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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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ダークナイト

翌日の早朝五時。


この日もなんら問題なく、普段通りにリリアは目を覚ます。


前日は新たにスイーパーへ加入したリリア・セシルのため、会議室で飲み会が開催されていた。


結局飲み会は深夜まで続き、親睦は深められた様子。


「さて……」


リリアはベッドから身体を起こそうとする。


だが、起こそうとするものの簡単には起き上がれない。


リリアのベッドには、自らに抱きつく形でセシルも寝ている。


しかも最初にこの部屋を割り当てられてから毎晩。


リリアは今日もセシルごと持ち上がるくらいの反動で身体を起こした。


この毎回のやり取りに流石のリリアもイライラしていた。


「ああ……おはよう、リリア」


リリアが身体を起こしたおかげで、いつも通りにセシルも目が覚める。


昨日の飲み会のせいで、セシルは若干お酒臭い。


「あー、体調悪いなー。昨日なにがあったか全く覚えていないわ。ひとまず、水を飲んでからお風呂に入りましょう、お風呂。多分、入っていないから」


気分が悪そうにベッドから這い出ていくと、リリアをそのままにしてセシルはお風呂に向かう。


「セシルさん、今日は一人で入るのですね」


今日はゆっくり一人で入れるのかと、リリアが思った瞬間。


「リリア、お湯沸いたよ」


脱衣場から裸で出てきたセシルが呼びかける。


「やはり、そうなるのですか」


仕方なく、リリアもベッドから出る。


朝からお風呂に入るという行為がリリアは初めてであり、新鮮に映った。


それから朝の支度も終わり、リリア・セシルはスクイードの自室前に移動する。


簡易的ながらも魔導剣士修練場での鍛錬も終え、二人は今日からスイーパーへ正式加入が認められた。


つまりは、今日から二人の傭兵稼業が始まる。


「今日からお仕事ですね、一体どのような依頼を受けるのでしょうか?」


少しだけ、リリアからは迷いが感じられた。


なにが悲しくて王族の自らが下々の仕事などを行わざるを得ないのだろうかとの認識と。


そして、強くなるためには最も適した行為だという理解のせめぎ合い。


「最初は簡単なものよ、きっと」


やる気があまりないセシルは適当なことを話しつつ、スクイードの自室の扉をノックする。


わずかな間を置いて扉が開き、スクイードが出てきた。


「やあ、おはよう二人とも。昨日は楽しかったかい?」


しっかりとした口調で全く酔いを感じさせず、酒の匂いもしない。


相当酒に強い体質らしい。


「ええ」


「昨日は楽しかったと思う。でも、なんにも覚えていないわ」


「そっか、それはなによりだ」


スクイードは軽く流す。


「今日から君たちはスイーパーに正式加入され、君たちは仕事に取りかかることとなる。その最初の仕事とはこれだ」


スクイードは空間転移を発動し、手元に一枚の書類を出現させた。


その書類をリリア・セシルに手渡す。


「その書類には取りかかる仕事の内容が記載されている。簡単に説明すると、キューブという世界のとある国の城主と、その国に暮らす領民、その二人から同じ依頼があった。エレメンタルマスターという悪党を殺害してほしい。これが依頼内容の全てだ」


「依頼内容とは、それだけなのですか?」


「ああ、大体の依頼はこの程度さ。分からないことがあれば、依頼主に直接会ってより多くの内容を聞き出したり、自ら進んで情報収集をする必要がある。でも、安心してくれ」


くいっと、スクイードは軽く自らに親指を向ける。


「今回の依頼は最初の仕事という点から、オレと一緒にスリーマンセルで行動する」


「今からその世界に出発するのですか?」


「いや、昨日の宴会でまだ酒が十分に抜けていないだろう? しっかりと休息を取ってから行動に移ろう。午後三時くらいにまた来てほしい。では、以上だ」


簡単な説明だけで、スクイードは自室に戻ろうとした。


「あっ」


スクイードはなにかを思い出し、戻るのを一度止める。


「依頼料金次第では、もう少しやることが増えるかも。では、後程」


スクイードは自室に入っていく。


「こんなにあっさりしたものなの?」


セシルはもう少し説明があるものだと思っていた。


「とりあえず、この紙を読めということなのでしょう」


渡された書類をリリアはひらひらさせる。


それからは指定された時刻まで部屋で待機となった。





時刻は経過し、午後の三時頃。


リリアたちは再びスクイードの自室へと向かう。


「これからが仕事となるのですよね」


「そうねえ、どんなことをするのかしらねえ」


二人が廊下を歩いていると、スクイードの自室の扉が開く。


動くたびに鳴る金属音。


漆黒の禍々しい全身甲冑を身にまとった人物がスクイードの自室から出てくる。


ぴたりと、リリア・セシルは歩を止めた。


異質な風貌の者の出現により、行動が止まってしまった。


「支度、できたかい?」


甲冑騎士は二人の方へ首を動かし、声をかける。


声色は紛れもなくスクイードのもの。


「スクイードさん……ですか?」


「そうだよ?」


「その姿は一体?」


「話していなかったな。オレの兵種は、ダークナイトなんだ。この姿で戦場に出向くのが普通」


「そうなのですか」


見た目が変わっても、中身は変わらず普通なのを見て、二人は安心した。


それでも、この姿。


依頼者が敵だと間違いなく誤解するだろうなとは二人とも思っている。


「よし、それじゃあ早速キューブに出発だ」


スクイードは空間転移を発動する。


廊下の風景は一気に切り替わり、いつの間にか外にいた。


どこかの街中に、リリアたちは出現していた。


魔導剣士修練場のある近代化した世界とは、数段階文明レベルの下がった世界の風景。


建物は、赤いレンガ造りで屋根には急な三角屋根が組まれていた。


比較的、寒い地域なようで屋根に雪が積もらないようにされている。


そういった造りの建物が通りに沿って建てられ、その先にある小高い丘には古城が見える。


「こういう感じの文明レベルの世界はいつ来てもいいね、なんか落ち着く」


街の景色を眺め、スクイードは語る。


普段通り朗らかに話しているのだが、ダークナイトの甲冑のせいで不気味に映る。


「依頼主の一人は、あそこにいるよ」


スクイードの指差す方向は古城の方向。


「あの、あそこにいるのが最初から分かっているのでしたら、古城に空間転移をすれば良かったのではないでしょうか?」


「そうだよね。オレもそう思う。でも、どうしても先に街を歩いていかないといけない理由があるんだ。君たちも今後はこれを習慣化してもらうよ」


「?」


理由がよく分からないことをスクイードが話す。


リリアは意味が分からず、なにも返答せずに流した。


ひとまず、情報収集を行いつつ古城へ向かうため、市街を三人は歩んでいく。


歩んでいる最中に道行く人々へ情報収集をしてはみたが、スクイードを視認した途端に人々は逃げ出す。


なんの情報も手にすることはできなかった。


「近代的な世界では、この甲冑をまとわないから情報収集が(はかど)るけど、甲冑をまとっていると避けられるんだ。兵種からして魔導剣士と対等な地位のはずなのにね」


「この世界でも甲冑を脱げば良いのではないでしょうか?」


「それ、私も思う。話す人話す人、皆が逃げていくのって初めての経験」


当然の事態に、リリア・セシルともに不満を漏らす。


「そう言われてもなあ、ダークナイトとして依頼主に会わないとオレの信頼性が保てないじゃん」


「スクイードさんはダークナイトであり、魔導剣士なのですよね?」


「そうだよ」


「魔導剣士としてダークナイトの甲冑をまとわず、依頼主のもとへ向かえば情報収集ができるのではないでしょうか?」


割と最もなことをリリアが話す。


「ダークナイトは、オレのアイデンティティだから無理かな。この仕事を始める以前からダークナイトだったから。第一、オレって魔導剣士と名乗るのが大嫌いだし」


「ふふっ」


魔導剣士修練場の会長のスクイードが平気でディスっているのが、セシルには可笑しくてしょうがない。


「あっ、来たよ」


二人をスルーして、スクイードはある方向を見ている。


スクイードが見ていた先には、建物と建物の間の小さな路地がある。


そこから、とある人物が三人のもとへやってきた。


冒険者風の出で立ちをしたグラデーションがかった青い長髪、青い瞳をした青年の剣士。


水人の魔力体の男性だった。

登場人物紹介など


兵種(魔導剣士やダークナイトは、基本的に能力や階級に差はない。個々の強さがものを言う世界であるため、どちらの権力が上とかは特にない。単純に流派の違いみたいなもので、違いは鎧をまとうかまとわないか程度)

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