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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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占い師

出発の準備にリリアは、一時間程の時間を要した。


部屋を出た時のリリアは手ぶらでなにも持っておらず、服装も先程と同じ紫色のドレス。


支度を終えたリリアは城門へ向かう。


そこには出発を待っていたエアルドフ、レトや兵士、メイドたちの姿。


「お待たせいたしましたね、皆さん」


至って普通にリリアは声をかける。


「リリアお姉様」


レトがリリアのもとへ行く。


「どうか、今一度のご再考をお願いします。お姉様にはこの城でともに過ごしていてほしいのです」


「貴方のお願いであっても、それはできません。御印となった者の宿命(さだめ)なのです。必ずや私は強くなり、再びこの城へ戻って参ります」


「お姉様」


止められないと理解したレトはリリアに抱きつき、泣き出す。


周囲の者たちも涙していた。


腕を切り落とされ、心身ともに擦り減っているだろう姫君が、たった一人で強くなるために城を出ていく。


そのような話は前代未聞であり、御印となったリリアが自らの考えでエアルドフ王国に住まう者たちを救うため、自らの命を犠牲にしようとしているのだと皆が思っていた。


言葉には出さないが、再び戻ってくるとリリア本人が話しても、もう二度と帰られぬと考えている者が大半。


「リリア、その……」


心なしか、おどおどしているエアルドフが声をかける。


「城下街で占い師を見つけてほしい。きっと、リリアに良き知らせを与えてくれるだろう」


「ええ、分かりました」


運を天に任せるよりかはマシか程度の考えでリリアは受け入れる。


にしては珍しいなとも、リリアは思う。


エアルドフは占いの類を一切信じていない人物。


「………」


リリア、エアルドフの会話を聞き、肩を落とした様子でレトがリリアから離れる。


レトの表情を見て、リリアは泣きそうになった。


それをなんとか、歯を噛みしめて堪える。


これが別れの辛さなのだと、リリアは初めて気づいた。


「では、皆さん。行って参ります」


リリアは姿勢を正し、綺麗な歩き姿で颯爽と城門から出ていった。


皆から見送られ、城下街へ向かって一人歩いていると……


「リリア」


セシルが建物の脇から姿を現した。


「セシルさん?」


そういえば忘れていたとリリアはセシルの存在を思い出す。


「さっきはごめんなさい。知らない人が来たから逃げちゃったの」


「あの人は私のお父様です。貴方を紹介したかったのですよ?」


「そ、そうなの。でも、私のことは紹介しない方が良かったんじゃないかしら?」


「そうなのでしょうか?」


「ところでさ、貴方一人でどこに行くの? 貴方はお姫様なのでしょう? 今日も一人で外出なんてして大丈夫なの?」


「問題ありません、これより私は今以上に強くなるための長い旅に出ます」


「んー、その旅に私もついていってもいい?」


「セシルさんが、ですか?」


「ええ、そうよ。貴方だって一人で旅をするのは寂しいはず」


「特に寂しくはありませんが、もし私についていきたいのなら構いませんよ。ただ、お忘れなきように。私は戦い、強くなるためにこれからの日々を生きるのです。貴方が危ない目に遭っても助けられぬかもしれません」


「なんだあ、そんなこと? それなら心配しないで。私も強いのよ」


セシルは笑顔で語り、くいっと右腕を肘から九十度くらいに曲げる。


力こぶを作っているようだが、細身の腕には筋肉が然程ついていない。


一般的な女性らしい細さの腕だった。


「セシルさんがそれならいいのですが、私は言いましたよ」


一応の注意を促す。


促したはいいが、本当はリリア自身も誰かに一緒に来てほしいと思っていた。


「それでさ、私もついていっていいのなら、私の家に一度来てくれない?」


「ええ、いいですよ」


二人は一旦セシルの家に向かう。


セシルも家で支度を整え、家を貸してくれていた大家の男性に挨拶をした。


「さあ、出発しましょう」


諸々の準備を終えたセシルはリリアの前に来る。


先程まで娼婦の服装をしていたセシルだったが、今では冒険者風の服装を着用している。


長袖長ズボンを着て、帽子つきのジャケットを羽織り、足にはブーツを履いている。


普通サイズ程度のリュックも背負っていた。


冒険者風というよりは、アウトドアな感じ。


「セシルさん、その服装は?」


「元々、旅は得意な方なの。私って色んな街の繁華街を渡り歩いているから」


やけに嬉しそうにセシルは語る。


問題なのはセシルが如何わしいことをして回っていたと、リリアの印象がより悪くなってしまった点。


「でもなんかなあ、私さ少しだけ悲しくなっちゃった」


「どうかしましたか?」


「私が持っているものはこれだけしかない。私の身体と、このリュックと中身……たったこれだけ。なんでも持っていてお姫様の貴方が心の底から羨ましいの」


「セシルさん……」


正直なにを言って良いのか、リリアは戸惑いを示す。


まさにセシルは赤貧洗うがごとしの生活を送っていた。


「だから私、貴方と旅をして色んなものが欲しいの。貴方の旅の目的とは異なるだろうけど、いいよね?」


微妙に恥ずかしそうにセシルは上目遣いでリリアを見ている。


「目的とはそれぞれ異なっているものですよ。では、セシルさん。行きましょう」


「行くって、これからどこに行くつもり?」


「まずは……お父様が占い師に会えとおっしゃっていましたので占い師を探しましょう」


「私、占い師ならどこにいるのか知っているよ」


「どこにおりますか?」


「最近、著名な占い師がこの王国に来た噂があったから多分まだいると思うのだけど。確か場所は市場辺りだったはず」


「そのような噂は聞いたことがありませんでした。お父様もその噂を耳にしたのでしょうか?」


とりあえず、リリアはセシルとともに市場に向かう。


以前リリアが市場に来た時よりも時間帯が朝方から少し進んでいたこともあり、市場には以前よりも人の数が少ない。


「えーと、どの辺りだったかなあ? 分からないわねえ」


占い師を探しているように見えても、セシルは市場の商品を適当に眺めている。


「リリア、欲しいものがあったら言ってね」


財布の中を見つつ、探していないのをわざわざ打ち明けていた。


「なぜでしょうか、セシルさんは面白い発想の持ち主なのですね」


端からセシルに頼る気のなかったリリアは一人で占い師を探す。


一人で市場内を見て歩いていると、リリアはそれらしき人物を見つけた。


路上の一角の壁沿いに机と椅子二つを置き、その片方に占い師らしき人物が座っている。


占い師は紫色の魔法使い風の服装を着用し、頭部には顔が隠れるベールを被っている。


ベールがあるため、目元までしか窺い知れない。


「どうぞ」


自らを見つめているリリアに声をかけた占い師は、もう片方の椅子へ手のひらを見せ、座るように促す。


「ええ」


リリアはそれに応じて、椅子へと座った。


椅子に座ってから気づいたのだが、占い師の傍にもう一人の人物がいた。


暇そうな表情で背中を壁につけている少年の姿があった。


少年は褐色肌で頭部に小悪魔のような二つの角を生やし、背中にも小さな悪魔の羽があり、細く黒い尻尾がついている。


やけに、少年は露出が多かった。


胸元が隠れる程度のバンドのような服を着用し、丈の短いレザーのホットパンツを履いている。


リリアにとっては正気を疑うレベル。


「貴方のお名前を聞かせてちょうだい」


少年に目が行っているリリアに占い師が声をかける。


占い師の声は女性とも、男性とも判断できる声質であり、衣装から見えている部分も目元だけともあり、性別が判別できなかった。


「私はリリアと申します、どうぞお見知り置きを」


「あら、随分と丁寧。いいの、そんなに気を使わなくても」


口元に手のひらを当てるような素振りをする。


占い師にとってはリリアの口調が面白かった様子。


「ああ、そうそう。貴方はどんなことを知りたいの? 聞かせてくれる?」


「どんな……そうですね。私の今後の展望や、また今後の道筋になるものを知りたいといったところでしょうか」


「ええっ、恋愛相談じゃなくて?」


「なんなのですか、それは」


「ふふっ」


意外な言葉に驚いている占い師の反応と素で苛立ちを見せているリリアの反応が面白かったのか、褐色肌の悪魔少年が笑っている。


「冗談よ、冗談。トークをして貴方の反応を見てみたかったの。ただそれだけのことで他意はないよ。それは置いといて貴方を占わせてもらうね」


早速、占い師は数十枚のカードの束を取り出し、机の上に置く。


タロット占いをしようとしていた。


占い師は特になんの説明もなく、タロットカードを一定の間隔に置いていく。


「あっ」


その途中で占い師はなにかを思い出す。


「すっかり忘れていた。ようこそ、アルテアリスの館へ」


「いい加減怒りますよ」


「普段は館で占いをしているの。今はこうやって出張占い中。そのおかげで私たちは出会えた、そういう偶然って貴方も神秘的だと思わない?」


「早く占ってください」


「貴方は占いを信じていないのかな。ちなみにアルテアリスは私の名前なの」


それから占い師アルテアリスは静かにタロットカードを一定間隔に置いていく。


「ちょっと貴方、これを見て」


一枚のタロットカードを指差す。


「これがこの位置にあるから、貴方はこれから強くなりたいと願っているのだと思う。でも見た目からして高貴な身分の貴方が強くなりたいと考えているとは到底思えない。だから今以上に美しくなりたいと感じているのかなと思ったの。どうかな?」


「ええ、まあ」


「簡単に言うと強くなりたいのなら魔導剣士修練場がいいよ。美容の話だったら家に帰って召使いにでも頼んでみるのがいいかな。あと腕は治るそうね、良かったじゃない」


「そ、そうなのですか?」


そっと、リリアは斬られた左腕側の肩を掴む。


「貴方、占い信じていないよね? だからこそ簡単に言わせてもらうけど……貴方には死相が出ている。長くてもあと四年だね、まず間違いなく確実に死ぬ」


「………」


言葉もなく無言でリリアはアルテアリスを見ている。


「回避する方法は強くなること……なにこれ、さっきから意味分からない。多分、召使いに任せっきりなのがいけないと思う。右から左にものを動かすくらいは一人でやりなさいってことじゃないの? それで貴方の命が救われるのならサイコーね」


「百キロくらいのものなら片手で持てます」


「なにそれ、意味分からない」


アルテアリスは随分適当な占いをしていたが、リリアは一応の道筋を掴めた。


先程語られた魔導剣士修練場という場所に行くことを決める。


「占ってくださり、ありがとうございます。私はその魔導剣士修練場へと行ってみたいと思います」


「あー、ちょっと待ってね」


アルテアリスではなく、褐色肌の悪魔少年がリリアに声をかける。


「先に断っておくけど、そこは花嫁修業をする場所じゃない。軽い気持ちで行くと大怪我をするどころじゃ済まないよ」


話ながら、悪魔少年はリリアに近づいた。


「聞いていて分かったよね、この人は適当に話している。でも、安心して。この僕、シェラならこんな詐欺師の占いよりも、とってもいいことを教えてあげるから」


非常にナチュラルにリリアの手を取る。


拒否反応が強かったリリアだが、手を取られた瞬間に考えが変わり、椅子から立ち上がった。


「止めておいた方がいいよ」


タロットカードを片づけながら、アルテアリスが語る。


「その子は、インキュバス。子供が欲しいならついていっても構わないけど。ちなみに私や貴方よりもお年寄り」


「お年寄りっていう言い方は止めてほしいかな」


二人の話す様子を見て、リリアはシェラから手を離させる。


「ところで、占いは一回おいくらなの?」


「今回は無料で構わない、貴方に対しての占いは意味が分からないことが多かったし」


「そうですか、ありがとうございます」


軽く礼をして、さっさとリリアは二人のもとを離れた。

登場人物紹介


アルテアリス(年令210才、身長166cm、種族不明、出身不明。人と話すのが好きな性格。総世界でも著名な占い師で、総世界各地に弟子がいる。タロット占い以外の占いもできる。コールド・リーディングが得意。副業でとある大企業の代表取締役の一人となっているが、会社に興味がない)


シェラハ12世(年令351才、身長140cm、インキュバスの男性、出身は魔界。男女をたぶらかすのが好きな性格。幼い外見だが、魔界の魔王階級者の一人。種族の割りに私的な理由での行為を絶対にしたがらず、仕事の時だけ対応する。他種族同士でも子供を宿せるようにできる能力を総世界中で唯一持っている。愛称はシェラ)

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