知り合い
一度、ギルドへと戻ったリリア、セシルは自室前の廊下に現れた。
その時丁度、フロア内のとある一室の扉が開き、一人の女性が出てきた。
身長は大体160cm程。
女性剣士らしい軽装の胸当てなどの鎧を服の上にまとっている。
金色のさらさらとした綺麗な髪を、動きやすいようにポニーテールにしていた。
可愛らしい女性ではあるが、様々なものを潜り抜けてきたのか、風格を感じる。
「あっ」
廊下に出てきた女性の顔を見て、セシルが一言だけ発する。
「?」
女性は不思議そうにセシルの方を見つめる。
「ああ!」
それも束の間。
セシルを指差し、女性は歓声を上げる。
女性は笑顔で駆け出して、セシルに抱きついた。
「リオン、ずっと探していたのよ! 会いたかった!」
「セシルちゃんです!」
「えっ?」
驚いた表情をした後、少しだけ離れてセシルの顔を見つめる。
女性の顔が若干引きつっていた。
「リオン?」
「見て分からないの! リオンじゃないよ!」
怒りだしたセシルは両胸を両手で持ち上げ、強調している。
「ああ、なんだ、セシルちゃんだったか。ていうか、なにそれ? 私に喧嘩でも売っているの」
強調している胸を女性は鷲掴みにする。
「セシルさん、その方がエリーさんですか?」
「そうなの、私の姉。まさか、こんなところで会えるとは思ってもみなかった」
今の一言を語った時、エリーはとても優しそうな表情をした。
「ねえ、セシルちゃん。この子は誰なの?」
「私のことですか? 私はエアルドフ王国ミラディ城の城主リリアと申します」
別に胸を張って語ったわけでもなく、普通に話している。
もうすでにリリアの中では事実なので、自慢げに語るまでもない。
「城主なのにどうしてこんなところで仕事をしているの?」
もっともなことをエリーは口にする。
「私にはあの国のためにしなくてはならない重要な使命があります。国や城のことなら問題ありません。今は代行の者が治めております」
「使命ねえ、よく分からないけど貴方の国に行ってみたいな」
「ええ、ぜひ」
「そろそろ私も自己紹介を。私は、リオン、セシルちゃんの姉のエリー。女性剣士として日々生活しているの」
すっと、手を差し出す。
リリアもそれに応え、二人は数秒程の握手をした。
「さっき、エヴァレットから電話があって、新人二人に服装について教えてと言われたの。それが貴方たちだったのね」
「そうなの、その新人が私たち」
セシルが答えた。
「戦場へ着ていく服を変えてほしいみたいなことを言われたの。なんか良い服があったらちょうだい」
「服を?」
エリーは腕を組み、考え出す。
「貴方たちが今、着ている服でなにか問題があるの?」
「さあ?」
正直なところ、リリアもセシルも気にしてはいない。
「多分だけど、ここの人たちはどこぞの国の元兵士みたいだから変に格好を重視しているんじゃないのかな? つまんない発想がいかにも男らしい感じ。とりあえず、戦場なら迷彩服でも着たら? 私が以前買っていたものもあるから、私の部屋に来なよ」
促され、二人はエリーの自室へ向かう。
「さあ、入って」
エリーの部屋に入ると、すぐに気づくことがあった。
やけに乙女チックな部屋で、室内のものは白かピンクの色で統一されている。
どこかお姫様風で、エリーの趣味が分かりやすく反映されていた。
「綺麗な部屋ですね、家具の質も良いです」
別に含みがあるわけでもなく、リリアは普通に語る。
「やっぱり? 分かる人には分かるのよね」
エリーは嬉しそうにしていた。
実際に姫であるリリアは良いものに目が利く。
悪く言うことはなく、その良さだけを語った。
「………」
それとは真逆で、セシルは苦笑いを表情に浮かべている。
こういった趣味は勘弁してもらいたいらしい。
どうでもいい赤の他人ならば、二度と会わないから適当な心にもない言葉で褒めてやれるが。
身内で大事な存在だからこそ、感情がストレートに漏れていた。
「なんなの、リオン。なにか言いたげじゃないの」
「はいはい、セシルちゃんセシルちゃん」
面倒臭そうにセシルは訂正だけをした。
「じゃあ、ちょっとここに座っていて」
淡いピンク色のソファーに二人を座らせる。
そして、エリーはクローゼットを開き、中から一つの段ボール箱を持ってきた。
「はい、これ。この中に色々入っているから適当に持ってっちゃって」
「どんなのが入っているのかな~?」
セシルが中をごそごそと確認する。
ついさっき戦場で会ったエヴァレットが着用していた迷彩服と同じような服が色々と入っていた。
「これ要らない」
手に取り、どのようなものかを眺めていたセシルは箱に戻す。
「やっぱり要らない? 私も要らないの、これ。別に今着ている服でもいいんじゃない? セシルちゃんの冒険者風の服装で問題ないと思う。リリアちゃんは……ドレス姿は変えた方がいいっか」
「私はその衣装を着ます。どのようなものかも気になりますし」
「えっ? 迷彩服を着るの? リリアが着るのなら私も着てみようかな……」
それから二人は、エリーのお下がりの迷彩服を着用していく。
リリアは一般的な兵士の服装。
迷彩柄のカーゴパンツを穿き、ブラウン色のTシャツにジャケットを羽織る形。
エリーのお下がりのジャケットでは胸がきつく、前を閉められない。
「リリア、似合うよ」
褒めるエリーの笑顔はどこか怖い。
自分よりも胸が大きくて、しっかり着られないという理由が気にくわない様子。
「私はどうかな?」
セシルも迷彩服を着終える。
問題はセシルの迷彩服は軍隊仕様ではないこと。
身体のラインがはっきり分かるようなジャケット、パンツのセクシーな迷彩服で、普通にコスプレ衣装。
両手を腰につけ、モデルばりに格好つけている。
「似合っていると思うよ」
要らないものを処分できて、エリーは気分がいい。
箱には、迷彩服以外の装備が入っていなかった。
銃もスコープもヘルメットなども、この三人には必要がない。
「衣装をありがとうございます、エリーさん」
「いいのいいの。それはともかく……」
エリーはセシルを見る。
「今は忙しそうだから、セシルちゃん。帰ってきたら貴方と色々とお話がしたいな。貴方と離れ離れになっている間、沢山のことがあったから」
「それ、私も聞きたい。でも、とりあえずは帰って来てからにしましょう」
再び、エヴァレットに会うため、セシルは空間転移を発動した。
エヴァレットを対象にした空間転移により、リリア、セシルは先程と同じ地下室へ現れた。
エヴァレットは地下室で銃の手入れをしている。
「戻って来たな」
「まだ地下室にいたんだ?」
セシルがなんとなく聞く。
「必ずオレを空間転移の対象にすると思っていたからな。オレが外にいたり、他の誰かと談笑している際に来られても面倒だし」
「例の能力者は現れた?」
「さあな? 今は気長に待とうぜ」
「やっぱり、私たちは外に出て探しに行きましょう」
セシルはリリアにそう話す。
あまり動きたくないが、じっとしている方が嫌い。
「ええ」
そもそもリリア自身も、外で戦いたかったので受け入れる。
「もし外に出るのなら、二人はオレたちの部隊に所属していることにしてくれ。オレたちの部隊は、第三師団というから」
「第三師団? そう語ればいいのですね?」
「それとあと、相手がかかってきたけど所属が分からなかった場合は所属と階級を言えと聞くようにすれば、大抵の人はしゃべってくれる。もしも、味方だったらお互いごめんなさいしてね」
「そのようなやり取りでいいのでしょうか?」
「命の取り合いをしているのは向こうも百も承知でしょ。それで文句を言うのなら終わっている、頭が。端金で人殺しのお使いしている連中がそれ以上を無駄に考える必要なし。ただし、オレたちはそんなのが目的じゃないから、ちゃんとここを使わないと」
若干、ぼーっとした様子でエヴァレットは自らの頭を指差す。
なにも考えていないように見えた。
「頭を使うのは苦手ですわ」
話を終えたリリア、セシルは地下室の階段を上がり、荒廃した家を出る。
外へ出たが、外も似たようなもの。
街は荒れ果て、様々な建物が瓦解し、ぼろぼろになった建物ばかり。
この場が戦場なのだと一目見て分かる様相。
街は人の気配がなく静かで、たまに乾いた炸裂音が軽く聞こえる。
「えーと、まずはあちらへ行きましょうか?」
先程の炸裂音が聞こえた方をリリアは指差す。
「あっちには人がいるかしら? そもそも向こうにいるのは味方? 敵?」
「分かりませんわ。出会ったら、所属と階級を聞きましょう」
音がした方へ二人は、すたすたと歩いていく。
それから再び、数分も経たぬうちに遠くから炸裂音が響く。
「なんなのですか、うるさいですね」
自らの首筋に当たる前にリリアは軽く握る形で右手で受け止め、銃弾を地面に捨てる。
「この通りをそのまま歩くよりも路地から行ってみる?」
「それではなにか負けたような気がします、私の気が済みません。同じく私を狙うようならば、次はあの塊を返却しましょう」
直後、乾いた炸裂音が聞こえる。
ほぼ同時にリリアは頭部に当たる直前に銃弾を親指、人差し指の二本で挟み込む形で受け止めた。
「ふんふん」
どこか楽しげにリリアは銃弾の持ち方を変え、手のひらに握り込む。
「あの下郎に目にものを見せてやりましょう」
リリアは全身をフルに使った投球動作で、銃弾を投擲する。
狙い澄ました銃弾は数百メートル離れた狙撃手へと向かって一直線に飛んでいく。
それだけ離れていてもリリアの目には狙撃手がしっかりと見えていた。
狙撃手らしき者に命中し、倒れたのも。
「どうですか、セシルさんも見ましたか? 今のは近代技術の武術書に記された遠投と呼ばれる行為です。私の手にかかれば、遠投など造作もないことなのです」
「えっ? なにかを投げる動作をしただけじゃないの?」
リリアが銃弾を指二本で受け止めたのも、銃を扱って初めて到達できる距離をいともたやすく投擲だけで到達させたのもセシルには分からなかった。
「この私に銃弾を放ってきましたので、受け止めて返してあげました」
「もしかして、狙撃手に当てたの? 凄いね……というか、向こうは味方だったりして。どちらかというとそっちの方が面白いけど」
リリアが銃弾を掴んだ方の手にふれ、ダメージがあるかどうかをセシルは確認している。
リリアは特に気にせず、さっさと狙撃手がいる建物へ向かう。
登場人物紹介
エリー(年令不明、身長162cm、B82W56H83、シェイプシフターの女性、出身はフェザー王国。白とピンク色の可愛らしい商品が好き。シェイプシフターであり、自らの身体つきを自由自在に変えられる。セシルとは実際の血の繋がった姉妹ではない)