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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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姫の思惑

R一族と桜沢一族との戦争、R一族の内乱から既に20年の歳月が過ぎていた。


クロノスとR一族、桜沢一族との総世界に対する平和を目的とした間接的な共同運営は各々が実権を握ろうとはしなかったことが功を奏し、現在においても良好な関係が続いている。


ただし、そこにR・ノールの姿はなかった。


数万年前、初代R一族当主となった魔力邂逅のR・ルールと同じく、数万年後にR一族当主となった魔力邂逅のノールもほとんど同じ期間で姿を消してしまったのだ。


初代R・ルールからR・ノールの期間まで、魔力体や魔力邂逅がR一族当主となれた者はおらず、これが二度目の任命であった。


これは、R一族が本来なにを行うべくして存在していたのかを結果として知る機会へと繋がった。






「どうしたのですか、兵士長殿?」


女性の落ち着いた透き通った声が聞こえる。


声の主である人物は華奢でしなやかな身体つきをした綺麗な若い女性。


肩紐のないベアトップでシャープなAラインの紫色をしたドレスをまとった姿。


女性はエアルドフ王国の姫君だった。


名をリリアという。


リリア姫は姫と呼ばれる立場の者にとって、似つかわしくない場にいる。


ここは、エアルドフ王国ミラディ城の修練場。


石畳の床に倒れた状態でいる兵士長を、リリアは仁王立ちし見下ろしていた。


「も、申しわけありませぬ……リリア姫様……」


屈強な体格をした兵士長は立ち合いで軽く伸されていた。


無様に石畳の床へ倒れた状態で、リリアに許しを請う。


「油断をなされていたのですか?」


リリアの着衣から見える素肌には筋肉のようなものはついていない。


兵士長のような屈強な男性相手に勝てる要素のないか弱そうな女性なのだが、とにもかくにもめっぽう強かった。


修練場になど寄りつくはずのない存在が、わざわざ修練場で立ち合いなどをしているのはそれが原因。


「さあ、(わたくし)の手にお掴まりになって」


リリアは仁王立ちを解き、にこやかに頬笑みかけながら石畳の床に伸されている兵士長へと手を差し伸べる。


「い、いえ……もうお許しください……お慈悲を……」


それを見た兵士長は怯え、即座に許しを請う。


紫色のオペラグローブを着用したリリアの手が兵士長の目前に差し出されていたが、数秒後リリアは手を引く。


「小心者が……」


誰にも聞き取れぬ程の小声で、リリアはささやく。


「兵士長殿、私は兵士の中で最も強い貴方を信頼しています。次回は、私の役に立てられるよう今まで以上に鍛練をお願いします」


お世辞以外の何物でもない言葉を吐き、リリアは修練場を後にする。


修練場を出たリリアは自室へ向かい、回廊を歩む。


先程まで修練場で他の兵士たちとともに身体を鍛えていたリリアは汗一つかいていない。


それどころか、わずかな疲れさえもリリアは感じていなかった。


「なんという体たらくなのでしょうか? あの程度の者が、我が国の兵士長を名乗るだなんて」


なにか腹が立っているのか、リリアはぶつぶつと語りながら歩いている。


リリアは自国の弱過ぎる兵士たちが気にくわない。


「そういえば、今日は私のバースデイ。今年で二十歳となる私にこそ相応しい王家の証を授かる日でもありますね」


リリアは期待に胸が膨らんでいた。


単純に誕生日だからではない。


王家の証を授かり、王家の成人した女性として認められるからである。


リリアには夢があった。


その過程でこの王家の証を授かる日は待ちに待った重要な日であり、夢の実現に至る第一歩でもあった。


そして、リリアは自室に戻る。


いかにも豪華なお姫様らしい広々とした部屋。


部屋の中央には、紫色の天蓋が印象的な大きめのサイズのベッドがある。


少し離れた位置に机があるが、そこに二人の人物がいた。


彼女の付き人である老年の学者、メイドの二人。


この二人とこれから国学などについての勉学を行う予定があった。


リリアが室内に入ったのに気づき、二人は会釈をする。


「ご機嫌よろしゅうございましたか、ロイド先生?」


老年の学者へ、リリアは呼びかける。


「ええ、ええ。私はとても元気でございます。私などよりも、本日はリリア姫様がお生まれになられました日であり、リリア姫様が国の政治に携われるようになられた日でもございます。謹んで御誕生日のお祝いを申し上げます」


「どうもありがとう、ロイド先生。私、この日をずっと待ち望んでおりましたの。このエアルドフ国家の運営を担う者として、私自身が活躍できる今日の日を」


ロイドはリリアの言葉にいたく感銘を受けていたが、そのようなことは土台無理な話。


リリアはエアルドフ王国の王位継承権第二位という位置にいる“女性”。


王族であっても女性であるがゆえに王国の運営を担う存在には決してなれなかった。


だが、どこかリリアは余裕を見せている。


今日現在まで国家の運営に携わっていないリリアにも分かる一つの例外が存在するのを知っていた。


挨拶も終わり、リリアはロイドとの国学についての勉学に励む。


身体を動かすのは好きなリリアだが、勉学は特に苦手。


そのため、勉学自体を嫌っている。


しかし、彼女はある目論見を抱いているため、日々の勉学を欠かすことはない。


「では、本日はこれくらいに致しましょう。次回また姫様と過ごせる日を心待ちにしております」


約二時間の勉学を終え、ロイドはリリアのもとから去っていった。


「やっと、終わりましたか。私からの申し出でしたが、やはり今日という日に勉学は相応しくないかもしれません」


机の椅子に腰かけたリリアからは疲れの色が窺える。


「リリア様、いかがなさいましたか?」


リリアの機嫌を伺うようにメイドは心配そうな素振りを見せた。


「いえ、心配させてしまったようね。ありがとう」


にこやかに、リリアは頬笑む。


「リリア姫様、今日はリリア姫様の御年二十歳になられる日ですね」


「そうね、これで私も晴れて正式に王家の者として扱われる」


「リリア姫様は正式な王家の者となられますことに以前から関心が御座いましたね」


「私という者が国政を担う。この事実によって今後の流れを作られれば、私こそが相応しいと周知されれば、あの子にも後れを取らぬでしょう」


再び、リリアはにこやかに頬笑む。


リリアの企みとはエアルドフ王国の女王となること。


それには女性に発言権がほとんどないこの王国で、今後自身と同じように成人し、王家の証を授かるであろう王位継承権第一位の弟レト王子よりも抜きん出る必要があった。


弟のレト王子は、まだ十才。


エアルドフ国王が健在であるうちに、この十年の間でリリア自身はなにがなんでも実績を上げなくてはならないと強く自覚していた。


「私は同じ女性として、リリア姫様に……」


「ありがとう」


リリアの専属メイドなため、この手の話題をリリアから聞いていたメイドの気遣いに一言そう答える。


「リリア姫様、そろそろ誕生会のお召しものを……」


「そうでしたわね、修練場で鍛練を行ってからの着替えを忘れていましたわ」


机の椅子から立ち上がり、リリアは着ていたドレスを脱ぎ始める。


「リリア姫様、ご用意致しますね」


リリアがドレスを脱ぎ出したのを確認し、早速メイドはリリアのアイボリー色の色調がなされたワードローブへ向かう。


その様子を眺めていたリリアは、メイドがワードローブから今回の誕生会のために(あつら)えられただろう新しい紫色のドレスを取り出したのを見た。


自室内でのできごとなのに、リリアはそのドレスを見たのが今日初めて。


自らのために事前に用意されたのだろうとリリアは機嫌が良くなっていた。


だが、ある一点を見て、機嫌が少し悪くなる。


そのドレスはコルセットドレスであった。


リリアは女だてらに修練場に籠るなどここ最近の行いが荒っぽいため、ここは一つコルセットドレスを着て気絶などをしてみて、か弱い女性らしさを演出してみればいいのではないか?というエアルドフ国王からのムカつく計らいだと思っていた。


「城下の名のある仕立師に数ヶ月前から依頼しておりましたリリア姫様のドレスです。お美しい限りです、リリア姫様の誕生会に相応しい……」


「貴方にあげるわ」


「リリア姫様?」


ドレスを脱ぎ下着姿のまま、机の椅子に腰かけていたリリアの発言にメイドは首を傾げる。


「私よりも貴方に似合うドレスだわ、きっとそうよ。私は誕生会で今日はとっても機嫌が……」


「さあ、お着替えを致しましょう」


「やっぱり駄目?」


「国王様よりなにがあっても、リリア姫様にお召しになられるよう仰せつかっておりますので」


メイドはドレスを持って、リリアのもとまで歩む。


「仕方がありません」


立ち上がると壁にかけられた大きな鏡の前に、リリアは立つ。


「早速、ドレスを着させて頂きますかね」


「かしこまりました、リリア姫様」


どこか嬉しそうにメイドはリリアにドレスを着させていく。


「この私がコルセット如きで気絶するはずがない事実を見せつけて差し上げますわ」


リリアは心の中でエアルドフ国王に喧嘩を売っていた。

登場人物紹介


リリア(本作第二章の主人公、年令20才?、身長171cm、B84W58H86、炎人の女性、出身は不明。行動力があり、普段から強気な性格。華奢でしなやかな身体つきをした色白の綺麗な女性。紫色のものがとても好き。権力に執着している。運動が好きで勉学が嫌い)

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