《灰翼の継承者》―灰の呼び声―
リアン・ヴァルグレンは、古びた納屋の藁の上で目を覚ました。
冷えた空気。乾いた木の匂い。
それだけが、この場所の“いつもの朝”だった。
左目の銀灰色の瞳が、差し込む薄い光をぼんやりと受け止める。
――また、この視線だ。
外に出れば、村人はわざと目を逸らす。
子どもは近寄らず、大人は理由もなく距離を取る。
“灰の呪い”。そう呼ばれるのも、もう慣れてしまった。
「……はあ」
小さく息を吐いた瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。
心臓のすぐそばに、微かな熱源がある。
まるで星の欠片が埋め込まれているような感覚。
リアンはそれを知っていた。
――星灰の欠片。
理由も、正体も分からない。
ただ時折、彼女の内側で脈打つ“何か”。
「今日も、変わらない一日か……」
そう呟いた、その夜。
森の奥から、黒い“影”が這い出してきた。
空気が歪む。
鳥の声が消える。
村の中央に立つ古い石碑へ、影は迷いなく手を伸ばした。
――砕ける音。
石碑が紙のように崩れ落ちる。
それは、この村に残されていた封印の一つ。
星灰の力を抑えていた、ただの“名残”だった。
「騎士団はまだ来ない! 逃げろ!!」
村長の声が響く。
人々が一斉に走り出す。叫び、転び、泣きながら。
その光景の中で、リアンは一歩だけ立ち止まった。
逃げるべきだ、と頭では分かっている。
関われば、いつもろくなことにならない。
それでも――
胸の奥の“熱”が、強く脈打った。
「……行けって、言ってるの?」
誰に向けた言葉かも分からない。
気づけば彼女は、納屋へと走っていた。
古びた短剣。
祖父の遺品。
柄には、小さな灰色の宝石が嵌め込まれている。
「これだけは、捨てられなかったんだよね……」
それを握りしめ、リアンは森へ踏み込んだ。
森の中は、異様に静かだった。
木々の葉は灰色に沈み、地面から黒い霧が立ち上る。
呼吸が重い。
空気そのものが“拒絶”しているようだった。
やがて、廃墟の神殿が見えた。
そこに、それはいた。
人の形をした“闇”。
その眼の奥にだけ、赤い星のような光が揺れている。
『……灰の、継承者』
声が、頭の中に直接響く。
リアンは短剣を握りしめた。
その瞬間――左目が焼けるように熱くなる。
「っ……!」
視界が銀色に染まり、
背中から光が溢れた。
灰色の翼。
それは羽ではない。
魔力が“形”を持ったものだった。
「なに……これ……!」
驚きながらも、体は勝手に動く。
地面を蹴り、宙へ跳んだ。
戦いは、思っていたより遥かに重かった。
黒い触手が何度も伸びる。
斬っても、裂いても、影はすぐに再生する。
息が乱れる。視界が揺れる。
「無理……でしょ、これ……」
初めて、恐怖がはっきりと形になる。
その瞬間、胸の奥の“欠片”が強く脈打った。
――お前は、灰の翼。
――滅びを継ぎ、道を選ぶ者だ。
声。
それは命令ではなく、どこか優しい響きだった。
リアンは歯を食いしばる。
「……だったら、やるしかないじゃん」
翼を広げる。
光が収束する。
短剣に、銀灰の輝きが宿る。
「消えて……!!」
一閃。
光が闇を貫いた。
静寂。
黒い霧が崩れ落ち、風に溶ける。
リアンはその場に膝をついた。
荒い呼吸。震える手。
でも胸の奥の熱だけは、不思議と穏やかだった。
夜明けの光が森に差し込む。
灰色だった世界が、少しずつ色を取り戻していく。
「……これが、始まりなんだ」
村に帰れば、また同じ視線が待っている。
それでも、もう違う。
自分の中にあるものと、この世界の“裏側”を知ってしまった。
リアンは短剣を腰に差し、立ち上がる。
「行こう、灰の翼」
彼女は森の奥へ向かい、深い闇へと歩き出した。
読んでくれた方ありがとうございます
誤字、脱字などの不自然な文章があれば、指摘お願いします
他の作品も読んでくれたら、嬉しいです
面白いと感じたら、評価やブックマークお願いします




