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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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レベル差

翌朝早朝、リリアはいつも通りの時間帯に目を開く。


リリアを抱き枕にしているセシルはまだ寝ていたが、トゥーリの姿が寝室になかった。


「どうしましょう……今日あの子を……」


数時間後には確実に訪れる未来をリリアは思い浮かべる。


「……おはよう、リリア」


リリアが少し身体を動かしたからか、セシルも目を覚ます。


リリアとセシルは朝の支度を終え、寝室を出た。


リビングにはもうスクイードたちがいた。


テーブルの椅子にクルス、ステンが座り、キッチンでスクイードとトゥーリが昨日の残った食材で食事を作ったり、昨日の残ったおかずを(かまど)で温め直している。


「リリア、セシル、おはよう」


料理の手伝いをしつつ、スクイードが笑顔で語りかける。


「外を見てみろよ、晴れ渡っているだろう? 絶好の殺し合い日和だな」


「……そうですわね」


どのように反応していいのか、リリアには分からない。


こんな発言を当たり前のように口にする者を今まで見たことがなかった。


「先に話をつけておいたみたいで、リリアはトゥーリと戦うらしいな。セシルとはステンが戦いたいらしいぞ、良かったな。オレとはクルスが戦いたいようだ、本当に選ばれるうちが華だな」


「よろしくな、セシル」


ステンがセシルに声をかける。


「見ての通り、私って結構強いわよ」


別に普通な感じでセシルは反応する。


「トゥーリ、ステンには二人の能力向上を条件につけておいたからしっかり戦えよ。気を抜いたら普通に死ぬからな」


スクイードの注意喚起を受け、初めてリリアはある重要な事実を忘れていたと気づく。


昨夜から自らが人殺しになることばかりに目を向けていた。


相対するトゥーリがどのような強さを有しているのかを全くなにも知らない。


地の利はこの周囲を知るトゥーリにあり、そしてエレメンタルマスターの実力も未知数。


もしかしたら自らが殺される側に……


そう考えると、リリアの背筋に寒気が走った。


「それじゃあ、ご飯にするから二人とも座って」


スクイードがリリア、セシルを椅子へ座らせる。


これから殺し合いをするのに、意外と普通にリリアたちは食事を楽しんだ。


食事も終わり、一息吐くとトゥーリが椅子から立ち上がる。


「食べ終わったね。準備するから皆、外に出て」


ステン、クルスも立ち上がり、なにかの準備をし出す。


「さあ、外で待っていよう」


スクイードが家から出ていき、リリア、セシルも続く。


「これから戦う準備でしょうか?」


「ああ、いや? 多分、家を燃やす準備」


「も、燃やす?」


「だから、離れよっか」


家から一定の距離を取っていると、家からは火の手が上がり始める。


家の玄関から普通の感じで、トゥーリたちが出てきて、リリアたちのもとまで歩いてきた。


「神様、私たちの家を先に送ります」


トゥーリたちは両手を組み、祈りを捧げる。


「スクイードさん、準備ができました。戦いましょう」


クルスがスクイードに呼びかける。


「そっか」


スクイードは家から離れた方を指差す。


「オレたちは向こうで戦おうか」


クルスは頷き、そちらに二人は向かっていく。


「リリア、私と戦うのは貴方よ」


トゥーリはリリアの手を握る。


トゥーリの手からは震えが感じられた。


だが、それはすぐに止まった。


「あれ? リリア?」


リリアの手を握った瞬間に、トゥーリはなにかに気づいた様子。


「どうかしましたか?」


「ああ……そういうこと」


返答せず、なにかを一人で納得している。


「エレメントに好かれていたから、凄い魔力量なのかと思っていたけど……リリア、私に任せて」


強い闘気がトゥーリの目に宿っている。


結構強めに腕を引っ張られ、昨夜水浴びをした水辺近くまでリリアはトゥーリに連れ出された。


「あの、トゥーリさん?」


「リリアの手を握って気づいたの。リリアは自分自身のレベルを確認したことがないでしょう?」


「レベル?」


「魔力をできる限り高めてほしいの」


「ええ?」


「レベルが確認できるの、やってみて」


頷くとリリアは一気に魔力を高める。


リリア自身、持ち得る魔力を最大限に発揮するのは一度たりともなかった。


今までは魔力にそれ程頼ることなく、己が肉体のみを扱い困難を突破していたのが原因の一因となっていた。


「……7500?」


なんとなく見えたような、それとも感じたような雰囲気がしたリリアは、とある数値を口にする。


「見えたのね、それが今現在の貴方のレベル。その辺にいた一般の人たちはどのくらいのレベルだと思う? 実はね、百にも届かないの。大概の世界にいる歴戦の勇者と呼ばれる者たちでも千に届くかどうか。能力者と能力者ではない者の差は歴然としているの」


「あの、一体なにを?」


「私と貴方にはレベル差があるということ。リリアは7500で、私は4万。どのくらいに戦力の差があるかというと」


トゥーリは握っていたリリアの手を振り上げ、リリアの全身が一気に空中へ舞い上がる。


世界が反転し、頭の先に地面が見える光景がリリアの目に映り、側頭部から両肩を打ちつけひっくり返った。


強い衝撃を受け、リリアは目から火花が出た気がした。


「やりますわね」


攻撃を受けても即座にリリアは立ち上がろうとする。


だが両膝から崩れ落ちて、ぺたんと地面に座り、リリアの口から血が伝った。


「な、なんなのでしょうか……身体が思い通りに動きません」


「こんなに苦しいことって初めてでしょう?」


地面に座っているリリアの目線に合うようにトゥーリはしゃがむ。


「案外戦闘ってさ、魔力を身体に漲らせていればなんとかなるものなの。攻撃したい時に手や足に魔力を込めて威力の上昇とか、攻撃される時に頭部や胴体に魔力を集中させて耐久力の向上とかね」


トゥーリは拳を握り、そこへ魔力を集中させた。


なにか破壊力が増したように、リリアには見えた。


「この戦闘方法を魔力流動というの。魔力体のリリアならその程度なら知っていそうなのに、今ので大ダメージを受けているようではなにも知らないのね」


「そのようなこと……私は初めて聞きました……」


身体が動かせず、さらに吐血をしているリリアには既に戦意がない。


ここまで大怪我をしたことのないリリアの心は弱り切っている。


「スクイードさんが貴方を殺さないでとお願いしてきた理由が分かった。リリアが殺す側で、私が殺される側なのに疑問に思っていたの。リリア、貴方には戦闘能力もないんだ」


そう言い、リリアの右腕を両手で握る。


「今から腕を折る。折られるのが嫌なら、魔力を腕に集中させて」


「い、嫌、止めてください……」


次の瞬間、リリアの腕はへし折られた。


「………」


恐怖でもうなにもリリアは発しない。


「私の話していることを聞いて。次は貴方の右肩よ。右肩の骨を折る。折られたくなければ、魔力を集中させて」


トゥーリは両手で、リリアの右肩を掴む。


「先に言っておくね。リリアが無理なら、別にスクイードさんでもセシルでも構わないの。リリアがいつまで経っても私を殺せる程に強くなれないのなら、リリアは死ぬしかない。その後のことはスクイードさんかセシルに殺されてくるから心配しなくてもいいよ」


「待ってください……」


言葉も虚しく、右肩から腕の骨を砕かれた。


「もう止めてください……」


耐え切れなくなり、リリアは泣き出してしまった。


ただ、耐え切れなくなっているのはトゥーリもまた同じだった。


「リリア!」


リリアの両肩に手を置き、揺さぶる。


「リリア、痛みなんて最初から感じていないんでしょう? ただ、身体が動かせないのが怖いだけなんでしょう? だったら、身体を動かせるようにしなさい! 身体を魔力に変えれば、怪我が治るんでしょ!」


「身体を……魔力に?」


その言葉に、自らを見た気がした。


人だと今まで思っていたのは事実ではないと。


人であるのならば通常感じられるはずの痛みを認識できない自らは単なる魔力の塊、魔力体なのだと。


そう理解するのが怖くて、魔力体であると口では分かった気をしながら拒絶していた。


この命がかかった危機的な状況に、ついにリリアは魔力体としての能力を駆使した。


「あつっ……」


温度の変化を感じたトゥーリはリリアから距離を取る。


「熱かったですか?」


身体が動かなかったはずのリリアが普通に立ち上がる。


折れていた右腕も何事もなかったように動かしていた。


リリアには怪我らしいものはなにも見当たらない。


「赤い瞳に、赤い髪、炎の能力。炎人の魔力体らしくなってきたじゃない」


「ええ、そうですわね」


デミスに手刀で斬り落とされ、欠損していた左腕をリリアは出現させる。


斬り落とされてから今までずっとリリアは自らの魔力体としての能力を駆使し、身体に収納していた。


魔力体の左腕は一切腐乱せず、斬られる前と同様に綺麗なまま。


その腕をリリアは欠損していた腕の先にくっつける。


わずかに数秒で接着し、リリアは左腕を動かし出した。


「トゥーリさん、貴方のお陰で色々と吹っ切れた気がします。私は人ではなかった、魔力体だったのです」


「そうみたい、これならすぐに済みそう」


トゥーリに向き合うリリアに今まででの弱気な姿勢は見られない。


戦い打ち勝つという強い意志がリリアを支えていた。

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