義妹が欲しがりそうなものをみんな譲っていたら死んでしまいました
暗い話で死人も出ます。ご注意下さい。
「まあコレット、そのネックレスはどうしたの」
夕食の席。義妹であるコレットの首にかかっていたネックレスを見て、父の後妻である私の義母が聞いた。
「お義姉様にいただいたんです」
コレットが答える。
それを聞いた途端、義母が顔色を変えた。
「そ、そんな高級そうなものを……! まさか、アリシア様にねだったのではないでしょうね!?」
「め、めっそうもない! ねだったりしていません!」
コレットがあわてて首と手をふる。
義母が心配そうな顔で私を見る。
「コレットの言う通りですわ。私が、コレットに似合いそうだからあげたんです」
そう言うと、目に見えてほっとした表情になった。
「そうなんですか、こんな素敵なネックレスをこの子にくださるなんて、ありがとうございます」
「お母様にいただいたアクセサリーが、使い切れないほどあるの。コレットにみんな譲ってあげたいと思ってます」
微笑みながら言うと、義母と義妹はわかりやすく恐縮した。
「そ、そんな……申し訳ないです! この家に置いていただけるだけでもありがたいのに……!」
「そうだとも、いくら余っていたとしても、お前の思い出の品を、コレットに譲る必要はないんだぞ?」
父も優しげな言葉をかけてきた。
「ええ、わかってますけど……、姉妹なのに、私だけが高級なものを身に着けるのはなんだか気が引けるんです。コレットには何の罪もないんですもの」
父と義母の顔がこわばるのがわかった。
そう、コレットには何の罪もない。悪いのは、私の母を裏切って、子供まで作った父と義母だ。
「アリシア…」
父が何か言おうとしていたが、別に謝罪してほしいとも思っていないので、
「ご馳走様、部屋に戻りますわ」
と言って食堂を後にした。
私は自分の部屋に戻り、ふうとため息をついた。
父も義母たちも、自分の立場をわきまえている。
伯爵位を持っていたのは私の母親であって、父はその夫でしかない。
父はもちろん、愛人もその娘も、爵位は継げないし、何の権利もない。
『アリシア(私)が成人するまでの後見人と、その妻子』。それだけの立場だ。
だから、私を虐げようものなら、いつでもこの家から追い出せる。
それがわかっている彼らは、けっして私に害をなそうとはしない。
(もっと頭が悪くて、爵位を継ぐために私を殺そうとしてくれたら、お家のっとりの罪で突き出せるのに……)
死ぬ前の母の呪いの言葉を聞いていた私は、父や新しい家族に対して、どうしても割り切れない気持ちがある。
母は高飛車な女性だった。婿である父を使用人のように扱っていた。
そんな父が外に安らぎを求める気持ちもわからなくはない。
だが母は、不器用なだけで父を愛していたのだ。
父が愛人を作っていて、あろうことか娘までいることを知った母は荒れた。
殺してやると叫んで、父をボコボコに殴った。父はされるがままになっていた。
そして父は、
「すまなかった。どうか離縁してほしい」
と土下座して頼んできた。
母はがんとして離縁しなかった。自分と別れて愛人と幸せになるのが許せなかったのだ。
そしてひそかに呪具を集めた。父や愛人を呪うことで、心の平穏を保とうとしたのだ。
しかし、笑顔で呪いの言葉を吐き続ける母の異常さに、恐れをなした父は家に寄り付かなくなった。
母は自分の部屋にひきこもり、食事も部屋で摂るようになった。
ある日、いつものように侍女が食事を届けに行くと、母は呪具に埋もれるように死んでいた。
(呪具の中で暮らしてたんだから、自分が呪われてもおかしくないわよね…)
父は母の死を知って、母の部屋にあった呪具を全て処分し、私に謝罪してきた。
「すまなかった。でもどうしても、おまえの母親と暮らすのは無理だった。おまえが伯爵を継ぐまでは私が後見人になることになるが、もし嫌なら、後見人を王家に頼んで、私はこの家を出て行く。おまえの希望はあるか?」
と聞かれた。
「お父様さえよければ、後見人をお願いします。義妹にも会ってみたいし、再婚してここで一緒に住んではどうでしょうか」
私はそう提案した。
「私としては、ありがたい申し出だが……、おまえは本当にそれでいいのか?」
「ええ、もちろんです」
そうして、喪が明けるのを待ってお父様は愛人と再婚し、この家に同居することになったのである。
正直、父や後妻を受け入れる必要はなかった。母があれだけ呪って呪って、呪い死ぬまで恨んでいた人間だ。母の気持ちを思えば、みんな追い出して不幸になるように祈る。そうすべきなのかもしれない。
だけど、思ってしまうのだ。コレットに罪はないのだし、私が母に貰った気持ちを、義妹に譲ることぐらいは、許されるのではないかと。
だから、私は今日も、コレットに髪飾りを譲ってあげた。
お母様が死ぬ前に、私のためにあつらえてくれたドレスも、アンティークの指輪も、ブローチも。
コレットは、この家にきてから体調を崩すことが多くなっていたのだが、私が「お見舞いにこれをあげる」とアクセサリーをあげると、とても喜んで身に着けていた。
そんなある日、コレットが死んだ。
ベッドから起き上がることもできなくなり、医者に診せても回復しないまま、息を引き取った。
父も義母も嘆き悲しんだ。私も表面上は泣いてみせたが、内心は
(やっぱり)
と思っていた。
お母様が私にくれたアクセサリーは、全て呪具だったのだろう。
父を、愛人を、愛人の娘を呪った母は、父の血が流れている私のことも呪ったのだ。
「許さない、許さない、あんな男の子供に、この家を継がせたくない」
という声が母の部屋から聞こえてきたときは、恐ろしくて震えた。
その言葉を裏付けるように、ある時から、私への贈り物がアンティークだらけになり、新しいドレスにまで古いレースや宝石をあしらうようになった。怖かったので、受け取ったらそのまま、自分の部屋の奥に押し込んでいた。
お父様も、まさか実の娘にまで呪具を渡しているとは思わなかったのだろう、母の部屋のものは処分されたが、私への贈り物は、そのまま残った。私も父には伝えなかった。
用心していて、本当に良かった。
コレットの棺に、私があげたドレスもアクセも、みんな入れた。
(何の罪もない私を殺すための呪具だもの、何の罪もないコレットに使ってもいいわよね?)
「こんなに……娘は『優しいお義姉様ができて幸せ』と、いつも言ってました。本当にありがとうございました……」
義母が泣きながら礼を言ってきた。
「でもきっと、もう一度生まれ変わってきてくれるよ」
父が義母の肩をそっと抱いて、慰めるように言った。
「ええ、ええ、そうね…」
義母が自分のお腹をさすっている。
そう、義母のお腹には、新しい命が宿っている。
この子も、何の罪もないんだから、生まれたら呪具を受け取るべきだと思う。
ただ、私が貰ったのはアクセばっかりだから、男の子が生まれたら譲りにくいのでちょっと困る。
だから、義母のお腹を見ながら祈った。
「妹が生まれてきますように」
10月10日、
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で1位になってました! ありがとうございますー! ぺこぺこぺこ。




