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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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新たな問題

再会を祝い、会食を行っていたノールたち。


そんな中、和やかに食事を行っている彼らのもとに空間転移のゲートが開く。


そこから、ルインが現れた。


「ノール……」


「ん?」


ルインの声にノールは反応する。


他の者たちの視線もルインに向いた。


「あっ、いえ。なんでもないの、失礼したわね」


周囲を見て、状況を理解したルインは素早く立ち去ろうとする。


「君は、ルインだね?」


グラールは直ぐ様に声をかける。


「……はい、お初にお目にかかれて光栄です」


「君の凶悪さ、残虐さ、卑劣さ、冷酷さは当時よく聞かされたものだよ。まさか、今でもその元凶が生き長らえているとは思いもしなかった」


「歓迎などされていないことは分かっています。では、私はこれで」


「待ちたまえ」


声を高くし、グラールは呼び止める。


「君の行いは到底許されるべきことではない」


グラールの声を聞き、ルインはやれやれと言った反応。


「結論から言えば、死で償えとかに繋がるのでしょう? よーく知っている、本当によく聞く常套句だから」


「無論そうだ。それ以外にはない」


「だったら、貴方がそうさせなさい。いつまでも他力本願では世の中通らない」


怒りが湧いたルインだったが、自身が現れたゲートの方へ身体を向け、表情を隠す。


「貴方と悠長に話がしたくて、この場に来たわけではないの。この場の空気を壊したくて来たわけでもなくてね」


表情を隠して取り繕っているが、実際は相当怒っているようで拳を強く握り締めている。


「私は死者への懺悔やなんかよく分からない償いのために自らの命を捧げるだなんて真っ平だわ。昔からそういう柄じゃあないの、どうしてもね」


それだけを言い残して、ルインはゲートに入り姿を消した。


「ノールちゃん、彼女……ルインとはどういった関係なのかな? 君の名を呼んでいたようだが……」


「ボクが作った歩合制傭兵部隊リバースの傭兵の一人だよ」


「ルインが、ノールちゃんのお友達なのかい?」


「ちょっと思ったんだけどさ、子供扱いは止めてほしいな。二人の種族的な基準ではボクはまだ成人でないけど、人間と環境をともにしてきたボクにとってはもう年令的に成人なんだよ?」


「それは分かっているよ」


「本当かな」


「ルインに脅されているとか、彼女と離れられないなにかしらの理由があるのではないのかい?」


「このボクが脅される?」


思わず、ノールは吹き出した。


「あの人はそんなことしないよ。それに、ボクが負けるだなんて有り得ない」


「そのような能力がノールちゃんに宿っているとは到底思えない。あの者は、総世界の全てを揺るがした恐るべき存在なんだ」


「ボクは確かに見た目が華奢だし、全然戦闘向けには見えないと思う。でも、ボクは極致化できるんだ。ルインもこれができるようだから多分同レベルくらいでしょ」


「極致化……」


グラール、エアハートの目に不安が宿った。


恐れや恐怖ではなく、他の者から娘を守れるかどうかを自らへ問う不安。


「私たちは、決めたよ。ノールちゃん、今度は君を必ず守るから」


「守るのは、ボクの方じゃないかな?」


「………」


「極致化って、そんなに嫌?」


「悪しき前例があるからだろうね。例えば……先程のルインのように」


「ボクがあの人のように見える?」


「見えるはずがない。今までも、そしてこれからも。しかし、見る者にはそう見えてしまうだろう」


「ふーん」


なんとなく、極致化した者への応対を理解したノール。


別段気に留める程の印象はない様子。


力を持ったノールには、そのようなことを言う者は黙らせてやろうとしか思えない。


タルワール・ジリオン戦で、ノールの内にある壊れたものの一つ。


「ちょっと、ルインが気になるから、一度席を外すね」


そういうと、ノールは席を立つ。


「ボクも行こうか?」


心配そうな声で、杏里が聞く。


ルインが訪ねた理由は、桜沢一族関連のものだと理解している。


「杏里くんは、二人と一緒にお話をしていて。シスイ君も残すから」


「うん」


杏里はうなずく。


「シスイ君?」


グラール、エアハートは突然出てきた何者かの名前に不思議そうな顔をした。


「今、やっとシスイ君の気持ちが整ったみたいなの。さあ、出ておいで」


いつの間にか、ノールの傍にシスイの姿があった。


空間転移を発動したわけでもなく、本当に急に人が現れている。


そのような状態だった。


「グラールお祖父さん、エアハートお祖母さん。僕の気持ちが整わず、御挨拶が遅れてしまった非をお許しください」


シスイは頭を下げる。


「シスイ君、そんなこと考えていたの? 二人がそんなことを気にするはずがないじゃん。シスイ君は繊細な子だな」


顔を上げたシスイの頭を、ノールは撫でる。


「その子は……」


グラールが尋ねる。


「ボクと杏里くんの子供」


「ええ!」


エアハートが大きな声を出す。


「私、いつの間にかお婆ちゃんになっていたんだ。グラールもよ、貴方はお爺ちゃん」


優しげにエアハートはグラールに頬笑みかける。


「それは本当なのかい、ノールちゃん? まだ二人は子供を作れる年令では……」


「ボクも杏里くんと恋仲になって初めて知ったよ。種族が異なり、そもそも子供さえ望めないとも。でも、ボクは水人の魔力体だった。水人は水分身により、人とは別の方法で子供が作れるんだ」


「そうだったのか」


グラールは半信半疑ながら納得する。


当然ながら、他種族のどうこうという話は詳細になればなる程に分からなくなるもの。


通常の方法と全く異なるとなれば知らないのが普通。


「それじゃあ、シスイ君もお父さん、お母さんと仲良くしているんだよ」


「分かりました、母さん」


普段通り、礼儀正しくシスイは答える。


「じゃあ、ボクはルインのところに行ってくるから」


「ノールちゃん、なるべく早く帰ってくるんだよ。危ないことに関わってはいけないよ」


「ボクは大丈夫だよ。心配しないで」


そういうと、ノールは空間転移を詠唱した。


発動によって、ノールの周辺の風景が切り替わる。


周囲は見覚えのある風景。


黒塗りの屋敷の、とある一室のリビングだった。


「ノール、来てくれたのね」


高級ソファーに腰かけていたルインが気づき、立ち上がる。


ルインの隣のソファーに綾香が座っていた。


「あら、ノールちゃんじゃないの」


綾香もノールに反応した。


「………」


反応した後、綾香は静かになる。


明らかにノールの出方を窺っている。


ノールがR一族だったと思い出していた。


「綾香さん、今の桜沢一族は大変みたいだね。ルインから少しだけど、聞かされたよ」


「そうなのよ」


ノールの言葉を聞き、綾香は笑顔を見せた。


それでも笑顔を無理に作っているのが分かる。


精神的に辛そうで、やつれていた。


「どうしたの、元気ないね?」


「そうね……」


ノールの問いかけに、綾香は静かにささやく。


声には覇気がない。


「綾香、今は部屋で休んでいましょう」


「………」


綾香に肩を貸して、ルインは綾香を寝室まで連れていく。


その途中、綾香がノールへ振り返る。


「ノールちゃん……助けて」


堰を切ったように、綾香の目から涙が零れる。


「……行きましょう、綾香」


ルインの声も、泣き声に近かった。


「………」


ノールは声も出なかった。


なにかとんでもないことが起きているのだと、徐々に気づき始める。


そして、綾香とルインは寝室に入り、少し間を置いてルインが出てきた。


「ノール」


ノールのもとまで歩み、ルインは床へ座り、頭を下げた。


「ノール、私と一緒にエージを殺してほしいの」


「………」


先程同様にノールは言葉もない。


「お願いよぅ……」


「う、うん」


「ありがとう……貴方を頼って本当に良かった」


少しだけ穏やかな表情で、ルインは顔を上げた。


ゆっくりと立ち上がり、ルインはノールと握手をする。


「ノール、今からエージのもとへ行こうと思うの。問題はない?」


「その、もしもそこへ行ったら……」


「空間転移を発動するね」


ルインの空間転移によって、二人はエージの下へと向かった。

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