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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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ギルド

広めの会議室内には、円形のドーナツ状に配置されたテーブルと椅子があった。


そこに一人の男性が腰かけ、ラップトップを開き、事務作業を行っている。


「あっ、どうも」


テーブルの椅子から男性が立ち上がる。


男性は迷彩の軍服を着込み、短髪で背が高くガッチリとした体格。


「隊長、その方たちは?」


「新しくギルドに入ってくれた仲間だよ。きっと、良い戦士に育ってくれる」


「はーん、そうですか」


顎に手を置き、リリアとセシルを眺める。


「あの……この二人は魔導剣士修練場で鍛錬を積んだんですよね?」


男性は違和感を覚えていた。


「いや、これから。魔導剣士修練場で鍛錬を積みつつ、オレたちの仕事で実戦経験を経て、強くなってもらう。そういう予定かな」


「えっ……」


明らかに引き気味の声を男性は発する。


「そんなことより、二人と自己紹介しなよ」


「はっ、隊長。自分の所属は……」


「そういうの、いいから」


「そうですか? それなら、オレの名前はヴァイロン。コードネームはイエティです」


「ヴァイロンさんですね。私は、リリアと申します」


「私はセシルよ」


「よろしくね、二人とも」


ヴァイロンは二人を大丈夫そうかな?と不安げな様子で見ている。


「ああ、そうだ。リリア、セシルもコードネームが欲しい?」


「必要ありませんわ」


スクイードの問いかけにリリアは即答する。


そんなものに必要性を感じなかった。


「なんか源氏名みたいでいいんじゃないの? そうねえ、私の源氏名は……リリアにするわ!」


「セシルさんは静かにしてください」


「それじゃあ、ヴァイロン君。今から指令を出そう」


スクイードは二人のやり取りをスルー。


「リリア、セシルにこの世界の説明や、この魔導剣士修練場の案内、基礎能力の測定、今後のギルドの方針などを伝えてほしい。いいね?」


「はっ、隊長。了解しました」


「ああ、あとオレは次の仕事があるから。今日は次の会議の資料作成とかメールでの確認とか色々としないといけないから、じゃそういうわけで」


さっさと会議室からスクイードは出ていく。


なにやらとにかく忙しそうだった。


「じゃあ、早速お二人さん。こちらに来てもらえるかな?」


リリア、セシルが座りやすいように椅子を二つ引く。


「ありがとうございます」


リリアが椅子に座り、セシルもその隣に座る。


「よっと」


ヴァイロンが傍らにあった椅子を片手に持ち、二人が座る位置と向かい合うためにテーブルを飛び越え、音もなく着地すると二人の前に椅子を置いて座る。


まるで体重を感じさせない動きにリリアはなかなかの技量があると悟る。


「この世界、二人は初めて?」


「ここがどこなのか私には全く分かりません。ここはエアルドフ王国ではないのですよね?」


「エアルドフ王国? ゴメン、その王国がどこにあるのか分からないや。でも、そういった状態の認識だとしたら空間転移は君が使ったのかな?」


ヴァイロンはセシルに声をかける。


「勿論、その通りよ」


「だよね。そうなると、セシルは三段階目だな。それと、リリアは二段階目」


「段階? それの基準って?」


意味の分からないセシルが即座に聞く。


「段階は四種類。魔力自体が身体に存在せず、当然魔法さえも扱えないのが一段階目。もしこの段階だとすれば流石に魔導剣士修練場を諦めてもらうしかない。ウチも義務や慈善事業じゃないから、見込みがなければ切るほかない。そういう商売をしているわけだから」


「だったら、私たちに言った二段階目と三段階目は?」


「二段階目は魔力が身体に存在していて魔法も扱える。魔力による戦い方も恐らく知っているけど、そこでストップな人。流石に能力者としては名乗れない。ここから、他の世界へ移動する能力、空間転移を習得し、その他の世界でも問題なく順応して生きていけるのが三段階目」


説明しているヴァイロンはどことなく楽しそうにしている。


女性と話す機会が少ない仕事柄、こうして自らが最も饒舌に話せる得意分野をその女性たちが興味津々で聞いてくれるのが素直に嬉しかった。


「空間転移、非常に興味がありますわ。それを習得すれば、私はエアルドフ王国に帰れるのですね」


「そういうことになるな。とはいえ、今後この世界での生活が自らの基準としてもらいたい。毎日自分の世界へ帰って、自分の家で暮らしますじゃあ連携や連絡が取り辛い」


「すぐに帰ったりなどしませんよ。必ず強くなってから私は皆のもとへ帰ります」


「ところで、腕は治さないの? それって不便じゃない?」


「治す? そのようなこと、できるのならとっくに……」


「それもそうだね、治せるようになるかはリリア自身の問題だろうし。治せるようになれば、リリアは四段階目になれるかな? 自らを知り、能力も駆使できる能力者はどこでも引く手数多。ここまで来たら魔導剣士修練場なんて必要ない。今後は自分自身との勝負だな」


「本当に治るのですね、この私自身の力で……」


「良かったわね、リリア」


未来への展望が見え始め喜ぶリリアと対照的な反応のセシル。


できればもう少し長く自分しか頼れる者がいない状態を維持していれば良かったと後悔している。


「それじゃあ、さっき隊長が話していた内容順に説明をしていくよ」


再びヴァイロンは説明を始める。


「この世界はとっても近代的だろう? リリアはともかく、セシルは空間転移を扱えるから詳しい説明はいらないかもな」


「ええ、私は必要ないわ。もし良ければ私がそういった説明をリリアにしてあげるから今は空間転移についてをリリアに説明してあげて」


「ああ、分かった」


ヴァイロンは頷く。


「空間転移の使用方法は主に三つ。これから行きたい目的地を指定する方法と、行先は不明だけど場所のジャンルを指定する方法。あとは空間座標の特定の術を徹底的に理解し、指定した先へピンポイントで移動する方法。前者の二つは簡単、後者は完全にプロ級レベルだね。ウチの組織でも指定できるのは隊長くらい」


「空間転移はどうすれば扱えるようになれますか?」


「この魔導剣士修練場で一週間くらい座学すれば覚えられるよ。勿論、前者の方をね。後者の方は毎日毎日魔力の鍛錬が必要らしいよ。オレもそこまでは扱えないから教えられない」


「そうなのですか」


「そろそろ話を聞くのも飽きてきただろうから次は身体を動かそっか。一旦、修練場まで行こう」


「ええ、そうしましょう」


三人は椅子から立ち上がる。


「そんじゃ、空間転移発動」


ヴァイロンが空間転移を発動。


それによって、周辺の風景が変わり始める。


会議室内から、トレーニングジムの施設内に三人は現れた。


ジム内には複数の利用者がいたが、誰も突然現れた三人に反応しない。


反応してもチラッと見た程度。


「これですわ、私はこういう風に以前と全く異なる場所にいつの間にかいたのです」


「今のがまさに空間転移だよ。これから能力者を名乗りたいのであれば、この能力を覚えて初めて認められる」


ある方向をヴァイロンは指差す。


そこにはサンドバックが吊り下げてあった。


「二人とも、一度あれを殴ってみてほしい。どれくらい腕力があるのか、体内の魔力流動がしっかりできているのか、そういった類が知りたい」


「御冗談を」


少し鼻で笑い、やれやれと言った反応をリリアはする。


「命なきものを思うがままに殴り倒す、それに一体なんの意味があるのでしょうか? 相対する者がいて初めて意味がある行為ではないでしょうか?」


「そう言われてもなあ……」


正直なところ、リリアは公共の場にあるサンドバックになんてふれたくない。


「私も基本これだから」


セシルは背負っていたリュックを降ろし、リュックからナイフを取り出す。


ナイフは武器として使用するタイプのものではなく、普通に食事用のナイフ。


「そういうこと」


なぜか、ヴァイロンにはそれで通じる。


「セシルって長くそういう生活しているの?」


「職業柄でね」


「リリアもそういう感じ?」


「私は……」


リリアは返答に困った。


そういう感じと聞かれても分からない。


結局、二人ともサンドバックには一度もふれなかった。

登場人物紹介


ヴァイロン(年令58才、身長187cm、魔族の男性、見た目の割りに慎重な性格、出身はエリアス王国。身体を鍛えるのが好き。ギルド内では肉弾戦系統の仕事や事務方作業を主に行っている。スクイードを隊長と呼ぶのは、今は亡きエリアス王国での階級からそのまま呼び方を変えないため。魔導剣士修練場の講師もしている)

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