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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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依頼内容

楽しい団欒の食事も終わり、一息吐くとトゥーリが立ち上がる。


水瓶に溜めていた水でトゥーリは食器を洗い始め、手伝うためにステン、クルスもそれに続いた。


三人が食器を洗っている間、テーブルの椅子に腰かけていたスクイードが両肘をテーブルにつき、両手を組む。


「リリア、セシル。明日、エレメンタルマスターを殺そうと思う。誰が誰を殺す?」


ちらっと、リリアはスクイードを見る。


エレメンタルマスターと呼ばれる存在が、たった今食器を洗っている三人なのはリリアにも分かる。


「流石にその話題は不味いかと……」


「いいよー、続けて」


食器を洗いながら、トゥーリは話す。


こちらを見ずに。


「早いところ、決めておきたいからな」


「それ、私たちも聞きたいな。洗い終わってからでいい?」


「いいよ」


非常にナチュラルに話をしている二人にリリア、セシルは困惑を隠せない。


数分を置いて、三人の食器洗いが終わった後、再び六人でテーブルの椅子に座る。


「どこで、エレメンタルマスターを殺す?」


トゥーリがスクイードに聞く。


「この辺でいいんじゃないかな?」


「いつ頃にする?」


「朝ご飯を食べてから、一息吐いた後でいいかも。英気を養いたいからなあ」


「じゃあ、決まり。明日ね」


すっと、トゥーリは椅子から立ち上がる。


「リリア、セシルは私と一緒の部屋で休みましょう。男の子たちと一緒は嫌でしょう?」


「ええ、そうしましょう」


セシルは即答する。


当然のように即答するセシルにリリアは驚く。


この目の前の人物たちがエレメンタルマスターなのだから。


「寝ているところに男の子たちがいるのは、リリアも……嫌でしょう?」


「ええ、まあ」


どちらかというと、リリアは一人で優雅に広い部屋で過ごしていたかった。


「それじゃあ、こっちに来て」


別の部屋の前に行くと、扉を開き入っていく。


「行って来たら?」


スクイードがリリア・セシルに声をかける。


セシルがリリアの手を握り、ともに部屋へ入った。


室内には二つのベッドがあり、片方のベッドをトゥーリが押してもう片方にくっつけようとしていた。


「もうちょっと待ってね、皆で寝られるようにするから」


「二つだけなのですか?」


「そうなの、二つだけ。だから、くっつけていたの」


「私たちは一つでも良かったわね、リリア」


普段からリリアのベッドへ無断で寝ているセシルにはなにも問題がない。


それをリリアが嫌がっているのをセシルは知らない。


「……そういえば、ここにお風呂はありますか?」


結局、一人では寝られないのでリリアはどうでも良くなっていた。


「お風呂は外の泉よ、近くに湧き水が出てくるところがあるからとっても綺麗なの」


「そうなのですか……」


まさか、外で水浴びする羽目になるとは思わず、リリアは気が滅入ってしまう。


「これから入る?」


トゥーリが尋ねる。


「そうしましょうか……」


嫌なことはさっさと終わらせるに限るとリリアは考え、泉に入ることにした。


「あら、意外。絶対に拒否するのかと思った」


セシルは普段の感覚から、リリアだけは入らないと思っていた。


「じゃあ、ちょっと待って……」


トゥーリは部屋にあったランプを取ろうとする。


「それなら心配に及びません。私は、ライトが扱えますわ」


「ライト?」


「周囲を明るく照らす魔法ですわ」


胸を張り、どこか自慢げにリリアは話している。


リリアに勉学を教えていたロイド先生から覚えた魔法。


勉学が苦手なリリアは簡単な家庭的な魔法しか覚えていない。


「凄い、ライトが扱えるの?」


それでも、誰しもに基礎的な勉学を受ける機会があるとは限らないため、トゥーリはリリアを褒めている。


「へえ、そんな魔法があるの」


空間転移などを扱えるセシルも知らなかった。


それもそのはずで、家庭的な魔法はあまり価値がない。


炎人魔法の炎系魔法を火力調整さえすれば周囲を照らせる上に、物も焼けたり蒸せたりできるのだから。


ともかく、三人はバスタオルや衣服を入れるかごを持って、泉へ向かう。


ライトで照らされたおかげで、すぐに泉には着いた。


問題なのは、三匹程のエレメントが泉の水を飲んでいたこと。


「それじゃあ、入りましょうか」


すぐ近くにエレメントがいるのに、トゥーリは服を脱ぎ出す。


「今は不味いのでは……」


リリアは遠い目をしている。


現実が目の前に迫り、どうして自らが泉に入らないといけないのだという認識になっている。


「私たちは大丈夫なんじゃないかな。理由はなんとなく分かっちゃったけど」


セシルも問題なく服を脱いでいく。


「仕方がありませんね」


トゥーリもセシルも先に泉に入っていった。


大幅に譲歩し、リリアもドレスを脱ぎ出す。


脱ぎ終わる頃には、リリアの周りに先に泉の周囲にいたエレメント三匹が集まっていた。


手を伸ばせば、エレメントの頭を撫でられるくらいには。


別に攻撃をするわけでもなく、なにか他の興味を持って集まっている。


「なんなのですか一体……」


うんざりしながらもリリアは、そう口にする。


別にエレメントが周囲にいてもリリアは嫌な感じがしなかった。


そっと、一匹のエレメントがリリアの右腹部辺りにすり寄る。


普通の犬のような反応にリリアは拍子抜けした。


エレメントからは獣臭がせず、汚れてもいない。


魔力を感じるのではなく、もしかしたら魔力そのものの獣なのではとリリアは感じた。


しかし、この獣たちに好かれても仕方がないため、リリアは無視して泉へ入る。


「なんなのかしらね、あれって」


先に泉に入っていたセシルがリリアに近寄る。


リリアの右腹部へと手を置き、擦ってあげた。


セシル目線から見て、ダメ―ジがあったと思われる部分をふれるくせがあった。


「私には分かりかねますわね」


そんな二人を、トゥーリは静かに見ていた。


ともかく、水浴びを終えた三人は小屋へ戻ってくる。


スクイードたちは、まだ談笑していた。


様々な世界や、人物。


武器や魔法だったり、戦術や戦法などの男性が好きそうな話題をスクイード主体で話し合っている。


ステンもクルスもそういった話題が好きなようで食い入るように聞いて、そして話していた。


リリアは覗かれるのではという考えが若干あったが、そういったことは最初からなさそうだった。


そして、三人は寝に入る。


わざわざトゥーリがベッドをくっつけて三人でも寝られるようにしてくれたが、いつも通りセシルがリリアに抱きついたのであまり意味がなかった。


「スクイードさんは面白い人だと思ったけど、セシルも面白い人なんだ」


毛布に包まり、トゥーリが話す。


「凄くナチュラルにその寝姿になったってことは、いつもこうなの?」


「ええ。私たちの部屋には二つのベッドがあるのですが、一人で寝てくれないのです」


「それ、セシルに言えば?」


「もう寝ています」


セシルはもう寝ていた。


夜型だったセシルは、リリアと生活をともにするようになり完全に朝型の生活リズムが身についている。


「私、貴方たちと出会えて良かった」


「えっ?」


「私には、二人の妹がいたの」


「貴方に妹さんが?」


「もう死んじゃったけど。お父さんもお母さんも同じ日に。だから、今日貴方たちと一緒にご飯を食べたり、身体を洗ったり、こうして一緒に寝られるのがとても嬉しいの。生きていれば妹たちも貴方たちくらいの年令だったと思うから」


「?」


リリアは横になった状態から首だけ動かし、トゥーリを見る。


「貴方って、15才でしょう?」


「違うの、さっき言ったのは私が年を数えなくなった時の年令。多分今は30~40くらいかな?」


「あっ、貴方が? 私よりも若く見えるのに?」


「そんなの見た目だけに過ぎないの。私がこうして今でも昔のままの姿でいられるのは、エレメンタルマスターだから」


「やはり、貴方がエレメンタルマスターだったのですか……」


「貴方はスクイードさんからなにも聞かされていなかったの? なにか変だと思ったらそういうことか」


「トゥーリさんは、なぜエレメンタルマスターに……」


「そう、ならざるを得なかったの」


天井の方へ視線をトゥーリは移す。


「さっき、話したよね。私の家族は皆、同じ日に死んだの。家族を殺した存在、それは貴方たちも見たエレメントよ。お父さんが最後の力を振り絞って私たちを襲ったエレメントを殺してくれたけど、家族は私以外に誰も助からなかった。私自身も重傷を負い、動けなくて助けを待つ他なかった。でもね、誰も助けてくれなかった。他のエレメントが私たちを食べにくるのは見ての通りだったろうから」


「………」


トゥーリの話を静かにリリアは聞いていた。


「それでも私は生きたくて生きたくて仕方がなかった。家族のために自分が生きなくちゃとか、エレメント憎さでなんとしてでも生きたいとか思っていたんじゃないかな? それで私は生きるためにエレメントの死骸を食べたの。私がエレメンタルマスターになったのはその時。エレメントと同じ魔力を得た私は身体を癒して生き延びることができた」


「だったらどうして今になって自らの討伐依頼などを出したのですか? 家族のために生きなくてはならないのではないのですか?」


「もう一つ、討伐依頼が出ていたはず」


「あっ、そういえばお城で……まさか依頼を出されたから?」


「もしも、お城からの依頼を誰も対応してくれなかったら、国の方で私たちの討伐隊を結成するはず。私たちは私たちが守ってきたあの国の人たちと殺し合いをしないといけなくなる」


「トゥーリさん、明日ここから離れましょう。この国にいなければいいだけじゃないですか」


「そこのベッドが空いている理由が分かる?」


毛布から手をだし、リリアのベッドを指差す。


「私たちはエレメントを食べ続けないと死ぬの。そこのベッドに寝ていた子はもう先に天国へ行った。他の国にもエレメントがいるのかどうかも分からないのに、この国を出て行けるはずがない。もし、他の国にもエレメントがいたとしても扱いはこことなにも変わらないと思う」


毛布に手を入れ、リリアの方にトゥーリは顔を向けた。


「依頼、忘れていないよね? 私、リリアに殺されて天国へ行きたい。約束よ」


トゥーリは目を閉じ、眠りにつく。


リリアの背筋に冷たいものが走った。


悪党ではない、普通の女の子となんら変わらない人を自らの手で殺害しなくてはならない。


リリアがしたかったことは見るからに分かる悪党を正義の鉄槌で薙ぎ払い、弱者を救うような勧善懲悪。


だが、この自らの所属しているスイーパーという組織は悪党ではない者まで殺害する。


その事実に気づき、リリアは今更ながら後悔した。

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