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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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飲み会

魔導剣士修練場にて、リリア・セシルはスケジュール通りの修練と勉学を受けていく。


その過程でリリアはとても早い段階で回復魔法や空間転移を習得する。


だが、腕を治すために覚えた回復魔法でも腕を元通りに治せなかった。


セシルはどんな対応もスムーズに熟していく。


どう考えても最初から魔導剣士修練場での鍛錬を必要としない部類の存在だった。


そして、時は経過し飲み会がある日となった。


この日、リリアは魔導剣士修練場内のトレーニングジムで女性らしいスポーツウェアを着こみ、鍛錬を行っていた。


フットワークを駆使し、拳に力を込めながら、ジャブやストレートでサンドバッグを殴りまくる。


当初はさわるのも嫌がっていたにもかかわらず、今ではサンドバックを殴ることに躊躇いがない。


また、片腕だけの戦いをさらに効率良くするため、キックボクシングの要素も取り入れている。


リリアが蹴りを入れれば、衝撃で天井付近までサンドバッグが浮き上がっていた。


鍛練が始まってから、かれこれ既に四時間が経過している。


なのに、一度たりとも休憩を取っていない。


ことこの世界では近代技術の粋を集めた武術がありあまる程に充実している。


これに気を良くしたリリアは様々な武術の習得にほとんどの時間を割いていた。


武術書(スポーツ雑誌)を穴が開く程に読み解き、自らが記された技術を思いのままに扱えるこの時間がリリアにとっては至福の時。


そんなリリアのすぐ近くにヨガマットを敷き、ピラティスウェアを着こむセシルが目を閉じながらヨガのポーズを取っている。


リリアと異なり、運動をしてはお風呂やサウナに入り、自らの美容と健康のためだけにジムでの時間を消費していた。


セシルはリリアがジムに来ているから仕方なく来ているだけであり、別にセシルは疲れたくない。


「ん?」


四時間もずっとサンドバッグをぼこぼこにしていたリリアはなにかの気配を察知し、気配を感じた方に視線を送る。


少し離れたところに置いてあるエアロバイクに見覚えのある二人の姿。


エアルドフ王国にて魔導剣士修練場を教えてくれた占い師のアルテアリス、なぜか一緒にいる褐色肌のインキュバスのシェラだった。


やる気のないアルテアリスはエアロバイクを漕ぐような姿勢で、ハンドルに両肘をつき、手を組んだところに顎を乗せ、ぼーっとしながらリリアを見ている。


アルテアリスは全くエアロバイクを漕いでいないが、シェラは結構張り切って漕いでいた。


二人ともになぜかペアルックのスポーツウェアを着ている。


「やっ」


こちらに気づいたリリアにアルテアリスは声をかけ、エアロバイクを降りる。


「あれは確か……占い師の……」


アルテアリスに見覚えがあったリリアは一旦鍛錬を切り上げ、アルテアリスに近づく。


「こんにちは、随分熱心だったねえ。いつもあんな感じなの?」


興味津々でアルテアリスが尋ねる。


今日は占い師としてのベールで素顔を隠していなかった。


男性とも女性とも見える優しそう中性的な顔つき、長髪とは言えない程度の髪型。


どちらかはリリアも分からなかったが、隣にいるのがインキュバスなので女性だとリリアは無意識に思っている。


「ええ、まあ。そんなことよりも貴方も魔導剣士に?」


「違う違う、貴方が本当に魔導剣士修練場にいるのかどうかを知りたくて見に来たの」


「そうなのですか。貴方の助言もあって私は以前よりも強くなれそうです、その節はありがとうございます」


「でしょう、占い師の言っていることは正しいのだ」


とても楽しそうにアルテアリスは話す。


「でも、腕が治っていないのね。貴方は自らをまだ知らないみたい」


「どうも回復魔法では腕が治らないようです……占い師さん、なにか分かりませんか?」


「貴方の腕はもうすぐ治るよ、それも近いうちに。この占い師アルテアリスを信用しなさい」


「少し安心しました、本当に治るのですね……」


「ふふっ、マジで言っているの、リリア? こんなペテン師を信用するだなんて」


占い師にとっての火の玉ストレートをシェラが当然のように語る。


「ちょっと慰められたくらいで胡散臭いペテン師を信用しちゃうだなんてさ、もう完全にアレだよね。びっくりするくらい極度の世間知らず。見た目通り、流石はお嬢様かな? そういうの世間的になんていうか、分かる? みっともないって言うんだよ」


「では、貴方はなにかを知っているのですか?」


イラッとしたリリアがシェラに聞く。


「分かるよ、リリアが望んでいること」


笑顔を見せ、エアロバイクから降りたシェラは親しげにリリアへと近寄る。


「この人に占いを教えたのは、この僕なんだ。勿論、僕はペテン師じゃない。僕の専門は手相占い。さあ、リリア。君の綺麗な手を僕に見せてごらん」


「手、ですか?」


自らの腕がないことが、リリアの負担となっている。


なのに、当然のように手相占いなどと語れるシェラにより腹が立った。


だが、素直に右手の手のひらをシェラにかざす。


「ちょっと見せてね」


かなりナチュラルにリリアの手を見やすいようにシェラは掴む。


なにか、リリアは胸の高鳴りを感じた。


「あの、リリア?」


アルテアリスは、なんで?という感じの口調をしている。


「そういう風にさせるのが目的なの。前も言ったでしょ、その子はインキュバスでお年寄りだって」


アルテアリスの言葉を聞いたリリアはシェラの手を振り払う。


「あーあ、まただよ。お年寄りじゃなくて、お兄ちゃんですが、なにか?」


「間違ってもインキュバスの甘言に気を取られては駄目。そんなことより、はいこれ」


なにかが書かれた紙をアルテアリスはリリアに手渡す。


「私の番号が書いてあるから。いずれは貴方もスマホくらい手に入れるだろうし、先に渡しておくね。なにか困って占いにまで頼りたくなったらここに電話して」


「はあ……」


スマホも電話もこの紙の番号という意味も全てが分からなかったが、リリアは頷く。


「それとね、簡単な手相占いは私からあのインキュバスに教えたの。ついさっきの説明では流れが全く逆……ああ、余計な時間を使わせちゃったね、ボクシングの続きをしてもいいよ」


「ええ」


魔力体としての能力で、受け取った紙を身体の空間にしまい、リリアは再びサンドバックの前に立つ。


「リリア、貴方どこかに行っていなかった?」


目を閉じながら、ヨガのポーズを取っていたセシルが戻ってきたリリアに声をかける。


「ええ、ちょっと。魔導剣士修練場を教えてくれた占い師の人が来ていたので」


「えっ、どこに?」


目を開き、リリアの方を見る。


「ほら、あそこに」


リリアがアルテアリスのいた方を指差す。


もうそこには、アルテアリス・シェラの姿はなかった。


「誰もいないじゃん?」


「誰もいませんね、もう帰ってしまったのでしょうか?」


「そうなんだ」


別に占い師にそこまで関心がなかったセシルは目を閉じ、ヨガを続ける。


セシルが特に興味のない様子だったので、リリアもボクシングを再び始めた。


それから時間が経過し、飲み会が開催される時間になった。


ただ、この日は日曜日。


どの店も営業しておらず、仕方なくギルド兼会議室で飲み会を行う流れに。


会議室の椅子には、リリア・セシルが座っている。


そこへ、簡単なもので作った料理や酒瓶を運んでくるスクイードやヴァイロンなどの四人の男たち。


「以前暮らしていた世界のとある国では日曜日が繁盛期だったのになあ。こういう時のために、この世界の習慣に慣れる意味でも飲み会はできるだけ多くやっておくべきだったよ」


半分程中身が減った酒瓶を片手に、スクイードは半笑いで話している。


今日、会議室に集まったのは合計で六人。


リリア、セシルと隊長のスクイード、ヴァイロンと他に二人の男性。


「こんにちは、リリアちゃん、セシルちゃん」


小柄な中肉中背の男性が親しげに声をかける。


気の良いおじさん風な見た目。


「オレの名前はアサキット、コードネームはモモンガ。広報と偵察担当だよ、よろしくね」


「オレも……自己紹介、いいかな?」


金髪のわりと若そうな男性が、静かに語り出す。


どこか気怠そうな雰囲気の男性。


「オレはエヴァレットです、コードネームはバグさん。隊長やヴァイロンと同じくスイーパー側」


「なんだ、お前ら。急に自己紹介だなんて。選挙でも出るのか? そんなのはいいんだよ、別に後でもできるだろ、まずは飲むんだよ」


ごちゃごちゃとスクイードは会議室のテーブルに安酒や高級酒を並べていく。


彼なりに礼儀があるのか、わざわざ銘柄が見えるよう一定の向きに酒瓶を並べていた。


皆が集まる以前から一人で飲み始めていたせいか、絡みも微妙にウザい感じ。


「ほら、リリアもセシルも飲め。主役なんだから」


スクイードは強引に酒瓶を二人に手渡す。


「隊長、まずは始まりの挨拶とかそういうのは……」


「飲んでいる途中でやればいいからそういうのは」


ヴァイロンの問いかけに結構食い気味にスクイードは話す。


なんにも分かっていない相手を諭すようなレベルで。


「全く仕方がありませんね」


酒癖の悪い男に、リリアは良い気分ではない。


とはいえ、この場の空気を壊すような無粋な真似もしたくない。


酒瓶の上部を握り、親指一本で蓋ごと水平に切り落とす。


そのまま、グラスなどに注がずに酒を飲んだ。


リリアが酒瓶をテーブルに置く頃には中身が入っていなかった。


「スゲ……」


スクイードは一言だけ話す。


「お嬢様っぽいから、もっと女の子らしく酒を嗜むと思っていたよ。結構、豪快な女なんだな」


「そうなのです、私は戦士ですから」


「今のは、ロックで割るタイプだからストレートは不味いよ。肝臓悪くしちゃう」


意外ともっともらしいことをスクイードは語り出す。


「こういうのはな、こうやって飲むんだ」


氷の入ったグラスに、アルコール度数の高い酒を注ぐ。


次に別の酒を同じグラスに注いだ。


本人は水割りの感覚だが、明らかに駄目な酔い方をしている。


前後不覚も甚だしい。


それから数時間程、主にお酒だけしかない飲み会が続いた。

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