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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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スキンシップ

「ねえ、リリア。これどうしようか?」


二つの小箱を大事そうに抱え、セシルは聞く。


リリアに返そうとする素振りを見せない。


「お金の管理は、セシルさんに一任します」


「ええっ、いいの?」


「その方が確実だと思いますので」


「だったら、お金頑張って管理していくね」


大事そうに抱え、自らの色々なものが入ったリュックに小箱をしまう。


それを見ながら、リリアは自らのベッドに腰かけた。


「セシルさん。ステンさんと戦った時、どのような戦い方をしたのですか?」


「聞きたいの、リリア?」


リリアの隣に腰かける。


腰かけた後、リリアの両肩を掴み、ベッドにゆっくりと押し倒した。


「私は、リリアを心から信頼しているの。今日この場でリリアになにをされても平気なくらいにね。だから、リリアにだけは私の秘密を話してあげる」


押し倒されたリリアと押し倒したセシルの距離はセシルの髪がリリアの顔にふれるくらいに近い。


近いと言ってもリリアにはセシルが抱くような感情は皆無なため、能力解明に意識が向いている。


「私ね、シェイプシフターなの。その、シェイプシフターでも私は元々こういう人型で原型が意味不明な妖怪や怪物とかではなくて、つまりは人よ」


「なんなのですの、それは?」


「自由に姿形や造形を変えられる能力みたいなものよ」


セシルがリリアに当たらないように手を掲げる。


セシルの手は形が変化して、槍状になっていく。


「なるほど、そのように変化ができるのですね。私の能力に近いものを感じます」


身体の変化は、魔力体のリリアにもできる。


通常なら驚くべき能力でも、リリアにすれば身近なもの程度に感じた。


「そういえば、そうね」


正体を知らせても全く怖がらず、自らの見る目も全く変わらない。


セシルはリリアのことをより好きになれた。


「よし、気分が高まってきたから今日はもうお風呂に入りましょう。リリアの身体を洗ってあげるね」


そう語りながら、セシルは手を元の形に戻していく。


「できれば、私は一人で入りたいのですが」


「たとえ一人で先に入ったとしても、すぐに私が入るから結局同じよ?」


そうして、いつも通り二人で浴室へ入っていった。


ともに湯船に入っている時にリリアは気づけたが、セシルはショッピングに出かけてから今に至るまでずっとにこにこしていた。


ずっと楽しそうにできるのは難しいこと。


それだけで、リリアは自らとともにいるのをセシルが好きなんだと気づけた。


リリアも友達とはこういうものなのだと思い、悪い気はしなかった。


「ねえ、リリア」


入浴後、セシルはドライヤーで髪を乾かしながら尋ねる。


まだ、セシルは下着も穿いていない。


「どうしましたか?」


リリアはもうシルクのパジャマを着ていた。


「リリアって、身体がとても暖かいの」


「そうなのですか?」


リリアはなんとなく答える。


魔力体であるリリアは体温を認識できない。


自らの体温だけではなく、温度自体を。


いつも抱きついて一緒に寝ているセシルだからこそ、人よりも暖かいと気づけた。


「ちょっと、試したいことがあるの。今日だけは私の言う通りにしてほしいな」


「構いませんが?」


若干、リリアの心に隙ができていた。


「それじゃあ」


髪を乾かし終えたセシルが、リリアに近づく。


そっと、パジャマのボタンに手を伸ばして、一つ一つ外していく。


「また湯浴みをするおつもりですか? 私は遠慮したいのですが」


「今日は服を着ないまま、私と一緒に寝てほしいの」


「意味が分かりません」


普通に拒否反応を示しているが、パジャマを脱がされ、パジャマのズボンを下げられた。


「リリア、足を上げてよ」


「ええ」


言われた通りに足を上げて、パジャマを退かしてもらう。


「人はね、寒いと風邪を引いちゃうの」


「?」


「でも、リリアを抱き締めていれば私は裸のままでも風邪を引かないと思うのよ」


「それが試してみたいことですか? そもそも寝る時はいつも抱きついているじゃないですか」


「そうなの」


「セシルさんが服を脱げばいいだけであって、なにも私が服を脱ぐ必要はないのではありませんか?」


「それだと肌が直にふれていないから、どうなるのか分からなくなっちゃうじゃない」


「……仕方がありませんね」


不満があったが、ただ脱ぐだけだったおかげでリリアは断らなかった。





早朝の五時頃。


いつも通りの時間帯に、リリアは目を開く。


仰向けの状態でリリアは毛布に包まっている。


「セシルさん」


目を開くと同時に、セシルの名を呼んだ。


「ん?」


毛布の中から、セシルの声がした。


ふと、リリアを覆う毛布が動き出す。


リリアの両胸に顔を埋める形で毛布から出てきた。


「リリアって、五時にならないとなんの反応もしてくれないのね」


とても意外そうな口振りでセシルは語る。


今日はリリアが目を開く前辺りから起きていたセシルはリリアにちょっかいを出していた。


「そうですか」


いちいちの反応もなく、リリアはスルーしている。


早いところ、リリアは起き上がりたい。


「リリアは私とのスキンシップが嫌い?」


「時間通りに行動したいですね」


「少しくらい良いじゃないの。それよりも私に興味を持ってほしいな、なんて」


「興味を?」


リリアは不思議そうな表情をしている。


たった今、興味を持っているからこそ、互いに話をしているのだから。


「えっ」


セシルは少しだけ驚いた声を出した。


時期尚早だった?


なんとなくそう考えたセシルはベッドから這い出し、着衣をまとっていく。


セシルの行動はリリアの意思を尊重しているつもり。


やはり、距離感を見失っていると判断してセシルは切り上げていた。


セシルの中では、リリアとの関係が一段階も二段階も進展している。


セシルが退いたことでリリアもベッドから出て、普段通りドレスをまとう。


「セシルさん、体調はどうですか?」


「やっぱり、リリアは炎人なのね。とても暖かかったから、裸だったのに全然風邪も引いていないし、体調も悪くないの。今回は私のわがままを聞いてくれてありがとう、リリア」


「構いませんよ。ただ、私には温度というものが分からないのでなんとも言い難いのですが」


「温度というのは暖かい、冷たいという……そういうのがそもそも分からないのね。どう教えていいのかが私にも分からないわ」


とりあえず、二人は朝の支度をしていく。


その後、買ってきていた菓子パンを食べ、朝食を済ます。


「セシルさん、次の仕事はどうしますか?」


ソファーに腰かけているリリアは、隣り合って座っているセシルに聞く。


「もう次の仕事をしちゃうの? 昨日、仕事を終えたばかりじゃないの。そもそも昨日もらった依頼金を全く使っていないのよ?」


急にセシルは力説し出す。


「美味しいランチを食べたり、エステに行ったり、ブランド物を買ったり、観光地に行ったり、良い男を侍らせたり、まだまだ言い足りないけど仕事よりも人生を楽しむ上でしなければならない物事が山積みじゃないの。そんな状況でも仕事を優先するの、リリアは?」


「善は急げとも言いますから、今日の午後もしくは明日の午前からでしょうか? 私もそう思います」


「なに、私もって。肝心の私個人の意見が入っていないじゃん。私と仕事のどっちが大事なの?」


「今日は鍛錬に時間を使いましょうか」


セシルをスルーし、リリアはソファーから立ち上がる。


その近くで姿勢を正して両手を合わせると精神統一を始めた。


「リリア? リリアったら、もう」


リリアの前に立ち、セシルはリリアの鼻を親指と人差し指で挟む。


こうすれば、精神統一を崩せるのは知っていた。


「あの」


すっと手を伸ばし、セシルの手を鼻から退かせる。


「言い出したら絶対に引かないもんね。もし、仕事を引き受けるのなら昨日みたいな本当に生き死にのかかったものじゃなくて比較的簡単なものをお願いね」


「分かっていますよ。弱きを助け、強きを挫く。それがどのような物事よりも大事なのです。私は今以上に強くなります、いえ強くならねばならないのです。私には時間の余裕がありません」


「なにそれ?」


「セシルさんには話していませんでしたか? 私はあと四年程度しか生きられないのです」


「ど、どうして?」


見るからにセシルは動揺している。


「私はエアルドフ王国の御印となったのです。御印となれる期間は約四年。つまりは私の寿命があと残すところ約四年だということ。この間に私はデミスと呼ばれる男を打ち倒さなくては、実際に約四年しか生きられません」


「デミス? 人なのそれ? それって、スクイードたちに頼めばいいんじゃないの? そいつを倒せば、リリアはこれからも生き続けられるんでしょう?」


「そうですね、確かに私も一度はそう思いました。他の者に頼めば、今年中にでもデミスは打ち倒されると思います。ですが、それでは駄目なのです。御印としての地位を投げ出しただけとなり、エアルドフ王国が私のものではなくなってしまいます。ともすれば、私はエアルドフ王国を去り……それだけは許せません」


「もしそうなっても私がもらってあげるからさ、この際地位なんてどうでもいいでしょ?」


「非常に重要です。そういう星の下に生まれ落ちた者の務めですから、私は万人を導かなければなりません。今の私では勝機はありませんが、いずれデミスに勝利します。勝利さえすれば王国の負の遺産を取り除いた栄誉から、レトを差し置き、この私が女王として君臨できるのです。なので、私は日常を戦いの場にしたいのです。いいですね、セシルさん?」

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