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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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両親との再会 1

翌日、ノールは目覚まし時計の音で目を覚ます。


眠そうに目覚まし時計のスイッチを押し、ベッドから起き上がった。


ノールは衣服を身につけていない。


重圧的な物事から解放されたせいか、昨夜は杏里の求めに素直に答えていた。


「もう朝か……」


ノールは背伸びをしてから、立ち上がる。


隣に寝ている杏里は、ノールが起きたのに気づいていない。


ノールはクローゼットから下着を取り出し、寝室隣の浴室へ向かう。


それから、シャワーを浴びた。


浴室から脱衣所へ出た時にはもう、水人の魔力体であるノールの身体には水滴一つ存在しない。


何事もなく下着を着用し、水人の能力を駆使して身体にまとった状態で水人衣装が現れた。


「さて、朝ご飯を作ろうかな」


ベッドで眠る杏里を横目に寝室を通って、リビングへ向かう。


「………」


寝室の扉を開いたノールは微妙に驚いた。


なぜなのか、ルインが土下座した状態でいた。


「……なにをやっているの?」


若干引き気味に、ノールは尋ねる。


声を聞き、ルインは顔を上げた。


「ノール、貴方が目覚めるのを待っていた」


「どうしたの、こんな朝に?」


「貴方の力を貸してほしいの。もう頼れるのは本当に貴方しかいないの……」


後半の声は泣き声のようになっていた。


「どうしたの?」


本当に面倒としか思えないが、ノールはとりあえず理由を聞く。


「ノールは、桜沢一族へ手を貸してくれる?」


「用件を言え」


「そ、そうね。急に言われても分からないよね」


座っていた状態から、ルインは立ち上がる。


「……そういえば、いつからここに?」


なんとなく、ノールは引っかかりを感じていた。


そもそも自室の扉には鍵をかけていたのだから。


「貴方たちが……いいえ、なんでもない」


「さては、見たな。最悪だよそれ……」


「二人とも眠っていた時よ」


「そういう問題じゃなくてさ。もう帰ってくれない?」


ノールの気分は最悪。


流石にそこは誤魔化せと、ノールは思った。


「帰れない。帰ってしまえば、綾香が落ち込むだろうから。私たちだけでは駄目、貴方の助けが必要なの」


「もしかして、有紗さんのこと?」


「それは一つに過ぎない。もう桜沢一族は瓦解寸前なの。あれもこれもと対応しなくちゃいけないことだらけなのに、どれも全く手をつけられず焦燥感だけが日々増していく。今の状況はそんな感じ」


「はあ」


「杏里も同じようなことを話していなかった?」


「全然?」


「あの子は、一番R一族に近しいところにいたせいか騙されているみたいね……」


「あれ、今ボクのこと馬鹿にした?」


「貴方以外にもR一族はいるでしょ」


「R・クァールさんの……」


「それ意外のこと。今ではもう数百人近くいるの。皆、聖帝の能力で生き返ったから。勿論、桜沢一族もだけど」


ルインの声を聞き、ノールは溜息を吐く。


「それだけいるのなら、桜沢一族だけで有紗さんをなんとかできるでしょ」


「無理よ。歴然たる差が明確にできあがっているから。クロノスを打倒した勝者は、R一族。桜沢一族は敗者。この二つの一族はもう雲泥の差。そこらの一般人未満の崩れにすらも及ばない。それが今現在の桜沢一族の地位なの」


「ああ、だから……」


杏里の扱いが非常にふざけた状態だったのは、そういうことなのかと理解する。


「だから、私と二人でエージを倒してほしいの」


「はっ? いきなりなんなの?」


内容がめちゃくちゃだった。


まるで心理テスト並みの繋がり。


「お願いしたいの」


「まず聞きたいのが、戦う理由だね。あの子が倒される存在になる意味が分からない」


「見た目だけに囚われているから、安易にそのような判断が下せるの」


「さっさと、あの子が倒されるべき存在になる理由を言ってくれない?」


「戦闘能力が私と同格」


「………」


若干、ノールは眉をひそめる。


分かりやすい嘘を言われている気がしている。


「とりあえず、エージと会ってみてほしいの」


「ふ、普通に会えるの?」


倒されるべき存在なら、消息不明だとノールは考えていた。


「……時期が来たら」


「時期が来たらって、そもそも分かるの居場所が?」


「ええ」


何事もなく、ルインは答える。


もうさっきから狂言にしか、ノールには聞こえていない。


「ボクが水人検索しようか? 一秒以内に居場所が分かるよ」


「それは不可能よ。だって、エージも私と同じく聖帝の血を輸血できたから」


「それってどういう……?」


「能力の対象にできないということ。水人検索で探すべき対象にできないの」


「そんなことができるんだ」


「時期が来たら、私の方から会いに行くから。お願いね」


「うーん」


「貴方の力が必要なの、貴方しか頼れる相手がもういないの」


先程のようにすがるような口調のルインに戻る。


「会うだけ会ってはみるよ」


それを聞くと少しだけ安心したのか、ルインは頭を下げ部屋を出ていった。


「あの人、一体なにがしたいんだろ?」


腕を組み、ノールは首を傾げる。


ただ、ルインとエージがなにかをしようと企んでいるのは間違いない。


面倒だと思いつつ、今は捨て置くことにした。


しかし、この二人はこの状況を一変させる一手を打ち込もうとしていた。





ルインが部屋を後にしてから、一時間後。


杏里も起きて、寝室から出てきた。


朝の支度も終え、今日の杏里も女性らしい。


「おはよう、ノール」


「おはよう。今から朝食の準備をするね」


「ボクも手伝うよ」


二人で仲良く朝食を作り始めた。


いつものトーストやインスタントのコーンスープなど簡単なものを作り、テーブルへ運ぶ。


「そういえば、ノール。君に言い忘れていたことを思い出したよ」


テーブルの椅子に杏里は座る。


「なに?」


向かい合う形で、ノールも椅子に座った。


「ノールのお父さんとお母さんが、この屋敷に来たことがあるんだよ」


「ちょっと、どうしてそれを早く言わないの!」


ノールは瞬時に食いつく。


「ゴメンね。料理をしている最中に思い出したんだよ」


「ボクのお父さんとお母さんはどうだったの?」


「二人ともノールに似て、優しい人たちだったよ。彼らは不幸があったから彼らにとっては昨日今日で突然自分の子供が大きく育った状態なのに、すぐに自身の子供だと受け入れていたしね。家族ってやっぱり分かり合えるんだなって思ったよ」


「シスイ君のことは?」


「ううん、まだだよ……ボク自身も会っていないもん」


「どうして? ボクらは結婚するんだから家族に紹介するでしょ、こういう時って?」


「そうかな? 会うだけなら、ノールだけで会いに行った方がいいんじゃないかな?」


「結婚するのに相手を連れてきていなかったらおかしいでしょう? そんなの、ボクが惨めだよ」


「それもそうだね」


「とりあえずさ、今日はなにも予定がないから会いに行こうよ」


朝食を食べ終え、二人は仲良く食器の片づけなどを行う。


それから支度をし、出かける準備を整えた。


「それじゃあ、ノール。空間転移を発動するね」


空間転移を詠唱して、周囲の景色は変わっていく。


ラミング帝国の首都入り口まで移動した。


人通りは多く、気づいた者たちは驚いている。


「あのさ、どうしてこんなに人が多いところに?」


ノールは杏里の腕を引いて、早々にこの場を離れる。


「ラミングは隣国にロイゼン魔法国家があるから大丈夫かなと思って」


「魔法にもランクがあるでしょ。空間転移はここらの人ができる次元じゃない。能力を知らない人たちを驚かせる必要なんてないよ」


ひとまず、二人はラミング城へと向かう。


以前の戦乱で城や城下町は、荒れている箇所が多いが、人は多く活気づいている。


「ノール。もしも、ノールのお父さんとお母さんがボクを……」


「差別なんてしないよ」


そう、ノールは口にする。


杏里が恐れていることは、痛い程に分かっていた。


「ボクの両親はそんなことをするような程度の低い思考の持ち主じゃない。だって、ボクの家族だよ」


「そうだね……ゴメンね。ボク、変なことを言っちゃった」


「気にしなくてもいいよ。ボクの意識がない時に図に乗り出したR一族から酷いことをされていたんでしょ? 君は変に素直だから見当がつくよ」


「……うん」


「ボクが君を守るから」


「えっ?」


「ボクの前で公然と君を桜沢一族というだけで批判する奴は叩き潰す」


表現が言葉足らずだったかと思っているのか、説明口調でノールは語る。


「ノール、ボクは……」


自分のせいで険悪なムードにさせるのが、杏里は辛かった。


「今後のことはボクも色々と変えていけるはず。一応、R一族の次期当主だしさ。地位とかも、いづれは等しくなるよ」


二人は市場や市街地を抜け、ようやくラミング城へ辿り着く。


ラミング城は先の戦乱などで、今でも崩れたままの場所がある。


「こんな見るからにボロい城にボクの両親が……」


「さらっと酷いことを言ったね」


「だって、毎日お金ばっかりが頭にあるクロノのせいで余計に質素になったスロート城よりも……」


「ノールはクロノさんが嫌いなの?」


「………」


無言でノールは城門へ向かう。


「そこの二人、止まりなさい」


城門前にいた門番に立ち入りを拒まれた。


「こんにちは。この城に、グラールとエアハートはいますか?」


「その名を知っておられるということは、貴方様はR一族の方ですか!」


「うん、ボクはR・ノール。二人の娘に該当するね」


ノール自身でも明らかに不思議な説明をしていると理解している。


「貴方が……よくぞ、御無事で。少々お待ちください、今から急ぎ開門致します!」


とても急いで、門番が城門を開く。


「さあ、お二方。こちらへどうぞ。私がグラール帝のもとまでご案内致します」


「ありがとう」


門番の案内のもと、二人は城内へと入っていった。

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