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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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初戦

数分後、三人は修練場へ辿り着く。


まだ早朝だったので、修練場には数名の兵士の姿しかない。


「リリア姫様」


リリアの姿を確認した兵士たちはひざまずく。


「お早うございます、皆様。少しの間、使わせてもらいますよ」


「リリア姫様、そちらの方々は?」


「ああ、貴方方も知らないのですね? こちらの方は、セヴランさんとデミスさんです。皆様は各々の鍛錬を勤しみなさい」


「リリアさん、貴方は姫君であられたのですね」


「ええ、そうですよ。それよりも貴方。これから私が貴方を倒すのですよ?」


「どの程度の実力者なのか、確かめさせてもらいますよ」


屈託のない笑顔でデミスは語る。


戦う前の者とは思えない姿だった。


「この者は本当に封印をされるような行為を行った者なのでしょうか?」


言葉には皆殺しという敵意を(にじ)ませる表現を含ませたとはいえ、行動にはまるでそれがない。


本当に悪党ならばとっくに攻撃をしているはず。


「では、リリアさん。どうやって戦いますか?」


「勿論、決まっております。一対一の決闘です」


デミスに向かってリリアは右の拳を突き出す。


リリアの行動にデミスは白い歯が見える程の笑顔を見せた。


「そんなことを語った契約者は久しぶりだ。十数体目振りといったところだろう。戦うと語っていたがお嬢様だからか、簡単な賭けっこかお遊戯での勝負かと思っていましたよ」


「あそこで戦いましょう」


すっと、修練場の広いスペースを指差す。


よくリリアが兵士長をボコボコにするため好んで使っている場所だった。


「広いところはいいですね、戦いやすい」


指差された方向に向かい、デミスは歩を進めようとする。


「あっ、そうでした」


振り返り、リリアに手を差し出す。


「リリアさん、お連れしますよ」


「ありがとう、でもその必要はありません」


差し出された手に握手をし、そう語るとリリアは手を離してさっさと歩いていく。


二人は指定した場所まで行くと向き合う。


「ではどうぞ、リリアさん。かかってきなさい」


デミスは構えの姿勢も取らず、両腕を降ろしたまま。


なんの警戒もしていない。


「えっ……ええ」


微妙な反応をリリアはする。


「ああ、そういえば」


リリアはセヴランの方を見る。


それに反応したデミスもセヴランを見た。


と、同時にリリアは速攻を仕かける。


上体を低くし、デミスの胸目がけてタックルを加え、デミスの両太腿を掴み上げ一気に背後へ押し倒す。


デミスが押し倒される際に、リリアは太腿へ回した右手をデミスの顔面に回すと押し込み、背後へ倒れる勢いそのままに頭部を床へ叩きつけた。


「よいしょっと」


立ち上がり、リリアはデミスから距離を取る。


この一連の動作は初めて自らの指導役についた前々兵士長を一撃で葬った流れ。


普通にリリアはこれで勝てたと思っていた。


「どうした?」


床に両手をつけ、上半身を起こすデミスは不思議そうな表情をしていた。


ゆっくりと、デミスはリリアを見つめながら立ち上がる。


見ているのは次の攻撃を警戒しているからではない。


「痛くないのですか?」


「あっ……ああ、痛いよ」


なぜか返答に若干の時間差があった。


返答の後、デミスは思いついたように首筋を片手で押さえる。


衝撃を与えた個所が頭部だったのにもかかわらず。


「無事なようでしたら次の手を」


「えっ? ああ、どうぞ、リリアさん」


気さくにデミスは語った。


その声とともにリリアは駆け出し、デミスを軽々と超える跳躍をする。


デミスの真上に来ると両足をデミスの首筋に絡め、背面へと仰け反らせた。


そして、リリアの両手が床に着いた瞬間、一気に両手両足のばねを駆使し、デミスを一回転させ、うつぶせの状態で床に叩きつける。


明らかに人間のできる動きではなかった。


「初めてやってみましたが、上手くいきましたね」


この攻撃にリリアは自信があった。


だが、デミスは床に両手をつけ、身体を起こす。


「どうした?」


先程見た不思議そうな表情をしていた。


「………」


流石のリリアも表情には表さなかったが恐怖を覚えた。


頑丈にできているとかそういったレベルを既にデミスは超えていた。


その間にデミスは立ち上がり、服についた埃を払う。


「どうぞ、リリアさん」


「あの、デミスさん」


「どうしましたか?」


「貴方はどうして待っているのですか?」


「待ってなどいませんよ、リリアさん。もう既に戦いは始まっているのですから」


「ですが、現に貴方は……」


「オレはリリアさんの実力を見ています」


デミスは腕を組み、頷く。


「武の極みを望む同志として、オレにでき得ることがなにかを知ろうとしています。オレの考えは他の者たちとは異なるのです。両種が共存のため、互いに強者の高みへ前進するのを阻もうなどしない」


「?」


唐突になにを言いだしているのだろうとリリアは思った。


「リリアさんはこれからもっと強くなる。今回の手合わせでそれは確かに分かりました。ただ、貴方は優し過ぎる。オレへの攻撃に手を抜いていないにもかかわらす、その後の追撃の考えが一切ないのは優しさが原因なのでしょう。圧倒的に経験不足、それはやはりお嬢様だからでしょうか?」


ようやくデミスは構えの姿に移行する。


「やっと戦うのですね」


「そうですね、リリアさん。そうだ、先程からどうしても聞きたかったことが」


「なんでしょうか?」


「なぜ、このオレの封印を解こうと、そして封印の契約者に自ら進んでなろうと……」


この瞬間にデミスはスタートする。


警戒していたはずのリリアはわずかな間、話に気を取られてしまい即座に間合いへと入られてしまう。


先程リリアがデミスに対して行った対応と、全く同じ手法で仕かけていた。


デミスはストレートのジャブをリリアの顔面に打ち込む寸前で止める。


攻撃を受けたと思ったリリアは身体が硬直し、動きが止まった。


その間にデミスはリリアの左腕を掴み、手刀で左腕の肘辺りから一瞬で斬り落とす。


リリアは静かに肘から先がなくなった血の吹き出す左腕を眺めていた。


「リリアさん」


はっとした様子でデミスを見る。


まだ敵は目の前にいるのに自らの身に起きた事態に頭がついていかない。


「目標を常に意識できる、それはとても大事なことです。まずはその腕を治すところから始めなさい。ただの一度攻撃を受けてしまっただけで目前にいる相対する者を忘れ、自己に対しても思考停止などしてはならないのです」


斬り落としたリリアの左腕をデミスは拾い、左腕から紫色のオペラグローブを取ると、それでリリアの切り口付近を縛って止血した。


「リリア、そのさ、封印……」


リリアの背後まで来ていたセヴランが肩を手で叩く。


セヴランの声は震えていた。


「リリアさん、封印の仕方はオレを封印したいと強く念じるだけで可能です。勿論、封印を解く際も同じく封印を解きたいと強く念じてください」


少しだけ説明口調でデミスは語っていく。


「リリアさんの年令は……」


そこまで語ってから少し間を置く。


「大体20才くらいですかね? 封印ができる期間は約4年なので、それまでに強くなってオレを倒すか、強い人を見つけてきてオレを倒させるかをしてくださいね」


「待ってくれよ、それってプリズムの時とは話が違うじゃないか」


セヴランが声を発する。


「十数体振りに好戦的な者が現れたんだ。オレが自ら望んで封印されているのはこの時のためだ。第一に……」


途中まで言いかけてから、デミスは言葉を止める。


そして、デミスは持っていたリリアの左腕をリリアに手渡す。


「封印を受け入れる、封印をしてほしい」


「……封印します」


リリアは自らの左腕を受け取ってから、デミスの封印を強く念じる。


一瞬のうちにデミスは修練場から姿を消した。

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