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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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姫の宣言

「レト、貴方からの心の籠った言葉が本日で一番嬉しかったです」


レトは嬉しそうに自身の席に腰かける。


リリアが考えていることをレトは知らない。


「さて、今日この日という善き日になさねばならない重要なことが私にはあるのです。この善き日に集まって下さった方々に私のお話を……」


そう思ったリリアはレトから会場へ集まっている者たちへと視線を向ける。


すると、二人の人物がリリアの傍にいた。


「リリア? よろしいかな?」


エアルドフがなにかを話していたようだが、リリアの関心は心底好きな弟のレトだけに向いていたのでリリアは状況が分からない。


なにかを問いかけた際に反応がなかったので、エアルドフは確認のため尋ねた。


「ええ? ええ」


疑問の反応をし、聞いてはなかったが、とりあえず相槌を打つ。


リリアの傍にいる人物は、先程リリアに声をかけてきた嫌いなレクタ王子、そしてまた別の国のイステ王子。


どこかオドオドしていて軟弱そうな見た目のイステ王子はリリアにとって、レクタ王子以上に嫌いな人物。


二人が傍にいたとしてもリリアは全く気にもかけない。


「喜んでほしい、この二人の王子はリリアを……」


「少々、よろしいかしら?」


エアルドフがなにかを言いかけると、リリアが話し出す。


「ああ、いいとも。さあ、二人に聞かせてやりなさい」


「二人ではありません、皆さんによ」


リリアは会場を見渡す。


「皆さん、本日はこの私のために集まって頂いてとても感謝していますわ、ありがとう」


非常に愛想良くリリアは振る舞う。


「この日で私も二十才。ようやく、エアルドフ王国の国政へ参加できる……」


「リリア? ちょ、ちょっといいかな?」


「いいから」


視線も逸らさず一言。


エアルドフがなにか言いたげでも聞く気がリリアにはない。


「いいから、ではない。なにかおかしいと思ってみれば、やはりお前は話を聞いていなかったか。私の話をよく聞きなさい。お前は今日、この二人の王子から……」


「そんな些末な話などよりも私の話をよくお聞きになりなさい。私の今後についてを話すのですよ、お父様」


「だから、その今後を私が(みな)に話していたところではないか。お前の将来はもう決まっている。お前はとても幸運だ、この二人の王子が……」


「そうなのです、私の将来はもう決まっております」


どこか、リリアの中では話が繋がっている。


「この善き日に私から皆様への宣言がございます。私、リリアがエアルドフ王国の次の御印(みしるし)となります」


「だから私の……」


リリアの宣言に、エアルドフの言葉が止まる。


完全に呆気に取られ、次の言葉が出てこない様子。


会場も明らかにざわつき始めていた。


「そのようなことなどさせるか!」


エアルドフは怒鳴り声を上げた。


「お前は御印がどういう役目を果たすのか分からないのか? お前にその役目をさせたくないからこそ私は……」


そこで、エアルドフは二人の王子、レクタ王子とイステ王子に目が行く。


「い、いや、今はそれどころではない。(みな)、少し時間が欲しい。各々が今日という日を今は楽しんでいてほしい」


エアルドフは椅子から立ち上がると、リリアの手を引っ張り、会場から連れ出そうとする。


「………」


エアルドフが怒鳴り声を上げたので、リリアは静かにしている。


別に無視を決め込み話し続けても構わなかった。


だが、今後自身が国政へと関わる際にその国政の代表者となるエアルドフへ確執となり得る事態は避けたかったので一歩身を引いた形を取った。


勿論、エアルドフに引っ張られたくらいでは微動もせず、別に歩きたくもなかったが、自らの足で自らのペースでエアルドフに引っ張られながら後に続いた。


二人は会場を出て、エアルドフの部屋に入る。


二人を心配し、複数の兵士やメイドがついて来ていたが一切室内へは入れず、部屋の扉の前で待機することになった。


「リリア、そこで待っていなさい!」


怒声を上げ、エアルドフはリリアを自室に置いて出ていく。


エアルドフは先程のリリアの発言でざわつき出した会場内の収拾をつけるために戻っていった。


「………」


エアルドフが出ていってから、とりあえず静かに待っていた。


特になにかするわけではなく窓の方を見ながら一言も話さず、ただその場に立っている。


その間に時は過ぎ。


「リリア」


約一時間が経過し、再びエアルドフが自室へ戻ってきた。


「先程は済まない。怒る必要はなかったよ、本当は私もそこまで言うつもりはなかったんだ」


戻ってきて間もなくなにも聞いてもいないのに先にエアルドフが謝る。


とにかくエアルドフはリリアに甘かった。


二十才になったからといって盛大にリリアのバースデイを執り行う辺りに相当溺愛しているのが窺える。


「ところで、どうしてそんなところに立っている?」


「そこで待っていろと、そう申されましたので」


「別に私が戻ってくるまで立っていろとは言っておらん」


「だとするならば、そう申されれば良いのではありませんか?」


「そうだな……私の椅子に座りなさい」


軽く頷き、リリアはエアルドフの机の椅子をエアルドフの側に向けて腰かける。


椅子に腰かけたリリアの傍にエアルドフは立ち、背もたれに手を置いた。


「やはり、隠し事は良くないな。このバースデイの日にならば、リリアが喜んでくれるだろうと私は思っていたのだ」


「ドレスならこの通り着こなしていますわ、私が倒れなくて残念ですわね」


椅子から立ち上がり、手の甲を腰につけ、仁王立ちする。


「そのドレスでは……ん、倒れる? なんのことだ、その話ではない。レクタ王子、イステ王子のことだ。二人の王子をリリアはどう思う?」


「特になにも。いえ、視界に入りさえしなければその者たちについてなにも思案する必要はないので金輪際会えなければ私も延いては彼らも良好な関係を今後も維持できるでしょう」


「それ程までに嫌いだったのか……そうか」


思ってもいなかった発言からエアルドフは酷く落ち込む。


「二人の王子がどうしてもリリアと婚約したいと以前から話があったのだ。今日のバースデイという善き日にリリアが今後嫁ぐ者をリリア自身の意思で決められたらと私は思っていたのだよ」


「嫁ぐ?」


嫁ぐ、その言葉にリリアは疑問があった。


「それでは、私はエアルドフ王国で国政を担えないではありませんか。この今日という日にそのような話をなされては」


「リリア、よく聞きなさい。女性に国政を担うなどできんのだ」


「それは間違っております。叔母様が国政を担っておられたことをお忘れになられたのですか?」


「昨年、亡くなったプリズムのことか。リリア、そうか。それ程、国政に参加したかったのか」


昨年亡くなったプリズムをエアルドフは思い出す。


プリズムとは女性でありながら、このエアルドフ王国でエアルドフに次ぐ支配力を持った女性。


それを為せる理由がリリアの語った御印である。


御印という存在はこの国に確実に必要なものだった。


「だからこそ御印になりたいと言ってしまったのか」


エアルドフは迷っていた。


リリアが言い出したらまず折れぬのをよく知っている。


「ええ」


リリアは頷く。


「御印には今すぐにでもなって構いません。私がお父様を支え、お父様亡き後のエアルドフ王国は続けて私が……」


うっかり、リリアは本音を漏らしている。


「もし私が死ねば、レトが次期エアルドフ国王となる。その事実はなにも変わらない」


「それはともかく私は御印になりたいのです」


「ならん、リリアはお前自身の今後の行く末だけを考えていればいい。なにもレクタ王子やイステ王子との婚約に身を任せろというわけではないぞ。お前はこれからも長く生きるのだ。第一、リリアは御印が一体なにを行う存在かを知っているのか?」


「国政を担えます」


「違う、それが目的ではない。御印について、ロイド先生からなにも聞いていないのか?」


「聞いてはおりません」


「それならばロイド先生に長きに渡る御印という風習についてをよく聞き、よく理解してきなさい」


「そうですわね、では後日ロイド先生が私に勉学を教えて頂ける際にでもお聞きしましょう」


「明日、ロイド先生宅を訪ねなさい」


「と、いうと……」


リリアは内心嬉しくもあった。


つまりは城から外出しても良いということだから。


「分かりました、でも急ですわね。私のバースデイもまだ続いているでしょうに」


「もう皆には帰ってもらったよ」


「どういうことですか、まだ始まったばかりだったというのに……」


顔色一つ変えなかったリリアが一目で分かる程の落ち込みようを見せる。


「悪かった、改めてバースデイを執り行おう。それでいいかな?」


「それならば構いません。今日という善き日でなくとも私が主役となるのであれば皆様方も喜ばれるでしょう」


自慢げに語り、リリアはエアルドフの自室を出ていく。


「どうしてああにも我儘な女の子に育ってしまったのだろうな、リリアは。私には分からない」


散々甘やかしているのにエアルドフには理解ができなかった。


エアルドフの自室を出たリリアは翌日の外出に胸を躍らせていた。


リリアにしてみれば久方振りの外出。


城での生活が彼女にとっての世界といっても過言ではない程、市井と隔絶した環境で過ごしていた。


リリアにとっては外出するだけでも喜ばしいことだった。


「一体いつ振りの外出となるのでしょうか。ロイド先生を訪ねる前に下々の方々の生活を私が見て差し上げるのも一興でしょう」


ナチュラルに他人を見下す。


ただし、これがリリアのスタンダードであるためリリアの中ではわずかばかりも誰一人として見下していない。


なんの問題なくほとんど対等な立場である。


なぜなら今後の国政を執り行う際に、領民から好意的に見られたいがため。


それ意外に理由はない。


「明日はどのようなものを着ていきましょうか。私が訪れることで、ロイド先生は大層喜ぶはずですわね」


独り言を語りながら、リリアは自室へと戻った。


「リリア姫様」


自室にはリリア専属のメイドがいた。


「国王様に連れていかれた時はどうなることかと思い、大層心配しました」


「私にどうこうおっしゃるような方ではありませんわ、お父様は。それよりも私、明日に外出を許されましたの」


「外出ですか?」


メイドは驚いた様子。


「それはそれは……この度はどちらへお出でになられるのですか?」


「ロイド先生へ会いに。そのついでに下々の方々の生活を見てみたいと思いまして。ねえ、貴方。私に似合うものを一緒に探してくれませんか」


「姫様のお召しものをですか? ええ、分かりました」


その後、深夜にかかるまで二人で翌日に着ていくものを決めていった。

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