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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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協議開催

「ノールちゃん」


グラールがにこやかな表情をして、ノールのもとまで来る。


「君が子供の頃を思い出したよ。人である私たちから魔力体の君が生まれた時には驚いたものだった。人には必要であっても、君には一切必要ではないことを教え込ませるのが非常に難しいと知り、そこでまた驚いた。しかし、君に理解してもらわなくては人と共存ができないと分かっていたから根気強く教え込ませていたんだよ」


昔を思い出しながら、グラールは語る。


「それがあったから、ボクはミールやエールを育てることができたんだよ。でも、今になっても分からないことは多くある。特にトイレに行くとかお腹が空くというのが分からないんだよね……ああ、そうか。こういうことを聞けと言ったのか、テリーは。魔力体としての認識では一生かかっても理解できなかったね」


「ノールちゃんは、やはり今でもトイレに行ったことがなかったんだね」


「食べたものは全部魔力になるでしょ、常識……ではないね、人には。正直、ボクは食べたり飲んだりして魔力に変えるよりも、その辺に突っ立って周囲の魔力を集めた方が効率がいいの。でもそれって変なんでしょ、ねえお父さん」


時間を気にしているのか、ノールは時計を見る。


「そろそろだね、時間。皆、ホールに行こう」


控え室を出たノールたちは廊下を進む。


以前通った場所なので、ノールが率先して。


特に問題なくノールたち四人はホールの壇上横の裏口に着く。


「ああ、緊張してきたな」


ノールが言葉を漏らした。


この場に以前来た時を一人思い出す。


「ノール、今思ったの」


「どうしたの、杏里くん?」


「ボクたち、こっちから入っちゃ駄目だよね?」


「なにが悪いの?」


普通に杏里の手を引き、ノールは裏口を通っていく。


裏口を抜け、ノールたちは壇上に出た。


しかし、以前のような拍手は全くない。


席に座っている者たちは静かで開催の時間まで各々時間を潰している様子。


「通っても大丈夫みたい、自分の席まで行ってね」


「ノールちゃん、頑張るのよ!」


なぜか気合の入っているエアハートがノールの両手を握り、激励する。


「う、うん」


正直なところ、ノールにとっては張り切る程のことでもない。


そして、杏里たちは壇上の端の方を当然のように通り抜け、自らが割り当てられた席の方に向かう。


それを途中まで見ていたノールは壇上の方へ目をやる。


以前と同じく中央に演台がある。


演台の後ろに大きめな椅子が四席用意され、先に壇上へ向かった他の三人が座っていた。


「おい」


自分たちを眺めているノールに、テリーが呼びかける。


空席の椅子をくいっと親指で指差し、そこに座れとテリーは合図を送っていた。


「ノール様、あちらの席へお座りください」


黒いスーツを着た男性がノールの傍に近寄る。


マイクを片手にし、恐らくは司会進行役の男性だった。


「ああ、うん。どうでもいいけどね」


ノールは男性の方へ手を伸ばし、男性がマイクを持っているにもかかわらず、マイクを握った。


「えっ」


男性は驚き、声を上げる。


ノールは水人能力を駆使して自らの手を魔力そのものへと変化させ、人の手を透過してマイクを掴んでいた。


そうして、マイクを男性から奪う。


「ええー、テストテスト」


普通にノールはマイクを使って話し出した。


「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。こんにちは、皆さん御存じのR一族当主のR・ノールです」


普通に話し出してはいるが、開催までまだ時間があった。


それに、司会がいるように協議にも流れや順序があるが、そういったスケジュールをガン無視している。


司会役の男性は動揺し、会場の者たちからもざわつきが聞こえた。


しかし、ノールは一切気にしていない。


「以前も話した通り……そもそも、あの時この場所にいた人がまたこの場所にいるとは限らないからもう一度前回宣言した内容を一から話すね。言いたいことは簡単。今後と地位や能力について。他の色々な話については、あとの三人が別途話してくれるでしょう」


以前この場で話しており、まとまっていた事柄についてをノールは語っていく。


R一族と桜沢一族の地位に差はない。


R一族は当主であるR・ノールに従うこと。


そして、R一族はこれから総世界政府クロノスに所属して、ともに協力関係を維持していきたいこと。


「ただ、総世界政府クロノスとの話はボクらR一族だけでは当然決められない。ボクらR一族は非常に分の悪い立ち位置にいます。今、ボクらは言わば大量虐殺一族です。連中の暴挙を止めたボクですら、この様なの」


「その通りだ」


すっと、ノールの隣にジリオンが立つ。


「マイクを渡してくれないか?」


「ん?」


語りたいだけ語っていたノールだったが、素直にジリオンへマイクを渡す。


渡す気などなかったが、とっさに渡してしまっていた。


「ノール殿がR一族当主となられた当初の頃、つまりは我々総世界政府クロノスが敗れてまもなくから、ノール殿はクロノスを残そうと考えておられた。我々を許せぬ思いもありながら、私やクロノス総帥のタルワールを生かした上でだ。我々が此度のR一族による広域総世界戦に対応できたのもノール殿の尽力の賜物であると私は考えている」


ジリオンの語る内容により、クロノス側の者たちは今後の方針を悟る。


いくら協議とはいえ、これを先に組織内の決定権を有する立場の者に言われてしまえば、クロノスの者たちは従わざるを得ない。


クロノス内にはR一族に対し、強烈な恨みや殺意を抱いている者はそれ程多くない。


タルワールや四強の一角であるゲマなどのようにR一族を根絶やしにとまで考えた者は実際少数派なのである。


それが事実である通り、正義を掲げるクロノスではタルワールが元帥であっても単なる象徴に過ぎず、ジリオンら四強がほどんどの実権を握っている。


そのため、戦争が終わった今現在において特に強烈な恨みを持っていないジリオンがノールとR一族に対して考えるのは有益性。


ノールの行動を鑑み、今後を見れば現在のノール主導となったR一族と組むことは最適だと考える。


「先程、ノール殿が語られたR一族と総世界政府クロノスとの協力体制。我々クロノスは快く受け入れましょう。無論のこと、受け入れる対象者は私利私欲のみを理由にスキル・ポテンシャルの権利を扱った能力者および加担した者を除きますが」


当然、反対意見など出るはずもない。


出せるに値する立場の者がジリオン以外にクロノス側から来ていない。


「では、総世界政府クロノスとR一族との協力体制締結に関しての多数決を取らせてもらいます」


続けて、多数決に移る。


まず荒れるだろう事柄が特に何事もなく賛成多数ですんなりと通った。


ここでR一族とクロノスの協力関係が締結された。


その後、四組織が協力していく上での条件などが数時間に渡って話し合われる。


ただ、協議を続けていく中で話題に上がらない内容があった。


それは、R一族の戦争責任に関してである。


「ちょっと質問」


先程の指定された椅子に座りながらノールは語る。


「まず先に出て来る話題だと思っていたからボクの方から聞くつもりはなかったんだけどさ、R一族は一体どういった責任を取るの?」


「私利私欲を理由に自ら進んで戦争へ関与した者以外に、責任を取る必要はないと考えております」


質問に答える前に一度手を上げ、ジリオンが答える。


「しかし、これはR一族が引き起こした戦争。この事実を大々的に公表し、隠蔽は決して許さない。例え実害が出てしまってもだ」


次第にジリオンの語気は荒くなる。


「この事実は白日の下に晒さなくてはならない。そうでなければ、いずれまたR一族の者に事実を捻じ曲げ、これを善き行いのように語り、再び惨酷非道な行為を行う者が現れてしまう切っかけができてしまうであろう」


「晒すのは構わないけど、R一族の人たちを守ってくれる? 晒せば正義感に溢れる人たちがこぞってやって来ると思うの。こういう時の協力関係でしょ」


「守ろう。先程の通り、既にR一族はクロノスの同志たちだ」


「そっか、それならいいの。でもやっぱりこれからのR一族の呼び名は大量殺戮一族で確定だね……」


疲れたようにノールは語る。


そして、手のひらを広げ、湧き出させるように手のひらから時計を出現させる。


数時間の協議で既に夜の七時頃に差しかかっているため、もうノールは帰りたかった。


「名誉の回復はしないのか?」


普通に話を終わらせたノールに、ジリオンは驚く。


確かに戦争の責任を取る必要はないとしたが、やはり戦争を行った一族の者として一族の名誉を回復させるため、自発的になんらかの責任を果たすものだとジリオンは考えていた。


「名誉? そんなに大事なこと?」


「大事なことだろう?」


流石にジリオンも怪訝な顔をする。


しかし、ノールは特になにかしらの発言も行動もしなかった。


「……この話は次回にしよう」


一度、ジリオンは話を流す。


「本日は様々な案を締結でき、良き提案を多く受けた。一度、この辺りで協議を終えてもいい頃合いだろう」


そして、この日の協議は閉会に至った。


全ての参加者がホールから去っていく中。


「ノール殿、テリー殿、綾香殿」


壇上の椅子から立ち上がり、ジリオンがノールたちに声をかける。


「一度、控え室へ私とともに来てほしい」


「ん? いいけど」


テリー、綾香の方を見てから、ノールは答える。


別に二人も問題ない反応。


とりあえず、協議前にいた控え室までジリオンと一緒に移動した。


「はあ、疲れたな」


控え室内にある椅子にノールは腰かける。


「ノール殿」


ノールにジリオンは呼びかけた。


「なにか大人数を前には言えない内容があるんでしょ? どんな悪だくみ?」


「そのようなことではないさ」


仄かに、ジリオンは頬笑む。


冗談を言われたと思っているらしい。


「私たちは味方同士となった。そこで、ノール殿に是非とも受け入れてほしい提案がある。クロノスには四強と呼ばれる者たちがいる」


「四強ってなに?」


「ああ。これは部下の者たちが、クロノス結成当初のメンバーを指す言葉としていつの間にか作っていた呼び方だ。四強とは私やゲマ、タイムリープ、ラヴィニアのことだ。私はこの呼び名を気に入り、この表現を正式なものとした。クロノスは実質この四強と呼ばれる者たちが運営する組織だ。そこへノール殿も入ってほしい」


「なにそれ? もし、ボクが入れば五強になるの? あれ、それならタルワールは?」


「タルワールは総世界政府クロノスの象徴として存在している」


「……ふーん」


なんとなくノールは深く考えないようにした。


「受け入れの表明をしてくれれば、テリー殿、綾香殿も受け入れる立場を示している。今後は七強として運営することになる」


「結成当初のメンバーの呼び方なら、ボクらは別に……」


「新体制への移行として、他組織のリーダーたちを元々いた我々と同一のものとしたいのだ。浸透している表現で立ち位置が自ずと他の者たちにも理解ができるであろう」


「つまりは、クロノスの人たちやクロノスを支援している人たちに対しての対応ってことね」


「その通りだ」


いくらジリオンがノールたちを認めていても、それがクロノス内でも浸透していなくては意味がない。


できるだけ、ジリオンは分かりやすい範囲から組織を変えていこうとしていた。


「分かったよ、ボクもその四強に入る」


ノールが了承したことにより、テリー、綾香も四強入りを受け入れた。


今後は、七強としてクロノスの運営に尽力していく流れとなった。


クロノスを一枚岩にしたいジリオンの考えがあったが、ノールら三人にはそういった考えはない。


この体制も一応は決まり、解散の流れとなった。

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