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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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巡り合い

早朝からの襲撃により、スロート城は落城寸前であった。


敵国の決して止むことのない攻撃は幾度となく続く。


それは一つの小国の滅亡を意味していた。





スロート城を見渡せる高台から、スロート城を眺める三人の男女がいた。


三人ともに若く、冒険者の身なりをしている。


そのうちの二人は落城寸前のスロート城を腕を組み、ただ眺めているという具合。


もう残りの一人は非常に意気消沈としている。


彼らは各地を放浪しながら旅をするアーティ、テリー、リュウという三人の魔導剣士。


彼らの続ける放浪の旅とは、自らの居場所を見つけることを目的としている。


そして、旅に使用する資金が尽きかけると、このような城下街の城に仕えるようにしていた。


魔導剣士。


この兵種は、どの国家であっても諸手を挙げて獲得したい存在。


魔力を扱え、その魔力を自らへの強化へと繋げられる魔導剣士は、どの国家に対しても重要不可欠な戦力となっている。


この小国は占領されてしまったのか。


城を眺め、まだ落城していないにもかかわらず、アーティが過去形で言葉にせずそう思う。


アーティは茶髪で温和そうな表情をした細身の男性。


剣を袈裟懸けに背負う形で、携帯している。


「今月の金もらっていないじゃん! これからの生活どうすんだよ……くそ、どうしてオレらがいない時に……」


一人だけ頭を抱えて落胆の様子を示していたテリーは愚痴を語る。


服装は男性物一式で整えているため、男性にしか見えないが三人の中の紅一点。


青い髪で切れ長の目をしたどこか魅力あふれるオーラを持つ男装の麗人。


アーティと異なり、腰元に剣を帯刀していた。


「それくらい、別に良いんじゃないの? 後で考えれば」


特に気にも止めていないのか、リュウはそう話す。


ブロンドロングヘアーで筋肉質な男性。


こちらもアーティと同じく袈裟懸けに剣を背負っている。


落ち着いている外見をしているが、今後の進展について特になにかを考えているわけではない。


この三人は落城寸前となっているスロート城お抱えの魔導剣士。


彼らは数ヶ月程前にスロート城へと雇い入れられていた。


だが、彼らのすることといえば城の周辺を見回る程度。


自らの力を完全に持てあましていた。


そのため休暇を取り、剣術訓練を名目に数日の間、スロート城を離れていたがその隙を狙われた。


今まさに彼らはスロートへと帰還している。


しかし、彼らはスロート城を一向に助ける様子はない。


視認するだけであって、あとは単なる他人事であった。


「新しい収入源を探さないといけないな」


落ち込むテリーの肩に手を置き、アーティは頬笑みかける。


「でさ、これからどうする?」


相変わらず、テリーは非常に重い口調。


「なにが?」


「なにがって、当面の収入源だろ。あの城が落ちたならもう戻れない。オレはさ、魔導剣士としての能力を発揮できる仕事がしたいんだよ」


「確かにテリーの言う通り。自分に合っていることをしていたいからね。うーん……」


アーティは腕を組み考え始める。


「聞いていたろ、リュウ。なにか良い案を思いつけた?」


「はん? あっ、オレ? お前も少しは自分で考えろよ」


すでに他人事となっていたリュウもようやく考えを巡らす。


「まっ、それなら短い期間魔物や盗賊とかの討伐依頼を引き受けたらどうだ? スロート城が落ちれば、スロート城下は荒れるだろう。ただ、スロートにはギルドがないから面倒だとは思うけど、これなら腕も鈍らなくて資金も手に入れられる。そうすりゃ、また旅も続けられるだろう」


「あー、確かに」


リュウの提案に、二人は頷く。


三人は三人とも一様にスロートを救う気など更々ない。


彼らにとっては所詮金だけの関係。


国への大義もなければ忠誠心も微塵もない。


スロート王の悲劇はこのような者たちだと見抜けなかったのが全ての原因となった。


ひとまず、リュウの提案に賛同し、スロート城下街へ向かった。


アーティたちが向かう城下街は、漆喰を塗られた煉瓦造りの白壁が特徴的な家々が続く、綺麗な街。


城下街では他国の鎧を身にまとう兵士と度々道をすれ違う。


いかにも冒険者らしい軽装を着用したアーティたちに気がつくと、兵士らは戒厳令が敷かれたことや従属領民らしく振る舞えなど聞いてもいないのに語っていた。


だが傭兵であると伝えると侮蔑的な眼をし、さっさと離れていく。


明らかに正規軍である敵国兵士にとっては、金の匂いを嗅ぎつけ戦場へ早々に現れた守銭奴程度にしか思えないらしく接する態度としては妥当。


アーティたちにとってはその態度が楽に行動できる要因となった。


敵国兵士が離れていってから、テリーが二人に語り出す。


「なんかよ、ムカつかねえか? あのオレたちを見る目がさ。オレには分かるよ、汚いものを見る目だぜ」


腹立たしいのか、テリーは愚痴を語っていた。


「これが良いんだよ、これが。領民だったら戒厳令で外に出られないし、万が一魔導剣士なんて知られたら色々事情を調べられて戦闘すら有り得る。ああやだやだ、めんどくさい。そんなのこっちから御免だわ」


「そりゃあ、そうだけど」


アーティの返答に不満ながらもテリーは納得を示す。


それから、アーティたちは傭兵を生業とするための店舗探しを開始した。


元々彼らは城へ仕えることが前提の兵種。


商人のような発想が欠けており、店舗探しの時点から手間取ってしまう。


旅をし、仕える城も度々変わる傭兵さながらの生活を送っていたこともあり、不動産業という言葉を知らない。


手間取った末に偶然見つけた空き店舗に無断で入り、店作りを開始するに至った。


「店内には家具が一応揃っているようだな」


疲れたように、アーティは言う。


空き店舗の店内には、以前の入居人が扱っていたのであろう家具などが無造作に置かれている。


「あとは、内装ってところかな」


「内装ってなにをするんだ?」


「言葉のままだろ。店内で商売ができる環境に、この店を作り替えるんだよ」


テリーの問いかけに対し、店の内装の準備をしながらアーティが答える。


「でも、大丈夫。この家は元々商売するために使われていたみたいだから、すぐに終わるよ」


「それなら頑張るかな」


テリーは仕方なく納得する。


どうやら、すんなり仕事ができるのだろうと思っている。


そして、店としての準備が整った頃、用意した木製の長い板を店の前に掲げる。


これから店の看板となる板には「モンスターハンター」と書かれてあった。


当然マンハントも行うつもりだが、敵国兵士を刺激せぬようにとの配慮だった。


店作りもようやく終わり、ハンターとしての仕事をし始めようとしたが開店休業の日々が続く。


それもそのはず、戒厳令は続いている。


戒厳令が敷かれている間はわざわざ領民でもないのに敵国兵士が配給を毎日律儀にも持ってきていたので食料には事欠かなかったが、ただ無為な日々が過ぎた。


その戒厳令から一週間後。


街を人々が往来するようになった。


戒厳令が解かれたらしい。

登場人物紹介


アーティ(年令19才、身長178cm、竜神族の青年。根は真面目だが調子に乗りやすい性格。嗜好品のタバコが好き。魔導剣士の一人)


テリー(年令18才、身長173cm、B82W57H77、人間の女性、出身地は聖ミーティア帝国。クールを装っているつもりのようだが本来は素直な性格。男装の麗人。魔導剣士の一人)


リュウ(年令24才、身長180cm、竜賢族の青年。いつもなにを考えているか分からないが、誰に対しても優しさを向ける性格。魔導剣士の一人)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 非常にキャラの個性が立っていて、これからのキャラクターの掛け合いも見てみたいと思える魅力的なキャラ達だと思えます。 それぞれの性格にあった言葉選びや思考回路の考え込みがとても好みで、皆推せ…
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