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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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魔導人

封印により、デミスが姿を消してからもリリアは自らの斬られた左腕を静かに眺めていた。


「リリア、とりあえずデミスはいなくなったな」


リリアの肩にポンとセヴランは手を置く。


「エアルドフにこのことを……」


一安心しているセヴランがのんきに話していると……


「リリア姫様ー!」


修練場内にいた兵士たちが絶叫に近い声を上げ、リリアのもとへ殺到する。


自国の姫君が攻撃を受け、身体の一部が切断されていた事実に兵士たちは途轍もない衝撃を受けていた。


セヴランは簡単に押しのけられ、リリアは即座に修練場内にあった担架へ寝かされた。


「リリア姫様、安静になさってください。今すぐにお部屋へお送りします」


「ええ、お願いします」


至って普通の反応をするリリア。


対称的に気が気でない兵士たちはリリアを担架に乗せ、リリアの自室へ向かった。


少しの間をおいて、リリアの自室へやってきた医者はリリアの片腕がない姿を見て卒倒しそうになった。


だが、なんとか堪えてリリアの怪我の処置を始めた。


王国の姫君が片腕を切断されたなど、一国を根底から揺るがす大事件に他ならない。


この事件の話題は城中で持ちきりとなった。


「リリア!」


自室で処置が終わったリリアをエアルドフとレトが訪ねる。


二人とも心底心配していた様子。


リリアはベッドに寝かされた状態で二人に対応する。


「リリア、腕が……」


「ありませんね」


至って普通にリリアはベッドに寝かされた状態で答えた。


毛布から斬られた方の腕を少し掲げる。


静かにリリアへとエアルドフは近づき、リリアを強く抱き寄せた。


「生きていてくれて本当に良かった」


エアルドフは涙を流す。


「まさか、この私が死ぬなどとお父様は思っていたのですか?」


「その程度なら平気で行える者を相手にしていたのだ」


「どうやら私は攻撃を受ける際にどのような対処を行うべきなのかを理解していなかったようなのです。彼の者のような強さを有する者が彼の者以外に現れなかったのが原因でもあるのでしょう」


「リリア、もう止めなさい。これ以上、私のリリアが傷つくのを見ていられない」


「ご安心ください、私は今以上に強くなります。それを阻む権利は例えお父様にもありません」


「……そうか」


リリアから離れると、エアルドフはレトの方を見る。


「レト、少しリリアと二人にさせてくれないか?」


「分かりました」


レトは心配そうにリリアを見つめていた。


エアルドフに部屋を出ていくように言われたが、一度リリアに抱きついてから部屋を出ていった。


「リリア、お前にはデミスという男がどのように映った?」


「最初はどのような悪党なのかと思いましたが、私の思い描いていたものとは異なる印象を受けました。あの者は確かに私たちを殺すと、そう語りました。確かに見ての通りですが」


毛布から切断された側の腕をリリアは見せる。


「あの者のことは……実はこの私にもよく分からないのだ。好戦的さを窺わせること、長らく封印され続けていること、そして魔導人だということしか分からない。リリアにも分からなかっただろう?」


「ええ、まあ。封印する以外には対処する方法のない悪党だと思っていましたので……よくよく考えてみれば、この私に手を出した時点で国家反逆罪により極悪党でしたね」


リリアは身体を起こそうとする。


「リリア、まだ寝ていなさい」


そう、エアルドフに言われ、リリアは身体を起こさず静かにしている。


「そういえば、魔導人とはなんなのでしょうか?」


「古の時代、我々を皆殺しにするために生み出された者たちだ」


「そうなのですか。あの者が話した内容は歴とした事実だったのですね」


「だが、私はあの者が我々のいずれかの者を実際に殺害したところを見ていない。プリズムの時も、その前任者の時も笑顔で我々を迎え、寂しそうに封印を受け入れていた。幾度か会ううちにそのような者ではないと私も思い込んでいた」


「決めました、お父様。御印となったこの私がデミスさんを討伐しましょう」


「セヴランがいなくなっている辺り、そうなのだろうと思っていたがやはりそうだったか。するなと私が言っても意志を変えるつもりはないのだろう?」


「デミスさんにはこの腕のお礼をしなくてはなりません。その前にこの腕を治さなくてはなりません」


「リリア、本当は……お前が気がつくまでこんなことを言いたくなかったのだが……」


エアルドフは今までリリアに話さなかったことを語ろうとした。


「お父様……すみません、私眠くなってきました」


「ああ、そんな気はしていた。今はゆっくりお休みなさい」


言い終えるとリリアはすぐに寝に入る。


リリアの寝顔を少し間、見ていたエアルドフはリリアに小さく声をかけた。


「リリア」


リリアは既に眠っていたので反応はない。


「やはり、強がって見せても本当はデミスが怖くて堪らなかったのだね。リリア、君の腕が治る頃には君は自分が何者なのか、私たちがどういう存在なのかを知ってしまうだろう。私はそれが悲しい」


エアルドフは部屋を出て行こうとする。


その時、ベッドの下辺りが気になった。


ベッドの下には、セシルが隠れていた。


セシルは夜型の生活をしていたのでこの時間帯は起きていない。


エアルドフにはセシルの服の一部分だけが見えていた。


リリアの性格上、ベッドの下に服など置こうはずがないのをエアルドフは理解していたが、見過ごしてしまった。


それから時間が経過して翌日になってもリリアが目覚める気配はなかった。


なぜか、エアルドフはリリアの目覚める気配のない理由を知っているらしくリリアへの面会は全ての者が制限された。


ただ、一人を除いて。


それは当然、存在自体を知られていないセシルである。


リリアがデミスに敗れてから、二日が経過した日の朝。


珍しく夜型のセシルが早朝から起きていた。


「リリア、今日の朝も起きないのね」


リリアの眠るベッドの傍らに立ち、寝顔を見ている。


問題なのは心配している様子がないこと。


「貴方の腕、見たわよ」


ベッドに乗ってリリアの脇に這っていき、リリアの顔を間近で覗き込む。


「可哀想に、傷物にされちゃったのね。あんなに元気の良かった貴方が腕を失ってしまい意識も戻らないなんて……一体どんな仕打ちを受けたのかしら?」


セシルの言葉に、リリアはなにも答えない。


「でも、大丈夫。貴方がお人形さんになってしまっても私がもらってあげるから」


リリアから毛布を剥ぎ、セシルはリリアの腹部辺りに馬乗りの形で座る。


リリアは着替えをせずに眠り始めたため、普段着ている紫色のドレスをまとったまま。


「ドレスかあ……こういうドレスって私には一生縁がなさそうね」


ガッカリしたセシルは気持ちを盛り上げようとリリアを抱き締め、自らの頬をリリアの頬に擦りつける。


少しの間、セシルはリリアにくっついていたが、顔を離してリリアと口づけを交わす。


と、同時にリリアの目が開いた。


「ウソっ……」


驚いたセシルは上体を起こし、リリアから離れる。


「私とのキスで目が覚めるなんて……凄い! 奇跡って本当にあるものなのね!」


「あの、セシルさん? 退いてくださるかしら?」


「分かったわ」


名残惜しそうにリリアの腹部に腰かけていた状態からリリアの傍らに寝そべる。


寝そべってからはリリアの切断された方の腕を、ゆっくり擦っていた。


「セシルさん、なにをしていたのですか?」


「それはもう貴方のことが心配で心配で。貴方の身体にふれていないと気がどうにかなりそうだったの」


「そうなのですか」


聞いた割にはどうでも良かったリリアは軽く話を流す。


「さて、私はそろそろ準備を致しますので、ベッドから離れてくれませんか?」


「準備? なんの?」


「強くなる準備です」


リリアはベッドから起き上がる。


「強くなるってどういう……」


セシルが困惑を示したが、特に気にせずリリアは部屋を出ていこうとする。


「リリア、ちょっとどこ行くの?」


目覚めてからすぐに行動に移ったので、セシルは反射的にリリアを追いかけようとした。


その間に部屋の扉をリリアが開く。


そこにエアルドフが急いた様子でやってきた。


「あら、お父様。奇遇ですね」


「良かった、目覚めたのだね、リリア。心配したんだぞ」


「それはありがとうございます。それよりも私、しなくてはならないことがあります」


「リリア、お前が御印の責務を負う必要はないのだ。今日中にでもデミスを呼び出し、私がお前の代わりとなろう。その後のことはなにも心配しなくていい」


「それでは私の気が済みません。この腕を治し、そして私は強くなり、彼の者に勝利するでしょう」


「しかし、四年程度しかないのだぞ」


エアルドフはリリアの前で涙を流す。


最初はリリアなら話を聞かないだろうと御印となることを認めかけていたが、この二日の間に気をもみ、感情が発露してしまった。


その父親の姿に強い衝撃をリリアは受けた。


自らを強く思い、涙する父親の姿を見たのは、リリアにとって初めてだった。


「お父様、なにも別に私がデミスさんと次回も一騎打ちで相手をするわけではないのです。デミスさんは私が強くなり打ち倒すか、私以上に強き者を連れて打ち倒す、この二つを提案しました。この城にただいただけでは、私は今以上に強くもなれず、私以上に強き者を見つけることも叶いません」


エアルドフに近寄り、リリアはハンカチでエアルドフの涙を拭う。


つい先程までハンカチをリリアは持っていなかったはずだった。


「それに四年という期間もなにを基準に導き出したのかは分かりませんが、もし本当に四年だとするのならこの城で無為に過ごすのは得策ではありません」


「リリア、成長したんだね」


「ええ、私も今年で二十才になりましたからね」


「そうだった……そうだったね」


エアルドフはどことなくぎこちない。


「リリア、もう君は行ってしまうのかい?」


「そのつもりです」


「では、たまにはこの城に帰ってきてほしい。いいね?」


「分かっております。ここが私の家ですから」


ふと、リリアは自室内を見る。


丁度良かったのでリリアはセシルを紹介しようとした。


しかし、先程までいたセシルは室内にはいなかった。


「あれ?」


リリアは机の方を見た後に、少ししゃがみベッドの下を覗く。


どちらにもセシルの姿はない。


「リリア?」


「ああ、いえ。なんでもありません」


「別れは悲しいものだ。だが、もうリリア、君を引き留めることはしないよ」


エアルドフからの許しを得られたリリアは旅立ちの準備を始める。

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