表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
154/296

封印の正体

自室を出たリリア。


回廊には顔色の優れないハイラムが直立していた。


「ハイラム。さあ、お父様のもとへ行きましょう。ああそれと」


メイドへ視線を移す。


「貴方ともあろう方があのような態度を見せるのはとても良いとは言えませんわ、気をつけてもらわないと」


「申しわけありません、以後気をつけます」


「そう、なら良いの」


リリアは笑顔を見せる。


「ハイラム、聞こえましたか? 以後気をつけましょうね? 以後となる期間があるのでしたらですが」


「は、はい……」


特に暑くもないのにハイラムの汗が止まらない。


「貴方はもう休んでいいわ」


そのようにメイドに語り、ハイラムとともにエアルドフの自室に向かう。


「お父様」


エアルドフの部屋にリリアは入った。


「リリア、良かった。私のために戻って来てくれたのか」


エアルドフは病に臥せったかのように自室のベッドで横になっている。


室内には複数のメイドと医者の男性がいた。


どの者たちもエアルドフを心底心配している様子であるのが見て取れる。


「お前は本当に優しい娘だ。いつも私のことを考えていてくれる」


ありえないことをエアルドフは語っている。


「皆さん、一度部屋から出て行ってくれないでしょうか?」


そんな戯言には耳を傾けず、リリアは周囲に人払いをする。


流石にエアルドフをそのままにできないという反応だったが、リリアの言葉でもあるので部屋から出ていった。


「お父様、なにをしておいでなのですか?」


「お前が出ていったショックで、とても正常ではいられなかったのだよ」


「私はお父様に騙されたと知り、ショックを受けました」


「騙した……?」


エアルドフは不意討ちを受けたような表情をしている。


「お父様がロイド先生にお会いしろとおっしゃったではないですか?」


「そうか、ロイド先生か。確かにそうだったな」


「ところで、お父様。私になにかお話があるそうですが」


「リリアにどうしても会いたかったのだ」


「ふっ、そのようなこと……いつもお会いしているではありませんか」


「今回は特別だ。まだ嫁入り前の娘を一人、城外に出してしまったなんて私はもういてもたってもいられなかったのだ」


「そのようにおっしゃるのなら、最初からあの役に立たぬ者どもを私の連れ合いになされば良かったではないですか。それよりも、お父様。本日は私からも伝えたいことがあります」


「なにかな、リリア? 話してごらんなさい」


リリアは軽く頷く。


そして、リリアは部屋の扉を開き、外で待っていたハイラムに呼びかける。


「来なさい、ハイラム」


「はい……」


顔色の悪いハイラムが部屋に入ってきた。


「ハイラム大臣?」


「お父様、聞いてください。私、支持者を得ました。ハイラム大臣です」


「支持?」


エアルドフもハイラムも似たような反応をする。


「私を次期御印にとの支持者です」


「そ、そのようなことは……」


明らかにハイラムは狼狽えている。


ハイラムの様子から、なんとなくエアルドフは理解する。


「ハイラム大臣、一度下がりなさい。きっとなにかがあったのだろうが、もう忘れなさい」


「は、はい」


ハイラムは部屋から出ていった。


「リリア、御印になりたいのだな?」


「ええ」


「それは認められない。なぜお前がなってはならないのか、その理由を今から話そうと思う」


エアルドフは上体を起こし、リリアに手招きする。


エアルドフのベッドへリリアは腰かけた。


「御印とは私たちを不幸にする存在を封印により閉じ込める手段なのだ。御印の命を媒体にな。まだ若いリリアには到底任せられないものなのだ」


「命を媒体? 私はその程度受け入れる覚悟です」


「それでも駄目なのだ。封印に適用される時間がその魔力……いや、なんでもない。リリアに任せるなどできない」


「頭ごなしにできないと申されましても……そういえば私、御印になることばかりに気を取られておりましたが、一体その不幸にする存在とはなんなのですか?」


リリアは口元に手を置き、考え出す。


「それに思い返してみれば、プリズム様から御印の役目を受け継いだ方はどなたですか? 私が次の御印となりますので話をつけねばなりません」


「リリアはなれないが、既に御印の役目の者はいる。必ず存在しなくてはならないのだからな。今の御印はリリアの叔父にあたる人物だ」


「叔父様……ですか? お父様に叔父様がいたのは初耳ですね」


「そして、不幸にする存在とは、とある一人の男だ」


「ん?」


リリアは首を傾げる。


「そういうのは、なにかその……国土が荒廃するような現象や疫病などの厄災的なものではないのですか?」


「いいや、一人の男だ」


「なぜそのような者を長々と封印しているのですか? 明らかに無駄ではないですか」


「こればかりは仕方がない」


「まあ、仕方がありませんね。その意味が分からない話につきあって差し上げましょう。私が次の御印となりますわ」


「いくらなりたいと言ってもできない。御印になるにはその男からの了承が必要だからだ」


「了承……?」


「リリア、私は少し疲れた。部屋に戻ってほしい」


「え、ええ」


また明日に聞けばいいかと思い、さっさとエアルドフの部屋を出ていく。


エアルドフの部屋から回廊へ出ると、ハイラム大臣が姿勢正しく立っていた。


リリアが出て来るのを待っていた様子。


「リリア姫様」


「私の役には立てませんでしたね」


「申しわけありません……」


「例え、お父様が許したとしても私はそうでないと頭に入れておいてください」


「はい……」


「そういえば、ハイラム。お父様の叔父様は今どちらにいるのですか?」


「叔父様……? 確かにそのような方がおりました。最近になって私は初めてお会いしましたので、ほとんどなにも分からないのです」


「分からないはずがないですよね?」


リリアは不機嫌そうな表情になった。


「それが本当なのです。私はエアルドフ国王から兄弟はいないと聞かされておりましたから」


「……叔父様は今どちらに?」


「お会いになられますか? では、御案内致します」


「そうですねえ、このミラディ城にいらっしゃるのでしたらなにも急いで会う必要はありません。お会いするのは明日にしましょう。ハイラム、明日私の部屋を訪ねなさい。分かりましたね、さあ下がりなさい」


「分かりました……」


顔色の優れないハイラムが去っていく。


「全くあの者は使えませんね」


愚痴を語り、リリアは自室へ戻る。


自室に戻ったリリアは違和感を覚えた。


セシルの姿が室内になかったから。


「セシルさん?」


ふと、視線が机の方にいく。


机の上には一枚の紙が乗っていた。


紙には勝手にいなくなることへの謝罪と、また会いたい旨がとても綺麗な字で書かれていた。


「そんな……セシルさん」


すたすたと歩いて、ベッドの下を覗く。


ソファーにあったクッションを抱き締め、セシルが安らかな寝顔で寝ていた。


「短い間柄ではありますが、貴方をなんとなく分かったような気がします」


少しだけ安心し、リリアは部屋を離れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ