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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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確認作業

二人の力量を測るための提案をしたヴァイロン。


なのに、サンドバックにふれもしないことから別の方法を考える。


「サンドバックを叩きたくないなら、オレが対戦相手として君たちの相手をするよ。オレの方からは攻撃しない。できれば、オレに攻撃をさせたくなるような動きを見せてくれるとより好印象かな?」


「そういう分かりやすいのを待っていました」


サンドバッグにふれる必要がなくなり、リリアは納得する。


「よし、リリア。まずは君から戦ってみようか。あそこでどれ程のものかを確認させてもらう」


ジム内にあるボクシングリングを指差す。


先にヴァイロンがリングへと向かい、ロープを掴みもせずに飛び越え、リング内に入る。


会議室の時と同様に体重を感じさせない軽い動きで、リングマットに乗った際も物音がしない。


「そこで戦うのですか?」


リリアはボクシングリングを初めて見た。


なので、リング内に入る際に微妙に時間をかけてなんとか入った。


「さあ、リリア。かかってきな」


右手でこちらへ来いというジェスチャーをする。


「ええ、それでは」


返答と同時にリリアは速攻をかける。


マットを蹴り加速し、ヴァイロンの顔面目がけ、飛び膝蹴りを加えた。


それに対して、ヴァイロンはリリアの膝を軽く叩いた。


ただそれだけで威力は無力化し、リリアはリングへ落ちる。


「それでは駄目……」


少し残念そうな声をヴァイロンは発した。


続けざま、リリアは右腕を軸に足払いを仕かける。


足首に蹴りが入っても、ヴァイロンはびくともしない。


「オレも戦いの経験が長いからそういうのでは……」


攻撃にびくともしないヴァイロン。


リリアは右手一本で背面にバク転し、一旦距離を取った。


リリアの表情は曇っている。


左手をデミスにより斬り落とされ、まだリリアは右手だけで戦う術を身につけていない。


片手一本では戦えない。


リリアはそれが非常に悲しかった。


「動きはいいね、それでも軸のぶれは明らか。最近、腕がなくなったの?」


「つい先日ですわ」


「つ、つい先日? 普通なら立ち直れる段階ではないのに、よくまた戦いの場に戻ろうと思えたね」


「腕を失った戦い、それが私にとっては初めての実戦でした。私には時間がありません。立ち止まってなどいられないのです」


「そうか、立ち直りが早いのはとても良いことだ。でも、焦りは禁物。じっくりと次の実戦のために自らの能力を高めていこう。あと、元々腕があったのなら回復魔法を覚えてみたりかな?」


「回復魔法ですか……」


再び、リリアの表情が曇る。


勉学もそうだが魔法を覚えるのも、リリアは苦手。


「その話は後程。じゃあ、セシルと交代して」


「ええ」


少し落ち込みながら、リリアはリングから降りる。


「野蛮なのは、ちょっと気が引けるなあ」


テーブルナイフを手にセシルはリングへ向かう。


リリアと違ってすんなりと、リングに上がれた。


「セシルさん、頑張ってくださいね」


リング脇からリリアは呼びかけた。


「ヴァイロンがかかって来ないのよ。なんも問題がないわ」


セシルはヴァイロンと向かい合う。


普通にナイフを握っただけのセシルを見て、ヴァイロンは正直期待外れと思っていた。


「えーい」


運動が苦手な女性が投擲をしているような微妙な動きで、ヴァイロンに向かってナイフを放り投げる。


「いや、そのだからそういうのじゃ……」


それでも自らの顔面に向かって飛んできたナイフを右手の人差し指と中指で挟んで軽く受け止める。


次の瞬間、ヴァイロンは腹部に痛みを感じた。


セシルは投擲したナイフと別のナイフを両手で握り込み、自らの体重を乗せた体当たりでヴァイロンの腹部へナイフを突き立てていた。


「そういうのじゃない? じゃあ、こういうの?」


突き立てたナイフを無理やり動かし、腹部を抉る。


ヴァイロンの腹部から出血が止まらない。


「ううっ!」


ヴァイロンは思いっきりセシルを平手打ちした。


相手のダメージなどを気にせずの平手打ちで、セシルはひっくり返って動かなくなった。


「ぐう……キュア発動」


ヴァイロンの回復魔法の発動で腹部の傷が癒える。


「驚いたな、動きに全く無駄がない。相当この動きは実践しているな」


「ちょっと……なんなの、手を出さない約束でしょう?」


愚痴を言いつつ、セシルは立ち上がる。


平手打ちされてもナイフは手放していない。


持ち方を変え、右手側に逆手で握っている。


「待て待て、これは殺し合いじゃない。力量を測るための確認作業だ。もう戦いは終わりだ」


「そうなの、それは残念」


床に落ちている投擲した方のナイフを拾い、セシルはリングから降りる。


「セシルさん、貴方はナイフの扱いが得意なのですね」


「リリアにも使い方を教えてあげるよ」


「私は素手で何事も成し遂げたいので」


「そもそもリリアは武器を使う種族じゃないよね」


「どういう意味ですか?」


「元々素手での戦い方が一番落ち着く部類なの」


「はあ、そうですの」


なにを意味しているのか分からないので適当にリリアは流した。


「リリア、セシル」


リング上からヴァイロンが呼びかける。


「あとは施設内を好きに見て回ってくれ。施設前には地図の掲示板があるから現在位置や施設名が分かるはずだ」


「一緒に来ないのですか?」


「オレはリング内を清掃しないとな……」


自分の血がついたリングをヴァイロンは指差す。


「それと、さっきの会議室のフロアを覚えているな? 二人がこれからを過ごす部屋はオレの部屋の隣だ。隊長が扉に表札をつけているだろうからすぐに分かるはずだ」


「そうですの、では散策しに行った後で部屋を確認しましょうかね」


リリアはセシルの方を見る。


「そうねえ」


自然な感じでセシルはリリアの手を握り、ジムを出ていく。


二人が出ていく中、ヴァイロンは独り言を話す。


「多分、隊長はうちのメンバーの誰かとあの二人を結婚させたがっているんだろうな~。でもなあ、セシルは残りそうだけど、リリアはなあ……」


スクイードに二人を紹介された際に、ヴァイロンが若干引いていた原因。


魔導剣士修練場で鍛錬を行わず、素人同然の二人を加入させたのはそれが理由と見ている。


ヴァイロンは妻が殺人鬼なのはちょっと……と思うタイプ。


その頃、ジムからリリア・セシルは出ていた。


「これからどこに行きますか?」


「勿論、私たちの部屋よ」


「他の施設を見に行くのではありませんか?」


「これだけ近代化した世界だから私たちの部屋にパソコンがあるはず。それで魔導剣士修練場施設内の説明が載っているホームページにアクセスできるわ」


「あの……セシルさん?」


初めて聞いた専門用語だらけで、リリアはなにも理解できない。


「ああ、そうね。この魔導剣士修練場がある世界は貴方の暮らしていた世界よりも数段階も技術や文化が向上した世界なの。その向上の過程で生まれたものの一つがパソコンという道具。私もあまり説明できないから実物を見ながら説明をさせて」


セシルに手を引かれ、リリアはただただついていく。


まだリリアを自らの思い通りにできるとセシルは確信していた。


今のリリアならセシルでもどのような心境なのかが分かる。


リリアは誰かに頼りたくて、不安で仕方ない。


だったら条件をつけて、リリアを助けてあげようとセシルは考えていた。


その間に二人は最上階のギルド専用フロアまで戻ってくる。


「ここよ、きっと」


ヴァイロンの表札がある隣の部屋に、確かに二人の名前が書かれた表札があった。


ドアノブを握り、部屋の扉を開ける。


「開いた開いた、入りましょう」


室内に二人は入った。


室内はホテルのツインルームに近い造り。


お風呂とトイレがセパレートで、キッチンもついている。


他にも薄型テレビや、ドレッサー、ソファーなど様々な家具が置いてあった。


「わあ、なかなか広いじゃない。良かったわねえ、リリア」


セシルは素直に喜んでいる。


様々な世界で放浪の旅をしていたセシルは、どこでも暮らせる性質があった。


郷に入っては郷に従う。


それだけでセシルは能力者としての素質が極めて高い。


「……ええ」


リリアの顔は強張っている。


城の自らの部屋に比べれば半分程度の広さなのに、その程度の空間になにもかにもが詰め込まれている。


微妙にリリアは吐き気を覚えた。


「どうしたの、体調が悪いの?」


「ええ、ちょっと」


すたすたとリリアは部屋にあった二人がけのソファーに腰かける。


その前にはソファーと同じくらいのテーブルが置いてあり、壁には薄型テレビが設置されていた。


「ああ、テレビが見たいの? これをこうするのよ」


小さなドレッサーに乗っていたリモコンを掴み、電源を入れる。


薄型テレビに映像が映った。


「もう今日は……これ以上は……私の分からないなにかにふれたくありません」


ソファーにうずくまり、リリアは目を閉じて動かなくなる。


「あら、頭がついていかないのかしら? それもそうね、私もこういう環境を知った時はなにがなにやらだったし」


そっと、リリアの隣に腰かけ、セシルはテレビを見だした。

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