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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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戦い方

「行きますよ、トゥーリさん」


「そうね」


トゥーリは手を頭の上まで振ってから、自らの髪をふれる。


すっと、リリアは構えに移行する。


と、同時にリリアは顔面に強い衝撃を受けた。


「?」


痛みを感じないリリアは目を閉じることもなかった。


だが視界が失われ、失明かそれに近いダメージを受けていた。


つい先程、トゥーリが取った一連の行動はなにかを上空に投擲(とうてき)したのを隠していたようだった。


「まあ、それはそれで」


特に問題なく、リリアは受けたダメージを炎人化して即時回復させる。


「てい!」


視界を奪った隙に接近し、トゥーリはリリアのみぞおち付近へ掌底打ちを放つ。


魔力流動がかかり、痛みを感じないはずのリリアも腹部を両手で押さえ、崩れ落ちる。


「な、なにが……」


そう思ったが危機的状況にいると察知。


トゥーリから距離を取った。


「少しは戦い方が分かった?」


楽しそうにトゥーリは頬笑む。


「攻撃のパターンに違いがあるのが、実際に痛みを通してリリアにも分かったはず。さっき投石した時は痛くなかったよね? それには魔力を込めていないから。でも、私は魔力流動を駆使して殴った。だからこそ、リリアは初めて痛みを感じたはず」


「……今のが痛みなのですね、泣きそうになりました」


顔色の優れないリリアは腹部を押さえるのを止め、再び構えに移行する。


「私のエアルドフ王国ミラディ城で私と組み手や試合を行った兵士の者たちが情けなく無様な醜態を晒していたのは、これが原因だったのですね。痛くて苦しくて、それを平気で行う私が怖かったのですね、初めて知りました」


さも当然といった口振りでミラディ城やエアルドフ王国を自らのもののように語る。


「なんという……ことでしょうか。これでは私に民を思う力がないと事実誤認されてしまう」


「リリアは一体どういうところで暮らしていたの?」


「エアルドフ王国という国のミラディ城です。見ての通り、私は王女なのです」


「そのドレス姿は趣味なのかと思っていたら、いつも通りの普段着なんだ。羨ましいなあ」


話している間に、トゥーリは両手に魔力を集中させている。


事前にトゥーリが魔力流動を話していたので、この動作に敏感になっていたからこそ気づけたこと。


先程の投石の仕方だったり、なにもしていないように見えて必殺の一撃を繰り出そうとしていたりと、そういう戦い方があるのだとリリアは感心していた。


「では、私も……」


見よう見まねで自らも両手に魔力を集中させる。


ここで初めてリリアは驚く程の速度で自らの魔力が消費されていくのを実感した。


この状況で行動し、平気で戦えるのが不思議で仕方がない。


「行くよ、リリア!」


かけ声を上げ、トゥーリは一気に突っ込んでくる。


リリアは咄嗟に構えていた拳を振るった。


出遅れたはずのリリアの拳はなにも問題なくトゥーリに当たる。


拳は芯を捉え、威力は絶大。


全く受け身を取れずにトゥーリは地面に打ち倒された。


「トゥーリさん!」


当たったことをリリアが一番驚いていた。


すぐさま、リリアはトゥーリのもとへ駆け寄る。


トゥーリはリリアの呼びかけに答えず、仰向けの状態で空を見ていた。


そっと瞳を閉じ、トゥーリは静かに息を引き取った。


「トゥーリさん……?」


呆然と、横たわるトゥーリを見つめる。


これ程簡単に人が死ぬとは思っていなかった。


「リリア」


リリアを呼ぶ声がした。


「スクイードさん」


スクイードがリリアの近くにいつの間にかいた。


なぜか、スクイードは甲冑をまとっておらず、傷だらけの姿。


「ついに殺っちまったな」


「否定はしません、私がこの手でトゥーリさんを殺害しました」


「………」


リリアの表情をスクイードは見ている。


「強くなったな、リリア。顔つきが良くなった」


「そうですね」


「実を言うと、勝てないと思っていた。リリアもセシルも。さあ、セシルを探しに行こう」


「トゥーリさんは……どうしますか?」


「背負ってくれ、オレもクルスを背負っているから」


よく見れば、確かにクルスをスクイードは背負っていた。


クルスもまた息絶えている。


「分かりましたわ」


リリアもトゥーリを背負おうとする。


背負う際に気づいたが、両手よりも足に魔力が集中していた。


「もしかして、トゥーリさん……」


「リリアが魔力流動を覚えてくれたから、一撃で死ねる威力になったんじゃないかな? レベル差のある状況化ではラッキーパンチなんて起こり得ないから」


静かにリリアはトゥーリを背負う。


「リリア、間違っても悪い行いをしたなんて思うなよ。自信を持って胸を張るんだ、善い行いをしたと」


「ええ、そうしますわ」


「なら、いいんだ」


二人はセシルを探しに向かう。


一度、焼け落ちた家まで戻ると、そこにセシルがいた。


着ている服もボロボロで、全身傷だらけの姿で地面にしゃがんでいる。


「……リア……リリア~!」


リリアを視認すると泣きながらリリアのもとまで走り、勢いよく抱きつく。


相当恐ろしい目に遭ったのか、セシルは身体を震わせている。


ボロボロになった服から胸が露わになっていたので、リリアも抱き締めてスクイードに見せないように隠した。


「リリア」


スクイードは二人に背を向け、腕を組んで話している。


「セシルに回復魔法、あと自室に戻してやってほしい」


「ええ」


セシルを支えながら座らせると、背負っていたトゥーリを地面に横たえさせてからセシルに回復魔法を詠唱する。


セシルのダメージは相当で骨の見えている箇所もあったが数分程で治癒していき、傷も治り始めた。


「あの……ありがとう」


痛みが治まり、安心したセシルがリリアに再び抱きつく。


「セシルさん、先に私たちの部屋に戻っていてください。服を着替えましょう」


「うん、そうする。怖いから……早く戻ってきてね」


空間転移を詠唱して、セシルは姿を消した。


「セシルは戻ったな?」


背を向けたまま、スクイードは聞く。


「戻りましたわ。ですが、精神的に不安定になっています。私も先程までそうでしたからセシルさんの気持ちはよく分かります」


「戻ったら、セシルを支えてやってくれ」


「そのつもりです」


「あと、これからやる仕事はもう一つしかないけど、リリアはオレと一緒に来るか? それとも先に戻る?」


「トゥーリさんたちは死にました。これ以上、なにをなさるというのですか?」


「殺したら依頼者のもとへ現物を見せに行かないと金を受け取れないからね。もし来るなら先に言っておくが、絶対に胸糞悪い気分になる。でも、これがオレたちの仕事なんだと早いうちに理解はした方がいい」


「なにが起きるかは大体察しがつきます」


地面に横たわらせたトゥーリや、スクイードが背負っているクルスを見ればなにが起きるのかはリリアにもなんとなく分かっていた。


「ところで、肝心のステンはどこにいるのかな? セシルを帰す前に聞いておくべきだった」


「それなら向こうで間違いないでしょう」


リリアがある方向を指差す。


重傷を負っていたセシルが歩いてきた方向には血の跡が続いていた。


「確かにそうだな」


二人はその方向に向かっていく。


間もなく、ステンの死体は見つかった。


胸に大穴が開き、血塗れの状態で。


「これは……酷いな。どう殺したかというよりも、なにをしたんだ? 武器はナイフだけじゃなかったのか?」


若干引きつつもスクイードは空間転移を発動する。


その場に木製の荷車が出現した。


「それは?」


「これに三人を乗せていく。ああ、それと時代考証を考えて扱うものを必ず選ぶように。近代世界の荷車であるトラックに乗って移動しちゃうとかは一発アウト。それに依頼者の目の前に空間転移で現れるとかも絶対にやっちゃ駄目だから。そういうのを平気でやっちゃう奴は愚の骨頂」


「はあ」


前半部分はなにを言っているのか分からなかったが、後半部分はリリアにも分かった。


エレメンタルマスターたち三人の遺体を荷車に乗せ、スクイードが荷車を引こうとする。


「あっ」


スクイードは荷車を引くのを止めた。


「甲冑、脱いでいたんだった」


空間転移でダークナイトの漆黒の甲冑を出現させ、身体にまとっていく。


禍々しい様相の不吉な騎士が再び現れた。


「じゃあ、行こうか」


すたすたと荷車を引いて、城まで向かっていく。


禍々しい者が荷車を引くというアンバランスな外見がほのぼのとした雰囲気を醸し出す。


ただ、荷車に乗っているのが三人の遺体なので、同行者のリリアでもスクイードに近づきにくかった。

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