上位組織
「やあ、ライルさん」
「こんにちは、スクイードさん。仕事に取りかかったんだね、無事を祈るよ」
朗らかな笑顔で語るライルという男性は、スクイードと軽く握手をする。
上位組織の者でありながら物腰柔らかな接し方ができる優しさがあった。
「スクイードさん、そちらは?」
「この度、新しくスイーパーの一員となってくれたリリアとセシルです。きっと、この二人はスイーパーを支えてくれる良い仲間になってくれると、オレは思っています」
「期待されているね、初仕事頑張るんだよ」
ライルはリリア・セシルに近づき、軽く拳を向ける。
「?」
意味が分からず、リリアは目を細め、ただ眺めていた。
「ああ、リリア。こうするのよ」
セシルはライルの拳へと、軽く自らの拳を合わせた。
「さあ、リリアも」
「えっ、ええ」
困惑しつつも、リリアもライルと拳を合わせた。
「それじゃ、幸運を祈るよ」
軽く手のひらを振り、ライルは空間転移を発動。
すうっと、身体が霧のように霞んでいき、消えてなくなった。
「ライルさんの空間転移の仕方って独特なんだよね。流石は魔力体だな」
感心したようにスクイードは語る。
最近空間転移を覚えたリリアも、以前から知っていたセシルも今の空間転移の仕方には驚いていた。
再び、スクイードは古城へと向かって歩み始める。
それにリリア・セシルも続く。
「今の方はどなたでしょうか? とても強そうな方でしたが」
「あの人は歩合制傭兵部隊リバースという組織の構成員の一人ライルさんだ。優しい人だからそんなに構える必要はないよ」
「なぜ、ライルさんはこの場に来たのですか?」
「それは歩合制傭兵部隊リバースが上位組織だからだ」
「とすると、スイーパーは歩合制傭兵部隊リバースの下請けをしているのですか?」
「正確には違うよ。歩合制傭兵部隊リバースは確かに上位組織。でも上納金を支払う必要もなく、それどころか向こうの方から総世界中の様々な依頼書をオレたち下位組織に毎月無償で届けてくれる。今回の仕事の依頼書もリバースの構成員が持って来たから仕事を請け負えているんだ」
すっと、スクイードは手のひらを見せる。
「オレは握手し、二人はライルさんと拳を合わせた。あれは親睦を深めたり、挨拶のようでも実際は監視のためだ。あの時に魔力のマーキングを行い、こちらが戦いに敗れ全滅しそうになった際に助けに来てくれるんだ」
「監視なのに、助けにですか?」
「簡単に言うと、オレたちの言わば補助輪だな。監視しているのは、仕事中に死なないようにってわけさ。なのに、上位組織としてライルさんは自らが請け負う傭兵稼業の仕事をきっちり行っている。オレたちを監視していながらだぜ?」
「ということは、あの方がリバースの長なのですね」
「全然違うよ、ライルさんは役職にもついていない普通の構成員の一人。リバースについてを少し話そうか?」
「ええ」
「総世界の約九割のギルドは歩合制傭兵部隊リバースに支配されている。なのに、歩合制傭兵部隊リバースの構成員数はわずかに十名」
「えっ、約九割も? それも、たった十人しか所属していない組織に?」
「今から十数年前に歩合制傭兵部隊リバースが、とある問題行動を起こしたんだ。それにともない約九割のギルドがその問題に対して抗議行動を取ったら、その全てが支配下に置かれる結果となった。今となってはオレたちの方が全て悪いとなっている。単純に強い者が正しい世界だからな」
そこで、スクイードは歩みを止める。
「最初に断っておくけど、歩合制傭兵部隊リバースの人たちに対し、決して問題行動を起こさないでくれよ」
「ええ、分かりましたわ」
リリアがしっかりと聞いてくれていたので、スクイードは安心して頷く。
リリアとは異なり、セシルは目を閉じて首を右左に揺らしていた。
相当興味がなかったようで全く話を聞いていない。
目を閉じていたいのか、リリアの肩に手を置き、リリアの背後からついて来ている。
「ライルさんとは毎回仕事をする前に会う必要があるのですか?」
「いや、R・ノール・コミューン内の世界でだけ」
再び、スクイードは歩き始めた。
「それは一体なんなのですか?」
リリアも歩みを始める。
「歩合制傭兵部隊リバースの統領R・ノールさんの支配管轄地域を意味している。この総世界にある世界は、今までR一族という者たちに全てが支配されていたんだ。でも、今ではこうしてオレたちは自由に生きられる。これは、R・ノールさんが総世界に変革を起こしたからなんだ」
「意味不明ですね、それなら私が暮らすエアルドフ王国もR一族が支配しているのでしょうか? それは絶対にありえません。第一にそのような者たちなど聞いたこともありません」
「そりゃ分からないよ。でも、そのエアルドフ王国がある世界もR・なんとか・コミューンであることは間違いないよ。総世界にある様々な世界は過去にR一族たちが見つけて、空間転移を扱って世界間移動ができるようにしたらしいし」
「なにやら、やけに詳しいのですね。私は全てが初耳です」
元々エアルドフ王国を自らが支配したいとの野望があるリリアにとって、今の物言いは腹立たしいもの。
「今の内容は全て総世界政府クロノスという組織の受け売りなんだ。総世界をより良くしていきたい者たちが集う正義の組織だから話の信頼性はある。まあその、そういった内容を教えてくれたのはR・ノールさんなんだけど」
「R・ノールとは何者なのですか?」
「とてつもない大悪党かな。自らも傭兵でありながら、懸賞金額が総世界で一番高い賞金首なんだ。今では総世界政府クロノスにも所属しているのにもかかわらず賞金首であり続けるのは、つまりはそういうことだろうね」
「悪党? なぜ、傭兵たちは捕まえな……」
「頼むから!」
急にスクイードは声を荒らげる。
「そういうのが問題行動なんだ、二度と考えないでくれ。オレたちがなぜ下位組織になのか、それはR・ノールさんただ一人に全て真っ平らにされたからだ。あんな恐ろしい経験はもう二度としたくない。怖いんだ、R・ノールさんが」
「そ、そのような者がいるのですか……」
「歩合制傭兵部隊リバースの人たちがオレたちの味方であるうちはこれ以上ない程に頼もしい。これからも良好な関係を築いていきたいんだ。リリア、分かったね?」
「ええ。もしかしたら……その者にデミス討伐を依頼すれば今日のうちに達成できるのではないのでしょうか……」
「なにか言ったかい?」
小声だったため、スクイードにはリリアの会話を聞き取れなかった。
「いえ、なんでもありませんわ」
そのように口にしてみたが、リリアは考えを切り替えた。
自らの力でデミスを打ち倒さなくてはなんの意味もない。
デミス討伐が達成されれば、なんの問題もなくレト王子が王位につくだけの話。
リリアが御印になった意味もなくなる。
女性の発言権のほとんどないエアルドフ王国で降って湧いたチャンスを自ら手放すなど今のリリアにはできなかった。
「いずれは二人も手練れになり、一人で作戦を展開してもらうようになるだろう。その時のために今回の仕事を終えたら、ギルドで歩合制傭兵部隊リバースのメンバーの説明をしよう。このR・ノール・コミューン内で仕事をすると向こうから必ず現れるから覚えないといけない」
「ええ、分かりましたわ」
話をしているうちに、三人は丘の上の古城の城門前へ辿り着いた。
到着早々に城門前にいる門番二人が手にした槍をリリアたちに向けている。
「止まれ!」
明らかにスクイードだけに呼びかけていた。
「こんにちは、今回ご依頼を賜りましたスイーパーのダークナイト、スクイードです。さあ、貴方たちのご主人様へ私が出向いたことをお伝えに行きなさい」
「ダークナイト! ついに来てくださったのか!」
門番の一人がもう片割れの門番に指示を出し、城門を開く。
一人の門番は即座に城内へ向かって走り出し、残った門番はスクイードの前にひざまずく。
「ダークナイト様と知らず、御無礼をお許しください」
「ああ、構わないよ別に。オレは今の対応が悪かったと思っていないから」
「ありがとうございます」
門番は立ち上がる。
「ダークナイト様を王がお待ちになっております。私に続いて城内へお入りください」
「いいよ。じゃあ、二人とも一緒に入るよ」
リリア・セシルに合図を送り、率先して城内へスクイードが入っていく。
登場人物紹介
ライル(年令41才、身長178cm、水人の男性。物腰柔らかな性格。歩合制傭兵部隊リバースに所属している。レベル18万の恐るべき強さを誇る強者。ルールという対象者の能力を封じ込める強力なスキル・ポテンシャルを有している)