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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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協同 1

「それじゃあ……話もまとまったことだし、私は帰るわね」


疲れたように綾香が語る。


七強入りの段取りもつき、綾香が今日するべきことはなくなった。


「それなら、オレもそろそろ。アーティ、リュウが変なことをしていたら嫌だしさ」


「変なことって?」


なんとなく気になったノールが尋ねる。


「リュウというか、アーティがだな。アーティは本当に凄い男だ。死にそうな奴がいたら、わざわざ喪服を着て会いに行くんだぜ。オレが見てきた男たちの中で最も相当な男だよ」


「うわあ……」


流石のノールもドン引き。


一緒に聞いていた綾香、ジリオンも同じ反応。


「リュウもそういう時に限って酒が入っているせいか、毎回のようにその手があったかとか笑いながら語り出す始末だ。あいつは性格が比較的まともなのに酒癖が悪い。あの二人は、オレがいてやらないと駄目だ」


テリーは溜息を吐く。


「そういうわけでもう帰るよ。今後の予定については電話なり、オレを尋ねるなりして伝えてくれると助かる」


こうして、テリーと綾香は各々空間転移を発動。


テリーは聖ミーティア帝国へ、綾香は新たな桜沢一族たちの拠点となった世界であるネイトリアへと帰っていった。


「ノール殿は、なにかこれからの予定があるかな?」


「ボクは……」


控え室の扉の方を指差す。


「そこで、ボクを待っていてくれている人がいるから」


「そうか。次の協議開催の予定や、今後の対応などについては追って知らせよう」


「うん、その時はまたね」


ノールは控え室を出ていく。


廊下の壁に背をつけ、缶入りのホットココアを飲んでいる杏里の姿があった。


「話は終わったの?」


「廊下になんかいないで、君も一緒に話を聞けば良かったのに」


「ボクはいいかな。綾香姉さんが桜沢一族の政策にあまり口出しされたくないようだから」


「そういった内容の話でもなかったよ。なんか、七強がどうとか」


「なにそれ?」


「話すのは後でもいい? ボクもう疲れちゃった」


「だったら、これからご飯を食べにいこっか。クロノスの街は色んな飲食店があると思うの」


「いいね、それ。行こうか」


「ノール」


「なに?」


「R一族の当主らしくて格好良かったよ」


「ありがとう、でもそっちなんだ」


今日だけでも様々な内容の締結や理解に繋がっていったが、そちらに関してを杏里はふれない。


時計を見ると、もう既に八時頃になっている。


「どうしたのだ?」


ジリオンが控え室から出てきた。


まだ帰らずに廊下で話していたのが気になった様子。


「この辺で良い店ってなんかない? 食事がしたいの」


「それならば……」


ジリオンは顎へ手を置く。


「この会場となったホールを出て、正面の通りを真っ直ぐ進めば繁華街へ抜ける。そこなら良い店も見つかるはずだ」


「良い店を知らせてくれるだけでいいのだけど」


「私とノール殿とでは、食の好みが違うだろう。私が外食の際に立ち寄る店は部下のために、パブかバーくらいだ」


「ああ、仲間とお酒が飲みたいのね」


「大概ジェノサイドは荒くれ者ばかりが集う場なのでな。そういう者たちでなくては組織が成り立たん」


「荒くれ者ねえ……」


ふいに、ノールはアーティ、テリー、リュウの姿を思い浮かべる。


傭兵稼業の都合で様々な凶悪面の悪党たちと対峙してきたが、意外と身近にヤバい奴がいるんだなとぼんやりと思っていた。


「とりあえず、繁華街方面へ行ってみようかな。教えてくれてありがとう」


「ノール殿」


「ん?」


「R一族にノール殿のような方がいてくれて本当に良かった。我々はまた前進していける。今後はともに総世界をより良い方向へ導いていこう」


親しげにジリオンは頬笑み、ノールに向かって右手を差し出す。


「あー、うん……そうだね、頑張ろう」


微妙に歯切れの悪い言い方でノールはジリオンと握手をする。


こういった話が、ノールは非常に嫌い。


思い上がりが甚だしいとしか思えていない。


思えないが、どこかの一族と違って信用性も信頼性もある優良な組織の長が言うのだからノールは文句を言わない。


ジリオンと別れ、ノール・杏里は会場のホールを出ていく。


言われた通りにホール正面の通りを進み、その先にあった繁華街へと向かう。


繁華街には当然だが多くの店が立ち並んでおり、ノール・杏里はどこに入るかを迷い彷徨った。


そうこうしている間に、見覚えのある者と出会う。


数名の者とともに楽しそうに街を歩んでいるタルワールの姿があった。


「ノールさんと杏里さんじゃないですか」


気がついたのか、タルワールの方から気さくに声をかけてくる。


「なっ……R・ノール!」


周囲の者たちは身を挺してタルワールの盾となり、ノールの前に立ち塞がった。


そこには、女性構成員の姿もあった。


「なんなの一体、普通に邪魔なんだけど」


「どうして、貴方たちがここに?」


「ちょっと外食をしようかなって」


呼んでもいないのに自ら望んで邪魔してくる連中にうんざりしながらも、ノールは仕方なく答える。


「ノール様」


ノールの背後から声をかけてくる者がいた。


すっと、ノールの前に立ち、ノールを守ろうとする。


「危険です、お下がり下さい」


助けに入ったのは、株式会社バロックのドールマスターであり秘書のセラ。


会社社長の相馬がノール派となったため、自動的にセラもノール派入りをしていた。


セラは普段通りキャリアウーマンらしいスーツを着込んでいる。


「あれ、君は……」


余程、セラのアルビノとしての外見が珍しかったのか、ノールは以前同様にじろじろと見ている。


「皆さん、落ち着いてください」


自らの盾となっている構成員たちの間を通って、タルワールはノールに近づく。


「ご一緒に食事などはいかがですか?」


「いいよ。この辺は初めてだからさ、どこがいいお店なのか分からなくて」


「オレが良いお店を紹介しますよ」


構成員たちは、タルワールを見てからノールを見るを数回繰り返した。


なにが起きているのかが分かっていない。


敵対していた者同士が今ではもう食事を取るレベルの間柄。


実はこの時まだクロノス側の者たち全てが、R・ノールと手を組んだことを完全には把握していない。


協議に参加していた者たちや、その流れを注視していた者たちなら別だが、タルワールや彼に今現在つき従っている者らはそれを知らない。


なのに、タルワールはなにも恐れることなく普通に接していた。


結果的に自らを死へと向かわせた相手であっても、タルワールは友好的な姿勢を崩さない。


「さあ、こちらですよ」


タルワールを先頭にノール・杏里が続く。


「セラさんですよね」


構成員の一人が聞いている。


バロック自体がクロノスにある会社であり、セラもまたクロノス構成員。


それどころか、幹部の一人。


「ええ、どうも」


セラは反応がいまいち。


構成員もだが、セラも同様に今の状況には困惑している。


セラ自身も協議には参加していなかったため、状況が読めないでいた。


ともかく全員が、タルワールについていく。


「ここですよ」


タルワールはとある店の前で立ち止まる。


着いた先は分かりやすい高級店ではなく、だからといって通を気取った小洒落た店でもない。


そこは単なる普通の飲食チェーン店。


総世界政府クロノスの総帥である者としてあるまじき行為。


「この店は別の世界でも入ったことがあるよ、今日で二回目」


別段ノールは怒ることもなく、先に入店する。


続いて、タルワールと杏里が入っていった。


「ああ……やっぱり」


構成員たちは、なにか寂しげな声を出す。


「セラさんもどうですか? 貴方のお口に合うか分かりませんが……」


構成員の一人がセラを誘った。


「お構いなく。私も今日ここで食事をするつもりだったのです」


普通にそう語るが当然ながら嘘だった。


上流階級出身者であるセラは、このような店になど一度たりとも足を運んだことがなく近づきもしない。


逆にこんな店にいるところを見られる方が、心の奥底から嫌。


各々入店していき、そこで驚くべきものを目にした。


ノール、杏里、タルワールの三人は、わざわざ同じテーブル席にいた。


「ノールさんはどれを食べますか?」


メニュー表を開いて、ノールに見せている。


「美味しそうなものがいいかな? おすすめある?」


「これはどうですか?」


ミックスグリルを指差す。


あえて腹持ちの良さそうなのを選んでいるらしい。


「美味しそうじゃないのー」


気に入ったのか、ノールは楽しそう。


憎しみ命の取り合いをした者同士なのに、至って普通にノール、タルワールは会話している。


構成員たちは周囲の席に座っていった。


元々店内で食事していた者たちも三人を注視している。


このクロノスの街はクロノスの構成員たちばかりが生活している。


よって、ノール・杏里以外はクロノスの手の者。


二人は包囲されているといっても過言ではないが、全く気にもしていない。

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