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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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帰宅

セシルが男を引っかけに行ってから、三十分程の時間が経過した。


流石に暇になってきたリリアは軽めの運動くらいはしようと考え始めていた、その矢先。


「ああ、ほらほら、ちゃんと私の言った通りにいたでしょう? これから貴方は私たち二人を自由にできるのよ」


やけに明るいセシルの声が背後から次第に近づいてくるのが聞こえてきた。


セシルの家のある側を向いていたリリアはセシルの他に背後に誰がいるのか分からない。


「そうか、あの女がお前よりも美しい女なのだな? お前の言っている通りなら、良いだろう。お前と一緒に買ってやるぞ」


「ん?」


年を取った男性の下卑た声が聞こえた。


この話し声にリリアは聞き覚えがあった。


そこで振り返ろうとした瞬間、セシルと話していただろう男性に背後から抱きつかれる。


両胸を強く両手で揉まれ、顔を摺り寄せてくる若干酒臭い男性に殺意が芽生えた。


「にしても、こんな紫一色の服を着ているなんて相当の変わり者だな。まるで……」


「ご機嫌よろしゅうございましたか、ハイラム大臣」


顔を少し動かし、リリアとハイラム大臣の目と目が合う。


「あえ……」


一瞬で顔から表情が消える。


数秒後には顔面蒼白に至り、身体の震えを止めたくても止められない程の恐慌状態に陥っていた。


「一体いつまでそうしておられるのですか?」


「ああうう……」


最早、声も出せぬようで足元から崩れ落ち、リリアの足元で頭を下げる。


それに続いて、リリアもしゃがみ、ハイラムの頭部を掴み上げる。


「ハイラム、聞きなさい。私、生まれて此の方これ程に恥辱を受けたのは初めてです。相当の変わり者と呼ばれたのも初めてです。国政を担う者として調べたので今回のこの件は私にも分かります。これは不敬罪というものですね?」


可哀想なくらい怯えているハイラムに言葉を続ける。


「まさか、私の初めての仕事がハイラムの一族郎党を……」


「リリア姫様、何卒お許しください……私にできることならなんでも行います……」


「それはなによりです」


ハイラムの傍から立ち上がり、路地の壁に近づく。


「ハイラム、見なさい」


リリアは壁に手を置くと、掴み取った。


固い壁がいともたやすく抉り取られていた。


「約束を違えれば貴方の全てはこうなります、それだけは約束しましょう」


抉り取った壁の一部を握り締め、手を開く。


壁の一部だったものは全て粉となっている。


それは、ストレートに殺すと言っているようなもの。


「あらら、知り合いだったの。これは気不味くさせてしまったわねえ」


さっきからこの光景を見ていたセシルが特に問題なさげに話している。


「こればっかりは仕方ないわ。大丈夫、今日は私に任せなさい」


リリアの肩にセシルは手を置く。


「セシル、貴方は少し他の人とズレているのでしょう。そんな気がしました。そうだ、貴方の家にこの者を一度連れていっても構わないでしょうか?」


「ベッド一つしかないよ?」


「そういう意味ではありません。人目にふれるのは避けましょう」


足腰立たなくなっているハイラムをリリアは背負い、セシルの家に向かう。


セシルの部屋に行くと、ハイラムをベッドの前の床に座らせた。


リリアはベッドに足を組んで腰かける。


「ハイラム、ちょっと聞かせてほしいの」


「は、はい、リリア姫様」


「私、お城に帰りたいの」


「左様でしたか……しかし、なぜこのような場所に?」


「お城までの道が分かりませんでしたの」


「そうでしたのですか……」


この城下町では、基本中の基本といえる常識がいくつかある。


その一つ、ミラディ城はどの建物よりも大きく一番目立つ建物だということ。


大きい建物を目印にしてなにも考えずに歩いていけば誰でも城に辿り着ける。


リリアが本気でそう話しているのかが、ハイラムには分からない。


「では、今すぐにでも帰りましょう、リリア姫様」


「ええ」


「リリア、お城に行くの?」


なにをやっているのか気になっているらしくセシルはベッドに腰かけているリリアの隣に座る。


「そうです」


「あの、リリア姫様? 先程から気になっていたのですが、そちらの方は? 明らかに娼婦だとしか……」


「この方はセシル“さん”です、職業は見ての通りでしょう」


あえて、リリアはセシルに敬称をつける。


自らも本心では下に見ているが、他の誰かが下に見るのは許せない。


「リリア、私ってお城に行くのは初めてなの。どうしたらいいかしら?」


なぜか、セシルもミラディ城に行こうとしていた。


未だにリリアがエアルドフ王国のリリア姫だと気づいていないのが原因。


セシルはリリアがミラディ城に行こうとしているから一緒についていこうとしている。


「貴方にはお礼がしたいと思います。私と一緒にお城に来てほしいの」


「えっ? 今から行くの?」


それから三人は家の外へ出ていく。


「では、リリア姫様、セシル様。城までご案内を務めさせて頂きます……」


顔色の悪いハイラム大臣を先頭にリリア、セシルはミラディ城の城門まで進む。


「ようやく、私の城に帰って来れました」


リリアの中ではミラディ城はリリアの所有物。


それを普段から思っているせいか、普通に言葉にしてしまっている。


「リリア、本当にお城に来ちゃったね。どうするつもり?」


セシルは相変わらずリリアが姫とは気づいていない。


「リリア姫様、少々お待ちください」


ハイラムはリリアに一度声をかけてから城門へ近づく。


「開門せよ!」


ハイラムの命で、城門が内側から開き出す。


「では、リリア姫様。城内へお入りください」


「ええ」


差していた日傘を畳み、すたすた歩いて城門内へと入っていく。


「ハイラム、貴方も続きなさい」


「分かりました……」


これからを思い浮かべているのか、ハイラムには悲愴な表情が窺える。


城内に入ったリリアたちを複数の兵士たちが待っていた。


「リリア姫様、お帰りをお待ち申しておりました」


兵士たちはひざまずき、声をかける。


「私もミラディ城に帰れて安心しております」


「お帰りになられて早々で大変申しわけないのですが……」


ハイラムはリリアに覇気のない様子で語る。


「エアルドフ王にお会いして頂けないでしょうか?」


「ええ、勿論会いましょう。私もそのつもりでしたの」


「ね、ねえ、リリア。王様にも会うの?」


「ええ、そうです。これからお父様に会うの。私がこうして城へ帰られなくなってしまったのは全てお父様が悪いのです」


「もしかして貴方ってお姫様なの? ここの?」


「そうですが?」


「あの……私、帰るよ。迷惑をかけちゃいそう」


ようやくセシルは悟る。


城まで来た時点でもうとっくに迷惑をかけているが、早いところ帰ろうとする。


「いいから」


リリアはセシルの腕を掴み、手を繋ぐ。


なんの礼もせずにセシルを帰したくなかった。


リリアはセシルを城内に連れていく。


城内を進んでいく道すがら。


兵士やメイドたちはリリアに一礼をした後、娼婦の格好をした場違いなセシルを凝視する者が多くいた。


リリアも先程まで一等低く見ていた存在。


分からないわけではないが、セシルがそう見られるのは単純に面白くない。


「ここが私の部屋です」


リリアは自室の前まで来た。


自室の扉を開き、セシルとともに室内に入る。


「ああ、リリア姫様!」


室内には、リリア専属のメイドがいた。


若干オーバーな感じの反応をしている。


「良かった、御無事でしたのですね。お帰りをお待ち申し上げておりました」


「今日は本当に大変でしたわ、変な男たちが私についてくるものですから道を見失ってしまって」


「その、リリア姫様。そちらの方は?」


リリアが手を繋いでいるセシルが気になっている。


「誰も助けてくれなかった中で唯一私を助けてくれた方です。セシルさんにはなにかしらお礼を差し上げたいのです」


「お礼を? そうでしたのですか」


メイドは明らかに怪訝な顔をし、セシルを見ている。


「あの、ちょっと」


「いかがなさいましたか、リリア姫様?」


いつも通りのにこやかなメイドとしての反応をする。


「セシルさんに似合う服を探してください。セシルさんがその限りではないというのならば、宝石などを……」


「私そういうのいらないから!」


セシルは少し感情的な声を上げる。


「そ、そう? でしたら、少し部屋で待っていてくれないかしら? 貴方とはもっと関わりがほしいの、だって友達でしょう?」


「うん……」


リリアの友達という言葉にセシルは渋々納得する。


「では、お父様とお話がありますのでお待ちになってくださいね」


リリアはメイドを伴って部屋を出た。

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