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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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戦いの前

「今回は、この仕事をしたいと思います」


リリアが一つの依頼書を手に取る。


「私はリリアと一緒じゃなきゃ仕事できない」


セシルはそれだけ語った。


「ところで、なんの仕事なの、それって?」


「とある宝石の獲得、それが依頼内容ですね。獲得には非公式で行われている地下闘技場での試合に優勝する必要があります」


「なにそれ? そんなの自分で出場して優勝すればいいのに。まあ、要は金持ちの道楽か。所詮強者の名誉など金さえあればいくらでも買えると思っているのでしょう。実際にこれからそうなるけど」


「セシルさんは出場しますか?」


「一人よりも二人で参加した方が優勝しやすいでしょう?」


「それもそうですが、私とセシルさんが戦うことになったらどうしますか?」


「リリアが優勝しそうなら私は負ける。リリアが優勝しそうにないのなら私がリリアを倒す。仕事内容が優勝しなくてはならないから自ずとそうなると思う」


顎に人差し指をつけ、セシルはリリアを窺いながら話している。


「この私に、勝つ、お積もりですか?」


リリアは気に障ったのか、ゆっくりと言葉を口にしている。


「勝てると思っている」


「そうですか」


リリアの内に火がついた気がした。


セシルが自らよりも強いと分かっていたが、だからこそ倒して退けたかった。


セシルもリリアが大好きだからこそ、自らの優位さを徹底的に見せつけた上で泣かしてやろうという歪んだ発想があり、リリアに勝ちたかった。


「やめろやめろ、仲間同士で戦うなんてのは損だ。商品さえそこにあれば問題ないのなら、馬鹿が優勝したのを確認した後でさっさと奪い取ればいい。その一度の勝利で商品が手に入るんだ、簡単だぞ」


釘を刺すように注意をするスクイード。


その際、リリアはなにか微妙さを感じた。


「ああ、そうでした。スイーパーは悪党側の立ち位置でしたね」


「窃盗でも強奪でも手に入りさえすれば問題ない。このギルドは間違っても正義の味方ではないんだ」


「私は正攻法で行きますわ。私が必ず優勝します」


悪人側にはどうしても立てなかった。


リリアは自らの力で勝ち取らなくてはならないと感じている。


「そっか、もし二人でもどうにもならない時は……いや、まずはオレに連絡な。三人でかかれば勝てるだろ」


「?」


話す途中に一瞬だけ、スクイードの目線がリリア、セシルの顔と胸へ向いたのをリリアは見逃さなかった。


「そういうのは……」


セシルにも視線が追えていた。


そういう視線だからこそ見逃さなかったとも言える。


「私の専門じゃないかしら。リリアは今後のために取っておいた方が良いと思うよ」


「?」


取っておくものとはなんなんだとリリアは思った。


「では、これより私たちは……」


さっさと仕事に移ろうとしたリリアだが……


依頼書によると地下闘技場の開催日は、三日後の夕方五時頃だった。


地下闘技場のある国では、その日が週末にあたる日。


なるべく観客や参加者が多く集まる日を狙って行いたいらしい。


「まだ開催日ではないので待機します」


「あっ、そうなの? じゃあ今日は休日ね。ご飯でも食べに行きましょうか」


普通にセシルは喜んでいる。


「………」


静かにリリアはスクイードを見た。


「ああ、休日で問題ないよ。楽しんでおいで」


至って普通にスクイードは話している。


こういった仕事ならではだが、その日が来るまで自由時間となるようにしている。


仕事さえ対応してくれれば、とやかく口出しはしないのがスクイードらしさ。


それから待機という名の休日が過ぎていき、三日が経過した。


「では、よろしいですね?」


自室で仕事の支度を終えたリリアはセシルに尋ねる。


「ああ、うん。いいよ」


セシルは飲んでいたペットボトル飲料を冷蔵庫に戻した。


こちらも準備は整っている。


「空間転移を発動します」


リリアの空間転移により、地下闘技場のある世界へ。


周囲の風景は徐々に変化していき、自室の風景ではなくなる。


移動した先の世界は、近代的な世界。


アスファルトの道路が敷設され、車両も走り、鉄筋の建物もある。


ある程度の発展度合いが窺えるが、ぽつぽつとした間隔にしか建物がなく、人の姿がない。


それらよりも、主に田畑が周囲一帯を占めていた。


簡単に言えば、この辺は田舎と呼ばれる場所。


「ここは発展していますね。とはいえ、人がいませんわ」


背伸びをして遠くを眺めても、ほとんどが田園地帯でなにもない風景に一種の寂しさを感じた。


「ここはどう見ても田舎ね……」


どこかうんざりとした反応のセシル。


このような場所は稼ぐに値しない場所だとセシルは思っている。


リリアと出会うまで総世界中の様々な繁華街ばかりを飛び回っていたセシルには、マイナスの面しかない。


「こんな場所に地下闘技場があるだなんて言われてもねえ。そもそも参加者が私たちだけとかは流石に止めてもらいたいなあ」


「参加者は結構いるよ」


「えっ」


リリア、セシルが同時に声に出す。


急に第三者の声が聞こえたから。


それは二人の足元の方から。


二人の視線が地面へ向くと、子供が一人しゃがんでいた。


「貴方は誰なの?」


警戒しながら、リリアは声をかける。


これ程の至近距離で全く気がつけなかった。


この時点で相当の実力者なのは明らか。


すっと、立ち上がり子供は二人の方を見た。


子供はショートの黒髪に黒い瞳。


耳の尖ったエルフ族で、独特の刺繍がなされた種族衣装を身にまとっている。


一般的なエルフ族の特徴である緑髪、緑色の瞳でないのは子供がダークエルフ化をしているため。


ダークエルフ化は臨戦態勢の証。


「こんにちは、上位組織歩合制傭兵部隊リバースの者だよ。依頼の付き添い担当者はこの僕」


上位組織歩合制傭兵部隊リバースの者と言われても、二人はこの子供を初めて見た。


リバースの者たちは全て手配書に記載されているはずなのだが、全く見覚えがない。


話している間、子供はリリアの顔をじっと見つめている。


それから若干の間を置き、声を発した。


「もしかして、ノールさん?」


「えっ?」


リリアは振り返った。


セシルもまた首だけを動かし、周囲を見ている。


ノールの姿など、当然ながらどこにもない。


「いませんでしたよ?」


「そう?」


「貴方、お名前は?」


「僕はエルフ族のセフィーラ。魔導人でもあるの。“ジーニアス”と呼んでもらっても構わない」


「こんにちは、セフィーラさん」


リリアとセフィーラは握手をする。


先程のセフィーラの発言をリリアは聞き逃さなかった。


魔導人。


それは打倒しなくてはならない相手、デミスがその種族だった。


「このわずかにながら感じる魔力は……やっぱり、ノールさんだよね?」


「私をからかっているのですか? ノールさんはいませんでしたよ」


「君はノールさんからはなにも言われていないの?」


「いいえ、なにも。私は相手にもされていませんでした」


「そうだったの、へえ」


「あの、私たちの自己紹介をそろそろしても?」


「どうぞ」


「私たちはスイーパーのリリア、そして……」


「あっ、私はセシルよ」


リリアが視線を送ったのを見て、セシルが答えた。


「どうぞお見知り置きを」


二人の自己紹介を聞き、セフィーラは首を傾げる。


「ああ、あそこの……スイーパーからは移籍した方がいいんじゃないの? どうせ今回の仕事は横やりで優勝者から掻っ攫うのがメインでしょ? もっと正々堂々とやってみようよ、ねえ?」


「そんなにスイーパーは嫌われているのでしょうか?」


「僕が嫌いなだけ」


不思議そうにセフィーラは語る。


そんなこと知っていたでしょう?とでも言わんばかりに。


「昔は酷かったよ、皆がこう良くも悪くも自分の欲望の赴くままに途轍もなくギラついていた。人を殺したり、虐げたり、物を分捕ったりは平気でやるような連中だらけで。ノールさんが今の皆で一緒に儲けて和気藹々なんて空気にしてくれたのに、対応方法は昔と変わらないなんてザラだもん」


「なにがどうあれ、私たちスイーパーに対する対応は良いと言えません。今の言葉を訂正してくれませんか?」


「ん? 意外だな」


「なにがでしょうか?」


「僕の話に訂正を求めてくる人なんて、ギルドの関係者では久しぶり。気を悪くしているのなら、そういうのは止めてね。気に障るから」


そこで再びリリアがなにかを言おうとした時。


ぐいっと、セシルがリリアの腕を引っ張る。


「こんな話をするために、こんな田舎に来たわけじゃないのよ?」


これ以上、リリアに話をさせると面倒になると判断したセシルは自らの後方へ移動させる。


「セフィーラ、依頼書の地下闘技場の場所だけど……」


「闘技場はあの辺」


セフィーラは遠くの山の斜面辺りを指差す。


そこには、仮囲い鋼板で周囲を覆われた施設が小さく見えた。


「あそこから魔力の感覚が嫌でも感じる。戦うのなら僕もついていくよ。簡単に負けられたら、見守りに来たこの僕の監督不行き届きになる。僕だって助けられる時には早めに助けてあげたいからね」


セフィーラは端から二人が負ける前提の話をしている。


それは、二人が勝った負けたなどには興味も示さず、優勝者から強奪するだろうと思っているからでもある。


「セフィーラも私たちと行動するの?」


「リリアに興味が湧いた」


「私は?」


「セシルにも。魔力の感じ方が人のそれじゃないよね、なのに魔力体ではない。君の種族を聞かせてほしいな」


「ええっ……」


わずかな時間で正体を見破られた気がしたセシルはドン引きしている。


リリアを背後に移していたが、セシルがリリアを自らの盾にするよう前に出す。


「セフィーラさん、先程の訂正を」


「ええっ……」


気に障ると発言された内容を再び口にしたリリアに、セシルは流石に不味いと感じた。


「凄いな、まるでなにを考えているのかが分からない。本当にノールさんみたいだ」


先程からの無駄なノール扱いをされ、リリアはセフィーラを嫌いになっていた。


「それで君は魔力体派? それとも人派?」


「えっ?」


「そんなの、聞かなくてもいっか」


この時、初めてセフィーラは笑顔を見せる。


屈託のない子供らしい綺麗な笑顔だった。


「さあ行こう、目指すはあの汚いところだよ!」


楽しそうな口調で、セフィーラは語り、勝手に歩き出す。


気を悪くしていたように見えたが別になんとも思っていなかったらしく、一人ではしゃいでいる。


「見た目通り、子供っぽくなってきましたね」


リリア、セシルはセフィーラに続いた。

登場人物紹介


セフィーラ(年令38才、身長130cm、エルフ族であり総世界に数名しかいない魔導人の女性。魔力が強力なエルフの末裔。過去にアカデミーを主席で卒業し、ジーニアスという称号を受け自ら名乗っていたが、本名も名乗るようになった。スキル・ポテンシャルは“必中”。上位組織歩合制傭兵部隊リバースでR・ノールの右腕的ポジション。現在の十才程度の姿と、年相応の姿と二つの変化ができる。レベル18万程度)

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