表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
133/294

対話 1

空間転移により、二人の周囲が一瞬で変化していき、クロノスの都市へと変わる。


二人の前には、クァールの宮殿があった。


「あっ」


ノールが言葉を発する。


「ここ、見覚えがあるよ。そうです、昨日ここに来ました」


「うん」


「それじゃあ、他のところに行こう。仕方ないなあ」


「まずは前当主のクァールさんに会わないと」


強引に杏里はノールの腕を掴み、宮殿内に入っていく。


「………」


ノールは無言で、それに従った。


二人の訪問に宮殿内にいたクァール派の者たちは当然慌てた。


自らの長に対して凶行に及んだ者が堂々と正面から再び戻ってきたため。


犯人だと分かっていても立ち向かうなど到底できるはずもなく、二人が歩むのを止められる者は誰一人いなかった。


そして、二人が廊下の角を曲がった時。


「ちょっと、そこの人」


ある人物に気づき、ノールが声をかける。


「いらしていたのですか、ノール様」


声をかけた人物は、クァール派で元魔界の最高権力者邪神ミネウスだった。


以前のことで面識のあったノールはミネウスに声をかけたのだが、声をかけるもう一つの理由があった。


「うん、仕方なくね」


返答をしたが、ノールはミネウスを見ていない。


ミネウスと仲良く腕を組み、寄り添う感じで隣にいた現魔界の邪神ルミナスに目が行っていた。


「貴方、まさか……ノール?」


「よく言われる」


ルミナスが真顔で聞いてきたので、適当な返事をする。


「クロノスで死……死んだはずなのに。私の目の前で異次元に……」


一気に踵を返し、脱兎の如くルミナスは逃げ去ろうとする。


どれ程の戦慄がルミナスを襲ったか、ノールにはなんとなく分かった。


「はい、ちょっと待って」


ルミナスが逃げ去ろうとした先に、ノールが人の姿で実体化する。


まるで空間転移を発動したような移動が可能になっていた。


「ひっ」


恐怖に慄いているルミナスは怯えた悲鳴を上げ、少し背後へ後退る。


「ルミナスもクァール派だったんだ」


「な、なにそれ……」


「あれ、違うの?」


「ノール様とルミナスになにがあったのかは存じませんが……」


さり気なく、ミネウスはノールとルミナスの間に割って入る。


「ミ、ミネウス……」


震えの止まらないルミナスが、ミネウスにすがりついている。


落ち着かせるように、ミネウスはルミナスの壁になっていた。


「本日はどういったご用件ですか?」


「クァールに会いに来たの」


「残念ながら、それはできかねますね」


ミネウスのオーラが変わっていく。


「いくらノール様と言えど、クァール様に襲撃犯を面会させるわけにはね」


「じゃあ、いいよ」


静かにノールは語る。


それも束の間、ノールはある方向を見つめた。


「あっちの方向だよ、杏里くん。もう座標位置も分かるし、空間転移結界も外せるから空間転移しようか?」


「分かりました、少し待ってください」


流石にミネウスが引き止める。


「クァール様の目の前に空間転移をされては困ります。案内をしますので、クァール様にショックを与える真似はしないでください」


「最初からそうすればいいのに」


「では、ノール様……」


「ねえ、ルミナス」


いつの間にか、ノールがルミナスの隣にいて、手を掴んでいる。


空間転移を使ったわけでもないのに、目の前にいたミネウスでさえもいつ移動したのか分からなかった。


「ひっ」


ルミナスは先程同様の悲鳴を上げる。


「ボクの屋敷にさ、ルミナスも住まない?」


「あ、あれは元々私の屋敷で……」


「屋敷内にワインセラーとか宝物庫があるじゃん。あれ、持って行っていいよ」


「えっ? いいの?」


ぴたりと、ルミナスの震えが止まった。


「うん」


「それなら、私。ワインセラーの隣の部屋に、私の今の屋敷と繋がる空間転移のゲートを置こうかな?」


怖がっていた割には普通にルミナスは住む部屋まで指定した。


簡単に割り切り得を得ようとするところが、いかにも魔族らしい考え方をしていた。


「ワイン飲んだ? とっても美味しかったでしょ、私自ら選んだ選りすぐりが保管してあったのだから」


「全然、一本も飲んでいない」


「ワインが嫌いなの? お子ちゃまなのね」


「酔えないんだよ、魔力体だから。細胞で形作られている人なら酔えるだろうけどさ」


「ルミナス、少しいいかな?」


当たり前のようにタメ口のルミナスをミネウスは退かす。


ルミナスは別にR一族派ではないため、ノールを敬う気などさらさらない。


その当たり前さが、ミネウスをひやひやさせた。


「では、ノール様。クァール様のもとへ行きましょう」


「うん」


ミネウスに連れられ、ノールと杏里、ルミナスはクァールの自室まで歩む。


ミネウスが案内したからか、特に誰に止められることもなくクァールのいる部屋まで案内された。


「ああ、ここだ」


先程の水人検索で確認した座標位置だと、ノールは口にする。


「クァール様」


扉をノックして、ミネウスは部屋に呼びかける。


「ノールが来ているのでしょう、入れてあげなさい」


室内から、声が聞こえた。


「じゃあ、早速」


ミネウスを押しのけて、ノールは部屋に入ろうとした。


「ノール」


その前にルミナスが呼びかける。


「あとで私の家に来て。貴方の家には、他の人も住んでいるでしょう? 私一人で屋敷に入ると、空き巣だと思われてしまうでしょうから」


「ああ、うん。あとでね」


「じゃあ、私。ミネウスと家で待っているから」


ルミナスはミネウスと仲良く腕を組み、ノールに軽く手のひらを見せた。


ミネウスはどこか困惑している。


とりあえず、ノールはクァールの部屋に入り、杏里もそれに続く。


室内は普通に広い部屋で、マンションの一室と思える構造をしている。


入ってすぐの入口側にリビングがあり、そこにあるテーブルの椅子にクァールは腰かけていた。


「ようこそ、私の宮殿へ」


クァールは眼鏡をかけ、本を読んでいた。


別にノールの方を見ていない。


「クァール、そのさ……なんていうか、うん」


「クァールさん、貴方の力が必要なんです。力を貸してください」


ノールがなにかを言いあぐねているうちに、杏里が代わりに答える。


「そのようにノールが話していました」


「えっ」


ノールは呆気に取られている。


「桜沢杏里くんの方が、まだ話が通じそう。ノール、貴方には良い補佐役がいたようね」


クァールは本を閉じ、ノールへ視線を移した。


「どうせ、今後をどうして良いのか分からないから私に力を貸してほしいのでしょう? 貴方の考えていることは手に取るように分かる」


「そうそう、そうなんだよ」


「………」


静かにクァールはノールを見ている。


「ノール、貴方の派閥は?」


「ない……今はあるよ」


「そういうのは、普通別の派閥の者なんかに頼らず自身の作った派閥で内々に調整して行くものなの。貴方には人望がないの?」


「ないのかも……あるのかな、今は頼られているから」


「派閥を作れているのだから間違いなく人望はあるはず。ノール、単独での行動ばかりでは駄目なの。いつまでも自らを一兵卒だという発想に囚われてはいけない。もう貴方は、ノール派という派閥の長なの。分かるかしら?」


「うん、頑張るよ」


「それならいいの」


椅子から立ち上がり、クァールはノールの傍に行く。


「私たちクァール派が手を貸す条件は一つ。他のR一族たちが荒らしまわった世界数百程を全てR・クァール・コミューンとして認めること。それが条件」


「今って総世界中、R・クァール・コミューンだらけじゃん」


「なにを言っているの? この大戦争を終わらせた貴方が新たなる総世界の支配者。総世界にある世界の支配圏は今ではR・ノール・コミューンだけ。私には貴方をどうすることもできないのだから」


「ボクはそういう支配圏なんて発想が好きじゃないけど。こちらから言わせてもらうと、そういう逆上せ上がりが今の現状を生み出したんだよ、としか親切に言えない」


「では今、総世界は誰のもの?」


「さあ?」


「だったら、私は他のR一族が荒らしまわった被害世界の支配者となる。そこだけはR・クァール・コミューンとするわ」


「ボクが一体なんのためにあいつらを丁寧に殺していったのかが分からないの?」


「ノール」


そっと、クァールはノールの頬に手を添える。


話をしっかり聞いてほしい際に、クァールがする仕草だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ