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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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生命力

テリーの空間転移により、周囲の風景が変わっていく。


風景は変わり、とある神殿内部に三人は姿を現す。


妙に厳かな雰囲気を放っている祭壇がある部屋にいた。


「お前の能力に、こんな見せかけのものなど必要ないだろ? どうして神殿なんかに?」


疑問に思っていた内容をアーティが聞く。


「なんていうか、雰囲気的にさ」


「神殿内だと能力が高まりやすいとか?」


なんとなくノールが聞く。


「違うよ、神殿というか聖都自体がなくともオレの聖帝としての能力に一切の支障はない」


「だったら、ボクも理由が知りたい」


「単に雰囲気的にってだけだ。例え見せかけだろうと重んじる必要性があると思っているんだ、オレは」


「見せかけって一体どういう……」


「騙すためさ」


はにかんだようにテリーは笑う。


普通に年相応の女の子らしさがそこにあった。


「別に騙してはいないだろう、能力は本物だ」


「分かりやすい象徴を人々は欲するものだろう? こういうことをオレはやっているんだと、ノールに知ってもらいたくてな」


「この際、一から説明してやるか? オレたちの商売を」


アーティがノールに話を振る。


「ん? 商売?」


「ああ、商売だ」


きっぱりとアーティは言い切る。


どこか生き生きしていた。


隣で話を聞いているテリーも、それは変わらない。


「今、オレたち三人は聖帝会という組織を作っている」


「なにそれ、派閥みたいなもの? それに他の一人は?」


「もう一人は、リュウだ。オレとテリー、リュウでいつもつるんでいたろ」


「ああ、リュウね……」


ふと、ノールは思い出す。


若干怒りながらクァールがテリーたちを罵っていたことを。


「あと、聖帝会というのはいわゆる宗教団体ってところだろうな。ただし、神が実在する」


アーティがテリーの肩に手を置く。


「テリーこそが、現代の神だ。今や多くの信者たちにテリーは神として崇め奉られている。テリーは三帝の一人、聖帝としての能力を持っているのだから当然だ」


三帝とは。


生命力を司る聖帝。


物体を司る武帝。


魔力を司る魔帝。


その三つの存在を指し示す言葉。


「テリー、あのね……」


自らが天使化する前までは、聖書を読んだり神を信じていたが今では無宗教のノール。


大事な友人が自らを神などと宣う状況を危惧していた。


少し説教臭くても真面目に生きろと諭そうとした。


「お前だって天使界では、め・が・み様なんだろ。現実はそういうもんだ」


「うわ、なにそれ傷ついた」


「………」


正直面倒臭いなとテリーは思う。


「オレは今、聖帝としての能力を駆使して人々を生き返らせている。わずかばかりのお布施を施してもらいながらな。人々の優しさが骨身や五臓六腑に染み渡りながら細々と日々を生かさせてもらっているよ」


しっかりと右手の親指と人差し指で円を描き、お金のジェスチャーをしながら、テリーは説明している。


本当に、こいつらは……


言葉にしないが、ノールはドン引きしている。


事前にノールはクァールからの情報で、テリーたちが阿漕な商売をしているのは聞かされていた。


命をものとして扱う商売を平気で行い、それどころか受け取る莫大な金額をわずかばかりと臆面もなく語り、自らを神だとまで宣う。


正気の沙汰じゃないとだけ、ノールは感じている。


「………」


目を覚まさせるために友として一発ぶん殴ってあげたかったが、一度ノールは堪える。


「それよりも、悪かったな。ノール」


「えっ?」


「オレはお前を歓待してやるとあの時に話したのに、見ての通りオレはなんにもしてやれない。どうか、オレを嫌いにならないでほしいんだ」


「それなら気にしていないよ。お互い色々と大変だったんだから」


「テリー、あの話を」


アーティがテリーに話を振る。


「ああ」


それに、テリーが頷く。


「聖帝会はR一族の当主であるノール個人とだけ手を組みたい。本来あるべき流れならR一族全てと組むべきだろうが、オレはお前以外を信頼していない」


「それ、どういう……」


「ああ、お前の家族も信頼している。R一族のせいで何度も何度もオレは死んだから正直誰とでも仲良くだなんて真っ平ゴメンだわ。ノールと手を組みたいのは、だからこその話だ」


「手を組むのは別に構わないよ」


あっさりとノールは答える。


テリーにとって深刻な問題でも、ノールにとっては友達に手を貸す程度の話なのでなにも問題にならない。


「手を組むということで、ボクは聞きたいの。どうして、この街では魔力が扱えないの。テリーもアーティも魔力を感じない。率直に嘘偽りなくいうと、二人が怖いの。能力について教えてほしいな」


「構わないよ」


軽くテリーは頷く。


「これは対魔力体仕様の力だ。源は生物なら誰しも生まれる以前から持ち合わせている生命力を戦いという一点のみに使用した結果がこの現象なんだ。生物側から見て魔力体の存在とは、正確に言えば生きていない。だからこそ、魔力体には決して看破できないんだ」


話をしているテリーは明らかにノールを警戒している。


話の内容を理解しようと聞いているだけのノールは、なぜ警戒されているのかが分からなかった。


同じくアーティからもテリーのように警戒を感じていた。


「ノール、あのさ」


「どうしたの?」


「今更手を組むのを止めるとか言わないよね?」


「言うはずがないじゃん?」


「魔力挫きを知っているか?」


「それは、ボクも扱える」


以前、エージに扱われたおかげでノールも発動が可能になった能力。


これを扱われただけで相手は魔力の流れを阻害され、簡単な魔力の操作すら扱えなくなる。


「その魔力挫き以上に、相手の魔力の流れを根本から破綻させる力が生命力だ。魔力邂逅のお前ならこういうのは絶対許さないはずだろ」


「別に良いんじゃないの?」


「お前、本当に魔力邂逅?」


二人の認識のズレなのか、話が噛み合わない。


これはやはり人間界で生きていたノールらしい反応と言える。


通常、魔力体や魔力邂逅は自らを即死させる可能性がある対魔力体能力を極度に警戒している。


実際のところ、どんな能力者相手にも完封できる可能性が非常に高い対魔力体能力がなぜ浸透していなかったのかはこの為。


うっかり身につけてしまったが最後、次の日には殺害されているともされる能力だからだ。


そういった経緯を知るテリーはノールをいくら信頼していても魔力邂逅であるがために警戒せざるを得ない。


「ボクは確かに魔力邂逅だけど、単に魔力体と呼んでもらってもいいよ。ボクはいちいち魔力邂逅だとは言わないし」


「やっぱり、お前で良かったよ」


こういった内容の話でも世間話の領域を超えないノールの反応が、テリーを安心させた。


「それでさっきの話の続きだけどさ、生命力は人にしか扱えない力だ。魔力体は扱えない。だから、オレにも魔力体がどうやったらこの力を看破できるのか分からない」


「随分投げやりじゃん」


「だって、オレたちは仲間なんだから問題ないだろ」


「でもこの力は誰でも扱えるんでしょ?」


「扱えるには扱えるけど手順がいるだろ。洗礼を受けないと……」


一瞬、テリーはヤバッというような表情をした。


「洗礼?」


「………」


若干、顔を赤くしてテリーはなにも答えない。


「洗礼というのは口づけだ」


口元を指差しながら、アーティは平然と語る。


「こいつ、オレと口づけしたのにこんな反応なんだぞ。ありえなくね?」


テリーは結構本気で怒っている。


「テリー、それは種族差のせいだよ。確かアーティは純血の竜人族だから認識の齟齬が生じるのは仕方がない」


ふと、ノールは思う。


テリーは聖帝だが、適合種族は一体なんなのだろうと。


「それは分かっているけどさ、なんかオレだけ意識しちゃっているのが面白くない。アーティもリュウも、ふーんみたいな感じだし」


「そういえば、テリーってどうやって多くの人たちを生き返らせたの? さっきの生命力とかに関係しているんだよね?」


「えっ、流した? オレは気にしているのに……」


「はいはい、また今度ね」


面倒臭くて、ノールは話を流す。


「あっそう。どうやってオレが多くの人たちを生き返らせたのかは簡単だ。今現在のオレのレベルは30万あるからできるんだ」


「はあ?」


自らの知る最高値のレベルを遥かに凌駕している。


あまりの高さにノールは呆気に取られていた。


次の瞬間に先程のテリーの行動についてを思い出す。


思い返してみれば、テリーが驚異的な能力を扱っている事実がそこにあった。


「復活の魔法リザレクが霞んで見えるレベルだったね」


「まあな、今となっては見ず知らずの相手でも何千何万と一気に生き返らせることができるんだ。オレはオレでそれをやったら死んでしまうけど。今の高さにレベルが変動してもこれでもオレには足りない」


「30万もあって足りないの?」


「言いたいことは分かる。でも、様々な者の再生を一手に行うにはそれだけのレベルが必要なんだろ。オレは聖帝の儀式を行ったら、一気にこのレベルになった。前聖帝の霊がオレに全能力を受け渡してくれたんだ。あれは継承するための儀式だったんだろうな」


しみじみとテリーは語っている。


あのできごとが契機となり、今の自分がいるから。


「それと、ノール。あの時は本当に済まなかった。申しわけないと思っているし、埋め合わせをしたいと思っている。お前を仲間だと思っている。だからこそ、オレがR一族についてどう思っているかも聞いてほしい」


「……どうぞ」


ノールが目を細める。


少しノールの雰囲気が変わっていた。


「嘘偽りなく言わせてもらうと、R一族なんて大嫌いだ。あいつらとことん拗れて良かったねえとしかオレは思えない。ざまあみろって感じだ」


「えい」


話している途中に、ノールはテリーの顔面を殴る。


なにかが折れる音が響き、直立した状態のままテリーは卒倒した。


すぐに目を開き、テリーは意識を取り戻したが鼻からの出血が止まっていない。


「今のは、ノーコメントだな」


アーティがノールに声をかけ、テリーに近寄る。


「ストレートに包み隠さず物を言える仲になりたいのは分かるが、なんでもかんでも本人の前で言ってはならない言葉もあるだろ」


そう言いながら回復魔法を発動し、テリーを起き上がらせた。


そっと、ポケットからハンカチを取り出し、アーティはテリーに手渡す。


「また、悪いことをしてしまったな」


アーティから手渡されたハンカチで顔を拭う。


「この聖都は生命力を扱い、魔力体や魔力邂逅の変化や魔力の流れを妨げている。さらに魔法障壁を常時発動しているオレを殴れば、そうなってしまうだろうな」


「うん、本当に痛い」


折れた右腕を左腕で支え、ノールは泣き声になっている。


殴った側のノールの方がダメージが大きかった。


「どうして、ボクの腕が折れるわけ。水人能力も使えないし、回復魔法も使えないのに。ああ、凄くイライラする。黙って見ていないでさっさと回復魔法使ってね、すぐでいいよ」


「悪いな、オレたち側から魔力体に影響は及ぼせない。ここは本当に魔力体には住みにくい環境になっている。空間転移でスロートへ戻すから、そこで回復魔法を扱ってくれ」


空間転移を詠唱し、ゲートを出現させた。


「これに入るの?」


ゲートを見て、ノールは顔を引きつらせる。


空間転移を詠唱し発動したのにもかかわらず、ゲートから一切の魔力を感じない。


「大丈夫。なにも問題なく通れる」


安心させるためか、テリーは言葉をゆっくり話す。


当然ながらノールは余計に不安になった。


不安になりながらもゲートを潜り、ノールは自身の世界へと戻っていった。


「全く気づかなかったな」


ノールがいなくなったのを確認し、テリーが神殿の出入口に向かって語りかける。


「そうねえ、全く気づいてくれなかったわね」


出入口から、橘綾香とルインが姿を見せた。


綾香もノール同様に魔力を扱えなくなっているようで魔力を感じない。


だが、前聖帝の血を輸血されているルインだけは普通に魔力を感じた。


聖帝会と桜沢一族は数日前に同盟を結んでいた。


恐るべき存在と化したノールが聖ミーティア帝国へ来たことで、もしもを考えて桜沢一族最強の戦力の二人が援軍で駆けつけていた。


「あいつが危害を加えるわけないだろ。考え過ぎだったんじゃないか?」


「今日のノールちゃんの姿を見た後なら、そう言えるわ。でも、会うまではテリーちゃんも考えていることは一緒だったはず」


「まあ……その、あの姿を見たら、あいつが三帝の一角の魔帝なんじゃないかと思うからな」


「ノールちゃん、どうだったの?」


「どうって、なんてことないよ。魔帝でもないし、魔力邂逅になってもいつも通りだった。いや、一族の者たちを惨殺してきた後でいつも通りと言うのもおかしな話か」


「そう」


綾香は溜め息を吐く。


「あの子のことをちゃんと理解していなかったのが悔やまれるわ。今度は私からも謝らないと」


「ああ、そうだったな。依然変わりのないあいつに、オレたちは失礼極まりない対応をしてしまった。でも、ノールはなんとも思わないだろう。端からオレたちを仲間として疑わない本当に良い奴だよ」

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