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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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コロシアム建設計画 2

とある世界の上空。


雲一つない快晴の青空に、なにかが浮いている。


「相馬さん……この辺りでいいかい?」


空に浮いていたのは、天使化したノール。


天使の羽をはためかせ、ある一定の高さでホバリングしている。


「はい、よろしいと思います。この高さから見る景色はいがかですか?」


相馬はノールの両足を両手で掴む格好で、空中浮遊をさせてもらっている。


現在、ノールと相馬は総世界中にある複数のコロシアム建設予定地を視察していた。


大掛かりな建設を行いたいとの願望が常日頃からあった相馬は、予定地となる広大な土地をいくつか事前に見繕っていた。


そのおかげで、ノールは自らの足で立地から探しに行くことなく、予定地を視察するところからスタートできていた。


「………」


無言で周囲の景色を眺めるノールに疲れの色が窺える。


この建設予定地で、すでにもう六ヶ所目。


ノールの真下には広大で緑多き平坦な大地が地平線の向こうまで続いている。


地平線のぎりぎり辺りに、ようやく村のような集落がぽつんと見える程度でかなりの田舎。


だが、しっかりと電線などは引かれており家電製品が普通に扱われている、いわゆる近代的な世界の田舎。


建設予定地はどこもそういった田舎の山奥で柵のなさそうなところばかり。


「ノール様?」


返答がなかったため、相馬はノールの名を呼ぶ。


「あっ、うん。いいんじゃないのかな」


「やはり、そうでしたか。それならば良かったです」


ノールの返事に気を良くした相馬は頷く。


「実は私もこの場所が良いと考えておりました。やはり、大きな建造物を造る際には、必ず土地の問題がつきものです。それらの問題が起こりにくい場所が適していると私は考えています」


「そうだよねえ」


ふと、ノールの脳内にスロート帝クロノの顔が浮かんだ。


「国有地なのに自分の所有している土地だと言わんばかりに臆面もなく毎月お金を請求してくる人もいるくらいだし、その辺はしっかりしておかないとね」


「どういったお方なのですか、その方は?」


「仲間だよ」


「そうでしたか」


「そろそろ下に降りてもいい?」


「もう、よろしいのですか? 下見は大事ですよ」


「だったら、ここをコロシアム予定地とする」


「なるほど、即断即決も指導者として大切なことです。ノール様の意思に従います」


無事に建設予定地も決まり、ノールは地面に向かってゆっくり降りていく。


丁度、真下の大地。


木々が立ち並ぶ林の中に、セラが立っていた。


「この場所はいかがでしたか?」


「ここをコロシアム予定地とする」


疲れた表情で、ノールは語った。


本音を言うと、もうどこでも良かった。


先に相馬が地面に着地し、その場を離れてから、ノールも降り立つ。


「セラ、建設予定地も決まりましたのでこれから忙しくなりますよ」


「まだここで六ヶ所目ですよ。これ程簡単に選んでしまってもよろしいのですか?」


「時間をかけて機を逸するよりも、直感で正解を選び取るのが、ノール様らしさなのでしょう。現に、ノール様は幾多の戦いを勝ってきていますから」


「ええ、そうでしたね」


若干、セラは言葉を濁す。


勝ち馬に乗っている者に歩調を合わせると言っているように聞こえるが。


単に商売人として相馬がノールを逃がす気がないだけだと思っている。


「では、ノール様。建造に関わる者たちをご紹介します」


「えっ……」


ノールは、まだ続くのかと言いたげな声を出す。


そんなことはお構いなく、相馬はゲート型の空間転移を発動。


近くの場所に空間転移のゲートが現れた。


「少々お待ちください」


相馬はゲートの向こう側へ入っていく。


それから数分の時が経過した。


「お待たせしましたね」


相馬がゲートを潜り、戻ってきた。


それに続く者たちの姿もあった。


相馬の他に、二人。


一人は、山高帽を被り、スリーピーススーツを着込む、紳士風な外見の男性。


とても高貴な身分の人物なようで、ステッキを携帯している。


「貴方が、ノールさんですか?」


ふわっとした優しい笑顔を紳士は見せた。


「………」


この問いかけに、ノールはなにも答えない。


なぜなら、もう一人の方に問題があった。


腰まで伸びた長いブロンドヘアーの華奢な男性。


人の良さそうな優しげな印象の、この人物は総世界政府クロノス七強の一人であるゲマだった。


「あれー?」


相馬と紳士風の男性を無視して、ゲマの前にノールは立つ。


「ノールさん……」


ゲマがなにかを話し始めた時、ノールはゲマの左頬にそっと右手を添える。


「どうぞ?」


ノールの内には、強い憎悪が渦巻いている。


自らを殺害せしめる瞬間まで追い込み。


ミールや仲間たちを死へと差し向け。


スロートがある世界を荒廃させていたのも、この男。


「大変申しわけありませんでした……」


「………」


そっと、ノールは左手をゲマの右頬に添える。


戦っていないように見えて、もうすでに戦っていた。


ノールはゲマが水人アレルギーなのを知っている。


このまま、ふれ続ければ間違いなくゲマは体調の悪化で死に至る。


「ノールさん?」


紳士の男性が二人の隣に立ち、そっとノールの片手を掴んで、その手と握手を交わす。


「まさか、この紳士にはお気づきになられなかったのですかな?」


「悪党がいたせいでね、ちょっと気づけなかった」


ようやくノールは視線を紳士の男性に移す。


「それはそれは。では、まずは友好の証にご挨拶を。私は、フリーマン。株式会社バロックのドールマスターの一人であり、ネクロマンサーです」


「よろしくね、フリーマン。ボクはR・ノール。誉れ高き水人の魔力体です」


R一族当主やクロノス七強など、そういった自らの肩書を一切語らず、魔力体とだけ語った。


フリーマンが一切、対R一族としての扱いや敬意を払わなかったのが、ノールからすれば好意的に映った。


「不躾なお願いで申しわけないのですが、その方を許してやってはくれませんか? コロシアム建設のために必要な方なのです」


「多分だけどさ、ゲマのスキル・ポテンシャルが原因なんだよね。突然様々な現象を引き起こしたから、そういう能力があったらとても便利ってわけね」


「その通りです。飲み込みが早くて助かります」


「それなら」


ノールはゲマの頬から手を離す。


「別になにも許したわけじゃないけど、どうぞ」


「ありがとうございます、ノールさん」


ゲマの両頬は、ノールがふれた手の形と同じ形に赤く染まっている。


額に汗が滲み、どこか体調が悪そうにしていた。


「私は資材担当をしています。物資がなくては建物は造れませんので」


「あの唐突に現象を引き起こすスキル・ポテンシャルはなんていうの?」


「スキル・ポテンシャルの実現です。自ら以外を対象に影響を及ぼす事象を、必然的に発動させる能力です」


「例えば?」


「………」


ゲマは静かに右手の指を鳴らす。


ノールたちの近くに、若干赤っぽい握りこぶし大の金属の塊が出現する。


「あれは、金属の銅の塊です。人工物は専門外ですが、自然物は対応できます」


「それって、どういう……」


ノールには意味が分からない。


当然のように無から有を作り出している。


完成された錬金術が、そこにあった。


「お望みであれば、金や白金も出せますよ」


「お望みと言われても、そういうのはボクじゃなくて造る人に聞いてもらいたいかな」


賄賂的な話をしていたが、着飾ることをしないノールは普通に気づかずスルー。


「では、次は私のお話をさせてもらいます」


機嫌が良いのか、フリーマンは顎に手を置きながら語っている。


「私は人材担当です。有力な者というのは総世界各地に数多おります。しかしながら、数は有限だ。人の数も、年令も。そこで私の力、ネクロマンシーが役立ちます」


「死臭がする」


「ご存知でしたか、流石はノールさんだ」


ノールはあることに気づいている。


フリーマンは本人自身が死人。


ちなみに死臭は別に臭わない。


なぜならば、死臭が漂うようなネクロマンサーは三流。


「どの墓にも職人がいる。私の能力に呼応し、手を貸してくれる者たちはとても生き生きしている。死んでいるかどうかなどは、本人の気持ち次第に他なりません」


「どちらかというと、それって強制しているよね?」


「R一族の貴方たちのように、ですか?」


「そう、ボクたちのように」


「強制していますよ、しかしながら死者の誰もが呼応するとは限らない。残念ながら貴方たちとは違いますね」


ストレートな煽りにもいちいち反応しない。


もう、ノールは面倒臭くなっている。


「ご紹介も済みましたことですし、ノール様もお疲れでしょう。今後については私どもが行います。日程や進捗については後日またご連絡をいたしますので……」


「じゃあ、よろしくね」


まだ相馬が話している途中だったが、疲れていたノールは先に返答していた。


「全てを我々に任せるのではなく、少しは自らの考えを出してみたらどうでしょうか? なんでもお任せでも構わないのかもしれませんが、こちらは貴方の財布を当てにし湯水の如く資金を使いますよ?」


フリーマンは率直な意見を口にする。


フリーマン自身も株式会社バロックのドールマスターの一人であり、取締役の一人でもあるが経営に関することなどまるで気にしていない。


私どもにお任せくださいなどとは口にせず、他人に主導権を握らせるなとアドバイスしていた。


「それができるのなら、ボクは一人でやっているよ。全然できないから貴方たちを頼っている。ボクが一人でできることは、敵を薙ぎ倒すことだけ」


「そうでしたね、貴方は鬼神だ。その一つができるだけで、最早十分でした。今回、我が社バロックを頼ったのは正解かもしれません。優秀な人材が豊富な我が社ならばノールさんの期待に応えられるでしょう。しかし、前にも言いましたが気づいた時には遅いのですよ?」


ノールの理解度の低さを指摘する。


「分かったよ、ボクも当事者意識を持つ。よく分からなくても現場を見に来て、色々と口出ししていくから」


「最初は誰しもがそうです。どのようなものかを理解して頂きながら、このプロジェクトを進めさせてもらいますよ」


それから、フリーマンは相馬を見る。


「分かりましたね、相馬。どうも私からは、経験者でない者に対して一方的に物を売りつけようとしている、そのように見えた。私の経営理念と、この行為は合致しない」


「そうでしたか、それは失礼しました。しかし、何事にもスピーディさは必要です。ノール様が相手とする者らは、法や価値観など端から足蹴にするような輩ばかり。多少汚くとも我々は彼らに勝たなくてはなりません」


若干、怒っている雰囲気の相馬。


せっかく勝ち馬に乗っているのに妨害してくるフリーマンにイラついている。


「………?」


不思議に思い、ノールは静かに腕を組む。


いつの間にか自らが何者かと戦っているとでもいうような発言をされた。


他の認識に差異はあれど、相馬やフリーマン、セラにゲマもそれだけは共通認識としていた。


R・ノール派を自認し、桜沢グループや聖帝会に打ち勝とうとしている。


「ノール様」


相馬がノールに語る。


「何事も全てを完全にご理解して頂いてから進めるというのは不可能です。大本となるものは会議の積み重ねにより、相互理解を……」


「簡単に解決する方法がございます。不必要と判断したものにつきましては、一切の支払いを拒否すれば良いのです」


なにかを色々と語り出した相馬を捻じ伏せる発言。


フリーマンは味方なのか分からないことを平気で話している。


互いに顧客寄りか、会社寄りかで発想が若干異なっている。


最悪なのは、別にバロックがなくなっても構わないとフリーマンが思っている点。


仕方なく全面バックアップする方針に相馬は切り替える。


自らが仕える存在なのだから、へたられては堪らないと元々そのつもりだったが、フリーマンの態度でより強固な考えとなった。


それから、やるべきことを終えたノールは自宅へと帰っていった。

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