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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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協議の日

事前協議の日から、数日が経過した。


いつも通り、ノールはアウトレットソファーに寝そべりながら雑誌を見ている。


「杏里くん」


視点を雑誌から移さず、同じくリビングにいる杏里に声をかける。


杏里は高級ソファーに腰かけ、トンファーの手入れをしていた。


「どうしたの?」


「協議の日っていつになるのかな?」


「クァールさんに聞いてみれば?」


「催促しているみたいで、あんまりしたくないかな」


「なら、待つしかないと思う。時間がかかっても仕方がないし」


その時、屋敷内に独特の音楽が流れた。


誰かが呼び鈴を鳴らしたらしい。


「ミネウスさんだね、協議の日が決まったのかな」


立ち上がりながら、ノールはそう語る。


すでに誰が来たのか分かっていた。


部屋から出て、屋敷の階段を下り、玄関の扉を開けた。


「はい、どちら様ですか?」


誰が訪ねたのか分かっていてもそのように語り、一応の確認をする。


「お久しぶりです、ノール様」


ノールが認識した通り、クァール派のミネウスの姿があった。


「ミネウスさん? もしかして、協議の日が決まったの?」


「ええ、そうなんです。協議の日は二日後の日となりました。場所は、ノール様が新当主として演説をしたクロノスの都市にあるホールです」


「ああ、あそこ。それはそうと時間がかかったね」


「R一族、桜沢一族、総世界政府クロノス、聖帝会の者全てに伝えて回っておりましたので」


「本当に全てなの?」


「R一族や桜沢一族は派閥の長のみではなく、権利や支配を扱えない者、属せず単独で行動する者、一族に縁のある者全てにです。クロノス、聖帝会はトップダウン方式で話が全体に行き渡ったようなのでこちらは早く伝わりました」


「末端に至るまで情報を通したのね。となると、あのホールでは人が入りきらないよ」


「すでにホール内へ入れる者は抽選で決まっております」


「そうなんだ。先に言っておくけど、ボクが話すのは以前話した内容と全く変わらないよ」


「今回の協議の場は、R一族ではない私にも意見を表明できる場ではありますが、私はクァール様が信任なされたノール様を信じております。ノール様がR一族を率いてください」


「多分、求めているものとは違うことが起きるよ。ボクに期待するよりもクァールを信じてついていった方がいい」


「それでもです、私たちが支えるR一族の当主ですから」


その後、ミネウスは再び協議の日の日付、会場、時間を伝え去っていく。


協議開催の日は、今日から二日後の三時から。


ノールは杏里にその旨を伝え、開催までの日々を過ごした。





二日後の昼頃となり、次第に協議開催の時間が近づき始めた。


「そろそろ行こうか?」


アウトレットソファーから、ノールは立ち上がる。


この日は早めに昼食を取り、ノールも杏里も出かける身支度が済んでいる。


「そうだね」


高級ソファーに腰かけ、ココアを飲んでいた杏里は持っていたコップを置き、立ち上がる。


今日の杏里は張り切ったせいか、いつもよりも女性らしく女子力が高い格好をしている。


今回の協議は、前回のようなきっちりとした正装のみではなく服装が各々の自由となっていた。


権力者階級以外の者も参加するためであり、またこの第一次広域総世界戦後の最終的な決着を急ぐため準備が間に合わない者も存在するだろうとの配慮からである。


「杏里くん、準備はいいね?」


「うん、大丈夫」


「それじゃあ、移動するよ」


ノールは空間転移を発動する。


次第に周囲の景色は切り替わり、ノール・杏里は協議の場となっているクロノスの都市へ。


会場ホール前にノール、杏里は現れた。


ホールの外には、すでに多くの人がいた。


そのほとんどが私服。


正装している人の方が稀な程に。


「来たようだな」


ホール入口の前で待っていたジリオンが、ノール・杏里のもとへやってくる。


ジリオンはしっかりとしたスーツ姿。


筋骨隆々とした姿には不似合いであり、若干スーツをきつそうに着ていた。


「遅かったではないか。ノール殿の号令で人は集まっている。私としてはR一族当主としてこの場にはいち早く来ると思っていた」


「そういうものかな、それじゃあ」


特にジリオンには用もなく、横を通り過ぎようとする。


「ノール殿、会場にはタルワールや総世界政府クロノス側の私以外の有力者は来ない」


「あれ、タルワールは事前に聞いていたけど、他の人は体調でも悪いの?」


「会場へクロノスの者が招かれた、それだけで十分なのだ。なによりもクロノス側の決定権は、この私にある」


「そう」


それだけ言い、ノール・杏里はジリオンの横を通り過ぎて会場内に入っていく。


会場内に入ると、複数の者たちがいた。


各々談笑していたり、受付や係りの者と話をしていたり、案内板を眺めていたりしている。


そこには見覚えのある三名の姿もあった。


「ノールちゃん」


ノールの姿を見つけ、その中の一人の女性が急いで近寄る。


心配そうな表情した母親のエアハートだった。


「どうしたの、こんなところに?」


グラール帝国にいるはずの、そもそも魔力自体を有していないエアハートがクロノスにいたのでノールは素になっている。


そして、ノールはエアハートと一緒にいた二人に目をやる。


「ノールちゃん、大変なことになったね」


エアハートと一緒にいた者は父親のグラールと側近のアイザック。


病に臥せっていたはずのグラールが自らの足で立ち、顔色も血行が良く生気に満ちている。


「病気が治ったの?」


「そうなんだよ、元々虚弱な体質だった私がここまで回復できたのは聖帝様のお陰だ」


「聖帝? もしかして、テリーと会ったの?」


「ああ、そうなんだよ。聖帝様はとても凄い人だ。お金なんていい、私は人が喜ぶ姿が見たいだけなんだと私を無償の愛で癒し救ってくれた……あれ、ノールちゃんもお会いしたことがあるのかな?」


「………」


一瞬、ノールは言葉に詰まる。


テリーなりの優しさなのだろうなと思うと同時に、あの心底がめつい連中が慈善事業をするのかと違和感があった。


「そりゃあ、ボクの作った歩合制傭兵部隊リバース所属の傭兵だし。一応、発足当初の初期メンバー」


「それは一体……ノールちゃんは凄い人とお友達なんだね」


「ねっ、ねっ、凄い人」


少しノールは楽しげに自らを指差す。


褒めてもらおうとしていた。


「そうだね、ノールちゃんはとっても凄い人だ」


グラールは優しく語り、ノールの頭を撫でる。


ノールが話していることは正しく、だからこそ自らのもとへ聖帝が降臨したのだとグラールは理解した。


「えへへ」


頭を撫でられ、ノールはどこか嬉しそうに頬笑む。


「ノールちゃん。今回の協議についてなのだが、ノールちゃんにもしものことがあれば……」


「なにかがあっても大丈夫。だって、ボクがいるんだから」


「ああ、そうだね。ノールちゃん、とっても強い子だ。今日の協議は頑張るんだよ」


「うん」


「そういえば、ノールちゃん。ミール君やエールちゃんは一緒じゃないのかい?」


「エールは来るのかな……? こういうのに興味がなさそうだし。さっき電話したら、今起きたとか言っていたよ。ミールは多分来ると思う」


「そうか、確かにエールちゃんらしいな。会場で会えなくとも私たちの方から、エールちゃんへ会いに行けば問題はないか」


グラールはただ単に、子供たちと会いたいだけ。


ノール、エールとミールの考えが異なっており、いざこざが起きているのは知らない。


「とりあえず、今日でR一族を取り巻く環境が一変するからそのつもりでいてね」


「そろそろ話は終わったかな?」


ノールたちにジリオンが声をかける。


「協議の開催まで時間はあるが、君も取り仕切る側の者だ。用意をしてもらわないといけない。私と一緒に、控え室へ来てもらおう」


「お父さんたちも連れていっていい?」


「ああ、問題ない」


「そう」


ノールはグラールたちに少し手招きし、一緒に来てほしいと合図を送る。


そして、ジリオンに案内され、ノールたちは控え室へと通された。


「あら、ノールちゃん。遅かったのね」


控え室へ入ると、橘綾香が一人ソファーに腰かけていた。


女医らしい服装に白衣をまとい、こちらも私服だった。


「綾香さんじゃん」


「ノールちゃん、こういう場に招いてくれて感謝しているわ。私たち桜沢一族の意見を知らせる良い機会」


「そうだね。あっ、お父さんとお母さんは休んでいるといいよ」


「そうさせてもらうよ、ノールちゃん。それと、この桜沢一族の方は?」


グラールは単純にノールの友人程度にしか思っていない。


「いけませんわ、私としたことが。ノールちゃんのご両親にご紹介がまだでしたわね。私は橘綾香、現桜沢一族当主を務めている者です」


「貴方が桜沢綾香さんでしたか」


「いいえ、私は橘綾香です。桜沢綾香さんはもうおりませんので悪しからず」


「そうでしたか」


妙な雰囲気を感じ取り、グラールは会話を止める。


「ところで、他の桜沢一族はどうしたの? というか、桜沢綾香さん死んでいたの?」


「それを普通に聞いちゃえる辺り、ノールちゃんはいつも通りね」


綾香はソファーから立ち上がる。


「桜沢一族の参加者は私ただ一人……二人よ。私と杏里くんだけ」


話し初めの時は人差し指を上げていたが、杏里を確認しピースサインを作る。


「他の一族の者たちは誰一人としてこの場に来させない。私以外の者が来る、それ即ち私に対しての異論があると判断できるのだから当然。でも本当に異論があるのならいくらでも来ても構わない、私が私なりにけりをつけるけど」


「杏里くんが来ているよ?」


「貴方を守ってくれる人まで来させないわけにはいかないでしょう? ちなみに桜沢綾香さんは、私と同化したわ。私自身がここまで桜沢一族を常にと思えているのは彼の考えが私にも影響しているのでしょう」


「えっ、本当に参加者二人だけ?」


「そっちを聞いちゃうの?」


「だって、同化はボクもシスイ君と常時しているから」


「そうか、貴方は魔力邂逅なのだから当然と言えば当然ね」


「魔力邂逅になる前から同化自体はしていたよ? シスイ君はボクの身体で暮らしているから」


「流石、魔力体ね。私にはどういう原理や理屈なのかが全く分からないわ。要は、貴方は魔力邂逅になるのにシスイ君の力が必要なはず。私も桜沢綾香さんに一族存続のために必要と思われたの。だから私は同化をさせられたのよ」


「そうなんだ。そっちも色々と大変なんだね」


「そ、そうなのよ」


思いの外、ノールの反応に変化がないため、綾香は対応に困ってしまう。


ノールと以前のような信頼関係を取り戻すため、自身の機密事項を話したのにあまりにも普通。


「ところで、どうしてそれを話したの?」


「簡単よ、貴方に信用してもらいたかったの」


「信用しているよ、ボクらは友達じゃん」


「私は貴方が魔力邂逅だから警戒しているの」


「テリーにも同じこと言われたよ。魔力邂逅ってそんなに怖い?」


「魔力邂逅は脅威よ」


「それなら同盟でも組む?」


「いえ、いいの。私の思い違いだった。貴方が魔力邂逅でもなにも問題ないのね」


そこで、問題がないと判断したのか綾香の方から話を切った。


「ノールちゃんのご両親の方ですね。ご免なさいね、私の長話に付き合わせてしまって。こちらにどうぞ」


率先して、グラール・エアハートに近づき、二人をソファに腰かけるよう促す。


二人は礼を言いながらにこやかに応じていたが、それをノールは無言で見ていた。


テリーに引き続き、綾香にも敵意に似た警戒を受け、ノールの心境は複雑。


友人であり、リバースの仲間という理由で特に信用している者たちから続けて同じ理由での警戒が辛かった。


「杏里くん、ボクってそんなに怖いかな?」


堪え切れなくなり、杏里に尋ねる。


「ノールが怖い? どの辺が?」


冗談で話していると思っているのか、杏里は少し笑っている。


「魔力邂逅が、だよ」


「魔力邂逅なら怖いかも。あの潤沢な魔力量にあてられたら身動きもできず呼吸もできなかったから。ボクのレベルでそれなら……ルインさんみたいな極致化できる人ぐらいしか太刀打ちできないね」


「ボクは強くなり過ぎたのかな?」


杏里の言葉に一言だけ返す。


「ノールが強くてもなにも問題はないよ。ノールに限って酷いことをするはずないし」


「ああ、そう」


それを聞きながら、テリーも綾香も扱いに苦労していたR一族の長たちをたった一時間で虐殺した自身を警戒するのも仕方ないかとノールは思う。

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