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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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鹵獲

荒れ果てた五階建てのビルから出たリリアとセシル。


リリアはエヴァレットがいる廃屋を指差す。


「あちらに、エヴァレットさんがいた廃屋がある。そして、この場所に同じ第三師団の者が。となると、敵は当然相対する向こう側……」


丁度その方向に、先程エヴァレットが滞在する廃屋を砲撃したと思われる戦車が一両あった。


まだ車長はこちらに気づいておらず、砲身も別の方を向いている。


「あの動く物体は凄いですね。一体どのような原理なのでしょうか?」


「あの物体は戦車と言うのよ」


セシルがリリアの方を見て、解説を始めた。


「戦車の内部には、人が乗れるスペースがあるの。でさ、あの戦車を鹵獲してみない?」


「あれを?」


「そうよ、あの戦車を鹵獲して正規軍の陣地を爆走すれば能力者は私たちに気づいて向こうからかかってくるはず。せっかく作り上げた盤面をぶち壊しにするんだから間違いないわ」


「そんな簡単に行きますかね……?」


その時、戦車の砲身が二人の方へ向いた。


「セシルさん、こちらに戦車が動いていますよ」


大きな物体が勝手に動く姿に、リリアは楽しさを感じた。


「あっ、ヤバッ!」


セシルが鬼気迫る表情で叫んだ瞬間。


途轍もない速度でなにかがリリアたちへと放たれた。


あまりの速さにリリアは防御態勢も取れなかったが……


「少し話したいことがあるの」


とても綺麗な声がする。


いつの間にか、一人の女性がリリアの前に立っていた。


すらっとした体形をした、綺麗な銀髪のしおらしい可憐な女性。


白い法衣をまとう女性からは猫のような尻尾と耳が見える。


ネコ人という種族の女性だった。


「能力値から直撃でも問題ないとは思うの。でも、今回は注意の一環として手助けをしてあげる。見覚えのない存在が現れたのなら、なにを置いてもまずは魔力をまといなさい。気づけば死んでいるなんて状況に至られては困るの」


リリアに背を向けたまま、ネコ人の女性は話す。


ネコ人の女性とリリアの周りの地面は若干抉れていたが、二人とも全く怪我をしていない。


「貴方は……?」


「ルインよ」


振り返り、優しく頬笑んだ女性の顔をリリアは見たことがあった。


R・ノールが統領の上位組織、歩合制傭兵部隊リバース構成員の一人ルインだった。


不思議とリリアはルインが現れたと同時に自然と優しい気持ちになれた。


「もしも頭を捻ってもなんともできない事態に陥ってしまったのなら傭兵稼業からは早々に足を洗いなさい。意固地を張ってでもやるべき仕事でもない上に、第一に女性が活躍できる場でもない」


「はあ……」


そういうルインも女性なので、リリアは微妙な返答。


「リリア!」


戦車がある方から、セシルの声が聞こえる。


「戦車、もらっちゃった。早く乗りましょう?」


戦車のハッチから顔を出し、手を振るセシル。


その戦車の傍には、数名の搭乗員の遺体があった。


前回の戦いでエレメンタルマスターのステンを殺害した際と同様に、全て胸を鋭利ななにかで一突きされていた。


「セシルさん、いつの間に」


ふと気づくと、ルインの姿はなかった。


ひとまず、リリアはセシルのもとへ向かう。


「セシルさん、もう戦車を鹵獲したのですね」


「ちょっと急いでいたから。リリアはさっきの攻撃を上手く避けられた?」


「ええ、ルインさんが助けてくれましたから」


「ルイン? 誰?」


「上位組織リバースの構成員の一人ですよ」


そう話した時、リリアはあることに気づく。


「セシルさんはどうやって先程のなにかを躱したのですか? それに躱した上で敵方も制圧していますね。気づきませんでしたが、私よりもとても強いのですね」


「強いというよりも、戦車がどういうものかを知っていたからこその行動力かな? リリアも戦車がどう動くかを傍から見れば、対策を思いつけるはずよ」


「それも……そうですわね」


言葉ではそう言いつつも、リリアにはとてもそうだとは思えない。


放たれた直後に避け、さらに敵を制圧し、戦車を鹵獲している。


これが現時点の自らにできるのか?


この範囲の戦いは魔導剣士修練場で武術の修行をしているレベルを大幅に超えている。


人との戦いでありながら、すでに人ならぬ動きができて当然というランクの戦いにリリアの心中は穏やかでない。


セシルにできるのなら、当然あのデミスにも。


思ったよりも自らに残されている時間は少ないのだと強く実感させられた。


「リリア?」


先程の会話から落ち込んでいるリリアに対し、心配そうにセシルがリリアに呼びかける。


「なんでもありませんわ」


あまり悟られないよう、急いでリリアも戦車上部に乗る。


「な、なんですの、これは」


開いているハッチ内から戦車内部を見た途端にリリアは驚愕する。


どうしようもなく戦車内部は狭かった。


戦車内部から漂う匂いもリリアには耐えられない。


「それじゃあ、私が運転するからリリアはどう動けばいいか指示を出して」


「えっ?」


ついさっき、戦車というものを理解したリリアに運転の補助をさせようとしていた。


ハッチから身を乗り出していたセシルは操縦席に座り、目の前のモニターを操作して動かせる状態にする。


なぜか、なにもかもをセシルは理解していた。


「えーと」


よく分からないが、セシルからの位置では周囲が見えないのだと思った。


リリアは戦車内部へと入り、ハッチから身を乗り出して外を確認する。


「そっちから見るの? 潜望鏡があるのにワイルドねえ」


覗き窓から外を見つつ、セシルは戦車を前方へ動かし始めた。


「凄いですわ、こんなに大きなものが勝手に動いています」


「私が動かしているのよ。リリア、周囲の確認と指示をお願い」


「ええと、そうですね。通りを真っ直ぐですわ」


「ありがとう、その調子でお願いね」


そのまま、問題なく戦車は進み始めた。


戦車が走り出してから少しの間。


なにも起きることなく戦車は街を進んでいた。


「リリア、なんか面白くなくない?」


「?」


特に敵を探すわけでもなく、リリアは戦車が風を切って走るのを堪能していた。


声をかけられるまで、セシルになにかしらの変化があったことに気づかない。


「ちょっと派手にやるわ」


「えっ? ええ」


戦車内を見ずに答える。


戦車内からはなにかが開く金属音がし、金属製のなにかが滑る音がした。


その間もずっと戦車は動いている。


「ファイア!」


「ん?」


セシルの絶叫が聞こえ、リリアはようやく戦車内に目線を落そうとする。


直後、戦車全体に強い衝撃が走り、反動でリリアは身を乗り出していたハッチに背中を強打する。


また、反動で仰向けに叩きつけられた。


だが、なんとか戦車から振り落とされずには済んだ。


「一体なんなのですか?」


流石のリリアもぶち切れ寸前。


イライラしつつも正面を見てみれば、確かに正面にあったはずの建物の一部が瓦解し、白煙が上がっている。


「あっははは! 見た見た、リリア?」


リリアと異なり、戦車内のセシルは上機嫌。


「この戦車内にある弾頭を撃ち尽くす! リリア、どこかに掴まって!」


「どこか? どこかと言われましても……」


仕方なくハッチを両手で掴む。


その時、戦車内をリリアは見る。


すーっと、白っぽい長いものが戸棚のようなものを開き、なにか長い筒型のものを取り出すと円形の枠に入れている。


今の一連の動きがなんなのか、リリアには分からなかったが、直後セシルの声が響く。


「ファイア!」


強い衝撃が戦車全体に走る。


今度の衝撃でリリアは全く微動だにしない。


次に来る衝撃を知っていたので、なにも問題なく魔力を両手に集中させ衝撃を緩衝させていた。


リリアには戦車内でなにがあったのか知る由もないが、たった一人でセシルは装填手・操縦手・砲手の役割を果たしている。


シェイプシフターとしての能力を駆使し、腕を長く変化させることにより、一人で様々な役割を行えていた。


その後も弾頭を撃ち続ける走行を続け、ついに弾頭は尽きる。


敵方の陣地とされる場は滅茶苦茶になりつつあった。

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