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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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事前協議

翌日、特にすることのないノール・杏里は昼過ぎまでゆったりとした時間を送っていた。


ノール・杏里はのほほんとしているが、現状とてつもない激動の時代が到来している。


一強を誇っていたR一族の権威が完全崩壊し、次なる新興勢力がまさに入れ食い状態と化している。


この千載一遇のチャンスを掴み取ろうとしない能力者などいないと思われる程のレベルで。


とはいえ、ノールも杏里もそのような権力になど興味がない。


ノール派と桜沢一族が手を組むだけで総世界を牛耳れるのだが、決してそうはしなかった。





ノールの自室の扉をノックする者がいた。


「綾香さんが来たみたい」


アウトレットソファーに横たわり、雑誌を読んでいたノールが呟く。


魔力の感覚で誰が来たのか、今のノールには手に取るように分かる。


「どうぞ、綾香さん」


ノールは呼びかけた。


扉が開き、綾香が姿を見せる。


エスコート役としてルイン、エージの二人もいた。


「私が来ることが分かっていたようね」


「有紗さんが会いたがっていると話していたから」


そういいながら、ノールは立ち上がる。


「そう?」


綾香は話しながら、テーブルの方へ向かい、椅子へ腰かける。


ルイン、エージも椅子へ座った。


「エージ君、久しぶり」


「うん、久しぶり」


ノールの挨拶に笑顔で答えた。


桜沢一族と聖帝会が手を組んだことで、エージの蘇生が叶ったらしい。


「紅茶でいいよね?」


「いえ、お構いなく。私たち、今日はお茶をしに来たのではないの」


「どんな理由で来たの?」


再び、ノールはアウトレットソファーに腰かける。


「私たち桜沢一族の今後についてを、貴方に話しに来たの」


「ボクに? なんでわざわざ?」


「ノールちゃんが現R一族当主じゃないの」


「そういえば、そうだった」


「桜沢一族の今後について話すわね」


綾香は淡々と話を進めていた。


以前のようにノールと楽しく話そうという感じがしない。


「桜沢一族は、スキル・ポテンシャルである支配を今後も扱い続けるわ」


「支配? そういえば、杏里くんが使える奴か。あれが桜沢一族の固有スキル・ポテンシャルなの?」


「その通りよ。R一族の固有スキル・ポテンシャル権利と似ている能力」


「一体どの範囲まで能力を使おうとしているの? 場合によっては、考えを改めてもらうことになるけど」


「それなら問題ないわ。R一族の派閥の長、一人一人に承諾を得ているから。あとは、貴方が最後」


「一人一人に承諾……クァールやタルワールも?」


「タルワールさん、クァールさん。どちらも話の通じる相手だった。ノールちゃんにも承諾してほしいの」


「タルワール、クァールが承諾したのが驚き。よく受け入れられたね、不思議でしょうがないよ」


「そうね、おそらくノールちゃんの勝利が大きく関わっていると思うわ。それでね、私が支配について承諾してほしいのは、たった一つの分野に関して」


「一つの分野?」


「そうなの、是非聞いて欲しい」


話している綾香は非常に生き生きしている。


「私たち桜沢一族は支配をたった一つの分野にしか扱わない。それは商法に関してのみよ」


「商法? それだけに使うの?」


「ええ」


「別に良いんじゃない? ボクにはよく分からないけど」


「ノールちゃんにこそ理解してもらいたいの、貴方がR一族当主なのだから」


「もっと有利な条件を選びそうだけどね、普通は」


「いえ、条件はそれだけで十分なの。それ以上はやり過ぎよ」


「そう? じゃあ、これから話し合いの場を開くことになるから他の桜沢一族にも伝えてくれないかい? 色々と取り決めないといけないことがあるから」


「話し合いの場を作ることに関しては、クァール派のミネウスさんからお話があったわ。あれは、ノールちゃんからの提案だったのね」


「まあ、そういう感じ……いつになるかはまた後々伝えられると思う」


「ノールちゃん、もうR一族内に存在する派閥を貴方の派閥へ全て取り込んでしまってはどうかしら? 総世界政府クロノスやクァール派を。桜沢一族内で私はそうしたわ、なによりも戦力の分散が無駄なのだから」


「それは綾香さんが一族の全てコントロールしたかったから?」


「ノールちゃんの一族が、桜沢一族の全てを奪い尽くしたから」


「………」


不味いことを言ってしまったと、ノールは思う。


桜沢一族が最底辺の扱いを受けていたのは、知っていたはずだったのに。


「でも、おかげで私たち桜沢一族は一心同体となった。ノールちゃんの一族とは違うね」


「多分、ボクの一族は誰も連携が組めないと思う」


「そこは言い切るのね、面白いじゃないの」


くすくすと、綾香は笑っている。


当然ながらノールは面白くもなんともない。


「今日はね、もう一つあるの。ノールちゃんに会ってほしい人がいるのよ」


「えっ、誰?」


「空間転移を発動していい?」


「どうぞ?」


軽くうなずき、綾香は空間転移を発動。


瞬時に、どこかと繋がる空間転移のゲートが出現する。


「ちょっと待っててね」


綾香がゲートに入っていく。


この時点で誰と会せようとしているのか、ノールはその先から感じられる魔力で気づいた。


「あいつか……」


どこか棘のある口調で声を発する。


そして、ノールの思った通りの人物が空間転移のゲートから姿を現した。


それは、総世界政府クロノスの暗部ジェノサイド創設者兼執行官のジリオンだった。


「なんで、お前が生きているんだ!」


結構本気でノールはキレている。


顔を見ただけでぶち切れたのは、ノールの人生でも初めて。


それ程にノールはジリオンを憎んでいる。


「落ち着いて、ノールちゃん。落ち着いて」


今すぐに仕留めにかかりそうな勢いを感じ、綾香はノールを抱き締め落ち着かせる。


「あいつがいたから、ボクの家族が殺されたんだ!」


「ごめんなさい、でも一度話を聞いて。総世界政府クロノスには彼が必要なの。ノールちゃんだって総世界政府クロノスは必要だと感じているのでしょう?」


「………」


静かにノールは堪えている。


「ノール殿」


ジリオンがノールに呼びかける。


さり気なく、ノールをノール殿と呼んでいた。


一定の評価をしているらしく、ジリオンは冷静であり、敵意などおくびにも出さない。


「発起人となったノール殿の呼びかけに応じ、私は今回の協議の場に参加をしようと思っている」


「ふーん、あっそう。ボクにそれをわざわざ伝えに来たんだ」


「今回の協議の場には、タルワールは参加しない」


「参加しろよ、あいつはボクに会うのが怖いのか」


「そうではない。タルワールはクロノスの象徴に過ぎず、クロノス及びジェノサイドは私やゲマ氏、タイムリープ氏、ラヴィニア氏四名の指示のもとで運営管理されている。クロノス、ジェノサイドはタルワールの派閥ではない。よって、我々はタルワール派ではない。タルワールの正義と我々の正義は異なるのだからな」


「ん? それどういうこと?」


「元々クロノス、ジェノサイドはR一族が全て息絶えた後の総世界を運営管理するために創られた組織だからだ。最後にタルワールが死ぬことは結成当初から決められていた」


「意味が分からない、あいつ一体なにをしようとしていたんだ……」


ドン引きしてしまったせいで、ノールの怒りが冷めた。


「落ち着いた?」


ずっと、ノールを抱き締めていた綾香が耳元で尋ねる。


「うん、今なら平気」


「良かった」


綾香はノールから離れた。


「なんとなく思ったけどさ、もしかしてボクが話し合いの場でキレるだろうと想定したから前以てジリオンと会せた?」


「ええ、実はそうなの」


「………」


なんだか、綾香らしくない気がしてノールは嫌な気持ちになっている。


「協議の場でありながら、罵倒合戦みたいになったら話にならない。そんな建設的でないことなんて誰も望んでいないもの。私も、ノールちゃんも、ジリオンさんも。そうでしょう?」


「それもそうだね」


「その通りだな」


これで、三人の内で一定の理解が得られた。


お互いにわだかまりを残したままではあるが。


今後の協議へ向けて、わずかながらも前進できた形となった。


「それでは、ノールちゃん。私たちも今後の調整があるから、今日はこれで帰るわ」


「えっ、もう?」


のほほんとしていたノールとは違って、綾香やジリオンは忙しく行動している。


本来なら、二人のように今はしなければならないことが多くあるはずなのだ。


ちなみに綾香が普通に対応できているのは、桜沢綾香と同化したことで得た知識と経験によるもの。


「ええ、そうなの。今度来る時はちゃんと時間を作ってからにするわね。今日はありがとう」


綾香たちは空間転移でどこかへ行ってしまった。


「なんだかなあ……」


いまいちそうに、ノールはアウトレットソファーへ腰かける。


「ノール」


高級ソファーに腰かけ、ココアを飲んでいた杏里が声をかける。


「杏里くん。なんか、あの綾香さんおかしくない? 弟の君に声をかけなかった」


「実は、ボクもおかしいと思っていたの。確証はないけど、それは綾香お姉さんと桜沢綾香さんが同化したせいだと思うんだ」


「ああ、やっぱり?」


「どちらの人格面が大きく反映しているかによって、その時々で反応が違うの。今はきっと桜沢綾香さんが大きく出ていると思う」


「随分とまあ面倒臭い身体になったねえ」


「……それでね、ノール。あのジリオンさんを許してあげてほしいの」


「………」


ぴたりと、ノールの動きが止まる。


「はあ?」


一拍をおいて、ノールが怒り出した。


どうしても堪えられなかったらしい。


「本気で言ってんの」


「ボクは本気」


「だって、あいつ桜沢一族だって殺している……」


「それでもだよ」


「少し話を聞こうか」


静かにノールは話を聞く姿勢になる。


なってはいるが、覚醒化によって瞳が銀色に輝き、先程同様にキレている。


単に相手が杏里なため、手を出さないだけ。


「ボクたち桜沢一族やR一族への対応は非情だった。そういう行動をした人物なのだと覚えている必要がある。でも、ジリオンさんは総世界政府クロノスを運営する立場の人なんだ」


「そうだね、そんなことを言っていた」


「総世界政府クロノスは人々に正義の味方として接している。それは日頃の運営から分かるよね?」


「まあ、うん。悪党以外には存在した方がいい組織だよね」


「どんな人にも優しくするのって、とても難しいことなの。あの人はそういうことを行う組織をずっと運営してきた人。状況の変わった今なら、もしかしたら信用できる人なのかもしれない。もし、今すぐが無理なら彼の行動を見てから許すか許さないかを決めてもいいと思うの」


「はいはい、分かった分かった」


ノールは投げやりに答えた。


そういえば杏里は正義の行いが好きだったと思い出していたから。


正義の観点が似通っていた総世界政府クロノスのゲマと仲が良かったことも一緒に。


そのおかげで、杏里は同じく総世界政府のジリオンからもなにか似たものを感じたのだろうと考えた。


例え杏里が信じようとしても、ノールは別。


とにかく、今度の協議でどのような対応を取るかで考えを決めることにした。

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