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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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集会の日

クァールと会った日から、二日後。


ノールの黒塗りの屋敷を訪ねる者がいた。


呼び鈴の独特なメロディーが屋敷内に流れる中、ノールは空間転移でエントランスまで行き、玄関の扉を開く。


「お初にお目にかかります、ノール様」


玄関には、優男風の美形なエルフ族の男性が立っていた。


魔法使いらしい格好なのに、武闘派な雰囲気がした。


「どなたですか?」


「これはこれは申し遅れました。私は、元魔界の邪神ミネウスという者です。本日はR・クァール様からR・ノール様へ大事な文書をお届けに馳せ参じました」


「へえ、元は魔界の邪神なんだ。ルミナスは元気?」


「ノール様は現邪神のルミナスをご存じなのですか?」


「まあね。ある意味、ボクがルミナスを邪神にさせたようなものだし」


「そうだったのですか」


それ以上、ミネウスは語ろうとしない。


「もしかしてさ、わざと話を膨らまそうとしていないでしょ。やっぱり、貴方もR一族を差し置いて自らの話をすべきではないと考えている人?」


「私めごときの話などで、ノール様のお時間を無駄にはできません」


「そんなことはどうでもいいよ。まあ、ボクに用があるのなら家に入りなよ」


「大変申しわけないのですが、私は入れません。屋敷内には桜沢一族の関係者もいらっしゃるのですよね?」


「当然だよ。ボクの家族なんだから」


「私はR一族派の者として桜沢一族の者と接触をしてはならないのです。様々な思想のR一族の方々がいらっしゃいますので、私はそれに従わなくてはなりません」


「そうなんだ」


ノールは口元へ手を置く。


「だったら、R一族のR・ノールが屋敷へ入れと命じたら、貴方は一体どうするの?」


「無礼をお許しください」


ミネウスは頭を下げた。


「そっか。じゃ、その文書をもらうよ」


ミネウスから文書の入った封筒を受け取る。


封筒についている封蝋を取り、A4用紙程度の大きさの文書に目を通した。


文書には集会の日付、場所、参加者、どのような内容で執り行われるのかなどがあった。


「あのさ」


とある文章にノールは反応した。


「いかがなさいましたか?」


「桜沢一族およびそれに準ずる者は絶対に連れてくるなって書いてあるけど」


「R一族およびR一族派の者たちだけの集会ですから」


「それはそうだけど」


「御理解をお願いします」


再び、ミネウスは頭を下げる。


「貴方を悪く言いたいわけではないの。こちらこそ、謝らせてごめん」


「いえいえ、私には勿体ないお言葉です」


そして、ミネウスは空間転移により、帰っていった。


ノールは文書をより良く確認するため、自室で読んでみることにした。


玄関から自室のリビングへ空間転移を発動して戻った。


「誰が来たの?」


杏里はいつもの高級ソファーに腰かけ、カップに入ったココアを啜っている。


訪ねた人を聞いておきながら、あまり気にしていない。


「クァールさんの同志だってさ。今度集会を開くから参加してって」


杏里の方へ文書を見せる。


「いつなの?」


「今から五日後」


「一人で行くの?」


「そうじゃなきゃ駄目みたい」


話していて思ったが、ミールやエール、両親にも同じような文書が届いているのかとノールは考えた。


そして、ノールは杏里がうつむき加減で床の方を見ているのに気づく。


「どうしたの?」


「ノール、ボクの能力についてを聞いてほしいの」


「?」


急な上、意味不明なタイミングで能力の話を切り出されたノールは反応に困った。


「ボクの能力、スキル・ポテンシャルは支配というものなんだ」


「そうなんだ? いつの間にスキル・ポテンシャル使えるようになったの?」


「どういう能力か知りたくない?」


「でも、あんまり能力の開示は避けた方がいいよ」


「そんなことどうでもいいじゃない!」


急に杏里は言葉を荒げた。


持っていたカップをテーブルに置き、自らに魔力を集中させる。


「………」


ノールは腕を組んで、杏里を静かに見ている。


杏里の気持ちは、ノールも分かっているつもり。


「発動、ノールをボクの思いのままに」


非常に強い魔力の波動がノールに向かって飛んでくる。


まるで大気の壁がぶち当たったような衝撃をノールは感じた。


補助系能力の支配というスキル・ポテンシャルにこれ程の高魔力は必要としない。


それだけ強い杏里の思いの丈が含まれていた。


「………」


ノールは腕を組んだまま、びくともしない。


「ノール」


杏里が呼びかける。


「ん?」


「桜沢一族を救って……」


ノールの胸に突き刺さる言葉だった。


本当はずっとそれを伝えたかったのに今まで杏里は言えなかった。


「分かったよ、ボクに任せて」


ノールは即答していた。


「ノール、君は……」


喜ぶわけでもなく、杏里はなにかに驚いている。


「なに?」


「支配が効いていない」


「そういうのは、どういう基準で分かるの?」


「効いていたら、ボクが命令するまでなにも行動が取れないから。ノールは即座に言葉を発したから、支配が効いていない」


「………」


一度、ノールは溜息を吐いた。


そして、杏里の隣まで行き、同じく高級ソファーに腰かける。


「そんな能力を扱わなくとも、ボクは君のしてほしいと思っていることをしてくるよ」


「ありがとう……」


杏里の顔色が悪い。


強制させる能力を使ってはならない人に使ってしまった。


杏里の内に強い後悔の念が宿る。


「なーに、一丁前に後悔なんてしてんの。余計なことなんて考えないの」


杏里の頬に軽く拳を押し当てる。


「そうだね、そうするよ」


ようやく杏里も頬笑みを見せた。


自信を持って語ったノールだが、本当は怖かった。


この件に関して自らの家族を除けば、R一族内に味方はいない。


提案した自らがどう扱われるかを分からないわけではない。


それにノールは、もう一つ提案したいものがあった。





数日後、R一族の次期当主が正式に確定される日となった。


時刻は、一時頃。


場所は、クロノスの都市。


事前に会場近くの喫茶店で飲食を済ませていたノールは、文書に記されていた会場へと移動する。


クロノスの都市にある豪華なホールを貸し切る形で会場として扱い、この場で集会が執り行われることになっていた。


ホールの周囲にまで行くと多くの人々がいて、皆しっかりとした正装をまとっている。


普段通り、ノールは水人衣装でやってきた。


その格好は、他の者たちからすればとにかく目立った。


「やあやあ、誰かと思えばノールじゃないですか!」


会場までやってきたノールに近づく男性がいた。


男性も上下黒の高級なスーツを着込み、しっかりとした正装をしている。


「君の話は、クァールから聞いているよ。結構強いらしいじゃないの? しかもその若さで新当主“候補”なんだって? おめでとう!」


軽い口調で話す男性は、ノールを敬う様子が一切ない。


自らが上だという考えが当たり前過ぎるせいか、端から舐め切っている。


「あの、アンタ誰なの?」


「夢見がちな女の子には厳しいかもしれないけどさ、運が良いことにオレはそこらの大人よりは優しいんだ。君に当主なんて立場は無理だ、なによりも君には素質がない。クァールに騙されているんだ」


お前がオレに話を合わせろと言わんばかりに、とにかく人の話を聞かない様子からノールはこの男性がR一族であると理解する。


レベルが16万程あり、結構な実力がある能力者だと、ノールは魔力量の質から見切る。


「弱いくせに、つまらないことを話していて悲しくなんないの?」


人の話を聞かない相手には、本人が聞きたくもない言葉を投げつけるようにしている。


場数の違いから、ノールは男性を見下している。


「君さ、女の子なんだから少しくらいは礼儀を弁えないと。そんなんじゃあ、他のR一族は誰も君なんかをもらってくれないよ」


「アンタみたいな性格のR一族にもらわれるなんて勘弁してほしいんだが」


「ノール、君はそんな格好で来たの? 全く、駄目じゃないか。今日ここで新たなR一族の新当主が決まるんだよ? そこのところを分かっているのかな? お金がなくとも、せめて見立てくらいは気を使わないとどうにもならないよ?」


ノールの水人衣装が気になっていたのか、水人衣装の腹部辺りを掴もうとする。


それを無言のまま、ノールは手刀で打ち払った。


「痛いなあ、すぐに暴力を振るうだなんて。どこの蛮族の出なんだい、君は? 君のこと嫌いになっちゃうよ、それでもいいのかな?」


「ボクは誇り高い水人の魔力体だ。お前になにが分かる」


ノールがもっとも嫌いなことは二つあった。


一つは家族を侮辱されること。


もう一つは、水人の魔力体を侮辱されること。


ノールの内には非常に強い水人への優良思想が形作られている。


「単なる会話くらいで急に怒り出すなんて……情緒も不安定なのか。全く駄目な女はどこまでいっても駄目だな。こんなのだから、桜沢一族なんかとつるみ出す。君はR一族始まって以来の……ああ、出来損ないのタルワールと同列の……」


そこで、ぴたりと男性の声が止まる。


同時に周囲の者たちの全身に不思議な感覚が覆う。


幸福を感じ、不思議と表情に頬笑みを浮かべる。


優しく暖かさを感じる晴れやかな気持ちだった。


周囲の者たちはその感覚が来る方向を見て、悟った。


ノールと男性が見つめ合っている。


互いに声も発せずに。


異常ななにかの事態が起きているとは誰の目から見ても分かった。


「ふん」


それだけ言うと、ノールは男性の隣を素通りする。


同時に周囲の人々は先程までの幸福感を感じ取れなくなった。


残された男性は足元から崩れ落ち、意識を失っていた。


余程のなにかがあったのか、姿はまさに廃人のようだった。

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