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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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内紛終結

「ちょっと、止まるよ」


セシルが戦車を停車させた。


「おや? セシルさん、背後からなにかが来ますよ」


リリアは今まで戦車が爆走してきた道を眺めながら、セシルに呼びかける。


二人の戦車を、トラックが二台追走していた。


トラックは改造が施され、各々の荷台には急増で無理やり取りつけられた機関銃砲が備えられている。


戦車が停止したのをいいことに戦車の左右に分かれ、機関銃砲で戦車全体を狙って射撃していく。


トラックは戦車を追い抜かすと停車し、荷台の機関銃砲を撃ちまくっていた男性がロケットランチャーを取り出し、これもまたぶっ放す。


ハッチも開けっ放しなため戦車内部も滅茶苦茶になり、とっくの昔に戦車は大破していた。


通常なら搭乗員も全滅しているレベルの攻撃を受けたが、中にいるのはリリアとセシル。


二人はこれだけの攻撃を受けても掠り傷一つ受けてはいない。


「羽虫が!」


ずっとハッチから身を乗り出していたリリアが大破した戦車から飛び降りる。


完全にぶち切れたリリアは姫という前提の感情コントロールができていない。


「来い、下郎ども。血祭りにあげてやる!」


「ええ……」


ハッチから身を乗り出したセシルはリリアの素を見てしまい、少し気持ちが和んだ。


同時に、セシルは相手がどのような者たちかを視認する。


「ああ、やっぱり。値打ちのない男なんか覚えていられない体質の私でもあの連中はまだ覚えている。さっき、この戦車に乗っていた搭乗員よ」


「ほう、あの下郎どもは能力者でしたか」


リリアは全身に魔力を集中させる。


そのリリアを目にし、トラックに乗った者たちは銃火器など当てにせず、降りてきた。


各々から魔力の発生を感じた。


「リリア一人でやれそうね」


セシルはハッチから身を乗り出した状態で戦いを眺めている。


セシルの反応には興味も示さず、リリアは四人の兵士に攻撃を仕掛けた。


兵士たちは各々ナイフなどの武器を持ち、近接格闘が行える体勢、距離を取っていたが簡単に決着がつく。


誰一人として魔力をまとわずに魔力体のリリアに物理攻撃を仕掛けてくるため、戦いはワンサイドゲーム状態に。


「弱い……ですわね」


同じく近接戦闘で戦っていたリリアはあまりの弱さに、なぜ魔力を感じたのか疑問に思う。


通常、魔力流動を扱った戦いが基本となるのに。


そう思っていると文句を言いながらも兵士たちが立ち上がる。


ボコボコにしても立ち上がる不屈さ。


自国の兵士たちにないタフネスさにはリリアも流石と感じた。


「リリア、戦ってみて気づいたと思うけど」


戦いを眺めていたセシルがリリアに呼びかける。


「その人たちの正体は死人なの、倒すなら火を使わないと」


「火を?」


火を使えと言われても火に関わるものをリリアは持ち合わせていない。


「?」


セシルはなにもしないリリアを不思議に思っている。


「ああ、魔法よ」


「魔法を?」


日常の補助的役割の簡単な魔法しかリリアは扱えない。


魔力体なのにまともな戦闘魔法を知らなかった。


「もしかして」


綺麗な笑顔をセシルが見せる。


「リリア、私は色々な魔法を覚えているの。今日帰ってから私の言う通りにさえすれば色々な魔法を教えてあげるよ」


「そうですか、それは助かります」


「ひとまず、勝利の鍵は」


セシルはリリアに向かって指を振る。


リリアを中心に魔力の火柱が上がり、リリアを覆い尽くす。


リリアにはダメージがなく、炎のオーラが身体にまとわれた。


「魔力体だからこの火は痛くないでしょ?」


「凄いですわ、火をまとえるなんて」


火をまとった拳を握り、リリアは自らが一段階強くなったような気がしていた。


その姿に兵士たちは狼狽えている。


「よーし、やっつけちゃえ……」


と、セシルが話した瞬間。


何者かがセシルの後頭部を背後から蹴り飛ばす。


ハッチから身を乗り出していたセシルは戦車に叩きつけられ、さらに頭部を踏みつけられ首を圧し折られた。


「どうして、私ばっかりこんな目に……」


なにか文句を語り、セシルは気を失った。


「よし、お前らは持ち場へ戻れ」


セシルを倒した男性が他の兵士たちに命令する。


他の兵士たちは一も二もなくトラックへ乗り込み、その場を離れていった。


男性は他の兵士たちのような軍隊としての格好をしていない。


山高帽を被り、スリーピーススーツを着込む、言わば紳士風の男性。


ステッキをついているが、わざわざそれを踏みつけているセシルの頭に乗せている。


「貴方があの者たちの指導者ですね?」


「そのようだ」


リリアに対して、優しげな笑顔を見せる。


「あと、そこから退いてほしいの。足元にセシルさんがおりますので」


「ああ、なんとしたことだ」


男性は、おでこに手を当てた。


失敗したというような反応はなく、優しい笑顔のまま。


「とっさに踏みつけてしまっていたらしい。きっと、踏み甲斐のある頭だったのだろう。あとで私に代わり、彼女に謝っていてほしい」


ふわっと体重を感じさせない跳躍をし、リリアの目の前に降り立つ。


即座に男性はリリアの首筋にステッキの先を軽く押しつける。


「なにをしている、隙だらけだ」


それだけ語り、ステッキの先をリリアの首筋から退かして地面につく。


セシルの頭部を蹴り、首を簡単に圧し折った割には、リリアを攻撃する様子が見られない。


ともかく、リリアは近接戦闘の構えへ移行する。


「君が、リリアさん、だね?」


「ええ、そうです」


「あの詐欺師から話を伺っているよ。いや、今は占星術師だったかな? どうだったろうか、君の記憶に思い当たる人物はいるかな?」


「………」


男性の問いかけには一切答えず、リリアの間合いにいた男性の顔を直突きする。


顔を殴られ、男性の鼻が折れた。


折れても鼻血が出ておらず、たじろぎもしない。


「止さないか!」


ステッキでリリアの拳を軽く叩く。


「その無神経さは似ている。ただし、魔力の性質は異なり、認識にも大きく差がある……済まない、無神経さとは言葉の綾だ。実際に私はそのようなことを思ってなどいないよ。一度、私とお話してくれないかな?」


いつの間にか、男性の傍に二つの木製ロッキングチェアがあった。


そこに座って話し合いたいらしい。


「えっ?」


意味不明さから構えを降ろす。


「どうぞ、リリアさん」


片方のロッキングチェアへ手を向けた。


構えを解いたのが、了承と受け取ったと男性は思っている。


「………」


全く男性を信用していないリリアは感情が表情に出つつも、言われた通りに椅子へわずかに腰かける。


なにかあれば即座に行動できるような体勢で。


「この世界にリリアさんを呼び寄せたのは私なんだ」


椅子へ腰かけた男性は当然のようにそう口にする。


その頃には折れていたはずの鼻は元通りに治っていた。


「えっ? 今一体なんと……」


「この内紛を私が一人で起こし、内紛解決をリリアさんのギルドに依頼し、リリアさんが出てくるまでとても退屈をしていたんだ。もう私にはこの手の内紛など見るものはなにもないのだよ、いつまでも堂々巡りをしているばかりで」


「もしその話が本当なのでしたら、最初から私へ会いに来れば良かったのでは?」


「ああっ」


一瞬、リリアを指差しかけ、なにかを考えて一旦立ち止まるが、再び指差す。


「その通りだ、やるじゃないか」


「貴方は一体なんなのですか?」


「そうでした、まだ自己紹介を済ませていなかった」


すっと、椅子から男性は立ち上がる。


「私を覚えておりますかな? 貴方の僕のフリーマンですよ」


「?」


そもそも今日が初対面の人物にそう名乗られても分かるはずがなかった。


「やはり、なにも。アルテアリスか、アリエルからはなにも聞いて……」


そこまでフリーマンが話したところで、フリーマンの頭部がなにかが射貫く。


魔力を常にまとっているフリーマンを遠距離から攻撃できるとすれば、考えられる人物はただ一人。


「リリア、やったじゃん」


意気揚々とエヴァレットがスナイパーライフルを片手に走ってやってきた。


フリーマンは地面に倒れたまま、もう動きを見せない。


リリアはようやく椅子から立ち上がった。


「見つけたのはリリアでも、オレが倒したからオレのキルレートで構わないよね?」


「はあ……」


「まあ、とりあえずは」


エヴァレットはフリーマンの頭部と心臓へ再び弾丸を打ち込む。


「もしかしたら死んだふりをしているかもしれないから、しっかり撃ち込んでおかないとね。何事もやり過ぎるということはない。こういう場合の駄目押しはリリアも必ずやらないと駄目だよ」


「ええ、次からはそうします」


そう話すと、座っていた椅子が消えた。


近くの大破した戦車も。


戦車上部で気を失っていたセシルは地面に落ちた。


「あれ? あれって、セシル?」


「そういえば、そうでした。この方にセシルさんは踏まれていました」


「仲間が攻撃されても、あんまり驚かないんだね」


「私よりも強い方だったようなので」


一度、フリーマンを仕返しとばかりにリリアは踏みつける。


それからリリアはセシルを背負いに行った。


「オレは第三師団の拠点に戻るよ。この紛争、今日中に勝てそうだしな。もう帰り支度しないと」


「ええ、私たちはこれで」


リリア、エヴァレットは同時に空間転移を発動する。


リリアとセシルはギルドへ。


エヴァレットは第三師団の拠点へと空間転移した。


数分後、フリーマンの死体がある場所へとある人物が現れる。


それは、リリアを魔導剣士修練場へ導いた占い師アルテアリス。


「はい、朝だよ~」


地面にしゃがみ、フリーマンの耳元でアルテアリスはなにかを語る。


「もう彼らは帰ってしまったのか」


ゆっくりとフリーマンは起き上がり、周囲を見渡す。


フリーマンにとってはエヴァレットの攻撃など、ちょっと怪我をした程度に過ぎない。


「なにか良い情報は聞けた?」


「全く」


上機嫌にフリーマンは語る。


「あら、なんだか楽しそう。本当はなにかあったんでしょ?」


「勿論だとも。なんと、私は死んだふりをしたんだ! 死んでいるのに死んだふりをしたのはきっとこの私が初めてだろう!」


「なにそれ?」


「生きているのに生きているふりをしているのか、君は?」


「ああ、また意味の分からないことを。貴方のそういう変なところは好きだよ」


とっても時間の無駄だったなと思いつつ、アルテアリスはフリーマンとともにある場所へ空間転移する。


フリーマンが消えると正規軍のほとんどの人や物資が消え去り、戦力の均衡は著しく崩れ、その日のうちに内紛は終結に至った。

登場人物紹介


フリーマン・レッドフィールド(年令270才、身長162cm、竜賢族の男性。お節介な性格。山高帽を被り、スリーピーススーツを着込む、紳士風な外見の男性。とても高貴な身分なため、ステッキをいつも携帯している。アルテアリスとは仲が良く、その関連からリリアの索敵を行っていた。スキル・ポテンシャルはネクロマンシー。死者を操るという通常の能力と異なる点はフリーマン個人から見て、死していると見なされた人や物を弄べること。株式会社バロックの幹部でレベル17万程)

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