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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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ノール派

ノールがR一族のもとへ向かったことで、ノール対R一族の総力戦が始まった。


のちに、魔の一時間と呼ばれる一方的な虐殺劇の始まりである。


現時点での、R一族の派閥の数は29。


通常スキル・ポテンシャル権利を扱えるR一族の者が自ら派閥を作り、その長となる。


よって、29人程がスキル・ポテンシャル権利を扱えるということになる。


そのうちR・クァールが長のクァール派およびR・タルワールが長の総世界政府クロノスは許され、残り27の派閥の長がノールが倒すべき存在。


彼ら全てが有する構成員の数はおびただしいものになるが、ノールクラスともなれば元々存在しないに等しい。


先程、ノールはクァールの近くに現れた。


今現在のクロノスの都市には、対能力者対策として空間転移結界が張り巡らされている。


普通なら空間転移での侵入は不可能だが、魔力そのものであり魔力邂逅のノールだとフリーパスもいいところ。


魔力そのものが敵なのに、魔力により詠唱して張り巡らせた空間転移結界が魔力邂逅に効果を発揮するはずがない。


至近距離に一瞬のうちに現れ、一撃のもとに葬っていくノールを誰一人として止められなかった。





スキル・ポテンシャル権利が扱える派閥の長全てを仕留め終えたノールが自室の寝室に戻ってくる。


要した時間は、ノール自身が指定した一時間よりも早かった。


全てを接近戦でこなしたノールには返り血が一滴も付着していない。


魔力邂逅になり、ノールは変わった。


魔力も身体能力も絶大なものとなったが、人の命も軽んじる傾向が強くなった。


「おかえりー」


感情の籠っていない無機質な声が寝室内に響く。


静かに眠っている杏里のベッドに腰かけ、エールは両足を軽くぷらぷらしている。


ただ、エールからは魔力以外になにも感じられない。


「まさか……流体兵器?」


強く危うさを感じていた。


色彩があり、普通に人同様の姿で会話などの高尚な行いもできる。


この光景をノールは、一体の魔力邂逅として危うさを感じずにはいられなかった。


魔力のみによって創られた者が人と同様となれば、まさにそれは……


「姉貴、帰っていたんだ」


リビング側の扉が開き、エールが寝室に入ってきた。


こちらは紛れもなく本物のエールだった。


「こっちは大丈夫だった?」


「たったの一時間もかけていなかったんだよ、大丈夫に決まってんじゃん。それよりも、姉貴。あれじゃあ不十分だよ、あいつらを殺すだけだと。しっかり連中の死体は回収して、禁止令を発動しないと」


「ん? そんなの回収してくる必要があるの?」


「必要あるでしょ。死んでもそいつらの側近辺りに復活の魔法を発動されて、またやり直しだと全然話にならない」


「……あれ、エールどうやってあの連中のところまで行けたの?」


「姉貴が突っ込んでいった時点で、向こう側の魔力による防衛網は全て喪失していたけど? 侵入しやすくするように周囲にある魔力を手当たり次第吸収していたんでしょ?」


「暇だったから」


「怖えよ、普通に」


本当にエールはドン引きしていた。


あれ程の大戦争もノールともなれば、欠伸が出る程簡単に終結できる。


戦いを優位にするためにあえて吸収したのではなく、単純作業でつまらないから暇潰しに魔力を吸収していただけ。


「まあいいや」


エールは自らと同じ姿をした流体兵器へ視線を移す。


そして、手のひらをかざした。


流体兵器は魔力のオーブへと変化していき、エールの手のひらへと吸収されていった。


「流体兵器で杏里くんを守っていたんだね」


「もしもがあると困るから。姉貴が派閥の長どもをやっつけている時点でありえないけどさ。連中の処遇はアタシに任せて。ついにこれからはアタシたちの時代だね」


「アタシたちの時代?」


「ここまで、今の体制を叩き壊して平気な顔で誰かに丸投げってわけじゃないよね? R一族の当主だよ、姉貴は?」


「そういうのを捨てるために戦ったんだよ」


「R一族の決定権を有しているのは、もう姉貴だけだよ。だからこそ、姉貴。今こそ当主として皆を率いていくべきだよ。ともかく姉貴はそういう立場なの。でさ、その立場を支援する人たちがいるから、しっかり姉貴がまとめて欲しいの」


「支援する?」


「ノール派に所属している派閥の人たち」


「なにそれ? 派閥なんて知らないけど」


「作ったんだよ、アタシが。姉貴を支援してくれる人、沢山見つけたんだから」


「だったら、今日限りで解散して」


「嫌だからね! どれだけ苦労して集めたと思っているの? 姉貴がいなくなってからアタシがどんな思いで過ごしてきたか分かってんの?」


解散という言葉にエールは怒りの感情を露わにする。


「どうしていつまでも他人事なの! これは姉貴自身の身に起きていることなんだよ! そこは解散じゃなくて、ありがとうって言うべきでしょ!」


「はいはい、ありがとうありがとう。解散しといて、すぐでいいよ」


「姉貴! もうアタシ怒ったから!」


「ところでさ」


寝室の扉の方をノールは眺める。


「リビングに誰かいるよね、数人くらい」


「連れてきたの、アタシが。本当は姉貴がいなくなる前に会せるはずだったの。今日は会ってくれるよね?」


「仕方ないなあ」


会う気もなかったが、仕方なくリビングへ向かう。


会わなければ強引に寝室にまでエールが連れてくるだろうと思ったから。


リビングには、三名の男性がいた。


紳士服を着た初老の男性、高位の神官の男性、魔術師のローブをまとった男性。


そのうちの一人をノールは覚えていた。


「確か相馬さんと、あと……そちらは?」


「姉貴、紳士服を着ている人が相馬。神官風の人がヴィオラートの法王アズラエル。魔術師の人が元魔界の覇王ドレッドノート。皆、R一族派の人たち」


「お久しぶりでございます、ノール様」


初老の男性、相馬がひざまずいてから挨拶をする。


それに続き、アズラエルとドレッドノートもひざまずく。


「先日は、大変なご無礼を致してしまいました。私ども、R派全ての不徳の致すところでございます。当時は、R一族、R派ともに根絶寸前でございましたので形振りを構っていられなかったのです」


「先日?」


会ったのはもっと前だったようなとノールは思う。


「あの時のことはよく覚えていないんだよね、なにをしたんだっけ?」


「ノール様にクァール様となって頂きたく、私とアズラエルで策を打った次第です」


「?」


あの時、ノールはアズラエルに半殺しにされていたが、クァールへとなったことで当時の記憶が全くない。


「私どもが今こうして変わりのない日々日常を送れる、その全ては、ノール様のお陰でございます。延いては、ノール様に……」


「なんかさ、ボクに余計なことをさせようとしていない? 今すぐ帰ってほしいけど」


「そうですか」


納得したように、相馬は軽く頷く。


「では、ノール様。貴方の理想の成就をともにさせて頂けませんか?」


「理想?」


「総世界の者たちと、R一族が権利という能力なしに共存する。これは、クァール様もタルワールも今までのR一族たちも成し遂げられなかったことです」


「はあ、そう」


「数万年続いたR一族の権利を用いた独裁の連鎖を断ち切る転換期であると、ノール様は考えたのでしょう。R一族だけでなく、桜沢一族や総世界政府クロノスとの総世界の共同管理へと切り替えようとするのが見て取れます。しかし、それでも不十分だとも同時に考えておられますね。それを理想のまま、放棄してしまうべきものなのでしょうか?」


「分かりやすく言うと、ボクが間違っていたと理解してしまったからかな。タルワールがR一族の人たちを駆逐していた意味とか心境がやる側になって初めて分かったしね。真正の異常者かと思っていたら、あの人は普通に常人なのかも。参っちゃうよ」


「やり方は間違っていましたが、タルワールもノール様と似通った考えを持ち、ここまで成し遂げていたはず。安易に殺害に頼らず、タルワールの行いをなぞり、我々が独自で手を加え、後世も我々の存在がなくとも人々が生きていけるよう努めていくことが、今まずすべきことだと思われます。ノール様、これにはR一族の当主である貴方の力こそが必要なのです」


「頼られるのに悪い気はしないよ。でも、ボクにはそういったことをするに足りるような熱意もなければ、貴方たちを率いる力もない。もうR一族の当主も辞めるつもりだし」


「私たちが、ノール様をサポートします。ノール様なしに私たちだけでは決して成し遂げられないのです」


「………」


ノールはエールの方を見る。


「お願い、姉貴。一緒に総世界を変えようよ!」


「その体勢でいるのも疲れるでしょ? そっちに座って」


話を逸らすように、ノールは四人がけのテーブルやソファーを指差す。


「じゃあ、アタシは……」


エールは音を立ててソファーに座る。


続いて、四人がけのテーブルの椅子に相馬らも座っていった。


「ちょっと待っててね」


キッチンにノールは向かう。


少しの間を置いて、トレイに紅茶の入ったカップとソーサー、ティーポットを乗せ、持ってきた。


「どうぞ」


それらをテーブルに乗せる。


「ありがとうございます」


「お構いなく」


相馬の言葉に対して、一言だけ答えていつもの安物アウトレットソファーにノールは寝そべる。


「先程から気にはなっていましたが、そちらにノールさんが?」


「悪い?」


「いえ、構いませんよ」


「まだなにをしたいのかは分からないけど、貴方たちの意志は伝わったつもり。悪党をやっつけたボクの屋敷へ間を置かず来れるってのは、共犯であると自ら語っているようなもの。もし、ボクが貴方たちを拒絶したら今日から他のR一族に追われる身だというのに。行動は賭けというか、よほどボク自身を引き寄せられる根拠があるんだろうね」


「無論、そうです。なんの策もなく、ノール様に会ったのではありません」


「例えば?」


「今回のように過去のR一族が行った支配体制を止めるには、私たちはどうすれば良かったでしょうか? その対策方法を私たちは既に実行可能な状態にあります」


「それ本当? もっと早くその方法を試していればこんなことをしなくても良かったのに」


「R一族の協力者なしには、到底不可能なことです。私たちだけでそのような行動を取れば……」


「そりゃR一族が全力で潰すね。欲の塊みたいな、というか欲の権化がウチの一族だしさ」


「しかしながらR一族にも、現状を改善しようと苦心している方もおられます。クァール様然り、タルワール然り、そしてノール様です。ただ、先のお二人は私たちの意見を決して受け入れないでしょう」


「クァールは権利を扱った上で絶対的優位な立場からの平和平等だからね。ディストピアを作りたがっているから。タルワールはそもそも支配を止めさせるんじゃなくて、一族を途絶えさせるのが目的だし。もしかして、そういう観点からボクなの?」


「ノール様の救済行為により数多の人々が救われました。これで私たちはよりノール様を信頼できた。貴方しかいない、そう実感しています」


「救済行為というものなのかな、さっきのは。それはそうと、貴方の話したことは気になるね。より良い方向へ総世界が進めるのなら、貴方に協力してもいいよ」


そこまで言うと、ノールは立ち上がる。


「今日はここまでで良いかい? 色々とボクもしたいことがあるの」


「あれ、姉貴またどっか行くの?」


「ちょっと、会いたい人がいるから。エールはお留守番しといて」


ノールは相馬たちを見る。


話を終わらせたが、相馬たちは誰一人として席を立とうとしない。


「これきりで話を終わらせるつもりはないから大丈夫だよ」


「それは分かっておりますが……」


「この屋敷は部屋数が多いから、安全が確認できるまで自由に使っていいよ」


相馬たちとの話の後、ノールは空間転移を発動させる。

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