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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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姫の目論見

約一時間後、ようやくリリアの着つけや髪の手入れが終わった。


リリアはコルセットドレスを着ても、別になんら変わった様子がない。


メイドがこれでもかと締め上げた後でもそれは一緒だった。


「やはり、私にこそ相応しいドレスでしたか」


鏡の前で楽しげにポーズを取るリリア。


より美しくなった自らを見るのは、とても好きだった。


「先程、私が話したことは忘れてしまって結構よ」


楽しげにしているリリアは、メイドにそう語る。


「リリア姫様……」


「私が苦しがらないのが不思議ですか?」


「ええ、その通りでございます」


「貴方でも知らない程にこの肉体を鍛えていますの。その私が、そこらの軟弱な貴族の娘如きと同じく、意識を一々失って堪るものですか」


「姫様、バースデイの際には私めも姫様のお傍におりますので、御気分が優れないようでしたら必ずお知らせくださいますようお願い致します」


「心配性なのね。私が唯一、気分が悪くなるできごとと言えば……隣国の無の……随分とはっきりしていらして無駄に自信がおありの隣国の王子レクタと出くわしてしまった時くらいでしょうね。私は彼の者が苦手なのです」


「レクタ様、でございますか?」


メイドはレクタ王子の名を聞き、少し驚きを示している。


レクタ王子はリリアが話すような忌み嫌われる人物ではない。


外見は清潔的で美意識高い中性的な男性であり、内面も実に民思いのある好青年で既に民からは現国王と並ぶ程に慕われている人物。


一体どこをどう見て間違えれば、そのような人物像に思えるのかがメイドには理解できない。


「男子たる者があのようでは……」


まだ色々と言いたい様子のリリアだったが、メイドの前だと思い出し、それ以上は語らない。


「リリア姫様。そろそろ、お時間でございます」


「ええ、そろそろですね」


この頃になるとリリアは笑顔になっていた。


自らのためだけに多くの人々が祝いにやってくるのだから楽しくて堪らなかった。


「では」


リリアの自室の扉を開き、メイドはリリアが出て行きやすいようにする。


「うんうん」


楽しげにリリアは自室から出て、晩餐会の会場となっている部屋へ向かう。


それに一歩下がった場所からメイドが続いた。


会場に向かうまでに、各国の様々な身分の高い者たちとリリアは会っていく。


どんな者であってもリリアに好意的に接し、リリアが如何に美しいかを語り、リリアがエアルドフ王国にどれだけ必要な存在かを語っていく。


綺麗に手入れされた腰の辺りまで長い艶のあるグラデーションがかかった紅い髪。


新しく紫色で誂えられたコルセットドレスに包まれた色白な細身の身体。


切れ長の目に高い鼻と均整取れた目鼻立ち、凛として美しい印象で約170cmと高身長なリリアは紛れもなく美女であった。


綺麗に整ったリリアはそれらを全くお世辞などではなく紛れもない事実として受け取っている。


自身はそのように語られるのが当然だとしか考えていない。


「貴方のお陰かしら。私が日々こう美しくいられるのは」


「滅相もございません、私がなにかをなさる以前から既にリリア姫様は美しいのでございます」


「ええ、正しくその通りですわ」


リリアは深く頷く。


既にリリアの中でも確信めいたものになっている。


そうこうしている間に、リリアとメイドはバースデイが執り行われる晩餐会の会場へ辿り着いた。


会場入口の番をしていた兵士が畏まって頭を下げ、装飾がなされた白を基調とした扉を内側に開く。


荘厳華麗な造りがなされた晩餐会の会場。


会場内には多くの招かれた王族や貴族の者、高位の聖職者や著名な学者、この場を盛り上げる演奏家などがいた。


「私が座る場所はあそこかしら?」


会場の一番奥にある席を指差す。


「そうでございます。エアルドフ国王に続きまして、リリア姫様、レト王子様の順に……」


「ああ、そうでした。レトは今どちらに?」


「レト王子様も今支度を整えていられると思われます。さあ、リリア姫様。皆様がリリア姫様を今か今かとお待ちになっております」


「この私がいて初めて意味のある場ですから、皆の前に私の姿を見せて差し上げましょう」


胸を張り、とても自信たっぷりな様子でリリアは会場へ入る。


入ってきたリリアに気づいた人々が一斉にリリアへと注目を向けた。


「御機嫌よう、皆様」


にこやかな笑顔でリリアは小さく手を振り、自身の座る席まで歩み出す。


「リリア姫!」


そこへ、何者かの呼び声がし、リリアは不意に手を掴まれる。


「どうしたのかしら?」


視線を移すとリリアの手を掴んでいる人物が、例のレクタ王子だとリリアは気づく。


リリア姫をレクタ王子が引き留めた瞬間に会場が沸いた。


一体これはどういうことなのかしら。


何故(なにゆえ)、私がこのような無粋な者に引き留められなくてはならないのかしら?


今日(こんにち)が私のバースデイだというのに。


リリアはそう強く思っていたので、会場が沸いたことに気づいていない。


「リリア姫? どうしたのですか?」


白けた表情で自身を見ていたリリアに対して、レクタ王子は優しく語りかけると掴んでいるリリアの手を引き、リリアを抱き締めようとする。


当然といえば当然だが、修練場で屈強な兵士長を容易く打ち倒すリリアはレクタ王子に引き寄せられてもびくともしなかった。


別段、足に力を入れている様子もないリリアの姿にレクタ王子の背筋に悪寒が走る。


「離して頂けないでしょうか」


白けた表情から一転、にこやかな笑顔でリリアは語る。


この場にはレクタ以外もいるのだと、リリアは思い出していた。


「ああ、そうだね、リリア姫。今後については今ここで話さなくてもいいだろうから」


なにか思わせ振りな発言をし、レクタ王子はリリアの手を離す。


「ええ? そうね」


軽く流して、リリアは自身の席へと向かう。


実際は、この者は一体なにを語っているのでしょう。私にはなにを意図しているのか皆目見当がつきませんわ。とリリアは言っておきたかった。


しかし、周囲の目をリリアは気にしている。


優しく、そして美しいリリア姫としてのイメージを損なわさせるなどしたくない。


席まで歩みを進めている間、リリアは周囲の様子のおかしさに気づいた。


自らよりもレクタ王子の方に視線が向いているような気が……


自らのバースデイなのに、なにか別の話題で盛り上がっているような気が……


そもそも去年のバースデイよりも明らかに人の数が多い。


確かに今年はリリアが初めて国政に参加する重要な日。


祝ってくれるのならそれはそれで嬉しい限りだが、なにかがおかしいとリリアは肌に感じていた。


ともあれ、リリアは自身の席へと座る。


「本日は善き日になられますね」


席へと座ったリリアにメイドが声をかける。


「ええ、そうなるわ」


「リリア姫様の重大な……」


「貴方、知っていたの?」


リリアは驚きを示す。


リリアにはリリアなりに今日この場で話そうと考えていた事柄があった。


「?」


よく分かっていないのか、メイドは頬笑んで誤魔化している。


「まさか、貴方も知っていたとは……本日のバースデイに出席者が多いのもそのせいなのでしょう。これはお父様のせいね、ここまで知られているとは思っていなかったのだけれど」


「リリア姫様、料理をお運び致しますね」


「ええ、お願いするわ」


リリアが語る内容が分からないメイドは上手い具合に話を逸らし、料理を運ぶため一旦離れる。


「まさか、あの子にも知られているとはね。今日までこれは誰にも話さず秘匿にしていたはずだったのに。やはり、次回が私だと私が立候補するまでもなく決まっていたのでしょうね。流石はお父様ですわ」


会場入りから感じていた違和感をリリアは自らの内で解き明かしていく。


無論、リリアの考えている通りではない。


「そうですわ、本日この場で私から宣言を致しましょう。少々、私の計画に狂いが生じましたが、望まれてしまっているのでしたら仕方がありません。なられて差し上げましょう」


それから間もなく、エアルドフ王、王位継承権第一位の弟レト王子がやってきた。


「流石、我が娘だ。やはり、そのドレスを着こなせると私の考えていた通りだ」


リリアの姿を見て、早速エアルドフ王は褒め出す。


エアルドフ王はらしいといえばらしいが、恰幅の良い裕福な貴族の見本とも言える姿をしている。


まとう着衣もそれはそれは豪華なもので、一目見てこの人物が国王なのだと分かってしまう程。


「そうだ、リリア。今日はきっと善き日になるぞ」


リリアの肩を二度程叩き、笑いながら自身の席へと腰かける。


その後、なにかをエアルドフ王は集まった者たちへ語り始めていたが、特にリリアは興味も関心もない。


そもそもリリアはエアルドフ王が話していた際もずっとレト王子だけを見ていた。


十才のレト王子は身長が約130cm程、綺麗なグラデーションがかった青い髪で青い瞳をしている。


服装もやはり貴族らしい高級なものをまとっている。


エアルドフとは異なり痩せ形で、若いながらも気品ある落ち着いた様子の少年。


「リリアお姉様、この度は……」


朗らかな笑顔を作り、少年らしい優しい口調でレト王子は語り出す。


「恭しい言葉は要りません。おめでとうとだけ、おっしゃってください」


頬笑みを浮かべ、レト王子に語りかける。


「おめでとうございます、リリアお姉様」


「ええ、ありがとう」


リリアは静かに上機嫌となる。


レト王子とは言葉少なめに接しているが、本当はレト王子が心底好き。


王位継承権第一位という位から目の敵にしている様子もなく、もし自らが王女になれなければレト王子に求愛するつもりだった。

登場人物紹介


エアルドフ(年令270才、身長165cm、水人の男性、出身地は不明。人となにかを楽しむのが好きな性格。恰幅の良い見た目だけで裕福そうに見える。子供たちにはとても甘い)


レト(年令10才?、身長135cm、水人の少年、出身地はエアルドフ王国。優しく落ち着きのある性格。王位継承権第一位であるレトが次期国王。リリアはレトのことが心底好き)

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