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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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箱庭の者たち

翌日の早朝。


まだカーテンから漏れる朝日もない早い時間帯にセシルは目を覚ます。


普段通り、セシルはリリアを抱き枕扱いして二人で同じベッドに寝ていた。


リリアを起こさぬよう、セシルは静かにベッドから這い出ていく。


着替えもせずパジャマ姿で部屋を出ていった。


「セシルさん、どちらへ?」


リリアが目覚めぬよう静かに出て行ったが、リリアは目を閉じていても起きていた。


魔力体のリリアは生まれてこの方、睡眠という行為をしたことがない。


他の者がしているから、そして父のエアルドフが睡眠の仕草を行えと語ったから、ベッドに横たわっているに過ぎない。


一見睡眠を取っているように見えても、リリアは体内へ周囲の魔力を集中させたり、自らの体内で魔力を循環させ常に身を守ったりをしている。


自らを起点にものを考えるため、人は自らの種族同様に魔力体は眠れるのだと錯覚し、寝ているものだと思う。


それは当然、セシルから見ても寝ているのだと思われている。


この寝ていると見える行為は一般的な人間化が可能な魔力体としての特質性。


人としての生き方が可能になった魔力体にのみできる行為。


さらに人臭くなった者は欠伸もできるし、眠気も感じられるレベルに到達する。


だが、魔力の関わりがなければ痛みすら感じないリリアは人寄りではない。


本質的な魔力体に近い性質を持っているので、その段階までには至らない。


「こんな時間に外出とは気になりますね。私もついていってみましょうか」


リリアもセシルを追って、部屋を出ていく。


部屋の扉を開け、廊下を見渡すとセシルの後ろ姿が見えた。


セシルは同じフロアのある一室へと入っていく。


ノックもせずに入る姿がリリアの興味を引いた。


「あの部屋は確か……」


以前入ったことのある部屋だった。


その部屋の主は、セシルの姉のエリー。


ひとまず、リリアはエリーの部屋の前まで来た。


「セシルさんは姉上のエリーさんとお会いしたかったのですか。でも、なぜこのような時間に?」


「気になるかしら?」


すぐ耳元で、ささやく声がした。


ぞくっとする感覚から、リリアは声がした方へ振り向く。


とても近い距離にエリーの姿があった。


「なにをどこまで知った?」


問いかけとともに、リリアの胸元へ手のひらを置く。


とても強力な魔力が手のひらの一点に込められている。


エリーがその気になれば即座にリリアの上半身を弾き飛ばせる状況にあった。


「なにを……ですか?」


安全だと感じていた場所や、信用している者の身内だったことから、リリアの行動は抑制され返答をするだけ。


「エリー、ちょっと」


エリーの部屋の扉が少しだけ開く。


そこには、セシルが立っていた。


「この私自身をよく知ってもらいたくて私から話したの」


「………」


セシルの言葉に眉をひそめたが、エリーはリリアの胸元から手を離し、代わりに腕を掴む。


その瞬間、リリアの目の前の光景が変わった。


やけに乙女チックな室内。


これだけでエリーの自室内にいるのが分かる。


わずかな距離を移動するためだけに空間転移をわざわざ扱っていた。


「座って」


エリーはソファーへ手のひらを向ける。


「ええ」


リリアは少し警戒しながら、ソファーに座った。


その隣にエリーの顔を見ながら、セシルも座る。


「セシルちゃんはどのくらい話したの?」


「シェイプシフターであることや、私自身の能力について」


「リリアが信用できると思ったの?」


「そうでなかったら絶対に話したりはしない。簡単に話せる内容でもないし」


「それ以上の話は?」


「流石に、それ以上を話すのは……」


セシルはリリアの顔を心配そうに見つめる。


「ねえ、リリア。私たちの話を聞きたい?」


「私に聞かせても構わない内容でしたら聞かせてください」


「ありがとう、私はリリアが味方になってくれれば頼もしいと思っているの。いいでしょう、エリー」


笑顔を見せつつ、話をエリーに振る。


「話したいのならいいわ、それでも」


エリーには笑顔がない。


「それなら良かった。リリアは以前、私が人間ではなくシェイプシフターだと話したのを覚えている?」


「ええ」


「シェイプシフターと言っても、普通に生まれた一般的なシェイプシフターではない。私たちは人工的に、一から創られたシェイプシフターなの。私のような同じ境遇の者は私の知る限り四名。それが私自身とエリー、そしてランス、シュダという私たちが暮らしていた箱庭で将軍と執事だった者」


「そこまで話しちゃうの?」


「問題があるの? そこから話さないとなにも伝わらない」


考えていた以上に話しているようで、エリーは驚きを隠せていない。


「私とエリーは箱庭内の王国……フェザー王国で王族の地位だったの。ランスは将軍で、シュダは執事だと自らを信じて疑わなかった。あの時に些細な気づきがなければ、私たちは今でもあの箱庭でいつまでもいつまでも同じ時の流れを繰り返していたのだと思う」


「セシルさんも王族でしたの?」


「まさか、そこだけに反応するの?」


「いえ、話を続けてください」


「私たちを創り出した者たちは、なにかを知ろうとしていた。彼らがなにを知ろうとしていたのかは逃げ出した今でも分からない。ただ、外の世界に出て私たちは非常に強く創られているのだと気づいたの。姿形を自在に変化させられる強力な戦闘兵器を創り上げようとしたのではないかと今では思うの」


話していく間にセシルの顔色は悪くなっていく。


本当は口にもしたくない内容なのが見て取れる。


「でも……なぜ繰り返しの同じ日々を行わさせていたのか、見当もつかない」


「セシルさん」


「他にも聞きたいことはある?」


「今話している内容は全て本当なのですか?」


「全て本当で、嘘はなにもないわ。私は女の子と男の子の間から創られた者ではないの。そういう風に一般的な人ともいえないシェイプシフターと呼ばれる種でさえも創り上げられる組織がある。私たち四人はその組織を見つけ出し、叩き潰そうと考えているの。そのような生命の操作なんて許せない」


「その者たちは一体……」


リリアにとっても興味を引く話になり始め、少し身を乗り出してセシルの話を聞く。


同時にリリアの首筋をなにかが貫く。


「ん?」


リリアは首筋を確認する。


長いなにかが首筋を貫いていた。


その長いなにかを目で辿っていくとその先にエリーが立っていた。


シェイプシフターの能力で腕を槍状にし、リリアの首を一突きにしていた。


「……魔力体なの?」


「ええ」


リリアは首筋を貫いているエリーの腕を掴む。


「いつまで刺しているおつもりですか?」


ふっと、リリアの首筋に刺さっていたエリーの槍状に変化した腕は消え、腕の形が元に戻る。


魔力が宿っていない攻撃なため、リリアの首筋には怪我一つない。


「セシルさん、先程の話は面白そうですね。私もその者たちを打ち倒したと思います。天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさず。悪は滅びなくてはなりません」


「そうよね、リリアならそう言ってくれると思っていた」


リリアの首筋を擦りつつ、セシルは話している。


セシルは他人の怪我をしたと思われる位置をふれる傾向があった。


「そのね、実を言うと」


「どうしました?」


「リリアに私たちがどういう存在なのかを知ってほしかったの。本当は貴方ならすぐに私を追ってきてくれるのも分かっていたし、事前にエリーには警戒するようにお願いしたの。エリーなら無理やりにでも連れ込んでくると思ったから」


「やっぱり、そうだったの」


エリーは呆れた様子。


「私を騙したのね、セシルちゃん」


「勿論そうよ、エリーからでも信頼される仲間が欲しいもの」


「信頼か……」


腕を組み、リリアの顔や反応をエリーは眺める。


だとするのならば、エリーの返答は決まっていた。


「ごめんなさい。私にはリリアをどうしても信頼できない。私からリリアにこれ以上のことはなにも話せないし、関わりたくない」


「そんな言い方しなくてもいいでしょ!」


セシルはソファーの前にあるテーブルを叩く。


非常にセシルは感情的になっていた。


「落ち着いてください、セシルさん。私はこの場の空気を悪くしたいのではありません」


ソファーからリリアは立ち上がる。


「お二人はお話をしたかったのですよね、私は部屋を出ていきます」


それだけ言うと、リリアは部屋を後にした。


「セシルちゃんは、どう思っているの? どうして、あの子と一緒に行動しているの?」


「最初は単なる世間知らずの貴族の娘にしか思わなかったの。でもね、リリアはそういう貴族の者だったのに最初から私に優しく接してくれて、友達だとも言ってくれたの……」


「友達だからだなんて……そんなことが信頼に足る理由なの?」


「貴方には分からないわ。こういう感情は、一度なってみないと」


「………?」


「夢を見るのっていいじゃない……」


静かにうつむき、セシルはぽろぽろと涙をこぼす。


「セシルちゃん……」


久しく会えなかった間に、面倒臭い女になったなあとエリーはなんとなく思う。


「あの娘のことに関しては、もうセシルちゃんの好きにすればいい。それじゃあ、私たちの今後についての話をするよ」

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