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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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新世界へ

「あー、これで面子は全員揃ったな?」


アーティたちが帰ってきたため、ギルドのメンバーが全員揃った。


それを確認し、テリーはヴェイグを連れ出す。


「このヴェイグという男が別の世界から来たと話していた。これは多方面に仕事の幅を広げられるかもしれない。そういうことで、ヴェイグの話を皆にも聞いてほしいんだ」


テリーはヴェイグに合図を送る。


「オレはエリアースと呼ばれる世界の出身者だ。つまりスロートがある世界とは別の世界から来たんだ」


「私もルーメイアという世界から来たわよ。前に話したから皆も知っていると思うけどね」


他の世界の話に興味が湧いたのか、綾香が反応する。


暇そうに金髪のウェーブがかった髪を親指と人差し指で触りながら。


「綾香さんも異世界出身者なのか? どうしてそのことをもっと早く言わなかったんだよ」


「以前、自己紹介した時に話したじゃない」


「そういうのは、しっかり説明してくれないと……」


「こういう風なこともできるようになるわ」


綾香はバッグを持つ仕草を取る。


仕草をしたのも束の間、いつの間にか綾香はバッグを持っていた。


「この能力を空間転移というの。あとはヴェイグ君から話を聞きましょう」


全員の目が集まり、綾香は上機嫌になったが説明をしたくないので、ヴェイグに話を振る。


「あ、ああ……」


ヴェイグは綾香の空間転移を目にし、驚きを示していた。


ヴェイグ自身も扱えるはずなのに。


ひとまず、空間転移や異世界についてを説明した。


「異世界に行ける能力か、なんだ面白そうじゃないか!」


普通に面白そうだと考えたアーティも直ぐ様この話に食いつく。


新たな冒険の扉が開かれた気がしたアーティは意気揚々としている。


「テリー、リュウ。次の旅の目的地は異世界だぜ、最高じゃないか。なあ、お前らもそうだろう?」


「当然よ」


話を持ってきていたテリーはオレのおかげだとでも言いたげ。


「言われなくともオレはお前らについていくよ。いつも三人でそうやって来ていたじゃないか」


腕を組み、リュウはどこか楽しそうにしている。


「そこでお前らに言いたいことがある」


アーティはテリー、リュウ以外の者たちに呼びかける。


「実を言うと、このギルドを畳もうとしていたんだ。平和なスロートにギルドも傭兵も必要ないからな。ただ、ギルド稼業は今後も続ける。次の仕事場は異世界だ、どうだ面白そうだろう? またこの世界に帰って来れるかはオレにも分からないが、異世界を目指したい奴はオレと一緒についてこい」


「ええ……異世界に?」


どのようなリアクションを取っていいのか分からず、ノールは反応に困っている。


せっかくこのギルドに加入されたのにもかかわらず、もう離脱しなきゃならないのかと。


次の瞬間に脳裏を掠めたのは自らの立場。


家が焼失し、給仕の仕事も辞めていて、お金も全くない。


弟妹以外に他に身寄りもなく、これから先を考えるだけで頭が痛くなってきた。


「杏里くん、どうする?」


近くにいた杏里に話しかける。


「ボクはアーティさんについていくよ。ノールちゃんも行こうよ」


「うーん……それでもいいかな」


仕方なさそうにノールは納得している。


「そ、それ本当に言っているの?」


ミールは姉があっさりと受け入れたのが驚き。


「ミール、ボクを守ってくれるよね?」


「う、うん……でも、エールは?」


「あの子が帰ってこないのは、きっと良い生活を送れているからだよ。まずはボクたちの生活をなんとかしなくちゃ」


「生活を?」


ミールは自宅が焼失した事実を伝えられていない。


どのような場所かも分からない異世界へ行くのは嫌だったが、姉が心底大好きなミールはノールに逆らえなかった。


「ルウ、どうする? オレは行こうと思うけど」


ライルはそれ程の迷いもなく簡単に決める。


「でも、もうこの世界に戻ってこれないとか……僕らのロイゼン魔法国家へもう戻れないのは……」


不安でルウは若干泣きそう。


物凄い勢いで物事が決められていく流れに怖さを感じていた。


「ルウ、落ち着けって」


落ち着かせるようにルウの耳元でささやく。


「綾香さんとあの二人を見れば分かるだろ、異世界からこの世界へ来ているじゃないか。どう考えても戻ってこられるじゃん」


「そ、そっかあ」


悩んで損をしたという雰囲気を出そうとしたがやはり不安な気持ちがルウにはあった。


他の者たちが異世界へ行こうとする反応を見せる中、唯一クロノのみが拒否反応を示す。


「さっきからなにを言っているんだ、皆。異世界に行っている間、スロートはどうするつもりなんだ? オレは異世界になんて行かないぞ」


「クロノ、もしかして異世界に行くのが恐いのか?」


てっきり全員が異世界へ行くと思っていたアーティが不思議そうに語る。


「当然、違う。オレはな、これでもスロートの議長なんだ。この国を勝手に出ていくなんてありえない。良い機会だから言うけどな、この国にも新たに軍隊を作ることにした。今までの寄せ集め集団じゃなくてな。それでお前らは隊長格として戦っていた連中だ、できれば全員に軍隊へ入ってもらいたいんだ」


「いくら大金を積まれても今回は無理だ。異世界へ行けという強い流れが、オレの背中を押し続けているんだ」


クロノの話を聞いていたアーティは速答する。


「皆も同じ気持ちなのか?」


他の者たちにもクロノは聞く。


それで自分以外の全員が異世界へ行くのだと分かり、クロノは落胆した。


「全くお前らときたら……いいか、国ってのは戦いだけで成り立つものじゃないんだぞ。国政を担い、運営をして領民たちから支持をされるようになって初めて成り立つものだ。ここからが面白いんじゃないか」


色々と語って思い出したが、この中で元々スロート領民なのはノールとミール、そして自分だけだと気付く。


国のためになどと語っても止められるわけがないと、ようやくクロノも思い当たった。


「クロノさん、いつまでお店にいるの? 遅いから迎えに来たよ」


そこへ城から迎えに来たジーニアスがカウンターから店内を覗き込む。


ギルド所属ではないジーニアスは城で正規兵として働いていた。


「ん? お前、強そうだな。異世界に興味ないか?」


「あっ、おい、ちょっと待て」


当然のようにスカウトし出したアーティをクロノは止める。


しかし、ジーニアスもまたこのスロート出身者ではない。


同じく興味を示し、異世界へ向かうことになった。


結局、異世界へ行く人物は魔導剣士のアーティ、テリー、リュウと、ノールとミールの姉弟、トンファー使いの春川杏里、異世界出身者で銃使いの橘綾香、水人ライルと炎人ルウの魔力体兄弟、エルフ族のジーニアスの十人となった。


異世界へ行く理由は全員バラバラだった。


アーティ、テリー、リュウの三人は自らを更なる高みへと望める旅がしたくて。


ノールは単なる生活苦から、ミールは姉に逆らえず。


杏里は己が正義を弱き者たちのために使いたくて。


綾香は、ちょっと近場に思い出作りの観光でもというスナック感覚で。


ライルとルウは自らが仕える王に恩返しがしたくて。


ジーニアスはエルフ族がいかに優秀な種族なのかを広めたくて。


それでなんとか異世界に行く目途は立った。


そして、ヴェイグが空間転移を詠唱し、新たな世界エリアースへと向かった。





一瞬に近い高速移動の感覚を実感した時、視界が開けた。


そこは、ついさっきまでいたスロートの街並みとは全く異なる風景の場所。


現在、アーティたちがいる場所は丘の高台にある公園であり、遠くに大きな建造物が立ち並ぶのが見える。


「なにあれ、塔の一種? いっぱいあるよ?」


初めて見るものを指差しながら、ノールは興味津々な様子。


同じように綾香以外の者たちも似たような反応をしている。


「塔じゃない、あれはオフィスビルという建造物だ。あの中に入って、人は日夜仕事をしている。ノールたちの世界とは異なり、ここは複数ある世界の中でも最も近代的な部類の世界だから、あのような建物も機械という物を使い、わずか数年で建造できるんだ」


ノールの問いかけにヴェイグが建物の方を眺める。


「あと、機械という物はとても便利な物だから、ノールたちも使ってみるといい」


「そうなんだ。それはどこにあるの?」


「あのオフィスビル群のある方に向かって行けば、多くの販売店があるからそこで見てみるといいよ」


「色々知っているんだね、ヴェイグは。でも、どうしてボクに色々教えてくれるの?」


ヴェイグが気軽に説明してくれることが気になり、なんとなく尋ねる。


「テリーと色々あってな。それはともかくビルがある方角とは別の方角に異世界に行く能力を覚えられる場所がある。そこへ行こう」


オフィスビル群が立ち並ぶ街とは逆方向の郊外へと向かってヴェイグが歩き始めた。


高台の公園を出て、道幅一杯をアスファルトという黒い物で舗装された長い道を歩いていく。


「これはどこへ向かっているんだ?」


疑問に思ったアーティがヴェイグに尋ねる。


「この先にあるのは、ハンター養成所だ。そこで二年間修業を積んだ者が、ハンターの証と強力な力を手にできる」


「つまりは、その強力な力の一つが異世界へ行ける空間転移なんだな?」


「ああ、そうだ。ちなみにハンター養成所は男性のみが入会可能だ。それでジャスティンは男装して入会している」


「あれ? あいつ、女の子だったの? それだと入会できない奴が出てくるな」


それを聞いてアーティは女性陣へ呼びかける。


「テリー、綾香さん、ノール。この先にある空間転移を覚えられる場所は女人禁制らしい。三人はどうする?」


「ということは男装しなきゃならないのか……」


どうしようかと考えたノールは同じく女性のテリーと綾香に視線を送る。


「仕方ないから私たちも男装しましょうか。男装するなんて私、初めて」


少しだけ楽しそうに綾香は語る。


綾香は空間転移を習得しており、入会する必要がない。


「胸にさらしを巻いておけば問題ないんじゃないの?」


普段から男装していたテリーは特に問題なさそうな様子。


男の子だと思われているからか、普通にスルーされているジーニアスだが、こちらも問題がない様子。


「不便だろうが少しの間の辛抱だ。どうせ、ここには空間転移を覚えられるまでのわずかな期間しかいない予定だ」


一応、アーティは女性陣のためにあえて滞在する期間を伝えた。


「アーティたちはハンターにならないのか?」


ヴェイグは驚いている。


「当たり前だろ、オレたちはハンターになりたいんじゃない。空間転移を覚えたいんだ」


「そうなのか……」


アーティの返答にヴェイグはなにかしら思うところがあった様子。


ひとまず、ハンター養成所へ向かう途中にあった店でノール、綾香は男装の準備を終える。


他の者たちも格好がこの世界に合うようにと気に入った服を購入していった。


「なんとなく思ったんだが」


アーティがヴェイグに声をかける。


「スロートでの金がそのまま扱えるんだな。ここは異世界なんだろう?」


「ああ、ここはスロートのある世界ではない。この世界はエリアースという世界で全くの別世界だ。オレもこれには最初不思議に思えたが、空間転移を扱える能力者たちが総世界中に呼びかけ、長い年月をかけて変えていったんじゃないかと考えているんだ」


「なんだ、その総世界って?」


「この世界、エリアース以外にも世界は沢山ある。その総称を総世界と呼ぶんだ。アーティたちもいずれは分かるさ」


それから再びヴェイグを先頭にハンター養成所へ向かって歩き出す。


数十分かけて歩き通すと、大きな城が見えてきた。

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