

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