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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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聖ミーティア帝国

空間転移により、ノールはテリーのもとへ向かっていた。


行き先は、テリーの故郷聖ミーティア帝国。


総世界政府クロノス戦後に聖帝テリーとして廃墟と化していた聖ミーティア帝国跡地に降臨し、わずかな期間で帝国の復興が果たされた再誕の地。


魔力邂逅のノールとは異なるが、テリーもまた途轍もない能力を有しているのをノールは察していない。


「あれ?」


到着早々にノールは異変を感じる。


空間転移をする際、ノールはテリーのいる座標の傍をセットしていた。


しかし、ノールの現れた先は帝国の聖都入口付近。


他者の魔力をなんの意にも介さずに通過でき、水人検索により対象者の座標も瞬時に特定できるノールにとっては予想外の出来事。


当然ながら周囲の目が突然現れたノールに集中したので、ノールはその場を離れる。


聖都の街並みは、とても入り組んだ作りになっていた。


様々のところに大きな神殿が見え、その周囲一帯を覆う住居群や商店の数々。


信仰を求め、様々な人々が集うようになり、巨大化した街がそこにあった。


「テリーの隣にセットしたつもりなんだけど……不思議だね」


人々が道行く雑踏を歩きながら、ノールは思う。


「でも、テリーの座標位置はもう分かるから辿り着くのは簡単かな」


人混みで混雑した街をノールは進む。


ノールが街を歩み始めてから一時間後。


ノールは聖都入口から然程離れていないところにあるカフェテラスで休息を摂っていた。


人々が行く雑踏近くの二人用のテーブル席で、ノールは紅茶を飲んでいる。


聖都入口近くの露店で買った聖都の地図にある一つの区域を指差しながら、ここにテリーがいるとだけささやく。


場所は分かっているが、ノールは迷子になっていた。


この街ではなぜか空間転移も発動できず、天使化や魔力体化することもできない。


そのせいで、ノールは一般人さながら歩くしかない。


仕方なくノールはケータイでメールを打ち始めた。


「テリーさん、今どこにいますか。恥ずかしがらずに出てきてください」


文章を口に出しながら、ノールはメールを打っている。


若干ノールはイライラしていた。


メール送信後、すぐに返信があった。


内容は、一言。


すぐ行く、とだけあった。


それにノールが返信をし終える前に、突然背後から肩を叩かれる。


「よう、ノール久しぶり。元気だったか?」


ノールが反射的に背後を見ると、テリーがいた。


以前着用していた貴婦人風のドレスではなく、リバースで活動していた頃の冒険者風の格好をしていた。


「………」


テリーの顔を見つめたまま、ノールは無言でいた。


「どうした?」


「いつからそこに?」


「分からなかったろ?」


ノールの反応を見て、テリーは嬉しそうに笑う。


「ノールでも分からないなら上出来だな。それはそうと……」


もう一つの椅子にテリーは座った。


「おい、ねーちゃん。オレにもコーヒー」


ウェイトレスに呼びかける。


女性とは思えない口調で。


一瞬だけウェイトレスは微妙な反応をしたがすぐに笑顔になり、トレイに乗せていたカップにコーヒーを注ぎ、他の客の方へ向かって行った。


「テリーってさ、この街では有名人なんでしょ?」


「ああそうだよ、スゲー有名人。オレがいたから、この街ができるレベルで」


「にしては、反応が薄かったよ?」


「多分、ほとんどの人はオレの容姿すら知らないと思う。案外そういうものじゃないかな」


「それもそうか」


ノールは軽く頷く。


自らもR一族当主となったが、それを知っている人物は一部界隈だけ。


「あの、今日ボクは色々と聞きたいことがあって来たの。それにして欲しいこともあるの」


「構わないよ、なんでも聞いていいし、オレを頼って」


「R一族のせいで沢山の人たちが……」


「そのことで来ているのは分かっていた。生き返らせているよ、現在進行形でな」


「いつそんなことしたの?」


「いつ、じゃなく現在進行形。こうして世間話をしながらでもオレは数百数千と人々を蘇生させられる。お前らの一族が権利を扱って大量殺戮しまくるせいでこの作業ばかりがオレの日課になった。生き返らせる数よりも死ぬ方が桁違いに多くてな」


疲れているのか、テリーの声は微妙にかすれていく。


ゆっくりとテーブルに顔を伏せ、眠りの体勢に入る。


「テリー、どうしたの?」


「心臓が痛い。全身が痛い。目の前が見えない」


「エクス発動するね」


「そういう問題じゃない。聖帝は死んでも必ず生き返られるから安心してくれ。最近ずっとこの調子なんだわ、誰かさんの一族のせいで」


「ごめんなさい。テリー、貴方はボクの恩人だよ。ボクにできることがあったらなんでも言って」


「もう、してもらったからいいよ」


「えっ?」


「R一族の御偉方を殺害したんだろ? ノールのお陰で助かった。オレを慕ってくれる連中もクロノスの連中も。特に一番はオレだけど。顔も見たことのない大量の人たちを生き返らせては死に、生き返ったと思えばすぐにまた死ぬような地獄の螺旋を抜け出せてくれたことに本当に感謝している。ありがとう、今日は安心して死ねる」


「なに言ってんの?」


問いかけに返答はなかった。


椅子から立ち上がり、ノールはテリーを揺する。


反応はなく呼吸をする際の些細な動きも見て取れない。


「リザレク発動」


復活の魔法リザレクをノールは発動する。


しかし、テリーにはなんの反応もなかった。


「なんだかよく分からないけど、魔力が届かないみたい。魔力体のボクが身体に触れているのに……」


初めての状況にノールは困惑していた。


「久しぶりだな」


すぐ近くから男性の声がした。


「んっ?」


声のする方向を見ると、テーブル席の傍にアーティの姿があった。


テリー同様に空間転移を扱って出現したようだが、ノールは気づけなかった。


「アーティ、テリーが……」


「テリーのことは心配しなくていい。リザレク発動」


アーティはテリーに復活の魔法リザレクを発動した。


先程とは異なり、テリーは何事もなく蘇生し、顔を伏せたまま寝息を立て始める。


「魔法が通った? ボクの時はなんの反応もなかったのに?」


「テリーという存在の影響だ」


「どういうこと?」


特にアーティは返答せず、テリーの肩を叩こうとする。


「あっ……そういえば」


「なに?」


「家族は今も元気か?」


心配しているのか、声にどこか不安げなトーンが混じる。


本音を言えば、ノールの家族を心配しているのではない。


グラール、エアハートを守るR一族派であり、唯一の肉親。


アーティは父親のアイザックの無事を知りたがっている。


「はあ?」


一瞬、ノールの目はマジになった。


尋ねる理由は分かるが、タイミングが最悪。


今さっき一族の者たちを手にかけてきたノールに、この発言は不味い。


「元気、だよ」


このエリアの特性が、アーティを救った。


ノールは手を出すことなく、手短に話を終わらせる。


「なら、親父も無事なんだな……」


ぽつりと、アーティは呟く。


ここで、ノールはアーティの言葉の真意に気づく。


手を出さなくて良かったと内心ほっとした。


「テリー、起きろ」


話を終えたアーティは、テリーの肩を叩く。


それで、テリーは目を覚ました。


「はあっ?」


なにが起きたのか分からないテリーは周囲を見渡す。


「なんだ、アーティ。お前も来たのか」


「突然いなくなったんだから探すさ」


「そのさ、二人とも。この街に来てから、ずっとおかしいことだらけなんだ。理由はテリーなんでしょ?」


「なにが起きたのか分からないといった具合だろうな」


どこか嬉しそうにテリーは語る。


「それは、歴代R一族と聖帝との因果関係に起因することの一つだ。神殿に来てくれ、ノール。きっと、お前も理解してくれるはずだ」


「ん? 神殿に行く必要があるのか?」


ノールも行く意味が分からなかったが、アーティもまた分からない様子。


「こういうのは環境が大事だろ。空間転移を使うぞ」

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